Interview

上白石萌音 野田洋次郎への信頼とシンガーとして新たな境地で挑んだ映画『楽園』の主題歌について訊く

上白石萌音 野田洋次郎への信頼とシンガーとして新たな境地で挑んだ映画『楽園』の主題歌について訊く

野田洋次郎(RADWIMPS)が作詞・作曲・プロデュースを手掛けた上白石萌音の新曲「一縷」が10月14日(月・祝)に配信シングルとしてリリースされた。
社会現象になるほどの大ヒットとなったアニメーション映画『君の名は。』では上白石萌音がボイスキャストを務め、主題歌や劇伴などすべての映画音楽を野田洋次郎が手掛けていたが、楽曲提供は今回が初めて。また、「一縷」は綾野剛、杉咲花、佐藤浩市が出演する映画『楽園』の主題歌として書き下ろされたバラードで、上白石にとっては、自身が出演していない作品にシンガーとして参加する初めての曲にもなっている。女優として、シンガーとして、果たしてどんな姿勢で挑んだのだろうか。

取材・文 / 永堀アツオ


主題歌だけでの参加なので、また新たな挑戦だなというか、背負うものが大きかったです

まず、女優としてではなく、映画の主題歌を“シンガー”としてオファーされたことに関してはどう感じましたか?

驚きましたね。アーティストみたい! って思いました(笑)。やっぱり、演じる側としては主題歌はとっても大切なんです。撮影の時点で決まっている時は、その方の声を聴いて役を作ったり、お芝居をしますし、映画の最後を締めくくるという意味でも主題歌がとても大切だということは痛感しています。だからこそ、すごくプレッシャーがありましたね。出演している作品の場合は、現場でたくさん時間を過ごして、そこで感じたことをレコーディングで声に出せばいいんですけど、今回は主題歌だけでの参加なので、また新たな挑戦だなというか、背負うものが大きかったですね。

これまでにない挑戦に対して、どんなアプローチで臨みました?

ラッシュ段階の映像を、純粋に一視聴者として観て、そこで感じたことを大切にしようと思ったんです。そこから、どういう風景を思い浮かべて歌おうかなって考えました。あとは、(野田)洋次郎さんが送ってくださったデモ音源がほんっっとに素晴らしかったので、私はもう真っ白にこれを歌えばいいんだって思いました。プレッシャーや不安は曲の力や洋次郎さんの頼もしさが全て拭ってくれたような気がします。

今回、映画の主題歌を洋次郎さんが書くとなった時に、「萌音とやりたい」って言ってくださったみたいで

野田洋次郎の作詞作曲プロデュースに関してはどんな感想を抱きました? 楽曲提供は今回が初めてになります。

嬉しかったです。かつて、(アニメ映画『君の名は。』の主題歌である)「なんでもないや」をカバーさせていただいて、舞台挨拶で一緒に即興で歌わせていただいたことはあって。私自身もRADWIMPSさんの大ファンで、洋次郎さんが作る曲も大好きなので、いつか楽曲を描いていただける日が来たら嬉しいなっていう淡い夢をいただいていたんですけど、今回、映画の主題歌を洋次郎さんが書くとなった時に、「萌音とやりたい」って言ってくださったみたいで。

そうなんですね!?  洋次郎さんからの提案だったんだ。

それを聞いたときは、「生きててよかった!」って思いました(笑)。この仕事をしていてよかった、歌が好きでよかったって思いましたね。そうやってご縁を繋げてくださった洋次郎さんに心からありがとうございますって思いましたし、その分だけ力が入ったし、思い入れもすごく強いですね。しかも、制作の途中でも洋次郎さんが逐一、進捗状況を送ってくださって。私の声のことを思い、この映画に一番寄り添う形を目指して、映画への愛情とリスペクトを存分に込めて作っていらした過程を感じていたので、余計にしっかり歌わないといけないと思いました。

前向きでポジティブな歌詞ではないんですけど、悲しみや痛みに寄り添って、撫でてくれるみたいな感じがして

少し戻ってしまいますけど、最初に楽曲を受け取ったときの感想をもう少し詳しく聞かせてください。

深夜に送られてきました。飛び起きて、正座で聞いたんですけど、洋次郎さんの声に震えましたし、忘れられない瞬間だったなって思います。当時、ちょうどちょっと落ち込んでいた時期だったんです。毎日、鬱々としていた時だったので、この曲を聴いて、すごく心が軽くなったんですよね。決して前向きでポジティブな歌詞ではないんですけど、悲しみや痛みに寄り添って、撫でてくれるみたいな感じがして。私はすでに洋次郎さんの歌声に救われたので、私の声で歌うことで、その救う力を損なわないようにしないといけないなと思いましたね。

<夢だけじゃ生きていけないから>っていう言葉が、当時、すごく響いたんです

歌詞はどう捉えました?

