Interview

『ガンダム』『プロメア』『銀英伝』…世界が注目する作曲家・澤野弘之、上海の1万人級ライブ成功を経て描く次のビジョンとは?

『ガンダム』『プロメア』『銀英伝』…世界が注目する作曲家・澤野弘之、上海の1万人級ライブ成功を経て描く次のビジョンとは?

アニメ、映画、ドラマなどの劇伴を中心に活躍する澤野弘之のボーカルプロジェクト“SawanoHiroyuki[nZk](サワノヒロユキヌジーク)”が、ニューシングル「Tranquility/Trollz」をリリースした。

現在イベント上映中のアニメ『銀河英雄伝説 Die Neue These』セカンドシーズン「星乱」EDテーマとして制作された「Tranquility」は、ゲストボーカルにシンガーソングライターのAnlyを迎えた壮大なバラードナンバー。もうひとつの表題曲「Trollz」には、アニメ『進撃の巨人』、映画『プロメア』でも澤野とタッグを組んだ女性ボーカリスト、Lacoが参加し、最新の[nZk]サウンドを体現した楽曲に仕上がっている。

今回のインタビューでは、ニューシングルの制作を軸にしながら、ライブに対するスタンスから今後の音楽的なビジョンを含め、現在の[nZk]のモードについて澤野自身にじっくりと語ってもらった。

取材・文 / 森 朋之


海外でのライブはやりたいんですけど、飛行機があまり得意じゃないんです(笑)

ニューシングルの話の前に、ここ最近出演されたライブイベントについて聞かせてください。まずは9月7日、8日に開催された、ガンダム40周年を記念した「GUNDAM 40th FES.”LIVE-BEYOND”」。T.M.Revolution(西川貴教)との共演も話題を集めました。

澤野弘之 西川さんには[nZk]の3rdアルバム『R∃/MEMBER』にも参加していただいて、ライブに出てもらったこともあって。ガンダムの40周年イベントで、また西川さんと共演できたこともすごく光栄でしたね。観客を魅了する西川さんの存在感、歌のすごさを改めて実感したし、自分が同じステージに立っていることに違和感を覚えるくらいでした(笑)。

ライブ前、西川さんとはどんな話をしていたんですか?

澤野 打ち合わせは事前にやっていたんですよ。僕が西川さんのリハ現場におじゃまして、いろいろと確認して。なので当日はリラックスして、楽しくやらせてもらいましたね。

GUNDAM 40th FES “LIVE-BEYOND”」レポートはこちら
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2019.09.12

そして9月14日には、「SawanoHiroyuki LIVE[nZk] in Shanghai 2019」を開催。上海でのライブは2度目ですよね?

澤野 はい。前回(2018年12月)は2000人規模の会場だったんですよ。「どんな感じなんだろうな?」とリラックスして臨めたし、実際、楽しんで演奏できた印象があって。

今回は規模感がかなり大きかったこともあって(1万人超を集客、上海・メルセデスベンツアリーナ)、演奏していて、緊張感から力んでしまう瞬間もあったんです。観客のみなさんの歓声、応援もすごくて、感極まる瞬間もあって。ライブの経験はまだ少ないし、偉そうなことは言えないですけど、ボーカリストのパフォーマンスだったり、ミュージシャンとの絡みのなかで気づくこともたくさんあるし、「お客さんと一緒に楽しめるライブをやりたい」という気持ちも強くなってますね。こちらがしっかり向かい合うことで、お客さんの反応も変わってくるので。

今後も海外のライブは続けていきたい、と?

澤野 もちろんライブ自体はやりたいんですけど、飛行機があまり得意じゃないんですよ(笑)。億劫になりそうなこともあるんですけど、実際に行ってみて感じることもあるし、機会があればやりたいですけどね。今回の上海公演は、ちょっと街並みを楽しむ時間もあったし。

ふだんとは違う風景を見ることで、創作にヒントになることもあるんですか?

