Interview

果歩 20歳のシンガーソングライターは自身の実体験を描きながら、なぜ客観的であろうとするのか?

果歩 20歳のシンガーソングライターは自身の実体験を描きながら、なぜ客観的であろうとするのか?

新潟出身、この10月で20歳になるシンガーソングライターだ。高校時代に様々なメディアやコンテストで注目され、高校を卒業した昨年春に上京し、活動を本格化させた。今年2月に初流通となるシングル「光の街」をリリースし、今回の5曲入りEP『水色の備忘録』ではアレンジャーに會田茂一と中村圭作のユニットmulletや丸山漠(a crowd of rebellion)を迎え、独自の詞世界にサウンド的な広がりを加えた。
ここでは、今回の作品のベースにもなっているこれまでの音楽に関わる記憶を振り返ってもらい、音楽を通して彼女が何を感じ、何を表現しようとしているのかについて語ってもらった。

取材・文 / 兼田達矢 撮影 / 高木博史


テレビに出てるYUIさんやmiwaさんを見て、とりあえずギターを持って歌ってみようと思ったんです。

音楽活動はどんなふうに始めたんですか。

保育園とか小学校の卒業のタイミングで、将来の夢を書くことがあるじゃないですか。そこに、どうしてだかわからないですけど、ずっと「歌手」と書いてたんですよね(笑)。多分、歌が好きだったんだと思うんですけど、ずっと歌手しかなりたいものがなくて、“どうやったら歌手になれるんだろう?”と考えた時に、テレビに出てるYUIさんやmiwaさんを見て、とりあえずギターを持って歌ってみようと思ったんです。それで、中学2年生の時にギター教室に通い始めて、ギターが弾けるようになってきたら高校1年生の時に“次はライブかなあ”と思って、近所のライブハウスに電話して高校生イベントに出させていただきました。

果歩 エンタメステーションインタビュー

最初の記憶については「多分、歌が好きだったんだと思うんですけど」という感じなんですか。例えば「子供の頃は歌ばかり歌ってました」みたいに話してくれる人が多いですが。

特に何か憶えてることがあるわけじゃないんですけど、どうも歌手になりたかったぽいんですよね(笑)。

歳を重ねていくなかで、他のことに興味が向かうことはなかったですか。

一瞬だけ、保健室の先生になりたかった時期があったんですけど、やっぱり歌手だなと思って、それがずっと続いていきました。

“やっぱり歌手だな”と思ったのは、どういう場面だったですか。

どうだろう? やっぱりテレビに出て歌を歌ってる人への憧れはあったのかもしれないですね。音楽は好きだったんです。クルマに乗ってる時にお母さんが流してる曲を、一緒になってずっと歌ったりはしてましたから、やっぱり歌が好き、というのはあったかもしれないです。

歌手になろうとずっと思っていたとすると、周りの人が歌うのを聴いて、自分の歌と比べるというか、自分の歌がどの程度のものなのか気にしたりはしなかったですか。

新潟にいた頃は、ライブハウスに出ても、同年代の弾き語りの女の子があまりいなくて、対バンするのもバンドでも弾き語りの人でもちょっと年上の人ばかりだったので、人と比べるということはほとんどなかったですね。東京に来ると、同年代の女の子がいっぱいいるので、“私の歌はどうなのかな?”とか“私が作ってる曲って、意外と普通なのかな?”とか、思うことはありますね。

では、ライブハウスで歌い始めた頃は、特に自信を持つこともなく、逆にすごく落ち込むこともなく、という感じだったんですか。

そうですね。ただ、ライブで歌ってる、という感じでした。

多分、私は歌を聴く時にまず聴いてるのが歌詞なんだと思うんです。だから、作る時もそこから始めたのかなあという気がします。

オリジナルの曲を作ることは、どのタイミングで、どんなふうに始めたんですか。

高校生になってライブに出たいなと思った時に、自分の曲がないとダメかなと思ったんで、そのタイミングでとりあえず自分なりに作ってみたんです。そしたら、けっこういい感じにできたんですよ(笑)。それでギター教室の先生に聴いてもらったんですけど、先生が「いいよ」と言ってくれたので、“こういうふうに何曲か作ってライブに出よう”と思いました。

