Interview

山田裕貴が舞台『終わりのない』で歩む果てない役者人生の旅路。イキウメの前川知大が新作で描く壮大なスペースドラマとは?

山田裕貴が舞台『終わりのない』で歩む果てない役者人生の旅路。イキウメの前川知大が新作で描く壮大なスペースドラマとは?

稀代の劇作家・演出家でイキウメを主宰している前川知大と世田谷パブリックシアターのタッグによる舞台『終わりのない』が10月29日(火)から世田谷パブリックシアターを皮切りに上演される。
ホメロスの「オデュッセイア」を原典とした同作は、古代と未来、日常と宇宙を繋げる果てない旅を描いたSF作品。出演者には、前川作品に初登場となる山田裕貴、初舞台となる奈緒をはじめ、安井順平、浜田信也、盛 隆二、森下 創、大窪人衛、清水葉月、村岡希美、仲村トオルが名を連ねる。
そこで山田裕貴に今作で憧れの前川作品に出演できる喜び、自身の人間観、俳優としての心意気までを聞いた。

取材・文 / 竹下力 撮影 / 冨田望


“革命”のようなことをお芝居で起こしたい

ご出演の舞台『宮本武蔵(完全版)』(2016)は感動的な出来栄えでしたし、山田さんが再び舞台に帰ってこられるのが素直に嬉しいです。今の率直な気持ちを聞かせてください。

ありがとうございます。少しずつではありますが、僕もお客様に楽しんでいただける役者になってきたと感じていますし、そのなかで3年ぶりに舞台に出演できるのは楽しみです。脚本・演出を手がける前川さんの主宰するイキウメは憧れの世界でしたし、劇団員の方や、奈緒さんや仲村トオルさんといった素敵な方が揃っているので、僕は僕で背筋をちゃんと正そうという想いが日増しに強くなっています。

山田裕貴 エンタメステーションインタビュー

舞台に出演するうえで気をつけていることはありますか。

舞台を観てくださるお客様に強い感動を抱いていただくだけではなくて、考えが変わってしまうような、大げさかもしれませんが、“革命”のようなことをお芝居で起こしたいと思っています。

これまで数多くのテレビや映画に出演していらっしゃいますが、舞台との違いを教えてください。

あまり考えないようにしていますね。舞台だからこうしないといけないということもない。いつもと違うことをしようとするとお芝居がうまくできなくなってしまうので、どんなジャンルでも、ただ“役を生きる”ことを心がけています。

役を生きるとは?

今はインタビューで、脚本もないので本当のことを喋っていますが、お芝居は、脚本に書かれた言葉を発するわけですから、ある種の嘘ですよね。それをお客様には真実だと思わせないといけないから、役としてしっかり存在しないといけない。そのためにリアルなトーンを台詞にして発しようと努力します。どの現場でも、嘘だと感じさせない瞬間を増やすことが役を生きることだと思っています。

山田裕貴 エンタメステーションインタビュー

そして、現代を代表する劇作家・演出家の前川知大さんの作品に出演することになりました。

前川さんの作品は何本か拝見しているのですが、“人という概念を取っ払ったら人間はどうなるのだろう?”“人の心の衝動とは何だろう?”と、人間に対する深いテーマをいつも考えさせられます。僕は、前川作品に通底している星が持っているであろう意志や宇宙人の存在といった、あまりみんなが考えないようなことを考えることが好きで。そういうことって、なかなか周りの人に気軽に喋れないんですけど、それを演劇にしてくださることで、みんなとの話題にできたり、あるいは信じてもいいと許されているような感覚を抱かせてくれる。前川さんの作品の中でも『散歩する侵略者』が好きで、“人の抱いている認識を奪うと人間はどうなるのか?”という、僕にとって考えるだけで面白いと思うことをストーリーにして、しかもそれをあくまで日常の世界に落とし込んでわかりやすく置き換えていた。こういう僕の感覚を前川さんも理解してくださっているそうで、やっと大切な友達が見つかったような感覚です(笑)。

前川知大は心の底に隠そうとしていたことを恐れずに作品として表現する

お話に出たように『散歩する侵略者』や、前川さんの最新作『獣の柱』もご覧になったそうですね。あらためて前川さんの作品の魅力を聞かせてください。

これを話すと変な人に思われるかもしれないからと、心の底に隠そうとしていたことを恐れずに作品として表現してくださるので、共感しかできないです。どの登場人物にも感情移入できて、僕の考えや存在を認めてもらえるような気がして安心できます。僕は前川さんのスピリチュアルな作風が好きで、宇宙人を普通に登場させて日常と絡めるといったことに違和感がないからいつも驚かされます。

山田裕貴 エンタメステーションインタビュー

前川さんの作品は、未知なるものという存在が大切になっているように思います。『獣の柱』では天や宇宙といった私たちがなかなか目にすることができない世界、『散歩する侵略者』でも宇宙人という未知なる存在が重要でしたが、お話を伺っていると山田さんは目に見えない存在というものがご自身を引きつけるんですね。

