シミルボンの本棚  vol. 8

Column

【『映画 聲の形』を観て(3)】作中のタイムライン

【『映画 聲の形』を観て(3)】作中のタイムライン

要約

『映画 聲の形』のタイムラインを考えてみました。カレンダーの曜日と月齢が、現実のものとはピッタリ重ならないので、演出的な事情があると推察できます。


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聲の形 公式ファンブック

大今 良時(著)
講談社
週刊少年マガジン



カレンダーと月齢

これはオマケのコラムです。作品論ではなく、あくまでファンの遊びなので「ですます」調でいきますね。

『映画 聲の形』は、将也たちが高校3年生になった年を2014年に設定していると思われます。
 [1] 物語の冒頭で将也が印をつけていたカレンダーでは4月15日が火曜日。
 [2] 将也が小学6年生のとき([1]の6年前)、硝子が転校してきますが、教室の黒板の日付が4月10日(木)。
 このふたつの条件にあてはまり、現在(2016年)からそれほど離れていない年が2014年なのです。作中で将也がスマホを使っていたので年代が大きくずれることはないと判断しました(†1)。
 ちなみに、原作であるマンガ『聲の形』では、将也が高校3年生のときのカレンダーはアニメと同様ですが、硝子が転校してきた日付が4月11日(木)になっています。これが当てはまる年をさがしてみると、小学6年で2003年/高校3年生で2008年。『聲の形』は2013年から〈週刊少年マガジン〉に連載されたけれど、原型となるオリジナル版(新人漫画賞に応募したもの)は2008年に描かれています。このオリジナル版での時代設定を連載版でも踏襲したと考えると、原作における現在(将也が高校3年になった年)が2008年というのはじゅうぶんにありえます。

 †1 もちろん、この作品はフィクションなので現実とは違う世界線(パラレルワールド)とも見なせるのですが、それを言いはじめるとこういう考察の楽しみがなくなってしまう。

さて、『映画 聲の形』の現在を2014年に定めて、作品中のできごとをタイムラインで示そうというのが、こんかいの試みです。
 作品のなかで具体的な日付が示されているシーンがいくつかあるので、そこから前後関係を探っていきます。また、大きな手がかりとなるのが月齢です。『映画 聲の形』では月の描写がいくつもあり、満ち欠けを日付の手がかりにできる。京都アニメーションは設定をしっかりおこなう制作会社で、『たまこラブストーリー』でも『響け! ユーフォニアム』でも夜空の描写(月や惑星の位置)は実際の天体運行を参照していることが、Blu-ray版のスタッフコメンタリーで明かされています。『映画 聲の形』でもその姿勢は貫かれていると考えました。
 ところがですね……いきなり暗礁に乗りあげました。
 硝子が告白をした日は作中で5月12日(火)と明確に示されていますが、このシーン、昼間の空に三日月がかかっているんですね。2014年の月齢だと、こうはならないんです。
 ただし、5月12日(火)というのもちょっとおかしくて、これは結絃が将也に「鯉のパンを買ってきて」とメールした日付なんですが、遡れば高校3年生になった将也が硝子に初めて会いにいった日が4月15日(火)、これは将也が印を付けていた壁掛けカレンダーによるのでまず間違いはない。同じ年の5月12日は月曜日のはずです。
 そのほかにも日付と曜日が示されているシーンがありますが、それらはすべて4月15日(火)と整合します。5月12日(火)だけが合わない。ケアレスミスといってしまえばそれまでなんですが、ここは結絃がスマホの日時設定をしたときにズレたということにしましょう(そんなことがあるかどうかわかりませんが)。
 結絃が将也にそのメールを送ったのが火曜日なのは、硝子が鯉に餌をあげる日なので確実です。前後のエピソードから、日にちが12日から大きくずれているということもないでしょう。とすれば、この日は5月13日(火)だったと考えるのが妥当です。
 さて、曜日でみると2014年のカレンダーが使えますが、前述したように月齢が合わない。うーむ。しかし、京都アニメーションの制作陣がいきあたりばったりに描いているとは考えにくく、実際の月の満ち欠けを計算しているはずです。
 そこで、いったん2014年説はいったん棚上げして、こんどは月の描写と日にちの関係に着目しました。先に述べたように、硝子が告白した5月13日が昼間の三日月。この日から2週間遡った4月29日(火)には、硝子と将也が川へ飛びこんでいます。結絃が飛びこんでいる将也の写真をネットにあげ、それが問題となって将也は1週間の自宅謹慎になりました。その謹慎中に、将也は、家出した結絃を見つけて家へつれて帰ります。結絃は夜半に将也の家を抜けだし、それを将也が雨の降るなか追いますが、雨が上がると満月がかかっている。結絃の家出は5月1~3日あたりでしょう。
 5月13日に昼間の三日月、5月1~3日の夜半の満月。「月の出月の入り(日本地名選択)」というサイト(http://keisan.casio.jp/exec/system/1236679789)を使い、岐阜(『聲の形』の舞台は大垣市)の位置で試してみると、2018年に設定するとうまくマッチすることがわかりました。天文についてはまったく素人なので、もしかすると使いかたが間違っているかもしれませんが……。とりあえず、『映画 聲の形』については曜日の辻褄は2014年、月齢は2018年の天体運行に依拠していると仮定します(†2)。