作り方は、どういうふうに作っていったんですか。

どうだったかなあ…。今もそうなんですけど、多分、歌詞先行だったと思います。歌詞をまず書いて、それに合わせてギターを鳴らしていく、っていう。

「自分なりに作ってみた」と言われましたが、当時は“曲を作るとなるとまず歌詞を書くものだ”と思っていたんでしょうか。

多分、私は歌を聴く時にまず聴いてるのが歌詞なんだと思うんです。だから、作る時もそこから始めたのかなあという気がします。

果歩 エンタメステーションインタビュー

その最初に作った歌は、今も歌ってるんですか。

(笑)、歌ってないです。すごくカワイイ感じの曲で、若かったなあと思いますね。

どんな歌詞の内容だったんですか。

学生が登校してて、爽やかなイケメンに恋する、みたいな(笑)。

今回の新作に収められている「彼女たちの備忘録」という曲は、セルフライナーによると、果歩さんと幼馴染のことを書いた曲だそうですが、でも歌詞では♪彼女たち♪と歌ってますよね。その最初の曲で、通学途中にイケメンに恋する女子高生は“私”ですか。“彼女”ですか。

“彼女”ですね。

その“彼女”は完全に想像上の存在ですか。それとも、自分を反映させた存在ですか。

その最初の曲は、完全に想像で作ったんです。それでも、そこには私の気持ちも入っていると思うから難しいけど、言ってみればハーフな存在でしょうか(笑)。

(笑)。今、世の中に流れているJ-POPの多くは、歌っている人が自分のことを書いた曲が多いし、たいていの場合、見よう見まねで作り始める人は自分のことを書くんですが、果歩さんはどうして想像で書いたんでしょう?

高校生の時の曲はほとんど想像で作ってたんですけど、私は女子校だったんですよ。だからというか、恋したいけどできない、みたいな感じだったから、少女マンガを見たり他の人の曲を聴いて、こういう気持ちになるんだなって想像を膨らませて、そこから物語を作って曲にする、ということが多かったんですよね。

当時の一番ホットなテーマは恋愛だったけど、恋愛は夢の中の話だったから、想像で作るしかなかった、と。ただ、例えば女子校には女子同士の心理的な葛藤とか、そういうことがあると聞きますが、そういう実際の暮らしの中のリアルな出来事を書くことには興味は向かなかったですか。

私の学校にはけっこうお嬢様という感じの人が多くて、でも私はライブハウスに行ってるし、校則を破ってピアスを開けたりしてるし髪も染めてるし(笑)、みたいなタイプだったので、それであまり良く思われていなかったりもしたので、そういうことも高校生活の最後の頃には、そういうことも書くようになっていきました。だから、恋愛の曲はほとんど想像ですけど、例えば「サヨナラブルー」という曲があって、それは“もう高校卒業だし、自分の気持ちを書いちゃえ!”と思って書いた曲ですね。

曲を作るようになったら、“自分っていうのはこういう人間なんだな”というのがちょっとわかったような気がしています。

曲をいろいろ作っていくなかで気づいたこととか、曲を作ることを通して考えたことは何かありますか。

自分って、けっこうネクラだなと思いました(笑)。曲を作ってると、けっこうマイナスなことを書いちゃうことが多いんです。世の中に対して、けっこう不満を持ってるんだなとも思ったし。

果歩さんにとっての曲作りは自分の気づかない部分を発見する作業でもあるんですか。

そうですね。私は、物事にあまり興味がないんです。自分にも興味がなくて。だから、自分のことも全然知らなかったんですけど、曲を作るようになったら、“自分っていうのはこういう人間なんだな”というのがちょっとわかったような気がしています。