澤野 創作のヒントで僕が刺激を受けるのは、やっぱり音楽からが多いんですよ。主に海外の音楽ですけど、いいなと感じれば、それを自分のフィルターを通して表現してみようと思うので。あとはお客さんの反応ですよね。「こういう表情をもっと見たい」とか「一緒に声を上げられる曲を作りたい」とか。街の景色からインスパイアされることはないかな……。そもそも、観光自体にそれほど興味がないんですよ(笑)。でも、上海の近未来的な街並みは好きですね。ちょっとサイバー感があって、SF映画の世界にも近くて。ああいう雰囲気はテンションが上がります。

Anlyさんのアルバムを聴いて、いつかご一緒したいと思っていたんです

では、ニューシングル「Tranquility/Trollz」について伺います。「Tranquility」は、現在イベント上映中の『銀河英雄伝説 Die Neue These』セカンドシーズン「星乱」のEDテーマ。澤野さんが同シリーズの楽曲を手がけるのは、Uruさんをボーカリストに迎えた「Binary Star」(アニメ『銀河英雄伝説 Die Neue These 邂逅』OPテーマ)に続き2曲目ですね。

澤野 はい。「Binary Star」のときは、(アニメ側から)いくつか要望があったんです。英語詞のバラードで、ストリングスをフィーチャーしてほしいということだったので、それを軸にして楽曲を制作して。今回の「Tranquility」は、「銀河英雄伝説」のイメージを共有しつつ、バンドサウンドと打ち込みで壮大な世界観を表現していて。いい意味で前作と対になっていると思いますね。

バンドサウンドと打ち込みの融合は[nZk]の基本的なスタイルだと思いますが、サウンドメイクのバランスは時期によって変化しているんですか?

澤野 そうですね。海外のシーンはEDMを中心に打ち込みが主流になっているし、僕自身も素直に「カッコいい」と感じていて。[nZk]の曲も少しずつ打ち込みの要素が強くなってますね。生ドラムのキックとスネアに打ち込みの色を加えたり、バランスはケース・バイ・ケースなんですけど。「Tranquility」に関しては、ロックバラードにしたいという気持ちもあったので、サビにディストーション・ギターを使ったりもしてますね。

ゲストボーカルのAnlyさんとは、今回が初コラボですよね。

澤野 以前、たまたまお会いしたことがあったんですよ。Anlyさんが、アニメ『七つの大罪 戒めの復活』のEDテーマ(「Beautiful」)を担当されていて、打ち上げの席で話をする機会があって。そのときにAnlyさんからアルバムをいただいたんですが、聴いてみたら、洋楽的なアプローチの曲がすごくいいなと。

いつかご一緒したいなと思ってたんですが、「Tranquility」のボーカリストの候補のなかに彼女の名前もあったので、「ぜひ」という感じでお願いしました。彼女のセンスを[nZk]に持ち込んでほしかったし、英語詞の歌い方だったり、彼女なりに考えてアプローチしてくれたのも良かったですね。

英語詞に対するアプローチというのは、単に発音の問題ではないんですよね……?

澤野 そうですね。僕自身も英語は話せないし、ネイティブの発音が重要だとは思っていなくて。英語の歌詞をどうカッコ良く歌ってくれるかが大事なんですよね、自分にとっては。基本的には言葉の響きですよね。

Anlyさんはライブでレッチリ(RED HOT CHILI PEPPERS)やアヴィーチーのカバーもやっていて、それもすごくいいんですよ。その要素を入れてほしいという気持ちもありましたね。

自分の楽曲に力を与えてくれるボーカリストに歌ってほしい

『銀河英雄伝説 Die Neue These 星乱』第二章より

「Binary Star」は“二つの星が引き合う”というテーマがあったそうですが、「Tranquility」の歌詞はどんなコンセプトで制作されたんでしょうか?

澤野 そこはもう、作詞してくれたBenjamin & mpiに「お願いします!」と(笑)。「Binary Star」の歌詞も書いてもらってるし、『銀英伝』の世界観もわかっているので、その流れを汲んでエンディングに合う内容にしてもらえたらなと。

歌詞の内容自体は二の次なんですよ。メロディに対してどういう響きの言葉がハマッているかが大事なので。後になって「こういうことを歌っていたのか」と気づくこともありますね(笑)。

スペースオペラ的な作品にも興味がある?

