future×feature  vol. 27

Interview

オダギリ ジョー監督作品『ある船頭の話』で圧倒的存在感を放つ川島鈴遥。現場で感じた役との向き合い方とは!?

オダギリ ジョー監督作品『ある船頭の話』で圧倒的存在感を放つ川島鈴遥。現場で感じた役との向き合い方とは!?

オダギリ ジョーが初の長編映画の監督に挑戦した『ある船頭の話』が9月13日(金)に公開された。本作の脚本もまたオダギリが執筆を務め、ストーリーは10年前に書き留めた完全オリジナルだ。時代が平成から令和へ変わる今、文明の変化に直面した村を舞台に“真の人間らしい生き方とは?”という疑問を投げ掛けるセンセーショナルな作品が誕生した。本作で船頭のトイチを演じた柄本明は、本作が11年ぶりの映画主演となる日本の名優。そして、トイチを慕う村人・源三として村上虹郎が登場。物語では川辺の小屋にひとりで暮らすトイチの舟にある日、少女が流れ着く。しかし、ここからトイチの人生は狂い始め――。

映画『ある船頭の話』より ©2019「ある船頭の話」製作委員会

この身元不明の少女を演じた川島鈴遥は、2002年生まれの17歳の若手女優。彼女は監督のオダギリや撮影監督のクリストファー・ドイルの厳正な審査のもと見出された未来を担うスター選手のひとり。劇中ではあまりセリフを発さないものの、内側から溢れ出るオーラや目つきといった圧倒的な表現力で、大きな爪痕を残している。川島は本作で役に没頭するあまり突然涙を流してしまうほど、全身全霊をかけて作品に挑んだという。インタビューではオダギリとの出会いを振り返り「監督と出会えて良かった」と無邪気な笑顔を見せた。

取材・文 / 近藤加奈子 撮影 / 荻原大志


オーディションで渡された台本を読んで「この役は絶対に自分がやりたい」と思った

川島さんは今回、オーディションで本作のヒロインの少女役に抜擢されたそうですが、当時の様子を振り返ってもらえますか?

一次審査では「掛け算九九の三の段を書きながら演技をしてください」とオダギリ監督から言われて、私はそんな指示を受けるなんて思ってもみなかったので最初は「えっ?」と焦りました。とりあえず数字に3をプラスして書いていけばいいんだと自分に言い聞かせて、3、6、9……と紙に書いていったんです。しかし、途中から「できるだけ長くやってください」と追加で指示が出て、それで気持ちが追いつかず数字を間違えてしまって。数字を書いた紙はオダギリ監督にお見せするので、間違えたこともわかってしまいますし、「私、もうダメだな」と諦めモードだったんです。でも、後日「2次審査に行ってください」と連絡が来てすごくビックリしました。しかも、2次審査を受ける段階で映画の台本も送られてきたので、「この役について深く理解して挑まないと」と緊張感もさらに高まりました。

川島鈴遥 エンタメステーションインタビュー

台本を読んでみて率直にどんな感想を持ちましたか?

子供の頃って本能的に「これが欲しい」「あれは嫌」って態度に出せると思うんですけど、大人になるとそういう本音を隠して振る舞おうとするじゃないですか? 今回、私が演じた少女はその子供と大人の間の子だなと思いました。実はこの少女に明確な年齢設定はなく、オダギリ監督からは「10~12歳くらいの間の子だよ」としか言われていなくて。でも、台本を読み込んでみてこれは10歳の女の子にはできないことだと感じたし、ある程度理性があって大人の感覚もわかる子だなと思ったんです。私が当時頭に思い描いた少女のイメージを伝えるなら、外見はちょっと子供に見える17~18歳くらいの女の子という感じでしょうか。そして、台本を読んであらためてこの役は絶対に自分がやりたいと思いましたし、もしやれたら役者として大きく成長できる作品だなと確信しました。

映画『ある船頭の話』より ©2019「ある船頭の話」製作委員会

川島さんが演じた少女についてどんな魅力を感じましたか?

17歳になると叫んだり、泣いたりと、人前で感情を露わにすることがほとんどなくなるなかで、この少女はとことん自分の感情を曝け出していくのがまず魅力的に思いました。しかも、カメラの前で自分のなかにため込んだ感情を爆発させなくてはいけないので、難しいと感じる反面、今までにない手応えも感じたのを覚えています。

少女は物語の前半部分ではほとんど話さず、表情や仕草や内側から醸し出す雰囲気で感情を表現していました。これは当時まだ16歳だった女優さんが演じるには難易度も高いように思えるのですが。

最初は難しさを感じることのほうが多かったです。少女の設定自体が複雑ですし、映画では描かれていないですが、彼女のバックボーンにあるものも自分で考えていかなくてはいけない。そうやって少女の過去を想像してみると、彼女の歳の割に背負っているものが本当に大きすぎるし、自分もその一部を抱えなくてはいけないので、演じること以上に精神的に耐える作業が難しかったかもしれません。

川島鈴遥 エンタメステーションインタビュー

少女の過去が突然頭を過り、思わず学校で涙が出てしまった

精神的に落ち込んでしまったときは、どうやって乗り越えていたんですか?

