連続テレビ小説『なつぞら』特集  vol. 16

Interview

メモリアルにしてモニュメント。『なつぞら』ヒロイン・なつとして生きた1年強の年月を、広瀬すずが語り尽くす!

メモリアルにしてモニュメント。『なつぞら』ヒロイン・なつとして生きた1年強の年月を、広瀬すずが語り尽くす!

「すずよ、本当におつかれさま。そして、心からありがとう」…と、ナレーションにあやかって労いと感謝の気持ちを伝えたくなるほど、『なつぞら』の広瀬すずは素晴らしかった。若手では傑出した存在ではあったが、本作を機に名実ともに令和を代表する女優の1人となったのは、紛れもないだろう。また、本作の撮影期間中に2度の誕生日(20歳と21歳)を迎えるなど、自身の節目と重なったこともあって、広瀬にとっても忘れがたい作品であることは想像に難くない。その『なつぞら』が大団円を迎えるとともに、長らく続いた本特集も幕を閉じるわけだが、アンカーを務めるのはやはり、この人でなければなるまい。広瀬すずが語った一部始終を、ここに記す──。

取材・文 / 平田真人


「楽しんだ者勝ちだな」と思っていた部分がありましたし、実際、楽しい気持ちが常に勝っていた現場でした

僭越ながら、長い間の撮影、お疲れさまでした。

ありがとうございます。

奥原(坂場)なつとして生きた1年強の時間を終えようとしている今、率直にどんな思いを抱いていらっしゃいますか?

朝ドラの主人公というのは、その女の子の人生が何十年にも渡って描かれるわけですが…1人の人生を長く演じる機会というのもあまりないじゃないですか。そう考えると、自分が20歳になったタイミングで子どもを産んで育てるまでのお芝居をすることになったというのは、ある種「試されているな」って思う瞬間があったりもしました。あと、「100作品目(の朝ドラ)だもんね」と言われることも多かったですし、今まで自分が携わってきた作品の中でも、観てくださっている方々の反響の多さを間近でわかりやすく感じられたのも、朝ドラならではなのかなって。自分はそんなに「何作目」と意識して朝ドラを見たことがありませんでしたが、同世代の女優さんたちや同業者の方たちが「次の次の朝ドラは100作品目だけど、誰がヒロインを演じるのかな」と思っていたって言われていたので、そう思うとすごく大切な節目であり、朝ドラの100作品目という看板の重さみたいなものを感じました。

共演されたキャストの方々が、「プレッシャーもあるだろう中、ヒロインとして凜として作品の真ん中に立っていた」と評されていましたが…ご自身の実感としては、いかがでしょう?

朝ドラのヒロインはいろいろと負担が大きいと聞いていたので、「楽しんだ者勝ちだな」って思っていた部分は多少あって(笑)。今までもわりと大変な現場だったり、追いつめられた経験もありましたし、体力的より精神的に追い込まれた方が多少“食らって”しまうのも、わかってはいたんです。でも、『なつぞら』の現場は「ザ・体力VS自分」みたいな環境だったので、そういう意味では全然大丈夫でした。楽しんだ者勝ちって意識したところもありましたけど、むしろ自然に「楽しい!」っていう気持ちが勝っていた瞬間の方が多かったんですよね。だからなのか、撮影に入ってしばらく経ったら「大丈夫?」って訊かれなくなっていって…。もちろん、余裕があったわけじゃないですけど、そんなに精神的に負担が大きかったわけではなく、むしろ「楽しい!」がずっと勝っていた感じでした。

朝ドラのヒロインという大役を1年以上に渡って演じられたことで、変化したことや得たものは何でしょう?

演じられる年齢の幅ですかね…。1年間、ずっと同じ人たちとお芝居をしていたわけではなく、対面する人たちが変わっていくので、相手や年齢に合わせた話し方だったり、声のトーンだったりが自然と変わってくるというのは、今まであんまりなかったなと思いましたし、考えたことがない部分だったなって。そういう実年齢を超えていく表現が大変だと感じた瞬間もありましたけど、これを経験したら、どんな作品でもできそうだなって思うことができたのも大きくて。ものすごく追い込まれた場合は別として、今まで以上に現場で飄々としていられるようになるかもしれないな、と思いました。とりあえず、体力的な面だったら、どんな作品でも大丈夫だっていうつもりでいます(笑)。

©NHK

クランクアップしたら「何々をしよう」とか、考えていたことはあったのでしょうか?

