連続テレビ小説『なつぞら』特集  vol. 15

Interview

『なつぞら』ナレーションの内村光良が語る、 記念すべき朝ドラ100作目の素晴らしさ

『なつぞら』ナレーションの内村光良が語る、 記念すべき朝ドラ100作目の素晴らしさ

残すところ、もうわずか…! 大詰めを迎えている朝ドラ『なつぞら』でキャスト陣と並んで印象に残る、と言っても過言ではないのが、内村光良によるナレーション。戦死した父として、娘であるヒロイン・奥原なつ(広瀬すず)のことを見守る視点から物語を綴っていく語り口は、実に味わい深いものがあった。
はたして民放でレギュラー出演しているバラエティー番組も多く、多忙な内村にとって、『なつぞら』と関わった半年以上の歳月は、どのようなものだったのか? 「なつよ、…」と“天からの声”を届け続けた月日を振り返り、広瀬すずをはじめとするキャスト陣の名演や思い出深いシーン、そして面白いエピソードを、忙しい合間を縫いつつもぞんぶんに語ってもらった。

取材・文 / 平田真人


ラストのナレーションは、すごくイイ感じだと思います。ずっと「来週に続けよ」を続けてきて良かった(笑)。

脚本の大森寿美男さんが取材の席で、「なつよ、来週に続けよ」のフレーズを思いついたはいいものの、途中からしんどくなったとおっしゃっていて。そういった苦悩のようなものを、ナレーションを入れる段で内村さんは感じとっていたのでしょうか

そうですね、毎回それを“お決まり”にするのも大変だろうな、と思いました。何しろ、半年間ですからね。私もいろいろと手を変え品を変え、言い方を変えたり工夫しましたけど、難しかったです。「来週に続けよ」というのは、父親っぽい言いまわしじゃなかったりもするもので。ちょっと俯瞰しているというか、父が娘に言うにしては、ちょっと距離を感じたりもするじゃないですか。その加減が難しかったですけど…最後の最後、つまり最終週のラストのナレーションはすごくイイ感じだと思います。僕もナレーションしていて、「あぁ、なるほど! 『続けよ』を続けて良かったな」と(笑)。はたしてどうなるか、どうぞご期待ください。

はい、楽しみにしております(笑)。ちなみに、なつの父親目線で半年間『なつぞら』という物語を見つめ続けてきて、なっちゃんの成長をどのように感じていらっしゃるのでしょうか?

小さな時に戦争で私(なつの父)と母親を亡くすところから始まるんですけど、なつは非常に周りの人に恵まれてきたのだな、と感じています。みんなが、なつを好きでいてくれるんですけど、それは、なつが発している──手を差し伸べたくなったり、守りたくなるような空気を周りの人たちが感じとって、いつしかあの子のことを好きになってしまうからではないかと。そういう意味では、実はすごく幸運の持ち主なんじゃないかなと思いながら見つめてきました。十勝では柴田家のみなさんの愛に育まれ、東洋動画では採用試験に落ちても、仲(努=井浦新)さんたちが「彩色という仕事があるよ」とアニメーションの世界へ入る道すじを示してくれたり、なつが出産を機に契約社員になるという動きがあった時は、原画&動画チームが全員でストライキを起こしたり…本当にみんなに見守られてきたんだなぁ、と。“我が娘”ながら、実に幸運に恵まれた半生だったのではないかな、と思います。

その、なつの半生においては、まさしく出産が大きな出来事として描かれました。あの一連のシーンを内村さんはどのような気持ちで見守ったのでしょう?

