Report

奥田民生とNICO Touches the Wallsが創り上げた素晴らしきロックンロールの夜

奥田民生とNICO Touches the Wallsが創り上げた素晴らしきロックンロールの夜

弱虫のロック論2RELEASE PARTY奥田民生NICO Touches the Walls @豊洲ピット2016.10.4

音楽評論家・平山雄一氏の最新評論集『弱虫のロック論2』の“リリース・パーティ”が10月4日(火)豊洲PITで開催された。出演アーティストは、奥田民生、NICO Touches the Walls。平山氏とも親交が深い2アーティストは、それぞれの個性を存分に感じさせてくれる圧巻のステージを繰り広げた。

 

開演前のBGMは「愛と幻想のレスポール」(スガシカオ)「マーチングバンド」(Asian Kung-Fu Generation)「夏っぽいことしたい」(キュウソネコカミ)といったJ-ROCKの名曲。このあたりにも平山氏の日本のバンドに対する愛情が感じられるな、などと思っているうちについにイベントがスタート。最初に登場したのは奥田民生。3本のアコースティック・ギターに囲まれた椅子に座ると(横のテーブルにはビール、水、そして何やら美味しそうな茶色の液体…)「こんばんは。平山さんの冷や水イベントに参加していただいて。弾き語りということもありますし、みなさん椅子に座っているということもありまして、安心してダラダラやろうと思います」と挨拶、まずは「雲行きが気になって見ていたら」という歌い出しから「野ばら」を歌う。さらに“ひとりロックンロール”と呼ぶべき演奏が印象的だった「解体ショー」、(譜面でコードを確認してから)大らかでダイナミックなグルーヴとともに「愛がないと それがないと/生きて行けないぜ」というフレーズを響かせる「花になる」、60年代後期のフォーク・ロック的な手触りと独特のサイケデリアを感じさせるギタープレイのなかで“歌うこと”の本質を射抜くような歌が広がる「たったった」、美しいコード進行と徐々にエモーショナルの度合いを高めていくメロディ、そして、「全ては忘れる事だと解った/正しい心で明日に向かった」というフレーズがひとつになった「MOTHER」。

6e3a1573_s

「いまユニコーンのツアー中で(ソロの曲は)忘れてるんです。曲を始めるまえに練習しないといけないんですよね」
「最近、ひとりで3曲以上続けて歌うことがなかったので…。カラオケでやったら怒られるパターンですよ、いくら上手くても」
「飽きたでしょ? ずっとひとりで歌われて。ずっとアコギだし」

という飄々したトークで軽く笑いを取りながら、人懐っこさと奥深さを併せ持った楽曲を次々と重ねていく奥田民生。平山氏も奥田の凄さを「バンド・スピリットをソロでも発揮できること」と説明しているが、まさにその通りの光景が目の前で広がっている。アコギと歌だけで豊かなアンサンブルを体現、ロックンロール、ブルース、フォーク、カントリーなどのルーツミュージックに根差した幅広い音像を生み出す。こんなにも豊潤な弾き語りは、奥田以外には絶対に体験できない。

6e3a1620_s

会場の空気が変わったのは、「ロボッチ」。オーセンティックなブルース・スタイルのギター、「てゆうか僕はロボット」「人から見た図はきっと 肩書きは夫」という自虐的な(?)歌詞をガツン!と歌い上げるボーカルによって観客から大きな拍手と歓声が沸き起こる。

 

ここからライブの高揚感はさらにアップ。まずは「間違えないヤツがいたら口パクだからね! 俺も間違えないときは口パクだから!」と言いながら放たれた「The STANDARD」。溢れるほどの愛に焦がれる自分自身を俯瞰で見るようなこの歌は、熱さと冷静さが常に共存する奥田民生の音楽観をまっすぐに示す、まさにスタンダードなナンバー。ギターのストロークに合わせて体を揺らし、しっかりと歌を受け取っている観客のなかにゆったりと感動が伝わっていることがわかる。

img_2490_s

そしてライブのクライマックスを演出したのはもちろん、「イージュー★ライダー」。「このタイトル、ダサいですよね。これだけはもうちょっといいタイトルにすればよかったと思っています、いま僕は(←ちょっと武田鉄矢のマネ)」という紹介から演奏がスタートすると、歌い出しから大合唱が沸き起こる。途中から奥田は歌うのをやめ、ギターで伴奏している状態に。さらに「僕らの自由を 僕らの青春を」ではじまるサビでは奥田も高らかに歌い上げ、会場全体に心地よい一体感が広がる。シンプルな言葉で物事の本質をズバッと射抜くような「イージュー★ライダー」は、いまや完全に“みんなのうた”になった。そのことを改めて実感できるシーンだった。

