ビートルズの武道館公演を実現させた陰の立役者たち  vol. 1

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ビートルズの武道館公演を実現させた陰の立役者たち~1966年のビートルズ来日前と後に起こったこと

ビートルズの武道館公演を実現させた陰の立役者たち~1966年のビートルズ来日前と後に起こったこと

ビートルズが日本にやって来たのは、1966年6月29日未明のことだった。その日を境にして日本は大きく変わっていった。

そのとき日本という国は彼らをどう迎えたのか。その裏ではいったい何が起こっていたのか。そして彼らは日本に何をもたらしてくれたのか。
そもそもいったい誰が、どうしてビートルズを日本に呼んだのか。

文 / 佐藤剛
最上部の写真:撮影 / 長谷部宏 提供 / シンコーミュージック・エンターテイメント


(『「ビートルズと日本」熱狂の記録~新聞、テレビ、週刊誌、ラジオが伝えた「ビートルズ現象」のすべて』シンコーミュージック・エンターテイメント)

来日50週年を機に刊行された『「ビートルズと日本」熱狂の記録~新聞、テレビ、週刊誌、ラジオが伝えた「ビートルズ現象」のすべて』(著:大村 亨 発行;シンコーミュージック)は、当時のメディアが伝えた記事を細大漏らさずに調べて、それを時系列にまとめた労作だ。そこには実に丹念な調査だけでなく、いくつもの疑問点や的確なコメントが付記されていて、読んでいて大いに触発されるものがあった。ぼくは徹底的に調べられた資料を自分の記憶と比較していくうちに、これまで言い伝えられてきた事柄についてまわる疑問や不自然なところを、自分なりにいくつかは解明できるかもしれないと思った。
そう思い立って当時の文献や資料に当たり直すとともに、あらためて解明した事実を文章化していった。すると人と人との出会い、音楽を介しての人間関係、ビジネス上のつながりや企業間の結びつきなどを通して、これまでどこにも明らかにされていなかった物語が見えてきたのである。ぼくはあの時代に起こったとされる出来事や伝説ではなく、隠されたままの事実や真実を知りたくなった。

そこでぼくが物語の中心に置いたのは誰よりも最初に「ビートルズと日本」をつないだ人物、ビートルズのレコードを日本で発売したミュージック・マンの石坂範一郎氏である。氏は1960年に立ち上げた東芝レコード(東芝音楽工業株式会社)を、十年余りで日本を代表するレコード会社に育てた経営者でもあった。

そして氏が中心になって1964年に手がけたビートルズの日本デビューから、2年後に来日公演を成功させるまでの間には、企業として実に様々な紆余曲折があり、思いもよらぬ窮地に陥った事実と、いささか不可解なエピソードなども残されていた。それらを氏が編纂した『東芝音楽工業株式会社10年史』(非売品)に照らし合わせてみると、あの歴史的な来日公演に関わった「陰の立役者たち」、ビートルズを呼んだ男と呼ばれた協同企画の永島達司と、後にエグゼクティブ・プロデューサーとして活躍する新興楽譜出版社の草野昌一のほか、何人かの人物が果たした各々の役割が浮かび上がってきたのである。

ぼくはその人たちの発言や行動だけでなく、置かれていた状況を可能な限り調べて文章にしていった。それをラフな段階での原稿を読んでいただいたのは、石坂氏の長女である石坂邦子氏と、長男の石坂敬一氏であった。

エンターテイメント・ビジネスの世界で今も活躍中の石坂邦子氏には数年前、拙著「上を向いて歩こう」(岩波書店)を執筆の際に取材でお目にかかり、石坂範一郎氏の経歴や人となりのほか、ジョン・レノンなどとの交友関係を教えて頂いた。

石坂敬一氏は1968年に東芝レコードに入社して以来、ビートルズやピンク・フロイドなどを担当する洋楽ディレクターとして活躍した後に、キャリアを積んで外資系のメジャー・レコード会社で社長と会長を歴任した生粋のミュージック・マンである。ビートルズに関する著作もあり、日本における音楽文化の発展と音楽産業の振興に多大な功績を残してきた。

幸いにも両氏から励ましの言葉を頂戴することができたので、登場人物の関係性などをさらに掘り下げて、第1部から第5部にまとめてみた。
ここからさらに新たな事実とともに、物語の向う側にある真実が、いっそう明らかになっていくことを願っている。

撮影:長谷部宏 提供:シンコーミュージック・エンターテイメント

撮影:長谷部宏 提供:シンコーミュージック・エンターテイメント

この撮影は1966年7月2日、ビートルズの宿泊先だったヒルトンホテル10階で行われた。ミュージック・ライフ誌の星加ルミ子編集長による特別な取材時のスナップ写真である。左からマネージャーのブライアン・エプスタイン、ポール・マッカートニー、星加ルミ子、広報担当のトニー・バーロウ、リンゴ・スター、東芝レコードの石坂範一郎が並んでいる。

→次回は10月31日更新予定

The Beatles

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。 シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長に就任。 著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『歌えば何かが変わる:歌謡の昭和史』(篠木雅博との共著・徳間書店)。

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