演技レッスンのときにオダギリ監督からリラックスできる方法やリフレッシュに有効な手段を教わりました。やっぱり役と向き合うって自分を深く深く掘り下げていく作業なので、そうすると精神的な辛さを乗り越えることも必須になってくる。精神的に沈んでしまったときは明るい音楽を聴いて気持ちを切り替えて、素の自分に戻れるように心がけました。

オン、オフの差をはっきりつけることが今回の役作りでは重要だったと。

そうですね。少女が背負っているものを全部抱えてしまうと、自分自身も爆発しそうになってしまうんです。演じていた当時は16歳で学校生活と両立しながら撮影に通っていたのですが、そのなかで突然少女の過去がフラッシュバックしてしまうことがあって。すごく不思議なんですが、自分のことじゃないのに少女の過去がパッと頭をよぎるんです。そのときはとても悲しい気持ちになって、勉強中に突然涙が出てしまうこともありました。

川島鈴遥 エンタメステーションインタビュー

川島さんは役を引きずるタイプなんですね。

今まで意識したことはないですが、それはあるかもしれないです。なので、オダギリ監督から教わったリフレッシュ法はすごく役立ちました。

他にオダギリ監督からはどんなオーダーがありましたか?

具体的に「ここはこうして」みたいなオーダーはなくて、アドバイスをいただく感じでしたね。一番印象に残っているのが「僕の先輩が映画で蛇の動作を取り入れた演技していたんだ。それは今の僕にも影響を与えていて、川島さんが演じる少女は感覚的に表現するのが鍵になってくるから、動物の仕草を参考にしてみたらいいんじゃないのかな?」とおっしゃっていて、それからすぐに動物園に行ってみたんです。象、ライオン、白クマといろんな動物を見て、それぞれの動きや特徴をじっくり観察してみました。

映画『ある船頭の話』メイキングよりオダギリ監督と川島鈴遥 ©2019「ある船頭の話」製作委員会

オダギリ監督の助言を受けて、少女の感情表現は動物園で見たライオンからインスパイア

その中でどの動物を少女の演技に取り入れたんですか?

ライオンです。とくに参考にしたのは鳴き声と歩き方で、ライオンって全身の筋肉を動かすような重みのある歩き方するんですね。それは演技レッスン段階で実践しました。あと、ライオンの鳴き声ってお腹から大きく声を出すじゃないですか? これは最後のシーンで取り入れています。このライオンの鳴き声を意識した最後のシーンでは、どれだけ自分の感情を叫びに乗せられるかというのをミッションのひとつにしていました。

最後に少女が叫ぶシーンは物語の一番の見せ場でもあったと思います。あのシーンでの少女の心情についてどのような見解をお持ちですか?

これはあくまで私の想像ですが、トイチに「今まで私が背負ってきたこの苦しさをわかってよ!」と助けを求めていたような気がします。でも、観る人によっては少女がすごく怒っているなとか、何を伝えたいんだろうとか、その受け取り方も様々な気がするので、そこはご自身の感性でご覧になっていただければと思います。

川島鈴遥 エンタメステーションインタビュー

最後のシーンはかなり力を振り絞ったのではないでしょうか。

あそこはかなり大きな声を出すので、頑張っても1、2回しか本気で叫べないんですよ。だから、外からのカットと中から撮る長回しのカットの2回しか撮らないと最初言われていたんです。でも、テストを撮ったときに私、神経を研ぎ澄ませすぎてそこで全部出しきってしまったんですね。そしたら本番で上手く声が出なくなって焦っていたんですが、それを察したオダギリ監督が「最後のシーンはこの映画にとってすごく重要なカットだし、川島さんもちゃんと表現したいものがあると思うから、明日もう一度チャレンジさせてください」と言ってくださって。そのおかげで次の日もチャレンジできて、悔いを残さずに自分を出しきることができました。これはオダギリ監督が同じ役者として理解してくださったうえでの配慮だと思うので、その気持ちが本当にありがたかったです。

