Review

独特の死生観『鬼ノ哭ク邦』突きつけられる衝撃

独特の死生観『鬼ノ哭ク邦』突きつけられる衝撃

輪廻転生の理をめぐる物語を描いたアクションRPG、『鬼ノ哭ク邦』。Tokyo RPG Factoryが開発し、スクウェア・エニックスからリリースされる完全新作タイトルです。死後、新たな命へと生まれ変わる輪廻転生が当然のこととして信じられている世界で、プレイヤーは主人公の青年“カガチ”を操り、現世で迷う魂を救済する“逝ク人守リ(いくともり)”として物語を進めていくことになります。
体験版が公開されていたこともあり、発売まえからその個性的な世界設定と重いストーリーは話題になっていましたが、実際はどのような作品に仕上がっているのでしょうか。まずは発表されたトレイラームービーで、ダークな世界の雰囲気を味わってみてください。

文 / 内藤ハサミ


独特の世界設定と倫理観

輪廻転生によって命が繁栄している世界。ここでは、死を悲しめば死者をためらわせ、ためらい迷った死者は生まれ変わることができません。輪廻転生を妨げる行いは禁忌とされるため、この国の人々は悲しみを笑顔に変えて死者を弔います。しかし、人々のなかから死への悲しみが消えたわけではないのです。なぜなら、人の死を悲しむのは人間の自然な心だから。そんな生者の心と彷徨える死者の魂を救済するため、この邦(くに)に生まれた役割が、 逝ク人守リです。

鬼ノ哭ク邦 エンタメステーションゲームレビュー

▲死者の魂と意思疎通ができる逝ク人守リ。ゆえに苦しい決断を迫られることもあります

彼らは死者に祈りをささげる巫女のような役割を持っているのではないかとプレイまえに想像していましたが、実際はかなり違いました。逝ク人守リは、生きるものが暮らす“現シ世(うつしよ)”と、死者の世界である“幽リ世(かくりよ)”を行き来することができ、迷いのため幽リ世にとどまっている魂を見ることができます。輪廻転生の輪から外れてしまった迷える魂である“迷イ人(まよいと)”は、いずれ魔物と化してしまい転生が叶わなくなるので、逝ク人守リは輪廻転生への祈りを込めて彼らを浄化し、不可能であれば処理するのが役目です。死者の世界へとかなり介入するんですね。輪廻転生が当たり前とされている世界だからこそ養われてきた倫理観や死生観は、現代社会に生きる多くの人間とはかなり違って、最初は多くのプレイヤーが違和感を覚えるでしょう。実際、 現シ世にいる人間たちの多くも幽リ世を見ることができないので、輪廻転生のシステムに密かな不安を持つ人は多いのです。しかし、邦によってこの理は絶対とされ、逆らうと逝ク人守リによって粛正されてしまいます。こと死に関しては自由に発言することが許されない、息苦しさも感じる世界なのです。

鬼ノ哭ク邦 エンタメステーションゲームレビュー

▲美しい街ですが、どことなくギクシャクしている雰囲気です

さて、幼いころに病気で両親を亡くした主人公・カガチは、人の命を来世につなげるという使命を忠実に果たそうとする逝ク人守リです。両親を亡くした経験がカガチの原動力になっているのは間違いないのですが、カガチはただでさえリアクションに乏しく無口なうえ、口下手ときています。幼馴染の心優しき逝ク人守リ、マユラにもそっけない態度をとるほどです。

鬼ノ哭ク邦 エンタメステーションゲームレビュー

▲マユラはそんなカガチの秘めた優しさを知っていて、ずっと好きでいてくれている女性。誰の命に対しても慈しみを忘れませんが、その優しさが彼女を苦しめることもあります

物語の冒頭……。カガチとマユラは両親を残して死んでしまった少年の迷イ人が抱える未練を断ち切りあの世へ送るため、逝ク人守リとして少年の最後の希望を叶えることにしました。その願いは、最後に両親に会うこと。しかし、両親を見てしまった少年はさらに未練を深めてしまいます。

鬼ノ哭ク邦 エンタメステーションゲームレビュー

▲転生できるとわかっていても、今生に全く未練を残さずに逝ける人は少ないもの。こんなに小さな子供ならなおさらでしょう

鬼ノ哭ク邦 エンタメステーションゲームレビュー

▲え、あとを追うなんて嘘でしょ?