洋次郎さんの歌詞って哲学だなと思ってて。すごく壮大なテーマなんだけど、糸口が必ず日常にありますよね。だから、聴く人がみんな自分の曲だって感じることができるんだと思うです。私自身は、<夢だけじゃ生きていけないから>っていう言葉が、当時、すごく響いたんですよね。夢を持ちたいし、持っている。でも、それだけじゃダメで。自分に置き換えても、ずっと夢見ていたことをやっているけど、好きなだけじゃダメだ、憧れだけじゃダメなんだって思うことが結構あって。だから、この歌詞を聞いた瞬間にズドーンってなったんですけど、ちょっとずつ、それでもいいんだよって和らげてくれるような展開になっていて。私にとっては、人生相談の答えみたいな歌詞だと思いましたね(笑)。

(笑)せめて夢だけは持っていてもいいんじゃないかっていう希望のようなものが、少しずつ見えてきますよね。

決して強い人が歌ってる唄ではなくて。人並みに脆くて、弱くて。でも、その弱さは悪いことじゃないんだよって思えるような歌詞ですよね。自分自身が凹みやすかったりするんですけど、ちょっとずつでいいんだなって思えたりもして。洋次郎さんは、(杉咲花演じる)紡ちゃんのこれからが見えるような曲になればっておっしゃっていて。映画を観終わった人も、ちょっとでいいから、救いを感じられるような曲になればって。でも、だからと言って、明るく歌うわけではなくて。ただただ誠実に歌うだけで、灯火になる。それはやっぱり曲が持つパワーだよなと思って。初めて歌った時にも、最初はニュートラルに入るんですけど、歌い終わるとぽってあったかくなるような感覚があって。魔法だなって思いましたね。

言葉と旋律をただただ私の声でっていうことに集中してやりましたね。それをすごく助けてくださったのが、杉咲花さんのお芝居です

洋次郎さんには「萌音とやりたい」と言った理由を聞きました?

詳しくは聞いてないです。ただ、洋次郎さんには、「あなたは頑張っちゃう人で、頑張っちゃったらいろんなものを吸収する人だと思うから、歌い込まないでくれ」って言われたんですね。「頑張らないで、何も考えないでレコーディングにおいで」って言われて。「初めて歌う気持ちで歌ってくれたらそれでいい」っておっしゃっていて。なので、それだけを信じてました。何もしないのって怖いですよね。もちろん、練習はしたんですけど、凝った練習はせずに、「とにかくあなたが持っている声をどうやったら引き出せるかっていうことが一番に思ってることなので」っておっしゃってくださって。だから、洋次郎さんの前で真っ白になって、言葉と旋律をただただ私の声でっていうことに集中してやりましたね。それをすごく助けてくださったのが、杉咲花さんのお芝居です。同世代でもありますし、映画の中で観客に一番近い存在でもあったので、自分を重ねて観て。花さんの表情がずっと脳裏に焼き付いていて。凛として、どこか寂しげだけど、力強い少女の姿をすごく思い浮かべていました。頭の中にはずっと紡ちゃんがいました。

映画を観た感想もお伺いできますか?

痛かったです。痛くて痛くて、「お願い。救われて。誰か愛を」ってずっと思って観てました。彼女が背負うものは大きすぎるし、ハッピーエンドではないし。すごく壮絶な映画で、自分とはかけ離れたように感じるテーマなのに、なんか他人事じゃない感じもすごくあって。やっぱりみなさんの求心力みたいなものがすごいんだなと思って。魂を削って撮られていたような匂いがしましたね。

12年前の少女失踪事件で被害少女と直前まで一緒にいた少女・紡を演じた杉咲さんは萌音さんと同じく21歳(※取材時)なんですよね。

そうなんですよ。あんまりいないんですけど、同学年の女優さんなんです。お会いしたことはないんですけど、大好きで、すごく尊敬している憧れの人で。今回、また新境地にして真骨頂みたいな感じがして。すごくそぎ落とされた表情や台詞で、無駄なことや飾りが1個もなくて。ただただ紡として生きていらっしゃる姿が映ってて。いや、これは、相当、刻まれただろうなと思ったし、ここまでできる方ってすごいなと思ったし、それにふさわしい歌というか、ちょっとでも近づけるような歌が歌いたいなって、同世代としてガツンと刺激を受けましたね。

具体的なシーンではなく、あの佇まい。一人で戦おうとしている感じ。あの姿は脳裏に焼き付いてました

歌ってる時は紡のどんなシーンが脳裏に浮かんでました?