img_2342_s

ラストは「あ、そうだ。カープ優勝したしな」と「風は西から」(広島に本社があるマツダ「Be a driver.」CMソング)。吹き抜ける風のようなグルーヴ、伸び伸びと軽やかなボーカル、“未来はずっといいぜ 魂でいこうぜ”と促す歌詞が生み出すナチュラルな高揚は、現在の奥田民生の充実ぶりをはっきりと証明していたと思う。

img_2349_s

インターバルを挟み、続いてNICO Touches the Wallsのステージへ。オープニングは光村達哉(V&G)のアコースティック・ギターから始まる「ローハイド」。対馬祥太郎(Dr)のロール・ドラム、メンバーのコーラスワークをきっかけに演奏のテンションを一気に上げ、光村が「豊洲!」と叫ぶと会場の興奮も瞬く間にアップしていく。さらにNICO流のブギー・ナンバーとも言える「anytime,anywhere」、エッジの効きまくった坂倉心悟(Ba)のベースライン、鋭利な手触りを備えた古村大介(G)のギターフレーズを軸にした「BAD ROBOT」(間奏では坂倉と古村がソロを披露。スカ的なビートに乗せたフレーズの絡み合いが刺激的!)へ。

2o3c9913_s

試行錯誤の末に獲得した多彩なアレンジセンス、それをタイトで生々しいバンド・サウンドへと昇華する演奏テクニック、そして、ロックバンドとしての矜持を感じさせるステージ・パフォーマンス。冒頭の3曲だけで、いまのNICOの絶好調ぶりがまっすぐに伝わってきた。

2o3c9942_s

「平山さんの『弱虫のロック論2』のリリース・パーティ、呼んでくださってありがとうございます」「前作の『弱虫のロック論』を読ませてもらったんですけど、すごくおもしろくて。80年代、90年代とか、自分が物心がつく前の時代の話が丁寧に書いてあって、自分も同じ時代に生きていたんじゃないかと思えるようなすごく良い本で」  という光村の丁寧なMCの後も、このバンドが持っている幅広い音楽性を体感できる場面が続いた。

6e3a1666_s

まずは平山氏のリクエストに応えたという「梨の花」。「愛しても 愛しても/君は枯れない 梨の花」というフレーズで始まるバラードナンバー。抒情性と激情が混ざり合うような光村のボーカル、そして、歌をしっかりと支える骨太のバンドグルーヴ。メロディアスなギターソロを含め、こういうオーセンティックなロックバラードを堂々とならせることもまた、このバンドの大きな武器なのだ。

2o3c9981_s

続く「ページ1」も強く心に残った。ブラックミュージックのエッセンスをたっぷり交えたグルーヴ(イントロが始まった瞬間“おお、アラバマ・シェイクスみたいだ!”と思いました)のなかで親しみやすいボーカルラインが描き出させるこの曲は、彼ら特有のミクスチャー感覚が色濃く反映されたナンバー。自然と体が動き出すようなバイブレーション、“暗闇のなかでも光を探して、真っ白な世界へ進もう”というメッセージがダイレクトに伝わる歌は、ライブという場所でこそ真価を発揮するのだと思う。

6e3a1668_s

ここからイベントはついにクライマックスに向かって進み始める。奥田民生が再びステージに登場し、ライブアンセム「手をたたけ」をセッション。奥田、光村が声を重ねるシーンは、この場所、この時間だけの特別なものだ。大サビの直後にブレイクし、奥田が「この魂が尽きるまで」とソウルフルに声を上げた瞬間のゾクゾクするような興奮は、このイベントのもっとも大きなハイライトのひとつと言っていいだろう。

6e3a1741_s

光村「一緒にやれて感無量でございます。このイベントが決まったときに、どうやら民生さんが“先にやりたい”と言われたようで…」
奥田「あ、順番? それは形態の問題だから。弾き語りといえば前座ですよ。できれば最初でお願いしたいです、って」
光村「キャリアを考えてくださいよ(笑)。でも僕は“男だったらトリやれよ”というメッセージを受け取りまして。そういうのに弱いんですよ」
奥田「それは良かった」

 

という“先輩・後輩”感たっぷりのやり取りに続いては、矢野顕子の名曲「ラーメン食べたい」を披露(NICOのシングル「渦と渦」にも「ラーメン食べたい」のカバーが収録されています)。

