LIVE SHUTTLE  vol. 368

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吉川晃司 間違いなく傑出した“音楽家”であることを感じさせてくれた幕張の夜を振り返る

吉川晃司 間違いなく傑出した“音楽家”であることを感じさせてくれた幕張の夜を振り返る

KIKKAWA KOJI 35th Anniversary Live TOUR
2019年9月8日(日) 幕張メッセ国際展示場 4~6番ホール

今の日本の音楽シーンに連なるムーブメントは、1980年代に始まった。佐野元春をはじめとするシンガーソングライターや、BOØWYやUNICORNなどのバンドブーム、山下久美子らの女性ロック、東京スカパラダイスオーケストラなどのインスト・ロックなど、ロックがアンダーグラウンドだった70年代とは比べようもないほど多彩なロックやポップスが誕生した。

その中で“吉川晃司”は、ひとつのジャンルであると言っていいだろう。ボーカリストであると同時に、ずば抜けたパフォーマーであり、優れたソングライターであり、手堅いギタリストであり、さらにはアクター、ナレーターでもあり、日本や中国の歴史に一家言をも持っている。

その活躍のあまりの幅広さに、吉川像の焦点が絞りきれない時期もあったが、80年代から長い時間をかけていよいよその像がはっきりと焦点を結んだ。その結果、分かったのは、“吉川晃司”というジャンルの中心にあるのは音楽であるということだった。“KIKKAWA KOJI 35th Anniversary Live TOUR”のファイナル、幕張メッセのステージにいた吉川は、間違いなく傑出した“音楽家”だった。

今年2月の武道館からスタートしたこのツアーは、3カ月半のインターバルをはさんで5月から再開。全国を周る16本をすべてソルドアウトさせ、ついに幕張メッセ国際展示場に辿り着いた。記録的な大型台風15号が接近しているにも関わらず、会場には1万2千人のオーディエンスが詰めかけて超満員。ステージの上方には、吉川の頭文字をかたどったいつもの“KK”のトラスが吊られている。

今年の夏フェス“ライジングサン”での吉川のパワフルなパフォーマンスは、大きな話題を呼んだ。そんなせいもあるのかもしれない。客席には80年代から吉川を慕う往年のファンもいれば、若い世代のオーディエンスも目立つ。彼らのハンドクラップが高まり、その反響で会場の幕張メッセの大きさが伝わってくる。期待がマックスに達したとき、ステージに生形真一(g)、ウエノコウジ(b)、湊雅史(dr)、ホッピー神山(key)と吉川が入って来た。

1曲目「Juicy Jungle」のイントロが流れると、大歓声が上がる。♪オーオーオー♪という会場の大合唱の中、吉川がハンドマイクで歌い出した。力強い声。今日も絶好調のようだ。水を得た魚のように、バンドも最初からパワー全開で応じる。

このバンドは、大会場がよく似合う。僕はスタートの武道館と、3本目の大宮でこのツアーを見たが、その時とはかなり印象が違う。ツアーを経て、バンドのスケールが明らかにアップしている。メンバーはベテラン揃いなのに、いまだに“伸び盛り”とは恐れ入る。その源は、中心人物・吉川晃司にあると気付いて、愉快な気持ちになったのだった。

スタートダッシュが凄い。「Juicy Jungle」の後、「BE MY BABY」、「LA VIE EN ROSE」と、まるでアンコールのように畳みかける。オーディエンスたちは、嬉しい悲鳴を上げる。

「ごきげんよう! ファイナルなので、存分に楽しんで下さい。このステージが終わるまで、台風なんざ、寄せ付けません! 俺が途中で倒れたら、労いの声をかけて下さい」と吉川が宣言して、ギターを肩に掛ける。ヘッドのない特殊な形をしたスタインバーガーというギターだ。「これは17才の時に弾いてたギターです。35周年なので、懐かしいあんな曲、そんな曲をやっていきますよ」と吉川が言い終わらないうちに、突然「You Gotta Chance〜ダンスで夏を抱きしめて〜」が始まってしまった。だが、ちょっとしたタイミングのズレにも、吉川は対応して歌に滑り込む。そんなハプニングに会場はますます盛り上がっていく。吉川の左手に握られた“思い出のギター”が、幸せそうに鳴っている。