 †2 2018年の月齢をあてはめたのはあくまで便法で(「月の出月の入り」サイトを使えば月の形を見て確認できる)、正確には2014年の実際の月齢に約14日加えるといったほうがよいかもしれません。月齢0の新月→上弦→月齢14.8の満月→下弦→月齢29.5で月齢0に戻ってまた新月――と循環していきます。

タイムライン

作中の手がかりを合わせて考えると、下記のようなタイムラインができました。
[ ]内は日付特定・推測の根拠
【 】内は月の形です。

2008年
 4月10日(木) 硝子が転校してくる(小学6年生)[教室の黒板の日付]
 4月16日(水) 喜多先生が手話学習を提案するも植野が反対。佐原が硝子と友人になる。[教室の黒板の日付]
 6月24日(火) 将也、黒板に硝子をなじる落書き。[教室の黒板の日付]
 11月(あるいは12月) 硝子が転校していく。[補聴器が壊されるようになって5カ月。イチョウの黄葉]

 ……………………………………………………………………………………

2014年
 4月15日(火) 将也が硝子に再会し、筆談用ノートを返す。[将也のカレンダーの日付]
 4月16日(水) 百七十万円が焼失。将也の教室の窓から飛行船が見える。将也、永束それぞれ独りメシ。
 4月22日(火) 将也、結絃に阻まれ硝子に会えず。将也と永束が友達になる。[15日の一週間後]
 4月29日(火) 川に落ちたノートを追って硝子が飛びこむ。それを追って将也が飛びこむ。[15日の二週間後]
  同日夜 結絃、将也の飛びこみ写真をネットにあげる。[翌日には問題になっているのでこのタイミングしかない]
 4月30日(水) 将也、飛びこみが問題になって1週間の自宅謹慎。[5月8日には登校しているので]
 5月1~3日あたり 硝子と喧嘩して結絃が家出。将也の家で世話になる。【夜半の満月】★1
 5月?日 結絃、将也に傘を返しにくる。
 5月6日(火)将也、硝子に永束を紹介。硝子、佐原のメアドが知りたいという。[前後の辻褄から判断]
 5月8日(木) 将也、川井に佐原の消息を尋ね、太陽女子学園に通っていることを知る。[教室の黒板の日付]
  同日放課後 将也と硝子、太陽女子学園前駅で佐原と再会。[※1]
  同日その後 その近辺で将也が植野からにゃんにゃん倶楽部ビラを受けとる。[※2]
  同日 硝子は佐原とカラオケへ。[翌日に将也のスマホへ動画で報告]
 5月9日(金) 永束、将也がもっていたにゃんにゃん倶楽部のビラに興味。[前後の辻褄から推測]  5月10日(土) 将也と永束、にゃんにゃん倶楽部へ。[昼間に私服なので週末、次項との整合性によって日曜ではないと推測][※3]
  同日 硝子、祖母につきそわれ受診。[日曜に診察する医院は少ないので土曜日と推測]
  同日 結絃、石田家へ遊びに行き、将也より猫ちゃんポーチを託される。[前後の辻褄から判断]
  同日夜 結絃、ポーチを硝子に。[前後の辻褄から判断]
 5月12日(月) 将也、町で植野と再会。植野、将也と硝子にからむ。[制服なので放課後と判断]
 5月13日(火) 硝子のポニーテール。伝わらない告白。[※4]【昼間の三日月】★2
 5月?日 川井、髪型を変える。真柴が将也と友人になる。
 5月20日(火) 川井と真柴、将也、永束とともに橋へ行き、結絃、佐原と会う。硝子は橋に来ず。[13日から一週間後]
  同日夜 将也、結絃にアドバイスされて、硝子を遊びに誘う。[前項と同日と推測]【夜の三日月(13日と逆の欠けかた)】
 5月25日(日)or 6月1日(日) みなで遊園地へ。[前項からそれほど間があかないと推測]