6e3a1774_s

スカのアレンジを軸にしながら、途中でダブ~ダンスホールの要素を取り入れた個性的なサウンドのなかで、奥田、光村という現在のロックシーンを代表するボーカリストふたりが“恋に悩む女の子がひとりでラーメンを食べる”という繊細な歌を歌う。あまりにもレアなセッションに観客のテンションも最高潮! 奥田、古村によるレスポール・ギター同士の濃厚なソロ合戦も最高だ。

6e3a1730_s

ここで奥田はステージを後にして、NICOのライブもエンディングへと突き進む。前向き、ひたむきな意志を描いた新曲「マシ・マシ」(アニメ「ハイキュー!! 鳥野高校VS鳥沢学園高校」エンディングテーマ)、アイリッシュ音楽を想起させるメロディがオーガニックな盛り上がりを演出した「天地ガエシ」、そして、古村のロッキン&ブルージーなギターリフにリードされた「THE BUNGY」。ライブバンドとしての魅力をストレートに見せつけた、圧巻のステージだった。

6e3a2036_s

アンコールは奥田、NICOのメンバーが全員“ラーメンカレーミュージックレコード”(奥田の自主レーベル)のワークシャツで登場。「大好きな曲で、ぜひ一緒にやらせてくださいとリクエストしました」(光村)という「息子」を演奏。ゆったりとしたサイケデリアと芯の太さを同時に体現するサウンド、息子へのメッセージを衒いなく響かせる歌、タメの効いたギターソロはまさに絶品。

6e3a2194_s

濃密な余韻を残しつつ、イベントは終了した。ロックミュージックの強さ、豊かさ、おもしろさが凝縮された大充実のイベントだったと思う。

取材・文 / 森 朋之 撮影 / 三浦麻旅子


img_2580_s

本を書くのは楽しい。が、それと同じくらい、僕は出版記念イベントを楽しみにしていた。前著『弱虫のロック論』のときは奥田民生とAsian Kung-Fu GenerationがZepp TOKYOでお祝いのライブをプレゼントしてくれた。今回の『弱虫のロック論2』では、奥田民生とNICO Touches the Walls。最新評論集に登場するアーティストたちのパフォーマンスをJ-ROCKやJ-POPを愛する音楽ファンたちと一緒に楽しむことができるのは、音楽評論家としてこの上ない歓びだし、贅沢でもある。

中でも嬉しかったのは、お客さんたちの気配だった。奥田民生とNICOというアティチュードの異なる対バンにも関わらず、どちらの好プレイにも敏感に反応し、熱心に聴き入っている光景が、僕の胸を熱くした。

もちろんその前提にあるのは奥田とNICOの音楽に対する姿勢で、自分たちの演奏はもちろん、当日しかリハーサルができない状況の中でのセッションが全体を引き締めていた。30分弱のリハで、セッション3曲を1回演奏したのみ。「本番、よろしく」とだけ言って別れた両者は、高いテンションを保ったままそれぞれのライブに臨んだ。結果、ライブもセッションも充実したものになり、僕はお客さんと共に心から音楽の楽しさを堪能できた。

舞台転換の際、僕はトークショーを行なった。音楽評論家という職業のことから始まって、『弱虫のロック論2』の内容に触れ、全盛のロックフェスのこと、東日本大震災が音楽に及ぼした影響、音楽ビジネスの変化などについて話した。

またこの日、奥田が「ロボッチ」という曲を歌った際の感動についても話した。弾き語りの途中で客席から「ヒューヒュー」という感嘆の声が上がり、それを境に奥田の歌と演奏の熱が一段とアップしたのだった。「それこそがライブのコミュニケーションで、ライブはお客さんとアーティストが作り上げていく。その現場に居れてよかった」と感想を述べると、賛同の拍手が起こった。こうして僕は終わったばかりの奥田のライブの余韻を、お客さんと一緒に味わうことができた。その温かな感情は、次のNICOのライブに引き継がれ、奥田とNICOのセッションは僕の想像を遥かに超える素晴らしいものとなった。

さらにはNICOが終わってバックステージに戻ると、奥田が着ていたのと同じ“RCMR”のワークシャツが4人分用意されていた。メンバーはすぐに着替えて、NICO&奥田の5人がお揃いのシャツでアンコールのステージに上がる。これは奥田のマネージャーのファインプレイで、バックステージで歓声が上がった。ミュージシャンばかりでなく、スタッフ全員がこのイベントを楽しんでくれているという嬉しいハプニングとなった。音楽の元に、お客さんもアーティストもスタッフも、みな平等。「お金も権力も持たない者が叫ぶ歌だから信じられる」という、僕が『弱虫のロック論2』に込めたメッセージそのままのイベントになった。

11月9日のアフターパーティ“BRADIO vs ONIGAWARA”@渋谷MILKY WAYと、まだまだ楽しみは続く。『弱虫のロック論2』、ぜひご一読を!

