モリコメンド 一本釣り  vol. 136

Column

みゆはん “コミュ障シンガーソングライター”がつながりながら表現する濃密な個の世界

みゆはん “コミュ障シンガーソングライター”がつながりながら表現する濃密な個の世界

キャッチフレーズ(?)は、“コミュ障シンガーソングライター”。一応説明するとコミュ障とは、“他人とのコミュニケーションが苦手な人”を示す俗語(主にネットスラング)として使われている言葉で、もちろん程度の差はあれど、誰もが一度は“自分もそうかも…”と感じたことがあるはず。他者との触れ合いが苦手→自分の世界にのめり込み、好きなものにどんどん傾倒していく→そこから新たなクリエイティブが生まれるということも決して珍しくはなく(というか、現代のアーティストはこういう傾向を持った人がとても多いと思う)、“みゆはん”もその一人と言っていいだろう。

彼女の創造ジャンルは、音楽、デザイナー、声優、モデルなど多岐にわたっている。そのすべては有機的に結びついていて、楽曲、デザイン、声、ビジュアルといった要素をフルに活用することで、みゆはんの表現世界は成り立っているようだ。

父親がギターのクラフトマンだったおかげで、幼少期からギターや音楽に囲まれていたというみゆはん。当然のようにギターを弾き始め、友達とコピーバンドを結成し音楽を楽しんでいた彼女は、大学卒業を機に単身で上京、“音楽で身を立てる”という目標を掲げ、精力的に活動……する予定が、生来の引きこもり体質によって、部屋に閉じこもる生活が始まってしまう。普通に考えるとかなりヤバい状況だが、この時期に彼女は音楽、ビジュアル、アートなどに埋没し、(おそらくは自分でも気づかないうちに)自らのクリエイティブを深く深く追求してきた。この“引きこもり時期”が彼女の創造性の根源になっていることは間違いないだろう。

そのジャンルレスな表現、個性的なビジュアルによって徐々に注目を集めたみゆはんは、2017年2月にミニアルバム『自己スキーマ』でメジャーデビュー。本作に収録されたテレビアニメ『けものフレンズ』のエンディングテーマ「ぼくのフレンド」によって、一気に知名度を上げた。疾走感のあるバンドサウンド、繊細な感情と心地よい解放感を描き出すメロディライン、そして、かけがえのない“君”との出会いをテーマにしたこの曲は、彼女の際立った個性と優れたポップセンスを証明している。そして、“コミュ障”を謳っているみゆはんが、“他者との出会い(のすばらしさ)”を歌った曲でブレイクしたことは、その後のキャリアに大きな影響を与えることになる。

2ndアルバム『闇鍋』は、みゆはんの音楽表現が爆発的に広がった作品だ。本作にはGReeeeN、コレサワ、菅波栄純(THE BACK HORN)、焚吐、つじあやの、TERU(GLAY)、FIVE NEW OLD、Matthew Gerrard & Nicole Morierといったアーティストが楽曲を提供。デビューしたばかりの新人の作品にこれだけ豪華なアーティストが参加するのは、異例中の異例。それだけ彼女の才能に注目が集まっていたということだが、この機会をみゆはんは見事にモノにし、ロック、ポップス、ボカロ系、ヒップホップなどを自在に融合させた、まさに唯一無二の音楽世界を生み出してみせた。(ちなみにTERUとみゆはんはSNSを通じて知り合ったのだとか。新しい才能に素早く反応するTERUのセンスもすごい)

アルバム『闇鍋』で培ったコラボレーション能力は、今年5月にリリースされたシングル「エチュード」にも反映されている。表題曲は、彼女自身が生徒会長・能見役で声優としても出演しているTVアニメ「八月のシンデレラナイン」OP主題歌。アルバム『闇鍋』収録曲「人間関係満腹中枢」を提供した菅波栄純(THE BACK HORN)とのコラボ曲。ピアノと歌の切ないフレーズから始まり、鋭利なギターサウンドが鳴った瞬間にスピードアップ。青春の儚さ、素晴らしさを真っ直ぐに描いたアッパーチューンに仕上がっている。さらに“周囲の人の顔色を伺うのをやめ、自分らしく生きたい”と歌うオリジナル曲「No me」、『闇鍋』の収録曲「君と僕のラブストーリー」(作詞・作曲/つじあや)のメロコア ver.、そして、離れてしまった恋人に対する後悔の気持ちを綴った「恋人失格」(作詞・作曲/コレサワ)を収録(横浜流星が出演したMVも話題に)。楽曲に込められた感情や風景をしっかりと伝えるボーカルも、さらに深みを増している。

コミュ障を自認しながらも、さまざまなジャンルのミュージシャン、クリエイターとつながりながら、自らの表現のフィールドを広げ続けているみゆはん。濃密な個の世界とフレキシブルな交流を共存させた、きわめて現代的なアーティストだと思う。

文 / 森朋之

その他のみゆはんの作品はこちらへ

オフィシャルサイト
https://mewhan.jp

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