山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 69

Column

青春という衝撃、コンプレックスの力 / The Who

青春という衝撃、コンプレックスの力 / The Who

青春映画の金字塔ともいわれる「さらば青春の光」がデジタル・リマスター版で劇場公開中だ。
全編を彩る音楽はザ・フー。
1965年のデビュー以来、その卓越した演奏テクニック、過激なライヴ・パフォーマンス、ロック・オペラというジャンルさえ確立した壮大で深遠な詩世界、先進的なサウンドを駆使したアルバム作りは、それまでの音楽シーンの常識を次々に覆した。
それから半世紀。
13年ぶりのニュー・アルバム『WHO』のリリースを前に、山口洋がリスペクトと親愛を込めて書き下ろす。


編集部からのリクエスト。12月6日に13年ぶりのアルバム、その名も『WHO』がリリースされることに合わせてThe Whoをぜひ、と。新曲「Ball And Chain」を聞いたけれど、紛れもなく、時間をかけて、磨き上げられた、色褪せることのない、あのThe Who固有のサウンドだった。

話は40年前に遡る。

バンドを始めたばかりの16歳の僕が、The Whoの映像を初めて観たときの衝撃をどう伝えればいいだろう?

ライヴ・パフォーマンスがとんでもないって噂は聞いていたが、九州の片田舎に住んでいて、動いている姿を目撃することは不可能に近かった。

すでに60年代の彼らのアルバムはほとんど聴いていたし、『Live at Leeds』(1970年)で演奏力の高さも知っていたけれど、噂が語るところの行動の破茶滅茶さ(ギターやドラムセットを破壊するらしい)や、ライヴ・パフォーマンスの凄まじさは知るよしもなかった。

情報が乏しいほど、人はそれが知りたくなる。それゆえ、知ったときの衝撃も大きい。今になって思えば、この回り道は僕らの世代の特権だったのかも。確かに僕らは飢えていた。自分を衝き動かしてくれるものに。

偏差値の高い大学に行って、出世コースを歩むことになんの興味もなかった。The Whoの至言を借りるなら、まさに“Teenage Wasteland”。“10代という荒れ地”を僕も歩いているところだった。

たぶん1980年のことだったと思う。

僕は前年にHEATWAVEを結成して、高校2年生になっていた。

NHKはときどき「ヤング・ミュージック・ショー」という番組で海外のロックを紹介していた。動くロッカーを観ることができるのは九州ではほぼ、その番組だけ。僕はまばたきを惜しんで、光景を脳裏に焼きつけて、血肉にする。

ある土曜日の夕方。ブリティッシュ・ロッカーたちがチャリティーのため一堂に会した「カンボジア難民救済コンサート」が放映される。そこで僕はThe Whoを体験する。レコードではなく、映像として。

!!!!!!!!!!!!!

とんでもないものを観てしまった。すごすぎて、頭の芯まで痺れた。かつて観たことのない圧巻のステージ・パフォーマンス!!!!!

度肝を抜かれた。多感な時期のこころを丸ごと持っていかれた。僕はギタリストだったから、ピート・タウンゼントが風車のごとく腕を振り回してギターを弾き、ジャンプを決めまくる、その激しいアクションにハンマーで殴られたような衝撃を受けた。

その夜から僕はギターのストラップをできるだけ下げて、ジャンプの練習を開始した。

余談だけれど、初期のHEATWAVEはジャンプの数が売りだった(どうかと思うが)。もっといえば、バンドの名前もThe WhoがMartha and the Vandellasの「Love Is Like a Heat Wave」をカヴァーしていたことに由来する。オリジナルよりも、The Jamのカヴァーよりも、最初に聞いたのはThe Whoのヴァージョンだった。僕が生まれた年(1963年)のヒット曲だってところも気に入っていた。

話を戻す。

記憶が正しければ、その日「See Me, Feel Me」や「Baba O’Riley」、そして「Behind Blue Eyes」のような代表曲が放映された。

そのコンサートはキース・ムーン(1978年没)が亡くなった翌年に開催されたもので、ドラマーはケニー・ジョーンズが務めていた。

僕はどうしてもキース・ムーンが在籍していたThe Whoを映像で体験したくて、映画「The Kids Are Alright」(1979年)を観ることになる。

その映画をどこで観たのか。もう思い出せない。ただ、「Won’t Get Fooled Again」で使われたレーザー光線。ロジャー・ダルトリーがその中をシルエットで歩いてくる。そして、ロジャーの闇を切り裂くようなシャウトとともにピート・タウンゼントが鮮烈なロング・スライディングをする。そのシーンは10代に体験したロックンロールのハイライト。一生モノの一瞬だ。

