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これは何ゲーだ!?『AI: ソムニウム ファイル』期待を裏切りまくる傑作

これは何ゲーだ!?『AI: ソムニウム ファイル』期待を裏切りまくる傑作

打越鋼太郎氏がシナリオを務めているというだけで、”気になる”作品となってしまうアドベンチャーゲームファンも多いはず。恋愛アドベンチャーの金字塔というべき『メモリーズオフ』、いまだ色褪せない驚きのギミックを持ち込んだ『Ever17 -the out of infinity-』、『ZERO ESCAPE 刻のジレンマ』にて完結させた強烈なサスペンスアドベンチャー”極限脱出シリーズ”など、氏が描いてきたテーマや肝となる部分は作品ごとに異なるものの、プレイしたあとは心のなかに”跡”のようなものが刻まれ忘れられない作品となる。そしてときどき、作品のことを誰かと語り合いたくなる。今回、氏の最新作となる『AI:ソムニウムファイル』を紹介する。

文 / 浅葉たいが


これは「何ゲーだ!?」と戸惑う1周目

舞台は東京。廃墟と化した遊園地のメリーゴーランドで女性の変死体が見つかるところから本作の物語は幕を開ける。事件現場に訪れた刑事”伊達”は、遺体が旧知の人物であることを知らされ、捜査に参加することになる。アドベンチャーゲームというと立ち絵やイベント絵で構成されたものを想像するかもしれないが、本作の場合は3Dで描かれたキャラクターがバリエーション豊かな挙動を見せてくれる。オープニングを見るだけで、”すべてのシーンが見せ場”となっていることがはっきりと伝わってくる。

AI: ソムニウム ファイル エンタメステーションゲームレビュー

▲冒頭のシーンは、サスペンスものの海外ドラマのようなカメラワークでスタートする。遠距離から変死体にカメラが徐々に近づいていき、ある程度近づいたところでプレイヤーに事態の異常さを発見させるのだ

変死事件の捜査から始まる冒頭はサスペンスアドベンチャーの空気を感じさせるが、本作の物語は一筋縄ではいかない。ここからさまざまな方向に猛スピードでうねりをあげるように加速し、プレイヤーを翻弄し、ときには裏切っていく。途中で第二、第三の事件も起きるがそれと並走するようにさまざまなエピソードが動く。途中でいくつかのストーリー分岐があるのだが、1周遊んだだけではどのようなゲームなのかがまるで見えてこない。おそらく最初に多くのプレイヤーがたどり着くルートでは、”何が語りたかったのか”ということはもちろん、”謎の答え”も一向に見えてこない。しかし、ここに至るまでに驚き、笑い、涙とさまざまな感情を喚起する見せ場を通ってきたことを思い出すと、このゲームは”何かやってくれる”という気持ちになって2周目のルートを探し始めてしまう。そうなったらもう止まらない。筆者は丸一日、テレビのまえでコントローラーを握りしめていた。

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▲主人公の”伊達”。現実の刑事像からはなにもかもかけ離れた人物だが、『AI:ソムニウムファイル』の世界はリアリティを重視しない。物語のなかで圧倒的な存在感を見せる彼が、変死事件の謎に挑む

物語を揺らすのは、強烈すぎる個性を持つ登場人物たちだ。主人公の伊達は左右の目の色が異なるオッドアイで、左目は義眼AIである”アイボゥ”を宿している。伊達はこのアイボゥとコミュニケーションを取りつつ捜査に向かうのだが、両者の性格が決して真面目なものではないため、ユーモアたっぷりのコミュニケーションが交わされる(伊達とアイボゥのかけあいには“下ネタ”も多い。打越氏の描く下ネタは、シナリオに緩急をもたらす絶妙なスパイスだ)。そんな軽いふたりをセーブするのが、伊達の上司にあたる”ボス”かと思いきや、彼女もまた飄々としたマイペースを崩さない。彼らが、警視庁の秘密組織ともいえる”先進式人脳部隊ABIS”の中心人物というのだから驚きだ。