何事にも興味がないと思っていたけど、でも歌手になってテレビに出るということには興味があったんですね。

そうなんですよ(笑)。それも、自分では意識していなかったけど、でもこうやってずっと続けているということは、本当に好きなことなんだなって、あらためて思いますね。

果歩 エンタメステーションインタビュー

少し話を戻しますが、オリジナル曲を用意して初めてライブハウスで歌った時のことは、どんな体験だったんですか。

すごく楽しかったことしか憶えてなくて、“みんな、すごい笑顔で、楽しそうだった!”みたいなハッピーな記憶しかないんです。最初がそういう楽しい記憶しかないから、続けられているのかなと思います。

歌と演奏は上手くやれたんですか。

それもあまり憶えてないんですけど、楽しかったという記憶しかないから、仮に間違ったりしてても気にならなかったんじゃないかと思います。

東京に出てくることは、“ギターを弾けるようになったら、次はライブハウス”みたいに、歌手になってテレビに出るという目標に向けて上っていく階段の一つという感じだったんですか。

どうなんでしょう…? 中学の頃から、“大学生になったら絶対に東京に出よう”と思ってたので、音楽とは関係なしに、東京には出たかったんだと思います。やっぱり新潟にずっといても刺激がないし、新しいことはいっぱいしたいと思ってましたから。

果歩 エンタメステーションインタビュー

2月にリリースしたシングルの表題曲「光の街」で歌われているのは、それこそ東京という街についてだと思いますが、実際に東京に出てきてどんなことを思いましたか。

いろんな人がいるなあと思いました。電車に乗って見てると、本当にいろんな人がいるし、ライブハウスでもいろんな人に出会うから、それで大人になった気がします。

そういうふうに世界が広がっていくことは、曲を書くことに反映されていますか。

東京に来てからは実体験ばかり書くようになったので、やっぱりそういう体験の一つ一つにめちゃくちゃ影響を受けているということだと思います。

実体験ばかり書くようになったのは、そうしようと思ったんですか。それとも、自然とそうなったんですか。

自然と、ですね。前は刺激が無かったから想像で書くしかなかったけど、今はいろんな人と出会って、いろんな経験をできるから、本当に自分の気持ちを書けるというか、想像だけでは届かなかったところまで書けるようになったから、それが今は本当に楽しいですね。

その歌の主人公が自分であったとしても、客観的に見たいという気持ちはちょっとあるかもしれないですね。

さて、今回の新作の話なんですが、制作はどういうふうに進んだんですか。

「光の街」を作り始める時に、秋くらいにもう一つ出そうということは決めてて、そこに入れる曲を決めたのが春頃かな。その時点で「ぷりん」と「テトラポットとオレンジ」は入れようと思ってたんですけど、他の3曲については新たに作ったり、前からある曲のなかから選んだりして決めました。

収録曲がこの5曲になったのは、作品全体について何かイメージがあったんでしょうか。

このCDが10代最後の作品になるから、そこで新しいこともしたいなということで、アレンジの人とかみんなで相談してこうなりました。

「ぷりん」と「テトラポットとオレンジ」を、果歩さんがぜひ入れたいと思っていたのはどういう気持ちだったんですか。

「ぷりん」は高校生の時に書いたんですけど、ずっとライブでやってる曲で、いろんな人が好きだと言ってくれたので、いつか音源にしようと思ってたんですけど、それをやるのはこのタイミングかなと思いました。「テトラポットとオレンジ」は去年の冬くらいから歌ってる曲で、作った時点でもう“これは、いい曲ができた!”と思った曲なので、絶対入れたかったんです。

「テトラポットとオレンジ」のどのあたりが、他の曲とは違って“いい曲だ!”と思わせたんでしょう?