「家にいたい」です(笑)。自分の家が大好きなんですけど、朝ドラ中は家にいる時間が少なかったので、休みの日は一歩も家から出なくなったということが増えてしまって。ジムにも通っているんですけど、基本的に休みの日は行かずに『なつぞら』の撮影が始まる前、早朝に行ってから現場に来たりもしていたので、ちゃんとグッスリ寝て起きてから、ジムに行きたいなって。それから…おいしいご飯屋さんに行きたいですね。共演者のみなさんと「お寿司いこう」「焼肉いこう」って、ずっと話していたので。撮影の後半は多少余裕が出てきて、週1でキャストの誰かしらとご飯に行っていましたけど、みんなで集まってご飯に行けたらいいなと思っています。

そんなふうに共演者の方々とご飯に行くところにも座長然としたものを感じますが、主演として現場で心がけていたことはありますか?

それがないんですよね…(笑)。ない、というと違うのかもしれないんですけど、1人だけ毎日現場にいて、ほかのキャストの方々が入れ替わっていくので、迎える側として「みんなが楽しいと思ってもらえたらいいな」っていうか、「長期で大変だけど、現場に来たいな」と思ってもらった方が、時間の流れも早く感じられるだろうから、そうなるといいなと思っていたんです。元々は人見知りなんですけど、わりと自分からいろいろな人とお話をするようにしてはいました。

『なつぞら』現場における「広瀬すず伝説」として、台本を読んでいるところを誰も見たことがない、というのがありまして(笑)。これについては、どうでしょう?

台本は…ふだん持ち歩く荷物が少ないので、単純に台本がバッグに入らないという…(笑)。そんな理由で持ってこなかったところもあるんですが、「次のシーンのセリフ、何だったっけな?」と思ったら、遠慮なく助監督さんに「見せてもらっていいですか?」って、お願いをして。あと、メイクルームにもメイクさん用の台本が並んでいるので、「ちょっと借りま〜す」って確認したり。わりとリハの段階で完璧にしておきたかったというか、動いてみてイメージが明確になればセリフも忘れないんですよね。でも、ちょっと忘れかけたぐらいの段階で本番に臨んだ方が新鮮味が戻ってきて、意外と面白い芝居になったりもするんです。それに、元々(脚本・大森寿美男が生み出す)セリフがすごく素敵だったので、意識することなくラフでいられたところもあると思います。あと、共演者の方から「すずちゃんのセリフが完璧だから、こっちも覚えていかないとって思うんだよね」って言われたことがあるんですけど、完璧というよりも長く同じ作品をやっていると、だんだんセリフ覚えが良くなってくるっていうところもあって。だから、みなさんの目にはいいように映ったのかもしれませんが、正直なところ特別なことは何もしていなかったんです。
最初のころは、みなさんに迷惑をかけられないという思いから、リハの段階でセリフを全部入れて、撮影の前日にもう1回セリフをチェックしたりもしていたんですけど、だんだんそうじゃなくなっていって…。クランクアップのシーンも撮影の1週間ぐらい前にリハーサルをしたんですけど、「現場に入ったら思い出すんじゃないかな」っていう心持ちで、特別なことをしなかったんですよね。長ゼリフも言っているうちに思い出してくるので、逆にライブ感や新鮮味があって。その場で思いついた言葉のように口から出てきた方が面白いんじゃないかと思いますし、感情が入りやすいので、わりとギリギリのところで本番に臨んでいましたね(笑)。