そうだと思います。目の前で“見えているもの”も大事ですが、“見えてしまっていること”がつまらない自分もいる。人間はどういう意味で生まれてきたのかという終わらない議論は、答えが見つからないから面白いわけですよね。答えがわかってしまえば頑張らなくなってしまうだろうし、見えないからこそ、すべてが理解できないから、世界や人間への興味が無限に広がっていく。恋愛も相手がどう思っているかわからないから楽しいし、自分のことをどう好きなのか、実際に笑った顔を見つめるよりも心の奥の感情のやりとりが面白いわけで、それは人間関係にも当てはまると思っています。僕らは表情と声色で相手がどう思っているのか感じていますが、心までは見えないからこそ、人そのものに好奇心を抱き続けることができるんだと思うんです。今、目の前に置いてあるドリンク(お茶の入ったペットボトルを手に取る)でも、これはお茶だけれど、お茶じゃない可能性があったとしたらどうなんだろう? お茶は緑色をしているけれど、今日から青色ですと言われたらどんな気持ちを抱くのか。人間の想像力や妄想を駆使して、見えないものへの探究心を抱くのが好きです。

山田裕貴 エンタメステーションインタビュー

俳優こそ“終わりのない”職業

そういった感覚は役づくりに活かされますか。

とても活かされています。脚本をもらった瞬間から、その人がどうやって生きてきたかをひたすら考える。「こういう歩き方をするのかな。こういう喋り方をするのかな」と人物を深く掘り下げて、僕の想像力を使って、人間像を引っ張り出す作業をして役づくりをしています。もちろん、絶対に正解はなくて、お芝居が上手にできたと思ったドラマや映画を観返しても、どうしてこんな表情をしたのかと考え直したりもする。それに、僕が正解だと思っていても、お客様には違う感情を抱かれるかもしれないわけですから、つねに新しい発見があります。今、お話をしていて大切なことがわかりました(笑)。

(笑)。どんなことでしょうか。

もしかしたら、前川さんはいろいろな作品を通して、俳優こそ“終わりのない”職業だと伝えたいのかもしれないですね。

山田裕貴 エンタメステーションインタビュー

なるほど。作品タイトルにもかかったところで、今作は壮大なスペースドラマのような気がしますが、現時点で、この作品に対しての印象はありますか。

今作の原典の古代ギリシャの叙事詩「オデュッセイア」を読んだのですが、これが前川さん流のSF的な発想とどう繋がっていくのか楽しみです。前川さんの作品は、僕の想像では収まらないストーリーを展開していくので、脚本を早くいただきたいですね。トロイア戦争の英雄オデュッセウスが妻の元に帰る長い旅路の物語を下敷きにしたお話になると聞いています。まだ構想を聞いた段階ですが、その原典の世界を宇宙に繋げて、人間が宇宙に住む未来の時代に、遺伝子や意識の中に眠る、行ったこともない「地球」という星に帰りたいという想いが心のどこからか出てきて、地球へと帰る旅路を描くストーリーになりそうだと伺っています。いったいどんな作品になるのか計り知れないですね(笑)。僕ら登場人物が、宇宙から地球という故郷に帰ったときに何を思うのか、周りはどう変化しているのか、帰りたかったという素直な想いは揺るがないのか、突き詰めていけば、人間はなぜ生きているのかを問う話になるかもしれません。前川さんが神話と宇宙をどう絡ませてお話をつくるのか楽しみにしています。

山田裕貴 エンタメステーションインタビュー

これから、実際に脚本を手にして、稽古が始まると思いますが、稽古に入るに当たって気をつけたいことはありますか。

『獣の柱』を観たときに、終演後にイキウメの浜田(信也)さんとお話をして、「公演を迎えても僕らにもわからない部分があるんだよ。役者も全部わかったら、お客様に想像させられなくなるよね」と言われて「深いな」と納得して。僕はわからないことが苦手で、だからこそ、人智を超えた分野が好きだと思っていて。人間はどうして生きているのか、友達は何のためにいるのかを理解しようと追求するから、逆説的に聞こえるかもしれませんが、稽古ではそうならないようにしようと思っています。突き詰めようとすると迷走してしまうので、「ある程度、わからなくても大丈夫」という余裕を持って稽古をしたいです。

今作で気をつけたいことはありますか。

これまでは言われたことに答えることしかできない自分がいたのですが、少しずつ成長してもいますし、この舞台では、感覚で役を生きようと思っています。『宮本武蔵(完全版)』で脚本・演出の五反田団主宰の前田司郎さんに「考えないで」とか「カリスマ性を芝居でつくろう」と言われたことがあるのですが、「カリスマ性をお芝居でつくるという意味は?」と考えすぎずに、身体の反射と本能を大切にしながら演じようと思っています。

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