 6月?日 結絃、観覧車の盗撮映像を将也に見せる。[将也の部屋の壁掛けカレンダーが6月になっている]
 7月22日(火) 将也、クラスメイトの前で川井に過去のことを暴露される。[教室の黒板の日付]
  同日その後 いつもの橋で、将也と仲間たちが決裂。将也の台詞「来週から夏休み」。
 7月27、8日あたり 結絃、祖母と一緒に寝ていて昔の硝子の夢を見る。【夜半の満月】
  おそらく同日 西宮祖母逝去(ちなみに2014年7月28日は友引。次項の「葬儀」の日にちへの影響を考慮)。
 7月29日(火) 西宮祖母の葬儀。[将也がいつもの橋へ行くので火曜日。仲間との決裂の一週間後と推測]
  ?? 将也と硝子、養老天命反転地へ。
  ?? 将也、硝子、結絃、映画へ。
 8月5日(火) 将也、硝子・結絃が通う手話教室へ。[手話教室は毎週火曜日。ただし別な曜日にもおこなわれている可能性も捨てきれない]
 8月6日(水)*西宮八重子、誕生日をふたりの娘と将也に祝われる。[前項の翌日]
 8月12日(火)$花火大会。将也が硝子を救う。[※5]【ほぼ新月(画面に月が描かれていないのでそう推測)】
  ?? 植野、硝子をなじる。[※6]
  ?? 硝子、仲間たちに順番に会いに行く。[※7]
 8月26日(火)$ 将也が目を覚ます。[※8]【ほぼ満月(川面に映った像から判断)】
 9月?日 結絃、学校へ行きはじめる。
 9月?日 将也、退院。[もしかすると8月末に退院かもしれない]
  同日その後 植野、将也に「落ちたとき助けたのは島田たち」と明かす。
 9月?日 結絃、将也に勉強を教えてもらう。[将也の部屋の壁掛けカレンダーが9月]
 その翌日 東地高校の学園祭。

 ★1 ★2 このふたつのシーンを「月齢の辻褄」の根拠としました。
 *を付しているのは推測の日付です。ただし前後関係を考えると、大きくはずれることはないでしょう。下記「月があらわすもの」を参照。
 $を付したのも推定の日付ですが、物語上の時点というだけでなく作品の表現にかかわる重要な日です。
 ※1 切符を買うときに将也の手持ちの金額が少なかった。つまり用意なく出かけたとわかるので、川井に聞いた当日だと判断。
 ※2 将也が歩いている道に「浅固橋」との標識あり。太陽女子学園駅の次が浅古川駅であることが券売機のシーンで確認できるの で、硝子・佐原と離れたあと(「トイレへ行く」を口実に)と判断。
 ※3 将也が通う東地高校は土曜日は半ドンらしい。教室に掲示された時間割で確認できる。
 ※4 その朝、結絃が将也にメールを送ったとき、スマホの日付表示は「5月12日(火)」だが、これは設定ミスと思われる。カレンダーなどで確認できる日付との整合性をとれば「5月13日(火)」が妥当。
 ※5 八重子の誕生日に、結絃が「次の火曜日、花火大会」と言っていた。
 ※6 ※7 植野、川井、真柴、永束が制服を着ており、新学期がはじまっている(つまり9月)の可能性もあるが、彼らは三年生なので夏期講習とも考えられる。とくに東地高校は進学校らしいので。とりあえず、将也が目を覚ましたのが8月26日と決め(下記)、その前の日付としておく。
 ※8 作中に「もうすぐ火曜日が終わる」とあり、ほぼ満月であることから「月齢の辻褄」に合致する日付とした8月26日と推測。その先の9月の満月と考えることもできるが、それに合致するのは9月24日ごろ。事故は夏休み中であり、1カ月以上も眠っていると足の筋肉が衰えて橋まで歩くのが困難になりそう。また、植野がずっと看病しており、さすがに学校がはじまってからだと毎日来るのは大変なので。ちなみに原作では「落ちてから2週間」とあり、これとも整合する。