喫茶店でイッキュウさん(=坂場一久/中川大志)に一度、別れを切り出すシーンも長回しでしたよね。中川さんいわく、一回勝負だったとか。

あのシーンは『なつぞら』の撮影の中で一番緊張しました。1〜2回だけリハをして、現場に入ってからは段取りも一切なく、座る位置だけ確認して、本番も1回だけだったんです。でも、ああいう一発勝負が好きなんですよね、個人的には。そうやって考えてみると、いつも完璧だったわけではなかったですけど、常に頭の中にはセリフが入っていたし、そもそも『なつぞら』以外のことを考える時間がなかったから(笑)、そこはほかのキャストの方々と違っていたかもしれませんね。ほかの作品と同時進行で『なつぞら』の現場に入っていらっしゃった役者さんも多かったので、集中することができた自分は恵まれていたような気がします。

なるほど。では、『なつぞら』のストーリーについても振り返っていただきます。終盤のトピックの1つに千遥との再会が挙げられますが、第14週の千遥登場のくだりでは(千遥 役の)清原果耶さんたっての希望もあり、広瀬さんや(兄・奥原咲太郎 役の)岡田将生さんとは会わないようにしていたそうで。そういった段階を踏んでの、千遥と待望の再会を果たした時の気持ちなどを、お話しいただければと。

最後の2週で千遥との距離がグッと近くなったんですけど、自分の中では「2週では足りなかったかな」と思うくらい大きな存在でした。清原ちゃんとは映画(『ちはやふる -結び-』)でも共演させてもらったことがあったので、意外と近いところにいる人だって思っていたので、『なつぞら』での30年ぶりという時間になっちゃうと、ちょっとわからないというのが正直なところだったりもしたんですよね。「30年ぶりの再会って、どんな気持ちなんだろう?」って想像してはみたんですけど、会わなかった分、幻想を抱いていたところもあって。しかも、清原ちゃんと顔を会わせたのが「再会のシーン」じゃなかったんです。そこは自分の力不足でもあるんですけど、多少つかめなかった感覚もなきにしもあらずで…。ただ、その戸惑いがある意味、30年ぶりに会った距離感だったりするのかな、と思ったりもして。実のところ、ずっとしっくり来なかったんです。千遥とのシーンはどこも。でも、その距離感のわからない感じだったり、清原ちゃん自身とも近いようでなかなか会わなかったし、『ちはやふる』ではライバルみたいな立ち位置の役だったから、姉妹の距離感となっても違和感みたいなものがあったというか。それでも、千遥の味方でありたい、もう一度家族になりたいというなつの想いがあるから、それなりの距離の縮め方として描かれるんですけど、お芝居をしている私自身の中にはどこか消化しきれないモヤモヤ感がありました。そんなふうに見えないものがどことなくあったので、千遥とのシーンはどこも難しかったですね。

第148話より ©NHK
千遥の料理を食べた数日後、マコプロダクションにやってきた千遥に「千遥がどんなに誇りをもって料理をしているかがわかった。」と伝えるなつ。

清原さんご本人とのやりとりというのは…?

清原ちゃんから何回か連絡をもらったんですけど、どこまで距離をとればいいかわからなかったので、返事をするにも戸惑ったという…。もしかして、(成長した千遥が登場してくる)第14週のオンエアも見ない方がいいのかなと思い始めたりもして。でも、普通に連絡をくれたので、1〜2回返事をしたくらい、です。前から「会おうね」とは言っていたんですけど、『なつぞら』で共演が決まってからは、そういう話題もなくなり、たまに連絡をとる…みたいな距離感でしたね。

清原さん以外のキャストも、以前に広瀬さんとご一緒した方々が多かった印象があります。『なつぞら』での再会はいかがでしたか?

本当にドラマ、CM、映画と全ジャンルでご一緒した方々が集まった印象があって、しかも仲のいい人たちが多かったので、実の姉とお芝居をするくらいのやりづらさを感じるような距離の近さがありました。でも、その人たちの存在が支えにもなっていて。それこそ坂場さん役の大志くんだったり、リリー(・フランキー=茂木一貞社長役)さんは中学生のころから私のことを知っていますし。ただ、リリーさんとはもう5作目の共演ながら、初めてがっつりと一緒にお芝居をさせていただきました。今までは一瞬だったり、同じシーンにならなったり、親子役なのに会ったことがなかったりしたんですけど、距離感はすごく近かったので、何となくやりづらさもあって(笑)。大志くんも同い年で、天陽(吉沢亮)くんとなつじゃないですけど、同志みたいな感覚があるので、どことなく“セット感”をお互いに感じたりもしていて。そんな大志くんと20歳になったタイミングで夫婦役を演じるというのも不思議だね、なんて話していたくらい、いろいろな人とそれぞれ特別感がありました。照れくささを感じたりもしましたけど、大好きな人たちに囲まれる環境は幸せだなと思いながらやっていたから、ずっと「楽しい」と思う気持ちが勝っていたのかもしれないですね。