文 / 平山雄一

img_2593_s

セットリスト

奥田民生

01. 野ばら
02. 解体ショー
03. 花になる
04. たったった
05. MOTHER
06. 息するように
07. ロボッチ
08. The STANDARD
09. メリハリ鳥
10. イージュー★ライダー
11. 風は西から

NICO Touches the Walls

01. ローハイド
02. anytime,anywhere
03. BAD ROBOT
04. 梨の花
05. ページ1
06. 手をたたけ(with奥田民生)
07. ラーメン食べたい(with奥田民生)
08. マシ・マシ
09. 天地ガエシ
10. THE BUNGY

EN.1 息子(with奥田民生)

奥田民生

1965年広島生まれ。1987年、ユニコーンのボーカリストとしてデビュー。1993年の解散を経て、1994年にシングル「愛のために」でソロ活動を本格的にスタート。「イージュー★ライダー」「さすらい」などヒットを飛ばし、井上陽水とのコラボレーションや、プロデューサーとしてもPUFFY、木村カエラを手掛けるなど、その才能をいかんなく発揮。弾き語りスタイルの“ひとり股旅”、ひとりレコーディングライヴ“ひとりカンタビレ”など活動形態は様々。2009年にはユニコーンの活動を再開し、ソロと並行して行う一方、世界的なミュージシャンであるスティーヴ・ジョーダンらとのThe Verbs、近年は岸田繁(くるり)、伊藤大地と結成したスリーピースバンド、サンフジンズとしても活動している。昨年50歳を迎え、新たにレーベル「ラーメンカレーミュージックレコード」を立ち上げ、アニバーサリーライブも数々行った。8月10日には、2年5ヵ月ぶりとなるユニコーンのアルバム『ゅ13-14』をリリースし、現在全国ツアー「第三パラダイス」の真っただ中。9月7日には「奥田民生 生誕50周年伝説“となりのベートーベン”」がCD、DVD、Blu-rayで発売された。

オフィシャルサイト:http://okudatamio.jp/

NICO Touches the Walls

2004年4月、光村龍哉(Vo&Gt)・古村大介(Gt)・坂倉心悟(B)でバンドを結成。7月に対馬祥太郎 (Dr)が加入。同年、YAMAHAのTEEN’S MUSIC FESTIVAL2004に出場し、優勝に準ずる賞を獲得。その後も、卓越したライブパフォーマンスが評判を呼び、ROCK IN JAPAN FESやSUMMER SONIC等の夏フェスに早くも出演。2007年11月ミニ・アルバム『How are you? 』でメジャーデビュー。2008年には各地夏フェス及びイベントへの出演が15本と注目度と実力の高さを示す。同年9月、1stアルバム『Who are you?』をリリース。コンスタントに作品を発表し、バンドシーンを牽引。2014年2月には初のベスト・アルバム『ニコ タッチ ザウォ―ルズ ノ ベスト』を発表。ボーカル光村龍哉の描くメロディと、一度体感したら忘れられないライブパフォーマンスが魅力。

オフィシャルサイト:http://nicotouchesthewalls.com/

「弱虫のロック論2」

1980~90年代の日本の音楽シーンを回顧・分析した『弱虫のロック論』から3年。激変の2000~10年代のJ-POP&J-ROCKシーンを描き出す『弱虫のロック論2』が完成。
東日本大震災後の音楽やカバー・ブーム、音楽ビジネスの変容に対して、ロックを愛する弱虫たちがどんな闘いを挑んだのか。
21世紀の“弱虫のロック”を熱く論じる『弱虫のロック論2』に登場するアーティストは、ユニコーン、NICO Touches the Walls、クリープハイプ、スピッツ、[Alexandros]、大橋トリオ、TOSHI-LOW、ハナレグミ、ORIGINAL LOVE、キュウソネコカミ、GLIM SPANKY、椎名林檎、BRADIO、ONIGAWARA etc。音楽好きなら必読の1冊だ!

平山雄一

1953年、東京生まれ。1978年から音楽評論活動を開始。
J-POP、J-ROCKの創成期からずっと音楽シーンを見つめ続ける。
雑誌・テレビ・ラジオ・音楽サイトを通して「J-POPやJ-ROCKの今」を論じてきた。
これまでインタビューしたアーティストは尾崎豊からクリープハイプまで2000組以上。観たライブはサザンから水曜日のカンパネラまで5000本以上。