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▲主人公の所属する”先進式人脳部隊ABIS”では“参考人の心のなかを調べる”捜査方法が確立している。“ボス”の知る昔のある事件が、変死体から始まる事件に関わってくる

捜査の過程で出会う人物も油断がならない。主人公を”伊達”と呼び捨てにする12歳の小学生・沖浦みずきは、華奢な外見からは想像もつかない戦闘能力を有している。ネットアイドルとして活動する”A-set”こと左岸イリスは、大人を手玉にとる狡猾な一面をチラリと見せてくる。ラノベ作家を目指す24歳のニート・真津下応太(まつしたおうた)は、イリスのためなら何でもやれてしまう熱狂的なアイドルオタク。強烈すぎる人物が交差することで、物語は勢いよく跳ねていく。

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▲こちらが伊達の左目に入り込んでいるAIのアイボゥ。自我を有しており、伊達をサポートする

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▲ゲーム序盤はギャグやパロディ要素が強め

アーケードゲームファンの間で語り継がれる雑誌”ゲーメスト”における伝説の誤植、”インド人を右に”(“ハンドルを右に”の誤植と言われている。当時は原稿を手書きで書いており、印刷会社の写植オペレーターがハンドルをインド人と間違えたそうだ)もなぜか登場する。この雑誌を愛読していた、いま30代や40代の人はこのシーンにニヤリとさせられるはずだ。

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▲キャラクタ-デザインを務めるのはコザキユースケ氏。氏のデザインした色合い豊かなキャラクターたちは、近未来を思わせるテクノロジーが垣間見える本作の世界をどっしりとプレイヤーに示してくれる

ふたつのパートが作り出す独特のゲーム体験

ゲームの進行は、テキストを読み進めつつ選択肢を選んでいく”捜査”パートと、参考人の夢のなかに潜り込んでアイボゥを操作して手掛かりを探す”ソムニウムパート”に分かれている。捜査パートは、人物との会話やオブジェクトを調べることで進んでいくので、アドベンチャーゲームに馴染みのある人ならすぐに物語に没入できるはず。ところどころでアイボゥの力を借りて、遠くのものをズーム機能で捕捉したり、相手の心境を確認すべく体温の変化を見るサーモグラフィ機能を使うなど、選択肢だけではない進行も用意されているが、そう難しいものではない。物語後半で登場するQTE(クイックタイムイベント)的な要素は気を抜いているとミスになってしまうものの、失敗してもすぐにやり直せる仕様となっているので安心だ。

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▲捜査パートではさまざまな人物に話を聞くことで物語が進行していく。どういう会話をするか選択肢が登場することもあるが、先に進むフラグとなっている会話以外を選択しても多彩なリアクションが見られる。細かい作り込みにより、リッチな体験をプレイヤーに与えてくれる

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▲ときにはアイボゥの力を借りて捜査することも。画面はX-rayで相手の武器を探すシーン

アイボゥを操作して参考人の夢のなかを捜査するソムニウムパートでは、狭い部屋のような場所に設置されたオブジェクトを調べて、動かしたり触ったりすることで夢のなかのリンクを繋げていくことになる。夢のなかでアイボゥが活動できる時間は限られており、ソムニウムパート突入時には残り時間が表示される。この残り時間が0になるまえに夢のなかの謎を解き明かすことができれば、参考人から捜査に関係する情報を得られるというわけだ。謎を解き明かす“正解”を出すために、プレイヤーはアイボゥを動かしいろいろな行動を試してみることになる。ときには突拍子もない行動や選択が、正解へとつながっていることもある。こう書くと難しいと感じるかもしれないが、このパートも気軽にリトライすることが可能。総当たりするつもりでプレイすれば、そう時間をかけずに道が開けるはずだ。

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▲ソムニウムパートでは、人型に変化したアイボゥを操作して周囲を探索することになる。脱出ゲーム的な要素もあるが、ノーヒントの問題も多いため基本的には総当たりのように調べることになる。右上にはソムニウムパートの残り時間が表示される。この画面のシーンなら359.98秒の探索が可能ということだ

