Interview

OPに坂本真綾、椎名林檎も参加…音楽がとにかく凄いアニメ『BEM』 インスト・ジャズバンドSOIL&“PIMP”SESSIONSが仕掛けた危険な魅力

OPに坂本真綾、椎名林檎も参加…音楽がとにかく凄いアニメ『BEM』 インスト・ジャズバンドSOIL&“PIMP”SESSIONSが仕掛けた危険な魅力

2018年に誕生50周年を迎えた名作ホラーアニメ『妖怪人間ベム』の最新作として現在放送中の完全新作アニメーション『BEM』。この作品は監督を小高義規が、キャラクター原案を村田蓮爾(『LAST EXILE ラストエグザイル』など)が務め、ランドック・スタジオがアニメーション制作を担当。制作に際して「リブート」という言葉が使われている通り、オリジナル版のテーマを引き継ぎつつも、同時にキャラクターデザインや設定、時代背景を大胆に一新し、現代的な要素を加えた新たな『妖怪人間』像を描いている。オリジナル版では20代後半の姿をしていたベラの人間形態が、10代の少女に変更されたことも話題となった。

本作は、劇伴音楽をSOIL&”PIMP”SESSIONSと未知瑠の2組で担当しているのも特徴。タブゾンビ(Tp)、丈青(Pf)、秋田ゴールドマン(Ba)、みどりん(Dr)、社長(Agitator)による5人組インストゥルメンタル・ジャズ・バンド、SOIL&”PIMP”SESSIONSと、TVアニメ『終末のイゼッタ』で初めてアニメの劇伴を担当した未知瑠がそれぞれの個性を活かした楽曲を提供し、作品に色を添えている。ここでは、SOIL&”PIMP”SESSIONSへのインタビューを敢行。作品に合ったスタイリッシュな楽曲をどのように作っていったのか、話を聞いた。

取材・文 / 杉山 仁 構成 / 柳 雄大


自分たちのルーツや好きなものを出せたら、上手くはまるんじゃないかな、と

SOIL&”PIMP”SESSIONS

この作品でOPテーマ「宇宙の記憶」の演奏と、アニメ本編の劇伴を担当して作品にスタイリッシュかつ危険な魅力を加えているのが、SOIL&”PIMP”SESSIONSだ。SOIL&”PIMP”SESSIONSは、タブゾンビ(Tp)、丈青(Pf)、秋田ゴールドマン(Ba)、みどりん(Dr)、社長(Agitator)による5人組インストゥルメンタル・ジャズ・バンド。ジャズを基調にしながらも、ヒップホップやR&B、エレクトロなど様々な音楽性を飲み込んだハイブリッドなサウンドを特徴にしている。

彼らが演奏で参加したOPテーマ「宇宙の記憶」は椎名林檎がプロデュースし、坂本真綾が歌唱を担当。SOIL&”PIMP”SESSIONSは過去に両者とコラボレーションしてきた経緯があり、レコーディング作業はスムーズに進んだそうだ。

社長「椎名さんが曲とアレンジを考えてくださった時点で、僕らの特性を理解してくれていたので、レコーディングはかなりスムーズだったと思います。いつも通り“ハイクオリティなものにしたい”と演奏して、曲が仕上がった、という感覚です」

また、劇伴ではSOIL&”PIMP”SESSIONSらしい大人の粋やストリート感を追加している。今回の『BEM』の舞台となる港湾シティ「リブラシティ」は、橋を境に高級住宅地「UPPERSIDE」と、郊外の危険な地域「OUTSIDE」の2つに分かれており、明言こそされていないものの、80~90年代のNY=「マンハッタン」と「ブルックリン」を意識したものになっている。劇中でその中間に位置する橋に集まる妖怪人間の姿は、人間と妖怪の狭間で悩み、揺れ動く彼らの心情を体現するようだ。

そして、こうした作品背景は、ジャズを基調に不良性や大人の粋を表現してきたSOIL&”PIMP”SESSIONSの音楽ともマッチしている。最初に作品テーマや構想を聞いた時点で、『BEM』との親和性を感じる部分があったそうだ。

社長「ブルックリン(劇中の『OUTSIDE』)がイメージというのは、我々としては、すごくやりやすかったです。時代設定が80~90年代ということで、当時はいわゆる日本人旅行者でも、アルファベットがつくストリートには行ってはいけない、ブルックリンなんてもっての他だ、という時代で。

もちろん、そういう場所にはジャズもずっとありますし、ヒップホップも生まれ育った街で、いわゆるブラック・ミュージックが根付いている街で――。自分たちのルーツや好きなもの、ギャング性のようなものを出せたら、上手くはまるんじゃないかな、というイメージを持っていました。危ない感じ、不良っぽい、触れちゃいけない感じを大事にしようということは、共通認識としてあったんじゃないかな、と思います。

イメージを持って曲をつくるというのは常日頃の作業ですが、それを今回は自分たちではなく、キャラクターたちや作品、つまり画があるものが主役だという意識を持って進めていった感覚です」

作品の時代背景を考えて、今よりも少し前の、危ない、怪しい空気感を出したい

その言葉通り、今回SOIL&”PIMP”SESSIONSが担当した劇伴には、「UPPERSIDE」と「OUTSIDE」の2つの地域のうち、特に「OUTSIDE」のどこか危険で、しかしだからこそクールでスタイリッシュな雰囲気が全編に詰め込まれている。

『BEM』の劇伴におけるメインテーマとして用意された「Phantom of Franklin Avenue」は、まさにそれを象徴する楽曲だ。「Phantom of Franklin Avenue」というタイトルは、ブルックリンにある実在の通りの名前から取られている。