出産のシーンのナレーションを録った時、ディレクターさんとアレコレと話しながら、何回か録り直しました。わりと冷静に「もうすぐ生まれるのか、私の孫が…」というナレーションになったんですけど、ディレクターさんが「もうちょっと、そばにいる感じでやってみましょうか」とリクエストしてきて。なので、感情的に「もうすぐ生まれるのかぁ、私の孫がぁ!」といった感じで、3〜4パターンの言い方を録りまして、編集の段階でいいのを選んでもらうことにしました(※取材時)。そんなふうに、回やシーンによってはいくつかのパターンを録る場合もありましたね。特に、「なつよ、○○○○」と話しかけるフレーズを録るのが難しかったです。特殊だったのは、坂場(一久=中川大志)に一度別れを告げて失恋した時、「なつよ」と呼びかけるだけで終わっていて。その一言で表現する必要を迫られた時は、苦労しました。

第125話より ©NHK
無事、女の子を出産したなつ。

物語の展開については、内村さんは事前にどのくらい把握していらっしゃったんでしょうか?

台本は先々までもらっていたんですけど、なるべく内容を知りたくないという気持ちがあったので、読むのは自分がナレーションを入れるところまでにとどめておきました。だから、なつの結婚相手が中川大志だと知った時、本当にビックリしたんですよ。「えぇっ、中川大志と結婚するのかよ!?」って、二度見ならぬ“三度見”しましたから(笑)。思わず、「LIFE!」の現場で一緒になった時、中川くんを楽屋に引っ張り込んで、「おいおい、オイシイ役どころじゃないかよ!」ってツッコんでおきました。本当に、イッキュウさんのことは単なる同僚だと思っていたので…。という具合に、なるべく新鮮な気持ちでナレーションをしたいので、基本的には収録するところまでしか読まないようにしてきました。

第114話より ©NHK
北海道で結婚式を挙げたなつとイッキュウさん。結婚式はなつとイッキュウさん、夕見子と雪次郎の2組合同で執り行った。

そういった中でも、内村さんの印象に残っているシーンを挙げるならば?

難しいですねぇ。そうだなぁ、自分が単なるナレーターではなく、なつの父親だと判明する第2週の手紙を読むシーンですかね。ナレーションからエノケン(昭和の喜劇俳優・榎本健一)さんの歌を歌い始めるんですけど、あそこは苦労しました。ナレーションの方は一回でOKだったんですけど、歌の方は何回も録り直させてもらって。歌には自信がないですし、ドラマ序盤のいいところなので、ぶち壊すわけにはいかないぞ、と。それで、かなりテイクを重ねたんですけど、実際難しかったです。

では、ご自身の中で印象的なナレーションは?

結果的に、なつと咲太郎(岡田将生)が千遥(清原果耶)と再会できなかった切ないシーンの最後で、千遥が着ていた服が掛かっていて、それをなつが抱きしめる時に「なつよ、千遥を抱きしめてやれ」というくだりでは、泣きそうになりました。あの時、当初の台本では「千遥を抱っこしてやれ」って書いてあったんですけど、その前のセリフで「抱きしめて」と書いてあったので、ディレクターさんに「抱きしめてやれ、と言ってもいいですかね?」とお願いしてアレンジさせてもらって。でも、収録する時は本当に悲しくなっちゃいましたね。その感情は、兄妹たちの父親目線でもありますし、「ほんの一瞬でも会わせてくれたらいいじゃないかぁ。写真だけかよぉ!」という視聴者目線でもあって(笑)。あそこは思わずホロッとくるものがありました。

第83話より ©NHK
千遥から届いた手紙を読み終えた後、千遥が残した服を抱きしめるなつ。

そうだったんですね。ちなみに、ナレーションを担当されて感じられた醍醐味や発見というのは……?