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▲調べられるオブジェクトに触れると“どうするか”を選ぶことができる

選んだ行動により残り時間の減りかたが異なる。画像のものだと、「チョコ?」を選ぶと70秒が消費されるというわけだ。そして、TIMEの部分に表示されているのは行動によって消費される時間にボーナスを与えるコマンド。残り時間が0になると失敗となってしまうので、消費時間が長いコマンドは、このボーナスを利用して選んでいくことになる。

バラエティ豊かな物語と試みが詰め込まれた『AI: ソムニウム ファイル』は非常に挑戦的な作品である。総当たりで調べるといったクラシックなアドベンチャーゲームの要素を持ちながら、要所でこのジャンルとしては珍しいQTEや3Dグラフィックという試みにも取り組んでいる。3Dグラフィックで描かれたアドベンチャーゲームが過去にないわけではないが、本作の場合は”立ち絵”という概念にとらわれずにキャラクターを描写しているところに非常に好感が持てる。シーンごとに、さまざまなポーズや距離感でキャラクターたちがプレイヤーの目前に現れるため、状況や心情がひしひしと伝わってくるのだ。
そして、この手の動きの多い3D表現のアドベンチャーというと”スキップ機能”が貧弱だったりするのだが、本作にはなかなか素早いスキップ機能と、何度も同じルートを通らなくていい”チャート”システムが用意されている。ロードが細かく入るように感じるシーンや、ロード時間がやや長く感じるシーンもあるが、物語をひととおり楽しむことを目的とするのなら、重複して観ることになるシーンが少ないためストレスを感じることはないだろう。新しい表現を盛り込んだ場合、テンポの部分で違和感を覚える作品が多い。そういう感覚的な部分でユーザーへの配慮がされているのは見事だ。個人的には、本作のノウハウを活かした“次”の作品が出てほしいと思っている。

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▲本作はすべてのシーンがイベントシーンと言っても過言ではないほど、グラフィックの“見せかた”に注力している

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▲1周目をクリアするとフローチャート機能が解禁。既読のシーンに戻ったり、分岐点を確認できる。同じシーンを何度もプレイさせないなど、プレイヤーへの配慮も行き届いている。シナリオの流れも非常にスピーディなので、冗長に感じることもないはず

ネタバレをしないというのが現在のレビューの礼儀なのであまり踏み込んだことは語れないが、最後の物語を読み終えたとき、とてつもない満足感があったことは伝えておきたい。トリックや嘘に覆い隠されていた謎が解けていく中盤以降は、かつて打越氏の作品に驚かされたときの感覚を呼び覚ましていく。そして、サスペンスアドベンチャーをプレイするときに当たり前のスタンスである”全てを疑う”という視点を以てしても、自分の考えが物語に全く追いついていなかったことを知り茫然とさせられ、そのあと拍手を贈りたくなった。「そう来るのか」という感覚と、「これは賛否もあるだろう」という高揚感。思わずSNSなどで感想を漁りはじめてしまったのがプレイ後の夜だった。
期待を裏切らない作品という表現は適切ではないだろう。最初から最後まで期待を裏切りまくる傑作である。おそらく、賛否両論となる要素も多いと思う。しかし、無難に万人受けを狙った作品ではないからこそ、この作品の持つ鋭さがぐさりとハマった人にはたまらない体験となるだろう。アドベンチャーゲームが好きという方はもちろん、サスペンスドラマ好きにもぜひプレイしてほしい一作だ。

フォトギャラリー
AI:ソムニウム ファイルロゴ

■タイトル:AI:ソムニウム ファイル
■メーカー:スパイク・チュンソフト
■対応ハード:PlayStation®4、Nintendo Switch™、Steam®
■ジャンル:アドベンチャー
■対象年齢:18歳以上のみ
■発売日:発売中(2019年9月19日) ※steam®版は2019年9月18日
■価格:パッケージ版・ダウンロード版 各6,800円+税


『AI:ソムニウム ファイル』オフィシャルサイト

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