杉咲さんの無表情がずっとあったんですよ。無表情というか、表情を失ってるんだけど、一番語ってる顔というか。悲しく眉をひそめて歌う曲じゃないですし、口角を上げて歌う曲でもなくて。ただただフラットに、洋次郎さんがおっしゃった「初めて歌う気持ちで」っていうのはそういうことだと思って。あの顔だなってすごく思って。だから、具体的なシーンではなく、あの佇まい。一人で戦おうとしている感じ。あの姿は脳裏に焼き付いてましたね。あとは、同世代の(村上)虹郎くん。作品の中で一人、救いのようなところがあったじゃないですか。

ヒロ=ヒーローという名前でしたし。

ほんとですよね。あの笑顔。彼もいろいろ背負っているけど、笑える強さがあって。ああいう存在になれたらいいなと思って。だから、同世代のお二人に歌い方を作ってもらったような感じがします。直接、お会いはしてないですけど。

でも、決して紡として、紡の心境を歌ってるわけではないんですよね。歌い手としてはどんな位置にいました?

浮かべていた表情は紡ちゃんだったんですけど、紡ちゃんの気持ちではなく、俯瞰してる感じがありました。もやがかかってる田んぼやY字路を鳥の目線から見ている感じというか……。

わかります。あの風景を眺める鳥とか、風のような感じがしました。

そうですね! そこにいる風みたいな感じで歌えたら一番いいのかなと思いました。人よりもちょっと高い目線からその風景を見ているイメージでした。だから、不思議でしたね。歌うときはいつも主人公を決めたいって思いがちで。でも、今回は歌詞もすごく客観的だし、俯瞰している歌詞なので、誰かで歌う曲じゃないのかなと思って。

歌っていて、すごく歓びを感じられる曲で、それは全く慣れたりとか、色あせたりせずに、むしろ、重ねるごとに新鮮さと多幸感が増して

実際に歌ってみてどんなことを感じました。1番はドラムも入っていない、オーケストラの伴奏のみになってます。

伴奏もシンプルだし、メロディもそんなに動きがないし、ハモリもないいですし、すごくシンプルな曲だからこそ、難しくて。思ったことが全部声に乗っちゃうようなレコーディングだったので、とにかくどれだけ削ぎ落として集中してっていうことを意識していて。卓の前には洋次郎さんがいらして、的確に、素敵な言葉でディレクションしてくださって。それを信じればよかったので。歌っていて、なんて言えばいいんだろうな……摩擦熱くらいの少しあったかい熱が広がっていくようなレコーディングでしたね。歌っていて、すごく歓びを感じられる曲で、それは全く慣れたりとか、色あせたりせずに、むしろ、重ねるごとに新鮮さと多幸感が増して。この曲の持つ力を感じながら、すべてを委ねて歌いました。

どんなディレクションがあったんですか?

とにかく褒めて褒めてっていう感じなんですよ(笑)。「とてもいいです。じゃあ、ここをもう1回」って。細かい言葉尻も妥協なくやってくださいましたし、気持ちよく録ってくださいましたね。とても信頼を寄せてましたし、信頼してくださってるなとも感じて。とてもスムーズなレコーディングだったなと思います。

監修も瀬々監督がしてくださって、撮影のスタッフも映画を撮っていた方々だったので、私もその瞬間だけ映画に入れたような感じがして

また、ミュージックビデオは映画『楽園』とのコラボで、舞台となったY字路で撮影されてましたね。

行きましたね。聖地巡礼の気持ちでした。ここで、魂を削ってお芝居をしてたんだなって思うと、胸にくるものがありましたね。監修も瀬々監督がしてくださって、撮影のスタッフさんも映画を撮っていた方々だったので、私もその瞬間だけ映画に入れたような感じがして。すごく尊い経験だったなって思います。MVの中でちょっと共演しているようなシーンもあるんですけど、すごく嬉しかったですね。そして、撮影からちょっと時間が立った場所を歩いてるっていうことが、歌にも通じてる感じがして、ここで撮るべきだったんだなって感じる撮影でした。

紡が、綾野剛演じる豪士と心を通じ合わせる田んぼのシーンもありました。

空気が澄んでて、すごく美しいところでした。土砂降りだったんですけど(笑)。

そうなんですね。じゃあ、あの傘は……。

ほんとに必要だった傘です(笑)。でも、それが結果、よかったとも思いますね。この曲は水のイメージもあるので、濡れながら歌ったりもして。あの場所に行って、撮れてよかったなって思います。

映画は、重いトラウマを背負った紡が自分の「楽園」を探していくという未来に向けた作品になってます。ちなみに、萌音さんは「楽園」というと何が思い浮かびますか?