この映画に出れたこと、オダギリ監督と出会えたことが私にとって最高の学びでした

物語では少女はトイチと暮らし始めてから少ししてどこかへ行ってしまい再び戻ってくるシーンがありますが、観る側としてはそこも謎めいて感じます。

私としては、少女は何となく「ここにいちゃいけない」と感じて自分のなかで何かが恋しくなってそれを探しに行ったけれど、結局見つからなかった。そして、何も話さない自分を受け入れてくれたトイチに心を開いて、彼のもとに戻っていったのではないのかなと考えています。

映画『ある船頭の話』より ©2019「ある船頭の話」製作委員会

少女とトイチは家族でもなく、友達でもなく、もちろん恋人でもない不思議な関係ですが、ふたりの間には目に見えない絆を感じました。

少女の真っ赤な衣装からもわかるように、彼女はあの村の人間のなかで唯一、他の人と違う色の服を着ていて、ひとりだけ異国感を放っています。つまりそれは彼女はあの時代のあの地域で誰からも理解されずに、孤立した存在だったというのを表現しているのかなと思って。でも、そんな孤独な自分をトイチだけが理解して受け入れてくれた。その優しさは子供ながらに嬉しく感じたんじゃないのかなと思います。

映画では見方によって様々な捉え方のできる少女とトイチの距離感が印象的でした。

本当に不思議な関係ですよね。でも、人によっては妙な感じで見えたりもするので、ふたりの距離感の取り方には気をつけていました。最後の叫ぶシーンで私は崩れ落ちるんですが、最初はそこで柄本さんがアドリブで抱きしめてくれたんです。でも、抱きしめたところをオダギリ監督がモニター越しで見たときに、妙な関係を持ったふたりに捉えられてしまうかもしれないということで、そのアドリブはやらない方向で進むことになりました。

川島鈴遥 エンタメステーションインタビュー

本作はラストのシーンだけでなく、全体を通して観る人の感性によっていろんな解釈ができますよね。最後にこの映画のヒロインを演じてみて、川島さんの糧になったことを教えてください。

今までを振り返って自分自身、正面からちゃんと役と向き合ってきたかなと考えたら、正直100%ではなかった気もするんです。でも、この作品ではオダギリ監督が役との向き合い方を丁寧にじっくり教えてくださったので、それはこれからの役者人生においてとても大切な学びとなりました。本作に出られたことが最高の財産ですし、何よりオダギリ監督に出会えて良かったです。

川島鈴遥 エンタメステーションインタビュー

川島鈴遥

2002年3月17日生まれ、栃木県出身。10年、TBSドラマ『特上カバチ!!』でデビュー。以降、NHK大河ドラマ『八重の桜』(13)、Huluオリジナル連続ドラマ『フジコ』(15)、WOWOW連続ドラマ W『賢者の愛』(16)、CX系ドラマ『ウツボカズラの夢』(17)、映画『望郷』(17/菊地健雄監督)などに出演。その他、「ブルボン 濃厚チョコブラウニー」などのCMや舞台でも活躍。本作ではオーディションを重ねてヒロインの少女役に抜擢された。

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映画『ある船頭の話』

9月13日(金)より新宿武蔵野館ほか全国公開

脚本・監督:オダギリ ジョー
出演:柄本明、川島鈴遥、村上虹郎/
伊原剛志、浅野忠信、村上淳、蒼井優/
笹野高史、草笛光子/
細野晴臣、永瀬正敏、橋爪功
撮影監督:クリストファー・ドイル
衣装デザイン:ワダエミ
音楽:ティグラン・ハマシアン
配給:キノフィルムズ/木下グループ

オフィシャルサイト
http://aru-sendou.jp
オフィシャルTwitter
@sendou_jp
オフィシャルFacebook
@sendou.jp
オフィシャルInstagram
@sendou.jp

© 2019「ある船頭の話」製作委員会

ストーリー:
近代産業化とともに橋の建設が進む山あいの村。船頭のトイチ(演:柄本明)は、川辺の近くの小屋にひとりで住みながら、村と町を繋ぐ河の渡しを生業にしていた。舟には毎日、様々な事情を抱えた人達が乗って来る。トイチはそんな人達の話を聞きながら日々、黙々と舟を漕ぎひっそりと暮らしていた。しかし、そんな山奥の村にも文明開化の波が押し寄せてくる。この度、村と町を繋ぐ大きな橋が建設されるというのだ。村の人々は生活が便利になると喜ぶ一方で、トイチは複雑な思いを抱える。そんなある日、トイチの舟に何かがぶつかる。それは河に流れ着いた身元不明の少女(演:川島鈴遥)だった――。何も話そうとしない少女をトイチはしばらく面倒を見るも、舟の客から隣の村で惨殺事件が起こった噂を耳にする。トイチが見つけたこの少女は一体何者なのか? そして、少女と出会ったトイチの人生が狂いだしていく――。

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