佐藤剛の「会った、聴いた、読んだ」  vol. 113

Column

ポリスが初来日した中野サンプラザ公演のリハーサルで、メンバー3人の圧倒的な実力を目の当たりにした日の苦い記憶

ポリスが初来日した中野サンプラザ公演のリハーサルで、メンバー3人の圧倒的な実力を目の当たりにした日の苦い記憶

1980年に初来日したポリスは、2月14日に中野サンプラザで初日のライブを行った。

2枚目のアルバム『白いレッガタ』がブレイクし、シングルの「孤独のメッセージ(Message in a bottle)」が世界中でヒットしたのは前の年だった。

そんな彼らが初めてのワールドツアーを行うというので注目度も高く、これ以上はないというくらいにタイムリーな来日となった。
バンドとしては一番勢いのある時であり、まさにもっとも”旬”なバンドだったのである。

ぼくは『白いレッガタ』を聴いて、これまでにない音楽の新しさを感じていたので、もちろんライブを観たいと思っていた。

だがそれ以上に関心が向いたのは、わずか3人のメンバーだけなのに、ほんとうにアルバムのサウンドをライブで再現できるのか、というところであった。

するとなんという幸運か、ぼくは日本側のスタッフでPAエンジニアだった友人の好意で、リハーサルが始まる前から音響のチームの一員として、会場内に入れてもらうことができたのである。
そこでなるべく目立たないように観客席に身を沈めて、ポリスのメンバー3人の一挙手一投足を観察することにした。

最初に驚かされたのはメンバーとスタッフの全員を合わせても、5人しか来日していないという、ワールドツアーとは思えない、そのミニマムな体制であった。

メンバー3人に楽器を担当するローディーが1名、それにマネージャーしか来ていないというのだ。
それでツアーをしてきて世界を熱狂させているというのだから、ますます興味が湧いてきた。

いざ、リハーサルが始まってからの動きを見ていると、3人のメンバーの楽器のみならず、ステージ上のモニターの音作りから客席用のサウンドに至るまで、ローディーが自分の守備範囲として普通に、自然体で仕事をしていた。
彼だけでも優に4人分の仕事をこなしていたのではないか。

もちろん、メンバーたちもできることは自分で黙々と準備していた。
「鍛え抜かれているし、しかもプロに徹している!」と、この段階ですっかり感心してしまった。

そしてモニターが決まって各人の音が出始めると、メンバーもまた2人ないし3人のミュージシャンになっていった。
ステージ上には楽器とアンプしかないのに、6人分くらいの音として聴こえてきたのだ。

やがて演奏に集中し始めると、緊張感が張り詰めた独特のサウンドが構 築されるにつれて、そこからとてつもなく強力なグルーヴがうねり始めていく。

そこにスティングの高い声のヴォーカルが入った瞬間に、レコードと変わらないか、それ以上の迫力で、ポリスの世界ができ上がっていた。

その一部始終を観察しているうちに、どんなに努力を重ねても日本のバンドでは、彼らと並ぶことさえできないだろうと思った。
いくら真似をして追いかけてみたところで、骨格から基礎体力に至るまであまりに違いすぎるのだ。

とうてい叶うはずがない、差が歴然としていることを痛感した。

これからは違うアプローチを見出していかない限り、日本のロックに未来はないと考えざるを得なかった。

ぼくはその日、リハーサルの2時間を集中して観察したことで、自分の全神経と感性を使い果たしたようだった。

その後の本番も素晴らしい演奏だったと思うのだが、その印象はほとんど何も覚えていない。

いずれにせよその日をもって、ビートルズやローリング・ストーンズと出会えたことから始まった、音楽におけるぼくの⻘春時代が終わってしまったのだ。

もう夢や憧れだけではやっていけないことを知らされた、実に苦い記憶である。

ポリスの楽曲はこちら

著者プロフィール:佐藤剛

1952年岩手県盛岡市生まれ、宮城県仙台市育ち。明治大学卒業後、音楽業界誌『ミュージック・ラボ』の編集と営業に携わる。
シンコー・ミュージックを経て、プロデューサーとして独立。数多くのアーティストの作品やコンサートをてがける。
久世光彦のエッセイを舞台化した「マイ・ラスト・ソング」では、構成と演出を担当。
2015年、NPO法人ミュージックソムリエ協会会長。現在は顧問。
著書にはノンフィクション『上を向いて歩こう』(岩波書店、小学館文庫)、『黄昏のビギンの物語』(小学館新書)、『美輪明宏と「ヨイトマケの唄」~天才たちはいかにして出会ったのか』(文藝春秋)、『ウェルカム!ビートルズ』(リットーミュージック)

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