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ママとなり、おうちの小さなピアノで紡いだノラ・ジョーンズの新作

ママとなり、おうちの小さなピアノで紡いだノラ・ジョーンズの新作

 前作『リトル・ブロークン・ハーツ』(2012年)から4年の歳月を経て発表された、ノラ・ジョーンズの新作『デイ・ブレイクス』。もちろん彼女のファンにとっては待望のものだろうが、ヒット曲「ドント・ノー・ホワイ」やデビュー・アルバム『ノラ・ジョーンズ』以来、「久しぶりに関心を持った」という人にも、時の隔たりを感じることなく楽しめるだろう。

 それには理由がある。基本的に本作は、シンガー・ソング・ライターとしての彼女の、一時的なサウンドの流行を越えたところでの楽曲の良さが、実に伝わりやすい内容だからである。そしてそのメロディは、幅広いバックグラウンドがあってこそ紡がれるものだ。ジャズやブルースの要素を感じる一方で、そもそもノラはテキサス育ちであり、ちょっとした歌い回しにカントリー・ソングの大らかさが感じられたりもする。

 今回、リード曲としてアルバム・リリース前にお披露目された「キャリー・オン」など、まさにそうだろう。ワルツ・テンポの聞きやすい、でも聞き飽きない作品だ。歌詞の内容的には“終わりの始まり”といった心境が描かれるが、それがこのゆったりした曲調で歌われるのが実に“大人”なのである。彼女のボーカルの、声そのものの魅力も、存分に伝わる出来栄えにもなっている。

 次に筆者が虜となったのは「トラジディ」だった。とても抑揚のあるメロディの作品だが、ふと頭の片隅に思い出すのは70年代ポップスの美メロの代表格、ギルバート・オサリヴァンの「アローン・アゲイン」あたりだったりもする。もちろん本人は無意識だろうけど…。ところが続いて聞こえてくる「フリップサイド」は、今度は80年代というか、イントロの感じとかジョー・ジャクソンの「ステッピン・アウト」を彷彿させたりもするのである。でも最終的に呟くのは“いい曲だなぁ~”の一言であるのに変わりは無い。

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 ジャズに寄った作品では、「イッツ・ア・ワンダフル・タイム・フォー・ラヴ」が魅力的だ。フォー・ビートの作品で、印象的なピアノのリフからブルージィな雰囲気であり、スモーキー・ヴォイスと評される彼女の声の魅力も活かしやすい作品なのだ。ベースとドラムのトリオ演奏で、流麗なだけじゃない、一音一音、噛みしめるような彼女のジャズ・ピアノも味わい深い。

 この曲でも分かる通り、今回のレコーディングでは、本人の希望もあり、ピアノは自分で弾いてるそうだ(時にピアノだけじゃなくハモンドやウィーリッツァーも)。これだけ全編に渡って弾くのはデビュー作以来だそう。でもそれが、曲の良さを伝わり易くしているとも考えられる。

 自らが弾くことで、歌が生まれた際の“息吹き”も感じてもらえるだろうし、もともと楽曲に備わっている歌心を、間奏に移っても拡散させずに統一した世界観としてまとめやすくもなるだろう。

 オリジナルだけじゃなく、カバーも本作の魅力のひとつであり、ニール・ヤングの「ドント・ビー・ディナイド」も聞ける。誰でも知ってる彼の代表曲とは違う、隠れた名曲を取り上げるあたりは選曲の妙、だろう。この曲はニールの自伝的とも思える内容なのだけど、その歌詞の一人称をノラが歌って違和感ないよう変更しているようだ。

 さらにカバーといえば、ファンキー・ジャズ華やかなりし頃の大スター、ホレス・シルヴァーの「ピース」も取り上げられている。ここではウェイン・ショーターのソプラノ・サックスのソロが聴けるが、囁くような語り口に、まさに耳も心も持ってかれる。ノラのピアノはビル・エヴァンスみたいな雰囲気だったりもして、とても味わい深いものになっている。

 彼女のプライベート的なことで言うなら、前作と本作の間に、大きな出来事があった。ノラ・ジョーンズはお母さんになったのである。その事実を踏まえて聴くと、“母になったからこそ〇〇〇なんだ”みたいに、すべてがそこに関係あるかのようにも聞こえてくる。でも、そういう聴き方はどうなのだろうか? ここはロラン・バルトの「作家の死」ではないけれど、ご本人と作品を切り離したほうが、よりイマジネーション豊かに接することが出来るような気がするのだけど…。

 でも育児をしながらだったので、家の小さなピアノで作曲していた、という、CDの解説に書かれていたエピソードに関しては、「似たようなことを聞いたことあったなぁ」、と…。以前、竹内まりやさんから、まったく同じ経験談を聞いたことがあったのを思い出した。

文/小貫信昭

 

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リリース情報

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デイ・ブレイクス

初回限定盤(CD+DVD) UCCQ-9039 ¥3,200+税
通常盤(CD) UCCQ-1065 ¥2,571+税

【収録曲】
01.バーン (Burn – Norah Jones/ Sarah Oda)
02.トラジディ (Tragedy – Norah Jones/ Sarah Oda)
03.フリップサイド (Flipside – Norah Jones/ Pete Remm)
04.イッツ・ア・ワンダフル・タイム・フォー・ラヴ(It’s A Wonderful Time For Love – Norah Jones/ Sarah Oda)
05.アンド・ゼン・ゼア・ワズ・ユー(And Then There Was You – Norah Jones-Pete Remm)
06.ドント・ビー・ディナイド (Don’t Be Denied – Neil Young)
07.デイ・ブレイクス (Day Breaks – Norah Jones/ Pete Remm)
08.ピース (Peace – Horace Silver)
09.ワンス・アイ・ハッド・ア・ラーフ (Once I Had A Laugh – Norah Jones)
10.スリーピング・ワイルド (Sleeping Wild – Sarah Oda)
11.キャリー・オン (Carry On -Norah Jones) ※リード・シングル
12.アフリカの花 (African Flower “Fleurette Africaine”- Duke Ellington)