好きな人やものに囲まれていた人生だったな、運の強さやめぐりあわせってあるんだなと思わせてくれるなつの姿が、そこにはあるんじゃないかなって

十勝には何度もロケに行ったことで、思い出の場所になったかと思います。また旅行で訪れてみたいというところはありますか?

同じ場所なのに、季節が変わるとこんなに景色も違うのかって思うくらい十勝の四季を感じられましたし、土地が広いから、雪で一面真っ白になっていたり、緑になっていたり…差が激しいぶん、毎回行くたびに新鮮な気持ちになって、そこでしか生まれない感情も、なつを通して感じたりしたことも印象深いですね。「今、ここでしか感じられない気持ちだったな」ということが、本当に多かったんですよ。それはロケに行かなければ経験できなかっただろうなと思います。そのロケで言うと、「いつまで天陽くんのお家は建っているんだろう?」 っていうことが私としては気になっていて、タイミングが合ったら見に行こうと思います。それに、やっぱり緑に囲まれると何となく高校生の時のなつの感覚が戻ってくるんですよね。今年の夏の十勝ロケでも、それを感じたので、馬に乗って走った坂のような場所にも、次は1人で行きたいですね。「あぁ…」って思って、浸りたいなって(笑)。そのくらい思い入れがありますし、なつとしての気持ちをたくさん感じた特別な場所になりました。

中川さんはジンギスカンの美味しさに舌鼓を打ったと話していましたが、広瀬さんは…?

山芋のお好み焼きのお店があるんですけど、1日でも滞在する時があったら、必ず食べに行っていました。最後のロケ2回は、撮影が終わってから「東京に戻る飛行機が飛ぶまでの時間が1時間半ある」と聞いた瞬間、「45分しかいられないんですけど、食べられるものをお願いします!」ってお店の人に無理を言ったりもして…。「この人、また来た」と思われていただろうなっていうくらい何度も行ったんですけど、そのくらい美味しかったので、プライベートでもまた絶対に行きたいです(笑)。

願いがかなわんことを(笑)。なお、北海道編では役を通じて酪農などにも触れましたが、『なつぞら』の前後で農業に対する認識や印象は変わりましたか?

北海道へロケに行ったこともあって、野菜が大好きになりました。温野菜でゴロッとした感じで食べると、すごく美味しいんだなって気づけたというか…。「この野菜は、ああやって育てて収穫したのかな」と自然に考えるようになったりもして。それまでは、どこか遠い存在だった農家の方々が、今では近い存在として感じられるようになったのは、自分の中での変化だと思います。『なつぞら』は農業を通じて開拓というテーマを描いてもいるので、自分発信で何かをつくっていくことってスゴイことだなって、あらためて思いますね。体力的にも大変なお仕事ですけど、そのぶん自然と向き合う粘り強さのようなものを、農業をされている方々から受け取ったような気がしています。

一方、アニメーターというお仕事については、どんな認識でしょうか?

時間をかけて1枚の原画を描いて、彩色をして出来上がった1枚のセル画が、一瞬しか流れないわけじゃないですか。今は機械でできる作業もありますけど、何十年も前の長編アニメーションをつくる作業ではどうやって描いていたんだろうって、いまだに想像ができない部分もあるのが正直なところです。なつが東洋動画にいたころは人数もいましたけど、それでも規模が大きな作品では相当に苦労しただろうなって思うくらいの仕事量だったので──。でも、出来上がった長編を観に行くシーンで、実際に自分の描いていたものがアニメーションになっていたので、「え、あのシーンって1分もしないうちに終わっちゃうんだ…」って、以前とは見え方も変わりました。今のアニメーションだと線画もパソコンでできると聞いたので、楽になったところもあると思うんですけど、線をまっすぐに描くことすら難しいことだっていうのは、実際に体験してみて痛感しました。何十枚も練習して描いたんですけど、それでも本職のアニメーターの方の線とは全然違っていて。そういう面でも、見え方が180度変わったという感じがしました。