キース・ムーンの演奏はこれまでの僕のドラムの概念をくつがえした。とにかく滅多やたらと叩きまくる。そしてハイハットはない。こんなドラム・スタイルがまかり通るのはキース・ムーンだけ。彼に憧れたドラマーを何人も知っているけれど、真似すると、ズンドコと音数が多いだけのダサい演奏にしかならないのに。

そのドラムと相まってジョン・エントウィッスルのこれまた滅多やたらと弾きまくるベース。ピートと違って、彼はステージで微動だにしない。でもフレーズは誰も真似できないくらい激しく、キレキレで音数が多い。この稀有なリズム隊にピートのアクションとシンプルなパワーコードが乗っかって、前代未聞、唯一無二のThe Whoのサウンドが生まれるのだった。

たたみかけるように、1979年「さらば青春の光」が公開される。ちょうどハイティーンだった僕には青春そのままの光景。僕は描かれたモッズにもロッカーズにもなれなかったけれど、The Whoが教えてくれたことは「コンプレックスを力に変えることができる」ってことだった。

想像だけれど、10代の荒れ地の中で、彼らはコンプレックスを音楽に乗せて力に変えたのだと思う。その力が海を越えて田舎の少年を奮い立たせる。

感謝しかない。

最後に、The Whoに興味をもった若いジェネレーションのために、僕を虜にした作品をいくつか紹介しておく。

作品として、一番好きなのは『Who’s Next』(1971年)。楽曲、演奏ともに非のうちどころがない。『四重人格 – Quadrophenia』(1973年)は言わずもがな。

映像作品は前述の「The Kids Are Alright 」(1979年)をお勧めする。

もうすぐ届けられる新譜。もちろん買いますとも。ストーンズと並んで、未だにバンドが現存していることにどれだけ励まされることか。

感謝を込めて、今を生きる。


THE WHO/ザ・フー

1965年にデビューした、ビートルズ、ローリング・ストーンズと並び称されることもある英国のロック・バンド。全盛期のメンバーは、ロジャー・ダルトリー (vo,harp)、ピート・タウンゼント (g,vo) 、 ジョン・エントウィッスル (b, vo) 、 キース・ムーン (ds, vo)。破壊的で圧倒的なステージ・パフォーマンスとは裏腹にピート・タウンゼントが書く深い世界観を内包した詩の世界、先進的な楽器やサウンドを積極的に取り入れた音楽性は、後の音楽シーンに大きな影響を与えた。

ローリング・ストーン誌の選ぶ「歴史上最も偉大な100組のアーティスト」において第29位。

ロジャー・ダルトリーが十代で結成したバンド、ザ・ディトゥアーズが前身。何度かのメンバーチェンジを経て、ジョン・エントウィッスル、ピート・タウンゼント、ダグ・サンダム(ds)が加入。1964年、同名のバンドがいたことでバンド名の変更を迫られ、ふざけた名前の中からダルトリーの一声で「ザ・フー」に。サンダムがバンドを脱退した後、あるライヴで突然ステージに上げられた少年(キース・ムーン)がドラムを壊すほど激しいプレイを見せ、メンバーに加入したことは有名。

65年、シングル「アイ・キャント・エクスプレイン」でデビュー。同年3rdシングル「マイ・ジェネレーション」が全英2位の大ヒットに。同名の1stアルバムも全英5位のヒットとなった。67年からはアメリカでの活動を本格化し、モンタレー・ポップ・フェスティバルにも出演。ギターを叩き壊しドラムセットを破壊する暴力的なパフォーマンスで衝撃を与える。69年、それまでのキャッチーな音楽性から一転、内省的で重厚なコンセプト・アルバム『トミー』を発表。続くコンサート・ツアーでロック・オペラというジャンルを確立する。同年ウッドストック・フェスティバルにも出演。70年にはライヴ・アルバム『ライヴ・アット・リーズ』を発表、高い評価を得る。

1971年発表の『フーズ・ネクスト』では、当時貴重なシンセサイザーを導入。ロックの可能性を拓く音楽性で、初の全英1位を記録。73年、ロック・オペラ第2弾『四重人格』を発表、全英2位を記録。この作品は後に映画『さらば青春の光』に発展し、4人のメンバーが製作総指揮を務めた(79年公開)。

商業的な成功の影で、メンバー間の衝突や薬物・アルコール依存は絶えることがなく、78年、キース・ムーンが薬物の大量摂取で逝去(32歳)。その後もさまざまなトラブルに見舞われながら解散、再結成を繰り返し、数々のチャリティ・コンサートにも出演。2001年グラミー賞特別功労賞を受賞。翌年、ジョン・エントウィッスルが薬物による心臓発作で急逝(57歳)。ロジャー・ダルトリーとピート・タウンゼントは何度も袂を分かちながらも新作『WHO』を制作、現在世界ツアー中。


