連続テレビ小説『なつぞら』特集  vol. 14

Interview

『なつぞら』のイッキュウさんこと中川大志が告白。 朝ドラヒロインの結婚相手を演じてみて感じたさまざまなこと

『なつぞら』のイッキュウさんこと中川大志が告白。 朝ドラヒロインの結婚相手を演じてみて感じたさまざまなこと

最終回も目前、いよいよ『なつぞら』が大詰めを迎えている。半年以上に渡ってキャストやスタッフを取材してきたこの特集も残すところ、わずか。今回は、満を持してヒロイン・なつの結婚相手にして、アニメーションづくりでも絶妙なパートナーシップを発揮する存在となった、坂場一久=イッキュウさんを演じた中川大志をフィーチャーする。笑ってしまうくらい真面目で、しかも頑固で不器用ながらも、アニメーションという表現の可能性を誰よりも信じ、なつのアニメーターとしてのポテンシャルを引き出した、愛すべきキャラクター。その役どころとともに生きた日々を、愛情いっぱいに語ってもらった。

取材・文 / 平田真人


なつと結婚して、優という娘が生まれたことで、坂場は人として脱皮できたのだと思います

あらためて、坂場一久という人物をどのようにとらえているのかをお聞かせください。

小学校6年生の時に『おひさま』に出させていただいたので、朝ドラのオーディションを受けたのは、それ以来でした。制作のチームの方々も、大河ドラマ『真田丸』でお世話になったことがあったり…自分としてはとにかくうれしくて。まだ、オーディションの時点では何の役を演じるかは決まっていなかったんですけど、出演が決まってからもしばらく役が定まらなかったんです。どのくらいだったかな…まだ台本もできていなかったので、半年くらいは自分がどんな役を演じるのかわからない状態だったんです。「本当に自分は『なつぞら』に出るのかな」と不安になったりもしたんですけど、しばらくして…北海道で作品がクランクインしたちょっと後、ようやく僕の役の人物像がかたまって、坂場一久が登場する台本をいただいた──というのが、坂場と出会うまでの大まかな流れです。
で、最初に台本を読んだ時の第一印象は…「こいつ、面倒くさいな」というものでした(笑)。僕自身にとっても、今までに演じたことがない東大卒の理系キャラでしたけど、東洋動画にもそれまでいなかった人物として登場してきたので、なつたちからしても“異物感”が大きかったんじゃないかなと思います。しかも、なつの結婚相手になるというのも聞いていたので、2人がどんな感じの夫婦になっていくのか、最初は想像がつかなくて。でも、お互いにないものを持っていて、2人が一緒になったからこそ生まれるものがある瞬間がわりと序盤から描かれていたこともあって、台本を読んでいくうちにその関係性が素敵に思えてきたんです。
今でも大事に思っているシーンがあって…なつと出会って最初のころに、2人で「アニメーションにしかできない表現とは何ですか?」という話をするくだりなんですけど、その時、坂場は「それはあなたが自分で考えてください」と告げるんですね。ところが、その週の最後に、「あり得ないことも、本当のように描くことです」と自分から答えを言ってしまうんですよ。なんで「考えろ」と言っておきながら、自分から答えを言ってしまうんだろうと考えてみたんですけど、馬の疾走感を出すために前脚を4本描くことで、なつ自身は気づいていないんですけど、すでに絵で答えを生み出していて…言葉じゃなくて絵で答えたなつの思いを、坂場が言語化して導いたっていうことなんだなと思ったんです。坂場にはない発想力や表現を生み出すエネルギーがなつにはあって、なつには説明できない言語化能力や理屈立てた思考力が、坂場にはある。そんな2人だからこそ、1人では行けないような領域にまで届く可能性を感じさせる存在として、お互いを認め合っていくのかな──という2人の関係性の中心になっているものが見えて、坂場という人物像を理解できたところがあります。

第78話より ©NHK
“アニメーションにしかできない表現”を「あり得ないことも、本当のように描くこと。」というイッキュウさんの答えに腑に落ちるなつ。

ヒロインの結婚相手役を演じる、というところに対する心構えはどんなものだったんでしょうか?