第151話より ©NHK
アニメ「大草原の少女ソラ」の作画に取り掛かるなつ。「上京したい。」と泰樹に伝えた時のことを思い出しながら、「獣医になりたい。」とレイが父さんに伝えるシーンを描く。

初めて母親役を演じられたり、周りの登場人物も結婚していったことで、ご自身の結婚観や子育てに対する考え方を深めた、といったことは?

アニメーションの仕事をしたいという気持ちはずっと変わらない中、なつが子どもを授かって、この先どうするの? …というシーンがあったり、「私は仕事をやめるわけにはいかないし、やめたくもない」と言う場面もありましたけど、そもそも「子どもがほしい」と願ったり、子どものために人生を捧げる覚悟ができてからじゃないと難しいのかな、と思いながら演じていました。でも、妊娠しているとわかってからも仕事をやめたくないと思い続けているのって、どう思われるんだろうというのは、私自身もちょっと気になっていたんです。やりたいことが優先されすぎていて、あまり良くない印象を与えてしまうんじゃないかって。共感してくださった方が多かったとも聞いているんですけど、女性にしかわからない気もするんですね。特に仕事をされている人にとっては身近な悩みだったのかな、と思いましたし、これからの人生で自分のことよりも子どものことを最優先することになったら、やっぱり相当な覚悟が必要になるなって。そう考えると、簡単には決められないし…客観的に見たら、私もなつに対して「自分のやりたいことを優先しすぎなんじゃないなかな」って思った瞬間があったくらいなんです。
ところがオンエアを見てからは、自分にとって何よりも大切なものができるけど、実際に生まれてみないとわからないし、欲として自分の時間がもう少しほしいと思うかもしれないし…どれくらい葛藤するのかは想像がつかないな、と思うようになりました。以前は、子どもが大好きなので10代のころから「早くお母さんになりたいな」と思っていたんですけど、20歳を過ぎて実際に母親になってもおかしくない年齢になってみて、現実に結婚したと想像してみると…永遠に悩んでしまうことなんだろうなって。以前は、自分が小さなころに見ていた幸せな景色──うちのお父さんとお母さんが築いた幸せな家庭を見ていて、早く私も自分の家族をつくりたいなと考えていて、何となく結婚願望があったんです。幼稚園の年長の時には、年少さんのクラスに行ってずっと遊んでいたくらい小さな子が大好きだったので、その時期からお母さんになりたい願望があったんですけど、人生で初めてその欲が薄れました(笑)。でも、なつを演じたことで、全国の小さなお子さんを育てていらっしゃるお母さん方への尊敬の気持ちが強まりましたし、お芝居の中でも「犠牲」という言葉を投げかけられるシーンでは、「犠牲か…」って、私自身も数日間引きずってしまったりもしたので、もし現実になったら一生考えることなんだろうなって思いました。

働く女性としてもそうですが、なつが“家族”に愛されて育ってきたからこそ、葛藤したようにも思います。そんななつを育んだ柴田家、「風車」の人たち、そして坂場家や東洋動画の人たちという…広い意味での家族の存在について、広瀬さんはどんなことを感じたのでしょうか?