『WHO』 
CD: UICP-1197/¥2,600(税抜)+税
ユニバーサル・ミュージックより2019年12月6日発売
日本盤のみSHM-CD仕様 *カセットテープやアナログ盤でも同時発売

13年ぶりのニュー・アルバム。2019年3月から8月にかけてロンドンとLAでレコーディングされた。ピート・タウンゼントとD.サーディ(ノエル・ギャラガー、オアシス等を手がける)の共同プロデュース。ジャケットは『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』のデザインで有名なサー・ピーター・ブレイク。ロジャー・ダルトリーいわく「1973年の『四重人格』以来最高のアルバムを作り上げたと思う。ピートは衰え知らずで今も素晴らしいソングライターであり、相変わらず斬新だ」。

詳しい情報はこちら

『LIVE AT LEEDS/ライヴ・アット・リーズ+8』
[SHM-CD]/CD:UICY-20006/¥1,885(税込)
ユニバーサル・ミュージックより発売中

1970年2月14日、英国リーズ大学での熱狂のステージを収録したロック史に残る名盤。エディ・コクランのダイナミックなカヴァー「サマータイム・ブルース」他、全14曲収録の拡大盤。

『WHO’S NEXT/フーズ・ネクスト』
 [MQA/UHQCD]/CD:UICY-40168/¥3,300(税込)
ユニバーサル・ミュージックより発売中

『トミー』に続く壮大なプロジェクト=『ライフハウス』構想から一転、コンパクトにまとめられたスタジオ5作目。「ババ・オライリィ」「ビハインド・ブルー・アイズ」「無法の世界」他、ライヴで発揮されていたドライヴ感をスタジオで再現することに成功した、ザ・フー最高傑作の呼び声も高い作品(1971年発表/2010年マスター)。

★英国オリジナル・アナログ・テープを基にした2010年DSDマスターを352.8 kHz/24bitに変換して収録(ハイレゾ未配信音源)★解説/歌詞・対訳付

『QUADROPHENIA/四重人格』
 [SHM-CD]/CD:UICY-20420/¥2,515(税込)
ユニバーサル・ミュージックより発売中

『フーズ・ネクスト』に続き、1973年に発表された2枚組コンセプト・アルバム。ピート・タウンゼントが全曲を手がけている。本作品を元にした映画『さらば青春の光』が1979年に公開され、モッズ・ブームを引き起こした。デジタル・リマスター版が10月現在劇場公開中。


著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。90年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』に収録された「満月の夕」は阪神・淡路大震災後に作られた楽曲で、多くのミュージシャン、幅広い世代に現在も歌い継がれている。“ミュージシャンズ・ミュージシャン”としてその名を挙げるアーティストも多岐にわたり、近年は野外フェスやR&Rイベントへの出演も多い。バンド結成40周年となる今年、これまで以上に精力的にライヴとレコーディングを行っており、9月23日開催のHEATWAVE SESSIONS 2019 “the boy 40”@東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGE会場では最新シングル「HEAVENLY」がリリースされた。11月からはHEATWAVE結成40周年全国ツアーがスタート。ファイナルは12月22日、東京 日本橋三井ホールに決定した。

オフィシャルサイト

ライブ情報

HEATWAVE 40th Anniversary Tour 2019
11月10日(日) 高松 オリーブホール Supported by RUFFHOUSE
11月16日(土) 長野 ネオンホール Supported by NEONHALL *SOLD OUT
11月17日(日) 仙台 CLUB JUNK BOX Supported by smoke / VORZ BAR / そば食堂やぶ信
12月6日(金) 福岡 Drum Be-1
12月13日(金) 大阪 バナナホール
12月22日(日) 東京 日本橋三井ホール
詳細はこちら

リクオ スペシャル・ライブ「グラデーション・ワールド」*ゲスト出演
11月26日(火)下北沢GARDEN
出演:リクオ with HOBO HOUSE BAND
ゲスト:古市コータロー(ザ・コレクターズ)/山口洋(HEATWAVE) ほか
詳細はこちら

SMILEY’S CONNECTION~ノイズホテル TOKYO~
12月8日(日)渋谷LOFT HEAVEN
出演:フルノイズ(from 福岡)、山口洋(HEATWAVE)、百々和宏 with有江嘉典
詳細はこちら

HEATWAVE OFFICIAL SHOP

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