連続テレビ小説『なつぞら』特集  vol. 13

Column

クライマックスを迎える『なつぞら』のヒロイン・なつの描かれ方と主演・広瀬すずの凄味をあらためて考察する

クライマックスを迎える『なつぞら』のヒロイン・なつの描かれ方と主演・広瀬すずの凄味をあらためて考察する

点と点がつながった。

『なつぞら』の第24週・140話(9月10日放送分)を見終えた時、率直にそう思った。
というのも、この半年近くストーリーを楽しみながらも、心のどこかで引っかかっていたからだ。
なぜ頑固かつ偏屈な泰樹(草刈正雄)が、比較的早い段階からなつ(粟野咲莉=子役)に情けをかけるようになったのか?
あの第1週の名シーンである、アイスクリームを2人でともに味わうエピソードも、なつを酪農家の“弟子”として泰樹が認めたことを前提とした上で、と解釈していた。

柴田家に居づらくなって家出したなつを川原で見つけ、泰樹が抱擁しながら心を解放させるシーン(第2週)も、酪農を通じて、いつしか家族の一員として迎え入れていたと思い込んでいた。
いや、上記のような理由ももちろんあったには違いない。だが、泰樹も少年期に両親をなくし、親類に身を寄せるも厄介者扱いされた挙げ句、故郷の富山を後にして、ひとりで十勝へ開拓にやってきたことが明かされた時、ようやく泰樹がかつての自分自身をなつに投影していたと気付かされたのだった。

第4話より ©NHK
「ちゃんと働けば、ちゃんといつか報われる日が来る。そのアイスクリームはお前の力で得たものだ。お前なら大丈夫だ。堂々とここで生きろ。」泰樹の言葉に涙するなつ。

そのバックグラウンドを第1〜2週のリアルタイムで泰樹に語らせる選択もあっただろう。だが、作者の大森寿美男は敢えて、それを避けた。泰樹がめったに自分語りをしない昔気質のキャラクターであることを定着させる狙いと、なつがアニメーターになってから「本当に描きたいもの」を見つけるまでの伏線として残しておくという、巧みなシナリオ術が背景として浮かび上がってくる。
何より、なつと泰樹という──孤独な魂を持つ者同士が引かれ合い、血縁さえも超越した「本当の意味での家族」になるさまを、極力ていねいに描こうとしたのではないか、と思わざるを得ないのだ。

奥原なつというヒロインは、物語がスタートした時点ではけっして幸せな境遇にはなかった。戦争で両親を失い、兄と幼い妹はいたものの、混沌とした戦後の焼け跡をサバイブする少女として登場する。生き残ることに必死だった9歳の女の子は、いつしか周りの人間と自分の距離感を絶妙にはかる術を身につけるが、同時に子どもらしい屈託のなさを心の中に閉じ込めてもいく。生存本能だったとはいえ、誰に対しても素をさらけ出そうとせず、貼り付けたような笑顔で場をつくろい、他者との軋轢を避けることで自分が最低限生きていけるだけの居場所を確保しようとする。その姿に少年時代の自分を見た泰樹は、いたたまれずに手を差し伸べた、というわけだ。もっとも、不器用でぶっきらぼうだけに、お世辞にもスマートな救い方ではなかったが──。