なつのベースをつくってくれたのは柴田家なんですけど、自然と感謝の念が生まれてくるのは感じていました。けっして気をつかっているわけじゃないんですけど、なつが一番しっかりしていた時期というか、自分自身もかしこまっていたという自覚があったんです。でも、上京してきてから「風車」で(山口智子演じる岸川)亜矢美さんとお兄ちゃん(岡田将生演じる奥原咲太郎)と暮らすようになってから、実の家族が一緒にいる安心感だったり心が開かれたことで、立ち振る舞いが変わってくるんですね。東京で暮らすっていう環境の変化もありますし、亜矢美さんのテンションに引っ張られたところもあると思いますけど(笑)、なつからするとノビノビできて、気持ちのいい環境だったなって。それとは違う居心地の良さがあったのが、なつが自分で“開拓”した坂場家なんですけど、どの家族もテンションだったり、一緒にいて感じる空気感が全部違うんですよね。それが私にはすごく面白かったです。
終盤になっても、柴田家にいると「育ててくれた人たち」という特別な思いがあったんですけど、実の家族だったらそういう意識ってないんだろうなって、ふと考えてみたりもして…。そういう気持ちを表に出していたわけじゃないんですけど、なつの中ではどこか常に感じているものは正直あったんじゃないかな、と思いました。ずっと演じていると、遠慮はないんだけど感謝の気持ちは忘れていないっていう感覚がわかりやすく出てくるので、それが時に切なくもなったりして。特に10代のなつを演じていた時は、血が繋がっていないという「見えない壁」にぶつかっていた気がします。一方、「風車」は…亜矢美さんと呼んでいましたけど、実の兄が「かあちゃん」って呼んでいたじゃないですか。やっぱり、2人にしかわからない感覚があったんだろうなって。なつとしては、「実際の家族がいると、こんなにも楽なんだな」と思ってしまった瞬間が多少あったりもして…。何にしても、3つも家族があるなんていうことは、実人生ではないだろうなって思うぶん想像がつかないので、うまく言葉にできないんですけど、一番居心地がいいのは坂場家だなって感じます。自分が選んだ人と開拓した“帰る場所”なので、まったく遠慮なく言いたいことも言えるし、感情を全部表に出しても大丈夫な場所なんだなって、それを大人になって一番実感しました。それは後々気づくんですけど…本当に遠慮することなくいることができたのが、坂場家だったんです。

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では、最後に…広瀬さんの視点から、結末に向けてのポイントをお願いします。

やっぱり千遥とのことが大きかったかなと思います。坂場家という自分で開拓した家族がいるんですけど、子どものころから「本当の家族」として心の中にあったのは奥原家でしたし、奥原なつとしての人生においては、お兄ちゃんと千遥と3人で会うことをずっと求めていたと思うんですね。会った後も30年も空いた空白の時間を40代近くになってから埋めたいと思うくらいの情がわいてくるのを、演じていても感じたので…そこに未来があるようにも見えてくるのかなって。でも、いろいろな人がなつの周りにいてくれたから、出会いや再会があって、それがあったからこそ生まれた(アニメーション)作品があって…それを大切な仕事仲間の人たちとつくっていて、北海道で暮らしている人たちにも東京でお世話になった人たちにも、まっすぐ届けられたというところは、ある意味なつの集大成になるのかなと思います。未来はあるんですけど、いろいろな人への感謝だったり、生きてきた道を記すような作品が生まれるので、「ああ、『なつぞら』はこんなふうに終わるんだ…」って感じましたし、思い返すと、好きな人とモノに囲まれた人生だったな、運の強さやめぐりあわせってあるんだなって思わせてくれるなつの姿がそこにはあるので、半年間ずっと見てくださった方が、ご自身と照らし合わせて、いろいろなものを見つめ直したり、何かを感じていただける作品として、心に響いたら素敵だなと思っています。

2019年度前期
連続テレビ小説『なつぞら』

連続テレビ小説『なつぞら』

放送(全156回):
【総合】[月~土]午前8時~8時15分/午後0時45分~1時(再)
【BSプレミアム】
[月~土]午前7時30分~7時45分/午後11時30分~11時45分(再)
[土]午前9時30分~11時(1週間分)
【ダイジェスト放送】
「なつぞら一週間」(20分) 【総合】[日]午前11時~11時20分
「5分で『なつぞら』」 【総合】[日]午前5時45分~5時50分/午後5時55分~6時

作:大森寿美男
語り:内村光良
出演:広瀬すず、松嶋菜々子、藤木直人 /
岡田将生、吉沢 亮 /
安田 顕、音尾琢真 /
小林綾子、高畑淳子、草刈正雄 ほか

制作統括:磯 智明、福岡利武
演出:木村隆文、田中 正、渡辺哲也、田中健二ほか

©NHK

オフィシャルサイト
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