まず、どういう状況で結婚相手役であることを聞いたのか、記憶が曖昧なんですけど…そんな大げさな感じではなくて、「将来、なつの旦那さんになりますよ」みたいにフワッと伝えられた覚えがあります。前回の朝ドラの時は芝居を始めたばかりでしたし、僕自身も子どもで何もかもがわからない状態だったので、朝ドラに出演することの凄さもまったくわかっていなかったんですよ。その後、いろいろな作品に関わらせていただく中で、「またいつか朝ドラに戻りたいな」という思いがふくらんだ場所でもあったので、記念すべき節目の作品であり、中学生のころから何度も一緒にお仕事をさせてもらってきた広瀬すずちゃんがヒロインを務める作品に参加できるというだけで、純粋にうれしかったので、まさかヒロインの旦那さんなる役を自分が演じるとは思っても見なくて。それだけにプレッシャーは常に感じていました。
というのは、視聴者の方々は半年に渡ってヒロインを通して作品を見ていくわけですから、「なっちゃん、この人と結婚してよかったね」と思ってもらえるようなキャラクターにちょっとでも見えるようにしていかないと、ヒロイン自体に感情移入できなくなってしまう恐れがあるんですよね。「なんで、こんな男と結婚したの?」と思わせてしまったら、やっぱりダメなんです。だからこそ、「絶対この人とは一緒にならない方がいい」というマイナスの出発点から、「イッキュウさんと一緒になってよかったね」というところまでキャラクターを成長させていく過程をしっかりと演じたいと思いましたし、「最後まで見てきてよかったな」って思ってもらえるように演じきろうと心がけていました。ただ、放送が最終回を迎えるまで、やっぱり怖いというか不安です。最終的にどういうふうに受け止められるのか、終わってみないとわからないですから…。
そういう意味では、子どもが生まれて父親になることって、坂場にとっては一大事だったんだなと思います。まず、家庭に入るっていうこと自体が、坂場の意外性を表していたというか。「この人、どんな私生活をおくっているんだろう?」って、ふだんは家で何を食べてどんな過ごし方をしていたのか、まったく見えなかったキャラだったのが、180度変わって、家庭が坂場の主な舞台になるという──同じ作品の中でガラッと環境が変わる役もほぼほぼ経験がなかったので、演じていて面白味がありましたし、視聴者のみなさんにも「坂場は、こんなふうに生きてきたんだな」というバックボーンが、なつと家庭を築く中で見えたらいいなと考えていたところがありました。実際、娘の優が生まれて以降の坂場の変化はすごく大きかったんですけど、僕としては意図的に変えたというわけでもなかったんですよね。家事なり育児のシーンを演じていると、自然と坂場が“主夫”になっていくような台本になっていたので、「人って変われば変わるものなんだな」というところを面白がっていただけたのであれば、僕としてはうれしいです。

第132話より ©NHK
優の5歳の誕生日をお祝い。

そういった、なつへの思いを表現することの難しさを、中川さんご自身も感じていたのでしょうか?

恋愛モノは何作か経験があるんですけど、なつと坂場ほど「どのタイミングで好きになったのか? 恋に落ちた瞬間はあったのか?」というのが見えにくかったカップルはいなかったですね(笑)。今までに演じたことのない関係性の描かれ方だったので、どういうふうに表現していこうかと考えたわけですが…出会ったころを振り返ってみると、喫茶店で「君の力を一番生かせる演出家に僕はなりたかった」ということを告げたのが、入口だったような気がしていて。同じアニメーションをつくっていく東洋動画の新しい世代として、自分と同じ熱量を持っていて──それでいて、坂場1人では絶対に生まれない発想力があって、絵に込めるエネルギーに惚れて、「この人と一緒に作品をつくっていきたい」と思ったのだろうな、と。で、作品をつくっていく過程で、常にほかのアニメーターとの間に立ってくれたのも、なつだったんですよね。「あの人、ああいう言い方しているけど、本当はこう思ってるんです」って、坂場の欠落している部分を補ってくれたり、いろいろなことに気付かせてくれたのも彼女だったという。そういう意味では、同じ方向を見て隣で並び続けていてくれた存在だったんだろうなって思います。
坂場の中では「この人と一緒にいたい」という想いがあったと思うんですけど、作品づくりや仕事と切り離して考えられない人なので、最初のプロポーズも「え、今!?」という変なタイミングになってしまったんでしょうね(笑)。でも、自分の本当の想いに気付いたのは、喫茶店で一度なつに振られた時だろうなと、僕は感じているんです。あの時まで自分の中にあった感情とうまく向き合えてなかったんですけど、アニメーションを一緒につくる時間を失っても「この人と一緒にいたい」と、ようやく気付いたシーンだったのだろうなと。その後、おでん屋の「風車」でもう1回プロポーズしましたけど、あのシーンは本当の意味で坂場が感情で話しているんですよ、頭で考えているんじゃなくて。心からわき出てくる想いを言葉にしないと思いましたし、ちゃんとした人間に脱皮する瞬間にしないといけないなと思って、僕自身も撮影に臨みました。結構、くっつきそうでくっつかないという2人の関係性が何週にも渡って続いていたので、そこら辺の感情はかなりシーンごとに整理していたつもりなんですけど、見えないもので繋がっている2人というふうに僕たちはとらえていたので、視聴者のみなさんをかなりモヤモヤさせてしまったのではないかと思います。

第114話より ©NHK
両親になつを紹介するイッキュウさん。なつは戦災孤児である自分の過去を受け入れてくれた義父から考古学の話を永遠に聞かされる。

妥協することなく作品と向き合う坂場の姿勢から、中川さん自身が刺激や影響を受けたということはありますか?