すると両親は、息子をひとりにはできないと自分たちも息子と同じ世界に行くことを望みます。そしてカガチは、持っている武器で少年の両親に手をかけ、希望どおりあの世に送ったのでした。あまりにあっけなくことは進み、ただただびっくり……。しかし、この行為は咎められることはありません。場合によってはそういう権限も持たされているのが逝ク人守リなのです。カガチは物語を進めるなかで、さまざまな形の“死”に直面し、さまざまな魂の行く末を逝ク人守リとして見届けます。輪廻転生の理は絶対と掲げつつ、近頃の出生率は下がるばかり。民衆のなかには、邦に対して密かな猜疑心を持つものも少なくありません。迷いのない死、来世への希望を持つことが最重要とされる邦の陰に隠され踏みにじられている人間の心が、その後も悲しくやるせない事件として次々と明るみになってくるなか、これら邦の異変に大きくかかわる“黒夜叉”という名前が浮かび上がってきます。そしてカガチのまえには、幼いころに出会ったことのある記憶喪失の少女、リンネも現れ、行動を共にすることとなるのです。

鬼ノ哭ク邦 エンタメステーションゲームレビュー

▲初めてカガチが出会った幼いころとまったく姿の変わらない、リンネ。彼女は何者なのでしょうか

輪廻転生の理のためとはいえ、死を悲しまないことが絶対とされる邦になったのかというヒントは、ストーリーが進むにつれてわかってきます。独特の死生観を描くことで、かえって人間が抱える普遍的な心の動きが際立って見えてくるという仕掛けが面白いですね。本作ではたくさんの人間の死に立ち会うことになるのですが、名前を覚えたばかりのキャラクターがあっけなく死んでしまったり、名もなき死者との会話が生きている人との会話よりも多いのではないかという勢いだったりして(しかもそこで愉快な話がされることはほとんどありません)、逝ク人守リの背負う重い使命を感じます。カガチがあんな性格になってしまうのもわかる気がします……。そんな、決して明るいとは言えない展開が続く本作ですが、話の展開は早く、後編になるまでテンションを保ったままプレイをすることができました。

ふたつの世界を行き来しながら戦っていく

前段で述べたとおり、ストーリーに力を入れたアクションRPGである本作ですが、戦闘を繰り返してキャラを強化しさらに強い敵に挑むなど、自己研鑽を楽しむスタイルであるハックアンドスラッシュのエッセンスも含まれているのが、また面白いところです。アクションRPGということで技奥樹(スキルツリー)により技の修得ができたり、攻撃・“鬼ビ人(おにびと)”チェンジの速度を上げてバトルテンポを良くしていく仕組みになので、最初はプレイヤーによってはやや遅いと感じるかもしれませんが、リズムに乗るように戦闘を展開するという快感をしっかり味わうことができます。マップに次々と現れる敵を一掃し、どんどん経験値を稼ぎながら進み続けるのは、病みつきになっていく面白さです。

現シ世と幽リ世を行き来できるという逝ク人守リの能力は、攻略にも大きな意味があります。両世界は基本的に同じ形をしていますが、幽リ世にあるオブジェクトは壊したり動かしたりすることができないので、先に進むために必要な仕掛けのスイッチを押すときなどは一度現シ世に戻る必要があります。また、幽リ世にしかないワープポイントを経由しないと行けない場所もあることに加え、どちらかの世界でないと発生しないイベントも多々あるため、同じマップで現シ世と幽リ世を適宜切り替えながらマップ攻略をしていくことになります。初期状態で設定できる難度はカジュアル、ノーマル、マニアックの3種類。筆者はノーマルでプレイしてみました。難度設定は各エリアに点在するセーブポイント“現幽碑”でも変えることができます。また、現幽碑では後述する鬼ビ人の編成などもできます。

鬼ノ哭ク邦 エンタメステーションゲームレビュー

▲とあるエリアの現シ世から……

鬼ノ哭ク邦 エンタメステーションゲームレビュー

▲幽リ世に変えてみました。現シ世と比べ、全体的に暗くぼやけた雰囲気です。物理法則が現シ世とは違っているのでオブジェクトが壊せないほかに、攻撃がすべてクリティカルになるなどの現象も起こります。これをどう活かすかはプレイヤーの腕次第です

世界の切り替えはボタンひとつで簡単に行えますが、そのためには現シ世に配置されている他よりも大きくて強い魔物“想イ主”を倒して、幽リ世をはっきり認識できるようになっておく必要があります。ゲーム世界とシステムがしっかり融合した面白い仕掛けです。パズル的な要素がありながら、何時間も悩むほどの難度ではなくサクサク進めます。謎解き要素が難しすぎて、ハックアンドスラッシュの流れに乗る気持ちよさが阻害される、といったことは起こりにくいでしょう。そうして進んだエリアの奥には、強力なボスキャラクターが待っていることもあります。充分に強化をして殲滅にあたりましょう。