第139話より ©NHK
東洋動画を辞め、マコプロダクションに入社したなつは早速、アニメ「大草原の少女ソラ」の企画に取り掛かる。

劇中でもたびたび取り沙汰されるが、ドラマのキーワードかつテーマは「開拓」である。泰樹たち開拓民が築いた北海道での暮らしもさることながら、メタファーとしても用いられていることは、あらためて取り沙汰するまでもないだろう。なつが黎明期のアニメーション業界で女性アニメーターのパイオニア的存在として道を切り拓くこと然り。帯広の幼なじみ・小畑雪次郎(山田裕貴)が十勝の乳製品とお菓子をミクスチャーさせて、新しい味覚を生み出すこと然り。そういった各キャラクターが仕事を通じて生き方を見いだす姿とは別に、「ホームドラマ」における“開拓”を描いていることが、『なつぞら』の特異性であり、連綿と家族の肖像を綴ってきた「朝ドラ」たる所以と言えるだろう。
先述のように、孤独だった少女・なつが縁あって亡き父の戦友・柴田剛男(藤木直人)に連れてこられた十勝で、はたまた高校を卒業したのちに上京した新宿で、さらにはアニメーションの仕事を志して入社した東洋動画で──と、先々で人々とファミリータイズを築き、ホームグラウンドにしていくさまは(最終的に、中川大志演じるイッキュウさん=坂場一久と愛娘の優という真の家族とめぐり会うことも含めて)、さながら心の開拓民といったおもむきがある。しかも、力業で切り拓くのではなく、状況や環境をまず受け入れた上で、少しずつ人々と馴染んでいく。あたかも、厳しい自然に歯向かうのではなく、どうすれば共存して生きていけるのかを模索してきた泰樹たち先人のしなやかさ、そして我慢強さを受け継いでいるかのように見るのは、うがちすぎだろうか?

第131話より ©NHK
作画監督を引き受けるか悩むある日の帰り道、優に「今日は来てくれてありがとう。」と言われ、「公園に寄ってから帰ろう。」と娘との時間を大切にするなつ。

何にしても、行く先々を故郷のごとく居心地にいい空間に自然と変えていくなつの静かなるバイタリティーは、変化球のようでいて実のところ直球の朝ドラヒロイン像という、新たなイメージをつくり出したように思えてならない。そのなつを、2018年6月の北海道ロケから1年以上に渡って演じた広瀬すずにとっても、間違いなく新境地を開く作品になったことは、言わずもがな。それまで実年齢に近い役を演じ続けてきた広瀬が、初めて自分よりも遥か年上の役柄、しかも母親役に挑んだことで、まぎれもなくエポックメイキングとなった(思春期の回想シーンを挟むと、いかに30代のなつをリアルに体現しているかがよくわかる)。この先、広瀬すずのフィルモグラフィーは『なつぞら』前と後に分けて語られる、と言っても差し支えないくらい、節目の一作となったのは相違ない。

第144話より ©NHK
アニメ「大草原の少女ソラ」のファンだという娘・千夏を連れてマコプロダクションを訪ねた千遥。28年ぶりになつと再会を果たした。

来週で、『なつぞら』は最終回を迎える。
思えば、あっという間の半年間だった。
唯一の気がかりといえば、再会を果たした妹・千遥(清原果耶)との顛末だろうか。千遥にも見てほしいという思いも込めて、アニメ「大草原の少女ソラ」を世に送り出したなつが、どのような境地にいたるのか、その時、広瀬すずはどんな表情を見せてくれるのか──刮目して待つとしよう。

文 / 平田真人

2019年度前期
連続テレビ小説『なつぞら』

連続テレビ小説『なつぞら』

放送(全156回):
【総合】[月~土]午前8時~8時15分/午後0時45分~1時(再)
【BSプレミアム】
[月~土]午前7時30分~7時45分/午後11時30分~11時45分(再)
[土]午前9時30分~11時(1週間分)
【ダイジェスト放送】
「なつぞら一週間」(20分) 【総合】[日]午前11時~11時20分
「5分で『なつぞら』」 【総合】[日]午前5時45分~5時50分/午後5時55分~6時

作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人 /
岡田将生、吉沢 亮 /
安田 顕、音尾琢真 /
小林綾子、高畑淳子、草刈正雄 ほか

制作統括:磯 智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中 正、渡辺哲也、田中健二ほか

©NHK

オフィシャルサイト
https://www.nhk.or.jp/natsuzora/
Twitter(@asadora_nhk)
Instagram(@natsuzora_nhk)

vol.12
vol.13
vol.14