サザンオールスターズと昭和・平成・令和元年  vol. 5

Column

味わい深い歌詞を紐解く。サザンオールスターズの代表曲「いとしのエリー」

味わい深い歌詞を紐解く。サザンオールスターズの代表曲「いとしのエリー」

今年デビュー40周年を迎えたサザンオールスターズのバンド・ヒストリーを、彼らが生み出した数々の作品から改めて見つめていく。音楽評論家・小貫信昭が独自に紐解く、サザンオールスターズの魅力──。


「いとしのエリー」は名曲だ、などと言っても、いまさら誰も関心を示さないだろう。富士山は雄大で美しい──。それと同じくらい、人々の中で常識化しているからだ。でも今回は、このJ-POP が誇る“名峰”に、改めて登ってみることにした。一歩ずつ、踏みしめながら……。

いきなり聴きどころ満載である。まず耳に届くのは、実にこなれたコーラス・ワーク。夢見心地というか、もしこれが映像ならば、アウトフォーカスの技法で回想シーンを演出したかのような、そんな耳障りだ。ここで歌われる英語詞は、こんなことが歌われていると思われる。

“帰っておくれよ。溜め息なんかつかないでさ。いったい誰が、君を煩わすというのさ?”

最後の“煩わす”は、“いったい何が、ふたりの邪魔をするというのさ?”と訳してもいいのかもしれない。実はこの英語詞の部分は、主人公の切なる願いであり、そこに至るまでのエピソードが、この歌の主要部分だ。

桑田佳祐のボーカルが聴こえてくる。で、いきなり身につまされる。冒頭から、グイと掴まれ、思わず感情移入してしまっている。歌詞の一行目が素晴らしい。〈泣かした事もある〉。“泣かせた”より、くだけた表現に思う。ここが効いている。主人公の内心を、至近距離で見守るかのような気分になる。

メロディーが一番闊達に弾むのは、〈笑ってもっとbaby〉のところ。メロディーだけじゃなく、主人公の相手への想いが、より具体的なアクションを促す(=笑って、と、願う)ものとして投げかけられる。メロディーと歌詞の連動が、見事に果たされ、我々を魅力する。

さて、筆者なりにここまで書いてきたが、音楽の専門家は、この作品をどう評価したのだろう。『サウンド解剖学』という、1981年に中央公論社から出た興味深い本がある。著者はザ・ピーナッツや園 まりなどに名曲を提供した、作・編曲家の宮川 泰である。そう。桑田佳祐に大きな影響を与えた人物のひとりだ。その宮川が、この本で「いとしのエリー」を絶賛している。やや引用が長くなるが、端折ると伝わらないのでお許し願いたい。

「泣かしたこもある」と音が上がり「冷たくしても・・」とさらに上がり、「寄りそう気持ち・・・が」と最も高く上がって「あればいいのさ・・・・・」とコードがGに移って気持ちが一つ収まり、さらに「これで最後・・のレディー」と最高に高揚。「レディー」のこぶし風のひねりとコードのベースは、ビリー・ジョエルの名曲『素顔のままで』のセンスをちょっといただきの憎さ、そしてそして「エリーマイラブ SO SWEET」と何と素ぼく、控え目なメロディーライン!! 冒頭八小節間の歌詞の持つ心を、これほど見事にメロディーに乗せた作品を他に知らない。

文中の歌詞引用・傍点は、原文のままである。なお、この文章は一般読者向けに書かれたものなので、音楽理論的アナライズは最小限にとどめ、我々にもわかりやすく表現してくださったものだろう。

この宮川氏の分析で、ポイントとなるのは終盤だ。最後の最後にシャウトして盛り上がる部分を、“素ぼく、控え目なメロディーライン”と指摘していることだ。

なぜ桑田はそうしたのだろうか。そこに至るまでは、老練といえるくらいメロディーの上げ下げを駆使し、大いに感情を盛り上げていたのに、肝心要のこの部分が、なぜ(宮川氏曰く)“素朴”な雰囲気なのだろうか? ひとつ、思い当たることがある。

人間というのは、心の奥底にある気持ちを表わそうとするとき、そこであえて、己を飾ったりはしない、ということだ。それがこの部分のメロディーを“素朴”にしたのだろう。だからこそ、ビンビン届いてくる。

「いとしのエリー」は、全体的にエモーショナルな表現が冴えわたった楽曲なのだが、なかには文学的な表現もあり、それが歌全体を引き締めている。最後にそれを指摘したい。まずひとつが、1番の〈誘い涙の日が落ちる〉である。もうひとつは2番の〈みぞれまじりの心なら〉だ。ここは実にポエティックであり、この歌に品格を与えている。

それまでの作詞法の枠を越え、自由に書かれた「勝手にシンドバッド」で世に出たサザンオールスターズだったが、実は桑田は、初期から情感溢れるフレーズも連発していたのだ。しかし……。なんとも味わい深いではないか。“誘い涙”というのは、目の前の相手との駆け引きでもあるし、時間というのは停止せず、答えを求めてくるから“日が落ちる”。“心”が“みぞれまじり”というのも、まだ完全に凍りついてはいない状況を表わしている。これらは恋愛という心理戦が生み出した、類い希なる表現だ。

文 / 小貫信昭

SINGLE「いとしのエリー」
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