楽園か〜。ぱって浮かんだのは、鹿児島のおばあちゃんの家でした。古いお家だけど、お庭も綺麗に手入れがされていて。すごく幸せに慎ましく暮らしているお家で、行くたびに冷たいお茶が出てきて。「ああ、ここにずっといたい」って思うんですよね。悪いことはちゃんとダメって言ってくれるし。すごく、清らかな気持ちで居られる場所。悪いことができない場所で、私にとっては楽園だなって思いますね。

南国とか非日常ではなく、生活そのものに楽園を見出すんですね。

そうですね。特別なことはいらないな。豪邸もキャビアもいらないし(笑)。朝起きて、体が動いて、ご飯を食べて、一生懸命に働いて、お風呂に入って、ああ疲れたって寝るのがいちばんの幸せだと思うし、それをやっているのがうちのおじいちゃんおばあちゃんかなって思います。

心を救ってくれるような、一緒にうずくまってくれる曲だと思う

ありがとうございます。最後に読者にメッセージをお願いします。

まずは映画を観て欲しいなって思います。観終わって、うわ、楽しかったっていうコメディではないので、観る方にも力がいる映画ですけど、このお芝居と物語と映像は、やっぱり、映画館で体感して欲しいし、そこで感じたものを持って帰るための袋みたいな曲になれたらいいなって思います。そこで感じた感情を全部風呂敷みたいに包めるような存在になれたらと思いますね。映画と離しても、心を救ってくれるような、一緒にうずくまってくれる曲だと思う。私が何度も何度も歌っても、毎回、新鮮な感動があるように、何度も聞いて、日常のいろんな場面に寄り添える曲になっていたらいいなと思います。

今回は洋次郎さんとご一緒させていただいて、また1個、宝物が増えたなと思う

映画の公開が楽しみですが、ご自身が出演していない映画にシンガーとして関わった本作はどのような経験になりましたか?

映画を観る視点がすごく新しかったなって思います。出来上がっているものを観て、私はこうしようかなって。また1つ、新しい立ち位置に出会ったような感じですね。とことん寄り添うっていう姿勢が心地よかったので、もし今後も機会があるのであれば、ありがたいなと思います。ご縁が運んでくるのをただただ待っていようかなと思いますね。曲との出会いって毎回、人との出会いと同じくらい尊くて。一期一会だし、レコーディングも1回限りだし。その度に受け取るものがとても多いんですよね。今回は洋次郎さんとご一緒させていただいて、また1個、宝物が増えたなと思うので、これからも1個ずつ磨いて磨いて、宝物にしてしまって、ちょっとずつ荷物を重くしながらやっていけたら幸せだなと思います。

その他の上白石萌音の作品はこちらへ。

上白石萌音

1998年1月27日生まれ。2011年に第7回「東宝シンデレラ」オーディションで審査員特別賞を受賞。
同年、NHK大河『江〜姫たちの戦国〜』にて女優デビュー。
初主演映画『舞妓はレディ』(14)では、第38回日本アカデミー賞新人俳優賞など、多くの賞を受賞。
大ヒット映画『君の名は。』(16)では、ヒロイン:三葉の声を演じると共に、挿入歌の一曲である「なんでもないや」(RADWIMPS)のカバーを含めたミニアルバム『chouchou』で歌手デビューも果たす。
以降、ドラマ『ホクサイと飯さえあれば』(17)や『陸王』(17)、映画『ちはやふる』シリーズ、『羊と鋼の森』(18)のほか、舞台『火星の二人』(18)やミュージカル『ナイツ・テイルー騎士物語―』(18)などに出演。また、演技だけでなく『風景の足跡』(テレビ東京)や『彩〜日本遺産〜』(BS-TBS)といったレギュラーナレーション番組を持つなど、幅広く活躍。
19年は、ドラマ『記憶捜査〜新宿東署事件ファイル〜』や、ジェームズ・キャメロンプロデュース映画『アリータ:バトル・エンジェル』での主人公アリータの日本語吹替、主題歌「ハッピーエンド」も担当した映画『L♡DK ひとつ屋根の下、「スキ」がふたつ。』『スタートアップ・ガールズ』に主演で出演。
井上ひさし最後の戯曲『組曲虐殺』(10月より天王洲銀河劇場〜11月より各地)の公演中。

オフィシャルサイト
https://kamishiraishimone.com