「光の街」ができた時にも思ったんですが、サビ感がすごい曲ができると“これはいいんじゃないか!?”と感じますね。

この10月で20歳になるタイミングにリリースする作品ということになるわけですが、だからこれまでの20年間を振り返った内容を意識したんでしょうか。あるいは、むしろ20歳になる今を意識した感じですか。

「彼女たちの備忘録」が幼馴染とのことを書いた曲だということもあって大人になる過程の思い出を意識して作ったところはありますね。

手元の資料には、収録曲5曲についてそれぞれセルフライナーノーツが添えられていますが、その書きぶりも第三者的な印象です。自分の楽曲との距離感については、そういう間合いを意識しているんですか。

その歌の主人公が自分であったとしても、客観的に見たいという気持ちはちょっとあるかもしれないですね。本を読んでても、その物語に入り込んで読んでしまうことがあるじゃないですか。それと同じように私の曲を聴いてもらいたいと思うんですけど、そこで歌の主人公を私だと決めつけてしまうと、聴く人が入り込みにくいと思うんです。だから、作った私自身も客観的に曲を見て、“この主人公は私かもしれないし、聴いているあなたかもしれない”という感じがいいなと思っています。

果歩 エンタメステーションインタビュー

今作の1曲目「紀行日記」のセリフ部分に「“ずっと”なんてないと思ってた」というフレーズが出てくるし、「光の街」のカップリング曲「バンドガール・バンドボーイ」にも♪ずっとなんて信じてないけど♪という歌詞があります。一方で、ある事柄をずっと忘れないように書き留めておくのが備忘録ですが、果歩さん自身は「ずっと忘れない」ということは無いんだろうなと思ってるんでしょうか。

私が忘れやすいということもあるんですけど(笑)、例えば“こういう思い出があったなあ”と思ってても、時が経つとそれに装飾しちゃったりすることがあるじゃないですか。それも、本当の思い出を忘れていくのと同じようなことだと思うんです。だから、ずっと忘れないでいるということは多分無いんだろうなと思うんですよね。

「テトラポットとオレンジ」のサビでは、“僕”と“君”は2人で海に飛び込んで、“君”が「神話のお姫様みたいね」と笑うというシーンが歌われていますが、この2人はずっと一緒にいようとしているというか、永遠の世界へ飛び込んで行ったんですよね?

そうなんですよねえ。“ずっと”は無いと思うんですけど、それでも生きている限りは“ずっと”があったらいいなと思うこともあるんですよね。そういう時、生きてる感じがしますね(笑)。

『水色の備忘録』というタイトルについて、聞かせてください。今回の作品は20歳なるここまでの思い出をまとめた作品という話がありましたが、その色のイメージは水色なんですか。

私自身、青が好きで、書く曲も青っぽいなと思う曲がすごく多いんです。で、ここまでの成長過程を色で例えるとすると、青春の“ザ・青”という感じではなくて、もっと薄くて、水を足していけば消えてしまうような、フワッとした、ブヨっとしたなかで生きてきたなと思ったんです。それでも「存在してるよ」みたいな色が水色かなと思って、こうしました。

ここまでの人生が水色のイメージだとして、これからキャリアを積んでいく時間はどんな色になったらいいなと思いますか。

多分、そんなに濃い色にはならないような気がします。儚い感じで生きていきたいです。力強い感じよりも、儚くて消えそうな感じで生きたい、かな。そっちのほうがきれいな感じがするので。

その他の果歩の作品はこちらへ。

ライブ情報

『水色の備忘録』リリース記念ワンマンライブ

10月15日(火) 東京・下北沢SHELTER

『水色の備忘録』リリース記念ツアー

10月27日(日) 大阪・南堀江qupe
10月28日(月) 京都・京都MUSE
10月29日(火) 奈良・生駒RHEB GATE
10月30日(水) 愛知・名古屋sunset BLUE
11月29日(金) 新潟・新潟CLUB RIVERST

果歩

2015年8月、新潟を拠点にライブ活動開始。2017年5月には新潟の大型サーキットライブ“NIIGATA RAINBOW ROCK”に初出演。同月、崎山蒼志を見出したことで知られるAbemaTV「日村がゆくフォークソング大会」の第一回大会で優勝。2018年4月に上京し、下北沢や渋谷を中心に活動を始め、夏には未確認フェスティバル2018セミファイナルに出場。2019年2月、初流通となるシングル「光の街」をリリースした。

オフィシャルサイト
https://caho.futureartist.net