まず、NHKの朝ドラに関わらせていただく=親孝行なので、九州の両親が毎日観てくれたことが無条件にうれしかったです。ただ、もう歳も歳なので耳が遠いもので、私の声を直接聞くよりも字幕で見て「あ、いま我が子がナレーションしているのか」と気が付いてもらうという(笑)。自分自身が楽しかったと感じたのは、父親でありながらツッコミを入れるような箇所が時折あったじゃないですか。なつが仲さんから東洋動画に採用されるには、という説明をオムライスを食べながら聞くシーンで「なつよ、まずはいいから口を拭け」というようなところは、やっていて面白かったですね。関係者はDVDに収録したものを先に見せてもらえたりもするんですけど、僕は完成したバージョンを毎朝オンエアで見ていて、それも楽しみになっていました。息子も出かける前に一緒に見てきたんですけど、ヤツが私の真似をするんですよ。「なちゅよ、ちゅぢゅけよ」なんて言って(笑)。バカにされている気分なんですけど、そこもやってよかったなと感じるところですね。ただ、オンエアで初めて自分のナレーションを確認するので、反省もします。「ここはもっと違う言い方があったなぁ」とか「もっと、ああいう感じで言えばよかった」と思うんですけど、時すでに遅しなんですよね…。

日本のアニメがどう発展したかを描いた『なつぞら』が、100作目の朝ドラとして果たした役割は大きいと思う

ちなみに、キャストのみなさんとお会いした、というようなことはあったのでしょうか?

これがね、ないんですよ(笑)。一度だけ、すずちゃんがナレーション録りの時に来てくれて、サンダルをプレゼントしてくれました。あと、音尾(琢真)さん──(戸村)菊介さんが「アフレコがあるんですよ」というれっきとした用事があって、顔を出してくれたくらいですね。ただ…偶然ではあったんですけど、千遥と…清原さんと会えた時はうれしかったなぁ。やっと娘に会えたという気持ちでした(笑)。違う局で出演しているバラエティー番組では、藤木(直人)さんや富田望生さんがゲストで来てくれた、ということがあって。『なつぞら』のキャストの方々が出てくださると、やっぱり話が弾むんですよ。ただ、撮影現場に行くことができなかったのと、松嶋菜々子さんとは一度も会ったことがないんですよ(※取材時)。僕にとっては幻の女優さんなので、会いたかったなぁ〜! 山口智子さんとも、昔に映画(1992年公開の『七人のおたく』)でご一緒して以来お会いしていないので、ご挨拶したかったんですけれど…機会に恵まれませんでした。それがちょっと寂しかったです。

打ち上げで御対面が果たされていますよう、願っております。そして、この記事が出るころにはかなりのクライマックスを迎えているはずですので、内村さんの視点や立ち位置からの注目点を挙げていただけるでしょうか?

天陽(吉沢亮)くんとの別れが悲しかったので、これ以上悲しい展開にならないといいなと思っていたら…イイ感じになっていくので(笑)、僕は「あぁ、良かったなぁ」と思いました。なつと咲太郎が千遥と再会するくだりもよかったなぁ。僕自身、ドキドキしながら台本を読みましたから。「おぉ、千遥が出てきた。わ、こうなるのか…!」なんて思いつつ。しかも、千遥の娘役を“小なつ”(粟野咲莉)ちゃんが演じるとわかった時、「それはズルいな!」と思ったりもして。「わぁ、またあの子が出てくるのか…これはダブルで泣くぞ」と(笑)。しかも、なつと咲太郎と会うわけですから、鉄板ですよね。あとは…(出産を控えたなつを診察する産婦人科医役を演じた)田中裕子さんは、やっぱり別格だなと思いました。セリフがなくても画の強さで見せられるというのがスゴイ。そんなふうに驚かされる配役も、まだまだありますから。
あとは、千遥との再会にちなんだ「天丼」のエピソードもいい話でした。私の妻役(『ええにょぼ』でヒロインを演じた戸田菜穂)もサプライズでしたが、なつと咲太郎がやっと千遥と会えたくだりは、父親として本当にホッとしましたし、兄妹3人でまた暮らしていけるというのが、心からうれしかったですね。
で、クライマックスでまた北海道に行くというのも、すごく良かったなと個人的には思っています。それにしても、なつとイッキュウさんに飽き足らず、『なつぞら』は意外な組み合わせの結婚が多くて、ビックリさせられますねぇ。咲太郎と光子(比嘉愛未)さんもそうですし、川島(明/麒麟=下山克己役)がね、まゆゆ(渡辺麻友=下山茜役)と結婚したのも驚きましたねぇ! 川島、大金星じゃないか、と(笑)。でも、そんなふうにみんながハッピーに向かっていく話だったことが、個人的には良かったなあと思っています。