「にくまれそうなNEWフェイス」、「RAIN-DANCEがきこえる」、「サヨナラは八月のララバイ」と初期の大ヒット曲が立て続けに並ぶセットリストは壮観だ。ちなみに「にくまれそうなNEWフェイス」は作曲がNOBODY、作詞が安藤秀樹。「RAIN-DANCEがきこえる」は作曲が佐藤健、作詞が安藤秀樹。「サヨナラは八月のララバイ」は作曲がNOBODY、作詞が売野雅勇で、80年代を代表する作家陣が並ぶ。続く「スティングレイ」は2003年の曲。作曲が吉川晃司、作詞がjamで、このシークエンスを自作曲で締めた。

ここからはバラードが続く。佐野元春が1980年に沢田研二に提供した「I’M IN BLUE」で、吉川はホッピー神山の入魂のピアノをバックにしてドラマティックに歌い上げる。80年代の吉川の周囲は敵だらけで、孤独な闘いを繰り広げていた。佐野の代表作「SOMEDAY」の♪あの頃 誰にも従わず 傷の手当もせず ただ♪という歌詞が、当時の吉川に重なっていく。吉川はセンチメンタル過ぎず、しかし昔の自分に向けて、優しく歌っていたのが印象的だった。

衣装チェンジをして、再びエネルギッシュなシークエンスに入っていく。「SAMURAI ROCK」は2013年、今在籍しているワーナーミュージック・ジャパンに移籍した際にリリースしたシングルで、♪闘う時が男には来る♪と歌う。かつて80年代に孤高の闘いをしてきた吉川が、またしても覚悟を決めた。現在の吉川は、この歌と直結しているように聴こえたのだった。オーディエンスもその意図を感じたのか、ライブはガチの様相を呈していく。

ここでアクシデントが起こった。吉川のイヤーモニターが故障。「ちょっと待ってね。直しますので、ウエノコウジがしゃべります」と吉川。振られたウエノがしゃべり出す。

「高いところから失礼します」とウエノが生真面目に言うと、笑いが起こる。「こんなムチャ振りがあるでしょうか(苦笑)・・・全国を周って来ました。ファンの方々が温かい。だって、どこへ行っても『コウジ、コウジ』って言ってくれる。僕もコウジです。でも、できればウエノコウジって呼んで下さい!」。

場内が大爆笑したところで、吉川が復帰。「俺が途中で歌えなくなったら、みんな、歌ってよ」と言って「1990」へ。♪今 すべての♪と何回も繰り返すサビが、胸に迫ってくる。「アクセル」で吉川はモニターに右足を載せ、マイクスタンドを握って♪だからもっともっと♪と叫んだのだった。

ライブはいよいよクライマックスに差し掛かる。35年前のデビュー・シングル「モニカ」のイントロが流れると、それまで真剣な表情で聴いていたオーディエンスの全員が笑顔になる。このダイナミックな変化が、この日のライブのいちばんのハイライトだった。

ステージに目をやれば、生形もウエノもニコニコ笑いながら演奏している。湊は気持ちよさそうに、デカイ音でドラムセットを鳴らしている。ホッピーはベテランらしいクールな狂気を、鍵盤にぶつけている。吉川はといえば、グリーンのラインの入ったタンクトップ姿で暴れている。信頼で結ばれている彼らは、迷いなく音楽を楽しんでいた。

昨年1月の武蔵野の森総合スポーツプラザで行なわれたライブを最後に、ギタリスト菊地英昭(EMMA)がバンドを離れた。THE YELLOW MONKEYの活動が本格化したためだ。そして今回のツアーは、ギタリストを補充せずに臨んだ。この決断には相当な覚悟がいる。なぜなら、吉川の楽曲はギターがサウンドの中心になっているものが多いからだ。EMMAのパートを吉川が補うこともあれば、生形が一人で背負うこともある。この“マイナスワン”は、大きな賭けだった。しかし一人少なくなったことで、サウンドはよりタイトになり、それぞれのプレイに集中力が増した。その結果が、この幕張のライブだった。それはバンド感にあふれ、吉川の理想とする音楽の姿に限りなく近づいていた。