月があらわすもの

 カレンダーを2014年のものにしたのは原作(こちらは前述したように2008年ですが)と曜日を合わせるためと納得いきますが、では、なぜ実際の月齢に合わせなかったのでしょうか? 先述したように、京都アニメーションが恣意的にしているとは思えません。
 ふつうに考えると、演出的な事情――つまり、そのシーンで表現される内容と月の形象をマッチさせるため――でしょうね。
 上掲のタイムラインで「月齢の辻褄」の根拠としたうちのひとつ、5月13日の三日月ですが、これ原作では三日月ではなくて丸い月でした。これをアニメで三日月に変更したのは、将也が手話で示す「月」が三日月をかたどっているからでしょう。つまり、イメージを合わせている。さらにいえば、将也と硝子との関係はまだはじまったばかりで、これから「満ちていく」というニュアンスがあるかもしれません。こういうことをあまり深読みするのはヤボなので「そんな印象をなんとなく観る者に与える」くらいに考えておきましょう。
 それ以上に重要なのが、病院で将也が目を覚ます日の満月です。上掲のタイムラインでは8月26日と推測しました。この満月は、物語的な意味として考えれば、将也と硝子の気持ちがようやく本当に通じあった(=満ちた)イメージでしょうる。先ほどの三日月とうまく対照している。
 しかし、それにもまして映像として、満月の光が必要だったように思います。ふたりが橋の上で出会うシーンは、真夜中なのに柔らかい光に包みこまれている。あのなんとなく夢のなかにいる雰囲気は、月の光ならではです。
 それを踏まえて、花火大会の日は新月だったんじゃないかと考えました。あくまで憶測です。上掲タイムラインではいちおう矛盾がないことを確認しましたが、断言はできない。ただ、月のない夜空に鮮やかな花火が咲き誇る、その闇と光のコントラストがあのシーン――登場人物の気持ちは死へ向かうのに映像としてはむしろ生の充実をイメージさせる――にはふさわしいと思います。それについては、このコラムの前回[2]「イメージの共鳴」でもふれました。

附記

ちなみに、原作のタイムラインについては、すでに詳しく考察なさっているかたがいらっしゃいます。こちらのサイト(http://koenokatachi.seesaa.net/article/395146319.html)。
 これを参考にさせていただき、作中(マンガ『聲の形』)に描かれた月と実際の月齢とを比較したところ、面白いことがわかりました。先述したように、原作では将也が高校三年になったのが2008年です(曜日が合致する)。ところが月の描写は、この年の実際の月齢とは合っていません。といっても、原作で月が描かれている場面は次の二箇所くらいなのですが(†3)。具体的にいうとこんなふうです。

5月5日(月) 将也と永束が結絃を銭湯へ連れていく(アニメにない場面) 作中「満月」 実際「新月」
6月3日(火) 硝子の伝わらない告白(アニメとは日にちが異なっている) 作中「満月」 実際「ほぼ新月」

というわけで、原作でも月齢が14~15日ずれています。作中のカレンダー(曜日)は2008年ですが、月齢は2012年のものが合致します。つまり、偶然か意図的かはわかりませんが、原作とアニメで同じような「カレンダー/月齢」の操作がおこなわれているのです。

 †3 逆にみれば、アニメはそれだけ意識的に月の描写を加えているわけです。『映画 聲の形』のなかで「鯉」に次ぐ重要なモチーフかもしれません。

(牧眞司)

©大今良時/講談社


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小説 映画 聲の形

川崎 美羽/吉田 玲子(著)
講談社



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聲の形 1卷

大今 良時(著)
講談社
週刊少年マガジン



 

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