第146話より ©NHK
千遥が働く神楽坂の小料理屋「杉の子」に客としてやってきたなつ、咲太郎、光子、信哉、明美。

ともすれば、ナレーション録りは孤独な作業のようにも思えますが、内村さんも登場人物たちのハッピーを共有していたのかな、という印象を受けました。

基本的には孤独ですよね。ミキサーさんや音響スタッフはずっと一緒ですけど、週によって監督さんや記録さんが替わりますし、狭いブースの中でヘッドホンをして、パカッと老眼鏡をかけて、「なつよ、○○…」なんて言っているわけですから。ふだん、大勢の出演者がいる番組が多いぶん、余計に孤独に感じたのかもしれないですけど…それこそアニメの工程で言えば「仕上げ」の部分ですから、作品を壊さないように、なおかつ自分が引き締めようという気持ちでやってきました。なので、オンエアを見ている段になって、ようやく出演者やスタッフのみなさんと一緒に『なつぞら』をつくれているんだな、と実感できたところがあって。そこがすごく良かったなと思っています。

最後に…内村さんは「朝ドラ」ファンを公言なさっていますが、その目線からご覧になった記念すべき100作目の『なつぞら』が、朝ドラの歴史においてどのような位置づけになっていくと思っていらっしゃるのでしょうか?

やっぱり、広瀬すずという令和を代表していくであろう女優さんが座長を務めたことが大きいと思います。そして、彼女をしっかりと殿(しんがり)で受け止めている草刈正雄さんがまた、素晴らしい作品でもあったな、と。また、北海道・十勝チームとロケーションのホッとする雰囲気も良かったですし、1960〜70年代ごろの変貌していく新宿と東京の描き方が、すごくリアルでした。あの辺りのスタッフの苦労は、並大抵じゃないと思うんですよ。ロケもできないでしょうから、セットの細かいところまでこだわってつくっていらっしゃって。その北海道チームと東京チームが入れ替わり立ち替わり登場するストーリーでしたけど、一粒で二つの味を楽しめると言いますか…2つのストーリーが交互に展開していくのは、珍しかったように思います。それと、初めてアニメに焦点を当てたのが、素晴らしい。海外でも評価の高いジャパニーズ・アニメーションがどのようにつくられてきたかを、初めて描いた朝ドラというところで、100作目として果たした役割は極めて大きかったんじゃないかなと、僕はとらえているんですよね。

2019年度前期
連続テレビ小説『なつぞら』

連続テレビ小説『なつぞら』

放送(全156回):
【総合】[月~土]午前8時~8時15分/午後0時45分~1時(再)
【BSプレミアム】
[月~土]午前7時30分~7時45分/午後11時30分~11時45分(再)
[土]午前9時30分~11時(1週間分)
【ダイジェスト放送】
「なつぞら一週間」(20分) 【総合】[日]午前11時~11時20分
「5分で『なつぞら』」 【総合】[日]午前5時45分~5時50分/午後5時55分~6時

作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人 /
岡田将生、吉沢 亮 /
安田 顕、音尾琢真 /
小林綾子、高畑淳子、草刈正雄 ほか

制作統括:磯 智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中 正、渡辺哲也、田中健二ほか

©NHK

オフィシャルサイト
https://www.nhk.or.jp/natsuzora/
Twitter(@asadora_nhk)
Instagram(@natsuzora_nhk)

内村光良

1964年生まれ、熊本県出身。85年、お笑いコンビ「ウッチャンナンチャン」を結成。個人でも番組司会や俳優、映画監督、さらに音楽ではCDデビューを果たすなど、多才ぶりを発揮する。NHKでは、コント番組「LIFE!~人生に捧げるコント~」で座長を務める。「NHK紅白歌合戦」では総合司会を2年連続で担当。

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