鬼ノ哭ク邦 エンタメステーションゲームレビュー

▲ボス戦。ノーマルでも歯ごたえのある戦闘が楽しめます

カガチたちのような能力の高い逝ク人守リの戦闘に欠かせないのが鬼ビ人。彼らは特に強い想いを持った迷イ人が魔物にならず、稀に変化するとされる存在です。生前の記憶と引き換えに、とても大きな力を得ています。記憶は失われていても、彼らに残った強い想いと性格は生前のまま。カガチは彼らを自らに憑依させ、力を借りて魔物と戦うのです。そういえば本作のタイトルは『鬼ノ哭ク邦』ですが、その“鬼”とは、彼ら鬼ビ人のことなのでしょうか。あるいは……?

鬼ノ哭ク邦 エンタメステーションゲームレビュー

▲カガチが最初に所持している鬼ビ人は剣技に長けたアイシャのみですが、ストーリーを進めるとどんどん違ったタイプの鬼ビ人の力を身に宿すことができます

それぞれ使用する武器や技などが違う鬼ビ人たちは、10人を超えるほど存在します。最大4人まで鬼ビ人を編成し随時切り替えて戦うことができるので、敵の個性によって編成を考える楽しさがあります。何度も繰り返される戦闘で、最も適した構成や手になじむ戦いかたを見つけていくというのは、アクションを楽しむうえでの大きな要素かと思います。筆者が最も使いやすい鬼ビ人は、攻守のバランスに優れスピードも速いアイシャなのですが、スピードが遅く一撃のダメージが大きい、遠距離攻撃が得意で防御力が低いなど、クセの強い鬼ビ人こそが活きる戦闘の流れを作り出せるととっても快感! ただ、鬼ビ人の編成は現幽碑でのみ行えるので、ボス戦に敗れリトライを選んだ場合は編成をやり直すことができません。ボス戦のまえはたいてい現幽碑が配置されているのでセーブデータからやり直せばさほど時間はかからないのですが、できればリトライのまえに最低限の編成ができるなどのサポートがあると嬉しかったですね。

鬼ノ哭ク邦 エンタメステーションゲームレビュー

▲巨大な斧を操る鬼ビ人、ウィル

鬼ビ人を育成していくと、生前の生きざまを描いたムービーを現幽碑で見ることができるようになります。ムービーに合わせて鬼ビ人自身が独白するという形で絵本を読むように体験できるのですが、そのほかには戦闘と現幽碑のメニューからちょっとしたセリフを聞けるくらいで、ほとんど鬼ビ人との交流シーンがないのはもったいないと感じました。キャラデザインが可愛らしく魅力的なだけに、各キャラクターに思い入れを持てるような演出が欲しかったです。筆者は白狼のような見た目の鬼ビ人、ゼファーがお気に入りなので、もっと交流し彼のことを知りたい! 好きな食べ物とか、些細なことでも……!

輪廻転生の理という絶対のルールがあっても、死に対する人々の向き合いかたはさまざま。死を悲しむなといくら強要したところで、人の心までルールで縛ることはできないのです。秩序を守るために戦うカガチたち逝ク人守リにも当然ながら人間としての心があり、不安や悲しみ、後悔など死に対してさまざまな想いを抱えています。邦は絶対の存在ですがどんどん情勢は不安定になり、逝ク人守リたちの立場すらも怪しくなってくるなかで、物語はどこに進んでいくのでしょうか。最後までショッキングな展開が続くもののシナリオの根源的な主張には共感できる箇所が多く、先が気になってついつい夜更かしをしてプレイを続けてしまいました。シナリオのテンポはいいのですが、ときどき早すぎるくらいに感じることもあります。特に逝ク人守リの仲間や鬼ビ人に関するイベントについて、もっと掘り下げた描写を見たかったと感じました。キャラクターに魅力と可能性を感じるからこその希望です。

今回は本作のダークな世界設定を中心に紹介しましたが、次回の記事では鬼ビ人たちの強化なども含め戦闘システムをもっと掘り下げて、この物語のたどり着く先もほのめかしたいと思います。

フォトギャラリー
鬼ノ哭ク邦ロゴ

■タイトル:鬼ノ哭ク邦
■メーカー:スクウェア・エニックス
■対応ハード:PlayStation®4、Nintendo Switch™、Steam®
■ジャンル:アクションRPG
■対象年齢:12歳以上
■発売日:発売中(2019年8月22日)
■価格:パッケージ版、ダウンロード版 各5,800円+税


『鬼ノ哭ク邦』オフィシャルサイト

© 2019 SQUARE ENIX CO., LTD. All Rights Reserved.
Developed by Tokyo RPG Factory.