社長「この曲は最初の方に書いた曲で、ブルックリンをイメージしました。あえて特定の通りの名前をつけることで、時間軸を伴ったイメージが湧くかな、と思っていましたね。そこに、“ファントム”という亡霊のイメージを重ねています。今はこの辺りはお洒落なエリアになっていますが、作品の時代背景を考えると、今よりも少し前の、危ない、怪しい空気感を出したいと思って、トラップとジャズの融合のようなところからつくりはじめました」

「Phantom of Franklin Avenue」の音楽的なアイディアのひとつになったトラップは、細かいハイハットや重低音を活かしたプロダクションと、三連符を使ったラップのフロウが印象的な、現在のヒップホップの中心地となって久しい米南部・アトランタで生まれた音楽。2010年代を通して認知を広げ、2017~18年にはミーゴスの『Culture』やフューチャーの『Future』『Hndrxx』などを筆頭に様々な作品が全米チャートを席捲。同時に様々なジャンルの作品へと影響が広がることで、現在のポップ・ミュージックのプロダクションに大きな影響を与えている。

そうした要素とジャズを掛け合わせたハイブリッドなサウンドは、やはりSOIL&”PIMP”SESSIONSだからこそ可能なものだろう。今回の『BEM』は、作品そのものだけではなく、音楽面においても歴史の蓄積と現代性とが同時に感じられるものになっている。

大胆な振り幅によって、妖怪人間たちの孤独や葛藤が伝わってくる音楽

こうした音楽面での冒険は、他にも様々な楽曲で試みられている。「The Light and The Shadowland」では、「プロコル・ハルムの『青い影』のような曲がほしい」というオーダーから発想を広げ、フライング・ロータスを筆頭にしたLAビーツ特有のもたったヒップホップビート/エレクトロニック・ミュージックの要素とジャズを融合。

また、バトルシーンを盛り上げる「OUT OF CONTROL」では、五線譜を縦横無尽に動き回るメロディが戦いの熾烈さや激昂を伝えている。同時に、「Before The Dawn」のようなオーセンティックなジャズ曲もあり、その大胆な振り幅によって、アニメ作品に魅力的な雰囲気を添えている。

そして、何より印象的なのは、そうした楽曲の数々を通して、「人間になりたくて、何度人々を助けても、その見た目から人々には受け入れられない」という、妖怪人間たちの孤独や葛藤が、音楽面からも伝わってくるということだ。その魅力が特に印象的に伝わってくるのが、ベムのための楽曲として用意された「Blue Eyed Monster」と、妖怪人間たちが抱く「人間になりたい」という気持ちが表現された「Wanna Be A Man」の2曲ではないだろうか。

社長「『Blue Eyed Monster』は、本来は『bug-eyed monster(「BEM」はその略から取られた名前)』というタイトルになると思うんですが、今回のキャラクターデザインを見て、目が青いな、と思ったんですね。青い目というのは、古来から日本では西洋人の象徴でもあります。ひいては人種を越えているという意味でも、『Bug-eyed Monster』ではなく、『Blue Eyed Monster』というタイトルになりました。

「Wanna Be A Man」に関しては、暗さの中に強い意志が感じられるものにしてほしい、というリクエストがありました。メロディ自体は『Blue Eyed Monster』と同じものを使いつつも、別の感情を表現するための楽曲として作ったもので、自分のライブラリにもともとあったビートを、曲の雰囲気に合うな、と思い引っ張ってきました。ピアノの雰囲気は、葛藤や憂い、迷いを感じながら、でも前に進まなきゃいけない……という、人間の弱いところを意識していたと思います。そのピアノに対して強めのビートが入っているのは、ブルックリン感を表現したい、と思っていたからです」

『Blue Eyed~』という表現は、『BEM』という作品の魅力を伝える印象的なフレーズのひとつ

「Blue Eyed~」という表現は、もともとは黒人音楽だったR&Bやソウルミュージックを白人が取り入れた「Blue-Eyed Soul」などを筆頭に、音楽シーンでもしばしば人種を越えた/人種が混ざり合った表現に使われる言葉として知られている。そうした意味でも、人とのかかわりの中で動かされる妖怪人間たちの心情や、「価値観の異なる存在を認めることの喜び/難しさ」が表現された『BEM』という作品の魅力を伝える印象的なフレーズのひとつと言えそうだ。そして、ジャズを基調に様々な要素が詰め込まれたSOIL&”PIMP”SESSIONS の劇伴自体が、『BEM』という作品の根本的な魅力を表現しているようにも感じられる。

現在は、SOIL&”PIMP”SESSIONS による劇伴を集めたサウンドトラック『OUTSIDE』が発売中。同時に、彼らとともに劇伴を担当した未知瑠が手掛けた楽曲を集めたサウンドトラック第2弾『UPPERSIDE』も9月25日に発売予定。2枚を通して、橋を境に2つの地域が分断された港湾都市・リブラシティを舞台に、人と妖怪の間で揺れ動く3人を描く『BEM』の魅力が、音楽面からも伝わることだろう。

TVアニメ『BEM』

放送中
テレビ東京 毎週(日)深夜1時35分~
テレビ大阪 毎週(月)深夜1時05分~
テレビ愛知 毎週(日)深夜1時35分~
BSテレ東  毎週(水)深夜 0時30分~
AT-X    毎週(金) 23時00分~ ※リピート放送:毎週(月)15時00分~/毎週(木)7時00分~

©ADK EM/BEM製作委員会

アニメ『BEM』オフィシャルサイト
SOIL & “PIMP” SESSIONSオフィシャルサイト