ものづくりのお話なので、刺激を受けたセリフはたくさんありました。僕らも役者という…ものづくりをする人間として、「ここまでやったからOK」という答えや終わりなんてない仕事に就いていると思っているんですけど、それだけに「見る人たちの力を侮ってはいけない」という言葉が響いたんですよね。「子どもたちはどこまでも見ているよ」という坂場のセリフがあるんですけど、つくって何かを届ける側の人間としては、それぐらい真剣勝負で受け取ってくれる人たちにも向き合っていかなければいけないと思います。現場に入ってみると時間が足りないと感じることって多々あるんですけど、それでも予算と期日を守るという決まりごとがある中で、そこの熱量だけは失ってはいけないな、と言いますか。そういったところからも、刺激を与えてもらったなという実感があります。
ただ、演じてから軌道に乗るまで一番時間がかかった役かもしれないですね、坂場という役は(笑)。台本を読み進んで坂場のことを知るにつれ、いろいろな魅力が見えてくるんですよ。でも、このキャラクターの良さを伝えるには、いろいろな演じ方があるとも思ったんです。選択肢がたくさんある中で、どういうふうに伝えていったら、第一印象が良くないこの偏屈な男をちょっとずつでも好きになっていってもらえるのか、というところで正直迷いましたし、いろいろ探りました。ただ、キャラクターが変わっているわけではなくて、元々、彼の中にあったものが、なつや東洋動画のアニメチームや周りの人たちと関わっていくことで成長させてもらうことによって、だんだんと魅力が見えてくる見えてくるという台本の構造になっていたので、朝ドラの長いスパンをかけて人物の印象を変えていけるというところでは、すごくやりがいのあるキャラクターだなと僕は思って演じていました。

エネルギッシュで懐が大きくて、絶対に疲れた顔を見せない。そんな同い年の座長=広瀬すずを心から尊敬しています。

視聴者目線からすると、意外にも鈍くさかったり不器用だったり運動オンチなところに、イッキュウさんのギャップ的な魅力があったような気がしています(笑)。

坂場のまっすぐさと、周りの人たちの目にどう映っているかという自覚のなさが滑稽に見えたらいいな、と僕自身も思っていました。コケたり、カレーを本にこぼしてしまったり、みんなでバレーボールをするシーンでも全然できないというポンコツな面と、職場での理詰めな姿のギャップというか、ツッコミどころというのは、人間味として出していきたいなって。ただ、自分としても「ちょっとやりすぎたかな…」と反省したシーンもいくつかあります。やっているうちに楽しくなってしまって、いろいろ芝居を足しすぎちゃったというか…。しかも、そういうシーンに限って、何回もチャレンジできないシチュエーションだったりするんですよね。カレーをこぼすのもそうですし、牛馬の糞を踏んで滑ってコケるのも一発勝負でしたから…。そこは毎回、僕次第という妙な緊張感がありました。ちなみに、僕自身はあそこまで不器用じゃない、と自分では思っています(笑)。
逆に言うと、あそこまで不器用な面を出すって、難易度が高いんですよ。カレーパンのカレーをこぼすところも、どうすれば自然に見せられるかが緻密に計算されていて。カレーの緩さに始まって、パンのどこをかじればいいか、タイミングはどうするか…とか、相当に計算し尽くされた上での芝居なので、不器用だったらできない、と力説しておきます(笑)。

朝ドラは独特の撮り方をするとも聞いていますが、その辺りで中川さんご自身の力量や経験が試される、ということを感じたりもしたのでしょうか?

