サザンオールスターズと昭和・平成・令和元年  vol. 7

Column

レコーディング以外の活動を休止して制作したというサザンオールスターズ『タイニイ・バブルス』

レコーディング以外の活動を休止して制作したというサザンオールスターズ『タイニイ・バブルス』

今年デビュー40周年を迎えたサザンオールスターズのバンド・ヒストリーを、彼らが生み出した数々の作品から改めて見つめていく。音楽評論家・小貫信昭が独自に紐解く、サザンオールスターズの魅力──。


1980年は、サザンオールスターズにとって転機の年だった。彼らは前年の末に、「年が明けたら半年間、レコーディング以外の活動は休止する」と宣言する。画期的なことだった。しかしこれは、周囲の理解があってこそ、実現したのだろう。

この時期、テレビを中心に活躍する人たちは、季節に応じ、おおよそ年に4曲の新作を出し、衣装の雰囲気も変え、視聴者が飽きないよう努めた。「半年間、レコーディング以外の活動は休止する」ということは、それを2回お休みする、ということだ。サザンオールスターズは、あれほど歌番組の常連だったのに、いったんここで、画面からは消える。

しかし彼らは、フルタイムで作品制作に勤しむ。3月には、3rdアルバム『タイニイ・バブルス』がリリースされる(同時進行していた“FIVE ROCK SHOW”に関しては、次回、たっぷり触れる)。『10ナンバーズ・からっと』と『タイニイ・バブルス』が、異なる環境で制作されたことを示す痕跡が、ジャケットに残っている。前者の桑田佳祐は思い詰めたシリアスな表情で写っている。ところが後者の裏ジャケに添えられたポラロイドの中の桑田はどうだ。相好を崩す、とはこのことだろう。

さて『タイニイ・バブルス』である。でもこのアルバム、タイニイ(=ほんの小さな)どころか、大きな表現の可能性を示す内容となった。顕著な変化として認められたのが、桑田以外のメンバーによるボーカル作品である。原 由子(「私はピアノ」)や松田 弘(「松田の子守唄」)のソロ曲が収録され、どちらも“メイン・ボーカルじゃないヒトがちょっと歌ってみました”という領域を越えた、充実の出来映えだった。

原の声質は、後ろで鳴る楽器群に打ち消されない豊富な質量を持ち、しかも「私はピアノ」の場合、レコーディングで声をダブル(二度歌って重ねる)にした効果もテキメンで、これまで日本の女性ロック系ボーカリストが得意とした熱唱スタイルからはコペルニクス的転回を経たともいえる“人なつっこさ”と“力強さ”を備えた、ニュータイプのものとして記録された。

一方、松田のボーカルは、何の虚飾も入り込まない“素”の魅力であった。歌唱において、楽曲を抱きしめすぎず、はたまた突き放しすぎない、そんな程良さを持ったものだったし、ドラムという屋台骨を担当する彼が、高く澄んだ声の持ち主であることの意外性も響いた。

桑田のソング・ライティングも広がった。それまでは地元・茅ヶ崎愛に満ちた作風も多かったが、アメリカ南部(=まさにサザン)のジョージア州ゆかりの地名が舞台の曲も登場している(「タバコ・ロードにセクシーばあちゃん」)。そしてこれが、軽快な曲調に相まって、今は別れ別れの“じいちゃん”への一途な想いを綴る、ペーソスに溢れるホロリとくる内容でもあった。

そもそも“セクシーばあちゃん”という、この表現からして独自だろう。女性は(男性も)何歳になろうとも、人を恋することをやめないし、人を恋する権利があるのだということを、やんわり伝えている。こうした視線の作品は、当時、他のソング・ライターには見られなかったものである。

これらとは別に、人気者となった彼らが触れた世の中の世知がらさや矛盾も、作品作りの糧となり始めていく。それが素直に綴られたのが、「働けロック・バンド(Workin’ for T.V.)」である。サブ・タイトルの“Workin’ for T.V.”からは、レーナード・スキナードの「Workin’ for MCA」を思い出したりもするのだが、テレビ番組に出ずっぱりだったサザンオールスターズの面々の忙しさは、まさに桑田がこの歌の詞に引用しているザ・ビートルズの“Hard Day’s Night”にも並ぶものだったろう。さらにザ・ビートルズにひっかけるなら、当時の彼らのスケジュールは“Eight Days A Week”状態だったということだ。テレビに出れば、ムリしても笑顔でいなければならない。それが“スター稼業”。しかし人間には感情がある。しかも当時といえば、まだまだロック・バンドに対するテレビ局側の理解も浅かった。

バンドが演奏するには(現在のようなイヤモニはなかったし)足元に置くモニター・スピーカー(通称、コロガシ)が必要だった。ところがそれを持ち込むと、局のディレクターから“目障りだから片付けてくれ!”と言われた時代だった。これはサザンオールスターズだけじゃなく、あの頃のロック・ミュージシャン全員が抱えていたことだろうが……。そんな環境で、しかも時間に追われる生活をしていたら、そりゃストレスもたまったことだろう。

このアルバムには奇跡の名曲が収録されている。「C調言葉に御用心」だ。サウンド面では、当時の言葉で言うAOR (アダルト・オリエンテッド・ロック)的なバランスが備わり、その完成度あってこそ、桑田のボーカルが辿るメロディーの奔放さも際立って届いてくる。全体はスムースな質感なのに、歌詞にはあからさまな性愛表現が含まれ、このギャップも桑田作品ならではだ。〈あ ちょいと〉のところなどは、“地下水脈で植木 等と繋がっている”のかもしれない。

文 / 小貫信昭

ALBUM『タイニイ・バブルス』
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