澤野 そうですね。「Binary Star」を制作しているときは、映画『アルマゲドン』の主題歌(エアロスミス「I Don’t Want to Miss a Thing」)のイメージもあったんですよ。『ブレードランナー』で描かれているような未来の都市も好きですね。ストーリーというより、映像の世界観に興味があるというか。

あとは子供の頃に観ていた『宇宙刑事ギャバン』『宇宙刑事シャリバン』の印象もいまだに残ってるかも。グッズとか見つけると買っちゃうんです(笑)。

『銀河英雄伝説 Die Neue These 星乱』第二章より

もうひとつの表題曲「Trollz」は、エキゾチックな音像、グルーヴのあるトラックが印象的なナンバーです。

澤野 「Tranquility」は、あくまでも『銀英伝』ありきで制作した曲ですが、「Trollz」は、いま[nZk]として作りたい曲なんですよね。ダブルA面のシングルにしたのは、両方とも打ち出したかったからなんです。「Tranquility」にはAnlyさんに参加してもらっているし、コラボレーションをメインにしたアルバム『Rヨ/MEMBER』の流れもあって。「Trollz」は自分が作りたいサウンドを追求した曲だから、どちらも重要なんです。

「Trollz」の制作において意識していたのは?

澤野 サウンドのことでいうと、シンセの音色だったり、ループさせているシーケンスですね。3連のリズムの曲も久々だし、それが良いグルーヴになればと思いながら制作しました。あとはサビにエレキギターを入れて、強弱をはっきり打ち出していて。歌詞に関しては、作詞の2人(Benjamin & mpi)に「こういう内容で書いてほしい」とお願いしてます。世間のことだったり、自分自身の状況もそうですけど、怒りながらも、それを前向きな気持ちに変えて進んでいきたいというコンセプトですね。

なるほど。この曲のシンガーはLacoさんです。

澤野 [nZk]で歌ってもらったのは初めてなんですが、これまでにも『進撃の巨人』や『プロメア』のサウンドトラックには参加してもらっていて。Lacoさんの歌声にはずっと驚かされてきたので、ぜひ[nZk]の曲でも歌ってほしかったんですよね。

今回のレコーディングでも、こちらからは何も言うことがなかったし、「すごい!」という存在感でした。重要なのはやっぱり歌声ですね。これは個人的な考え方かもしれないけど、歌う人の声によって、曲の聴こえ方は大きく変わると思うんです。クールなサウンドでも、可愛らしい声の人が歌ったら、曲自体もそういうイメージになるというか。声の影響はすごく大きいし、「自分の楽曲に力を与えてくれるボーカリストに歌ってほしい」というのはずっとありますね。

マニアックに聴こえているかもしれないけど、自分が好きなポップスを追求したいんです

このシングルによって、『Rヨ/MEMBER』以降のタームに入っていくことになりそうですか?

澤野 さっきも言いましたが、前回のアルバムはコラボをメインとした企画作品だったと思っていて。勿論たくさんの刺激を受けましたし今後も機会があればトライしたいと思いますが、本来のnZkプロジェクトの意味として自分の作りたいサウンドを追求したいし、それに必要なボーカリストに歌ってほしいなと。原点回帰に近いところもあるし、いい意味で実験しながら、次にいきたいですね。

[nZk]としてのサウンドの追求と、ポップミュージックであることのバランスはどう取ってるんですか?

澤野 元々僕はエンターテインメントとしての音楽が好きだし、いま聴いているのも、アメリカのチャートに入っているものが中心なんですよ。そこから刺激を受けて曲を作ることが多いんですけど、それが日本のポップスにハマっているかと言えば、よくわからなくなる瞬間もあって。もしかしたらマニアックに聴こえているかもしれないけど、やっぱり自分が好きなポップスを追求したいんですよね。そのうえで、傲慢にならず、客観的な視点を持ちながら作品を出していきたいと思ってます。

イベント上映作品『銀河英雄伝説 Die Neue These 星乱』

第一章 2019年9月27日(金)~
第二章 2019年10月25日(金)~
第三章 2019年11月29日(金)~
各章3週間限定劇場上映

©田中芳樹/松竹・Production I.G

澤野弘之オフィシャルサイト
SawanoHiroyuki[nZk] オフィシャルサイト