「恋をとめないで」で、ウエノがステージ中央から延びたランウエイでシャープなビートを刻むと、ピンクとシルバーのテープが発射され、ライブがまたひときわ盛り上がる。ラストの「BOY’S LIFE」が、このバンドのテーマソングのように響いて、本編が終了したのだった。

吉川はアンコールに、水球の公式ボールを持って現われ、遅れて登場したメンバーが挨拶する中で心に残ったのは、生形のコメントだった。

「20年以上、バンドをやってきて、いつもバンドにギターが二人いたんだけど、今回は初めてギタリスト一人でツアーをやりました。実りのあるツアーでした」。淡々とした口調ながら、深い思いのこもった言葉だった。ギタリストとして重大な責任を負い、それを果たした満足感にあふれていた。今回のツアーで、吉川のライブ・サウンドが一段階ステップアップしたのは、生形の活躍に負うところが大きい。その生形がファイナルのステージ上で「実りのある」と発言したのは、バンドに対する愛情からきている。バンドが自分たちを誉めることは滅多にないが、とても素敵な言葉だった。

水球日本代表のポセイドン・ジャパン公式応援ソング「Over The Rainbow」、そして「SPEED」、最後は「せつなさを殺せない」でライブは無事に幕を閉じた。

来年、有明に新しくオープンするコンサート・ホールのこけら落しを皮切りに、全国ツアーを行なうことが発表された。吉川の35周年は、“構想35年”と言い換えてもいい。彼の望む音楽のスタイルは、35年経った今、実現されつつあるのを確信したライブだった。

文 / 平山雄一 撮影 / 平野タカシ

KIKKAWA KOJI 35th Anniversary Live TOUR 2019年9月8日(日) 幕張メッセ国際展示場 4~6番ホール

セットリスト

1.Juicy Jungle
2.BE MY BABY
3.LA VIE EN ROSE
4.You Gotta Chance〜ダンスで夏を抱きしめて〜
5.にくまれそうなNEWフェイス
6.RAIN-DANCEがきこえる
7.サヨナラは八月のララバイ
8.スティングレイ
9.I’M IN BLUE
10.ONE WORLD
11.Dream On
12.MODERN VISION
13.Nobody’s Perfect
14.SAMURAI ROCK
15.HEART ∞ BREAKER
16.1990
17.アクセル
18.モニカ
19.恋をとめないで
20.The Gundogs
21.GOOD SAVAGE
22.BOY’S LIFE
23.Over The Rainbow
24.SPEED
25.せつなさを殺せない

ライブ情報

KIKKAWA KOJI LIVE 2020 決定!!!

詳細はオフィシャルサイトで
http://kikkawa.com/information/detail/2930

吉川晃司

1984年に映画「すかんぴんウォーク」と、その主題歌「モニカ」でデビュー。日本歌謡大賞最優秀新人賞ほか、8つの新人賞を独占、俳優としてもブルーリボン賞、日本アカデミー賞、ゴールデンアロー賞他の新人賞を受賞した。
「モニカ」をはじめ、「LA VIE EN ROSE」「You Gotta Chance~ダンスで夏を抱きしめて~」など、常にランキングの上位をにぎわせる中、1988年ギタリスト布袋寅泰とのユニット COMPLEXを結成。
その後ソロとして、作詞、作曲、プロデュースを自ら手がけ、独自のボーカルスタイルでロックアーティストとして不動の地位を確立。
2011年7月には、21年ぶりの復活となったCOMPLEXの東京ドーム公演を東日本大震災復興支援の為に開催した。
近年は音楽活動に留まらず、俳優としても高い評価を得る。
出演映画「レディジョーカー」「チームバチスタの栄光」「るろうに剣心」、主演ミュージカル「SEMPO -日本のシンドラー杉原千畝物語-」、NHK大河ドラマ「天地人」(織田信長役)、「八重の桜」(西郷隆盛役)、TBS系ドラマ「下町ロケット」(財前道生役)他。映画「必死剣・鳥刺し」では、第34回日本アカデミー賞優秀助演男優賞を受賞。
現在も精力的にライブを行う中、映画やドキュメンタリー番組、CM等、更に活動の幅を広げて活躍中。

オフィシャルサイト
http://kikkawa.com

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