大河ドラマにしても朝ドラにしても、セットの中で長回しをして撮る、というパターンが多いんですよ。その時に、アタマからカットが掛かるまで…どんなに長いシーンでも…それこそ先ほどお話した喫茶店で振られるくだりも、ずっと長回しの一発勝負で撮ったんです。その緊張感というのは本当にすごくて…一瞬に懸ける瞬発力というか、その空気感の中でしか生まれない緊迫感や感情というものがあるんですよね。今回、坂場が初めて登場する「馬の絵がおかしくないですか?」と指摘するシーンも、台本では10ページくらいあったんですけど、10分以上カメラをずっとまわしていて、最初からずっと一連の芝居を撮っていくという感じだったんです。初めからそれだったので、めちゃくちゃ緊張しましたけど、そのぶん芝居そのものを楽しむことができた現場だったなと思っています。

第109話より ©NHK
結婚の挨拶をしに十勝に初めてやってきたイッキュウさん。なつが育った環境に感動する。

イッキュウさんはセットでのシーンが多かったと思いますが、それだけに北海道・十勝でのロケも印象深かったのではないかと思います。いかがでしたか?

そうですね、序盤の北海道編をテレビで見ていたので、まずは自分も十勝に行けたことがうれしかったですね。出演者なのに、ロケ地めぐりみたいなことをしてみたり(笑)。「あぁ、ここはこういう感じだったんだ」って、実際にロケ地へ行ってみてわかることがあるので、それだけでもテンションが上がりました。それまでスタジオでの撮影がほとんどだったので、北海道の草原の中を歩くシーンも新鮮でしたね。1回目の十勝ロケは4月だったんですけど、その時に初めて『なつぞら』の一員になったな、と実感できたんですよ。なつとの結婚が決まって柴田家に挨拶へ行くシーンだったんですけど、何だかすごく感慨深いものがあって、いろいろな感情が生まれました。あと…何と言っても食べ物が美味しかったですね。十勝は野菜が有名なんですけど、ジンギスカンも信じられないくらい美味しくて! どのくらい食べたのか覚えてないくらい食べました。あとは、それこそ野菜ですね。アスパラガスにジャガイモ、長芋にトマト…どれも美味しかったなぁ。あ、それからやっぱり牛乳がすごく濃厚で美味しかったです。本当に大好きな場所になりました。

最後に、朝ドラのヒロインという看板を背負いながら、『なつぞら』の座長を務めた広瀬すずさんの姿は、中川さんの目にどのように映っていたのでしょうか?

共演するたびに思うんですけど、すずちゃんは本当に自然体なんです。いつも驚かされるんですけど、まったく気負っていなくて。「この人に緊張する瞬間って、あるのかな?」と思うくらい、器が大きいというか。僕はというと、常にビビっているので…(笑)、『なつぞら』の撮影に入ってから1ヶ月くらいはずっと緊張していたんですよ。対して、すずちゃんはドシッと構えていて、中心の柱がまったくブレていなかったですね。たくさんのキャストの方たちやスタッフの方々が入れ替わり立ち替わりしていく中、チーム『なつぞら』に揺るぎがなかったのは、座長の力が大きかったと思います。いつもそうなんですけど、すずちゃんは疲れている顔や姿を絶対に見せないんですよ。それくらいエネルギッシュというか…体力がすごくあるんです。しかも、基本的にはずっと現場にいるわけですから…なっちゃんの前では寝たりすることができなかったですね(笑)。それくらいしっかりして頼りがいのある座長だったので、同い年なんですけど、本当に尊敬しています。

2019年度前期
連続テレビ小説『なつぞら』

連続テレビ小説『なつぞら』

放送(全156回):
【総合】[月~土]午前8時~8時15分/午後0時45分~1時(再)
【BSプレミアム】
[月~土]午前7時30分~7時45分/午後11時30分~11時45分(再)
[土]午前9時30分~11時(1週間分)
【ダイジェスト放送】
「なつぞら一週間」(20分) 【総合】[日]午前11時~11時20分
「5分で『なつぞら』」 【総合】[日]午前5時45分~5時50分/午後5時55分~6時

作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人 /
岡田将生、吉沢 亮 /
安田 顕、音尾琢真 /
小林綾子、高畑淳子、草刈正雄 ほか

制作統括:磯 智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中 正、渡辺哲也、田中健二ほか

©NHK

オフィシャルサイト
https://www.nhk.or.jp/natsuzora/
Twitter(@asadora_nhk)
Instagram(@natsuzora_nhk)

中川大志

1998年生まれ、東京都出身。主な出演作に、映画『坂道のアポロン』『虹色デイズ』『覚悟はいいかそこの女子。』、ドラマ『花のち晴れ~花男Next Season~』『賭ケグルイ』シリーズなど。NHKでは、連続テレビ小説『おひさま』、大河ドラマ『江~姫たちの戦国~』『平清盛』『真田丸』などに出演。2019年10月15日スタートするTBS 火曜ドラマ『G線上のあなたと私』に加瀬理人 役として出演が決定している。

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