モリコメンド 一本釣り  vol. 140

Column

渋谷すばる デビューアルバム『二歳』。作詞・作曲・編曲を手がけた12曲は、渋谷すばるそのもの

渋谷すばる デビューアルバム『二歳』。作詞・作曲・編曲を手がけた12曲は、渋谷すばるそのもの

ブルース、ロックンロールに根差した音楽性、自らの想いや人生をリアルに描いた歌。渋谷すばるという“38歳のニューカマー”がついにデビューを飾る。

2018年4月に関ジャニ∞を脱退した渋谷。その後、バックパックで東南アジアを旅するなど充実した時間を過ごした彼は、2019年2月からソロアーティストとして準備を始める。まず2019年2月に「渋谷すばるです。」とタイトルされた自身のホームページを開設。さらに「生存確認をお伝えしたい」と旅行中の動画を公開、ファンを喜ばせた。4月にはファンクラブ「Shubabu」を設立、ワーナーミュージックとタッグを組んだ自主レーベル「World art」を立ち上げ、ソロデビューすることを正式に発表した。

その際に発せられたメッセージは、こうだ。

「自分自身で決めた今後の人生、かけてみたいと思った音楽の世界、楽な事など一つもありませんが、全ての音を楽しみながら、まだまだ恥をかいて生きていきます。」

この言葉通り、渋谷すばるは、音楽と正面から向き合い、自分自身の表現を——これまでの積み上げてきたイメージやポジションにこだわることなく——愚直なまでに追求した。その最初の成果とも言えるのが、デビューアルバム『二歳』だ。

グループに在籍した頃から、積極的にソロ活動を展開してきた渋谷。筆者は、渋谷の主演映画『味園ユニバース』公開とともに行われた2015年の『渋谷すばる LIVE TOUR 2015』、ソロカバーアルバム『歌』を引っ提げて開催された2016年の『渋谷すばる LIVE TOUR 2016 歌』のライブを観ているが、どちらのステージでも彼は、自分自身のルーツに沿った表現をしっかりと体現していた。基本的なスタイルは、オーセンティックなロックンロール。渋谷はギター、ブルースハープを演奏しながら、まったく飾ることなく、ひたすらストレートに自らの声を響かせていた。個性的なビブラート、驚くほどの爆音サウンドを含め、彼のライブからは(アイドルという呼称がまったく似合わない)確固たるオリジナリティを感じ取ることができた。

ソロ1stアルバム『二歳』を聴いたときの最初の印象もまた、グループ時代のソロ活動と地続きだった。音楽的な軸になっているのは、やはりブルースやロックンロール。打ち込みやエレクトロの要素はまったくなく、まるで目の前で演奏しているかのような生々しいバンドサウンドを前面に押し出している。おそらく本人に言わせれば“これしかできない”ということだろうが、ダンスミュージックが主流となっている現在のシーンにおいて、彼のスタイルはきわめて独創的だ。

ソロ転向後に出会ったというミュージシャンの力も大きい。本作に参加しているのは、月の吠える。(俳優の大森南朋がボーカルをつとめるバンド)の塚本史朗(G)、井上陽水、コレサワ、入野自由などのライブにも参加しているなかむらしょーこ(Ba)、元ステレオポニーのShiho(Dr)、LiSA、ASIAN KUNG-FU GENERATIONなどのライブサポート、アレンジャーとしても活動している山本健太(Key)。ライブの経験が豊富なメンバーと直接やり取りしながらの制作は、渋谷にとっても大きな刺激となったはずだ。

先行配信された「ワレワレハニンゲンダ」「アナグラ生活」「ぼくのうた」を含む本作には、彼自身が作詞・作曲・編曲を手がけた12曲を収録。歌のなかには当然、彼自身のリアルな感情が刻まれている。たとえば1曲目の「ぼくのうた」。ざっくりと掻き鳴らされるギター、エモーショナルなメロディラインを軸にしたこの曲で渋谷は、音楽に対するあまりにも強い思いを真っ直ぐに表明している。音楽に憧れ、夢中になり、様々な葛藤や格闘を繰り返しながら、それでも“ずっと歌っていきたい”と願う——「ぼくのうた」には(題名が示す通り)、渋谷すばるそのものだと言っていいだろう。

繊細なギターのフレーズから始まるミディアムバラード「ライオン」には、グループ脱退後の心境を想像させるフレーズが並んでいる。勢いよく飛び出し、自分を守っていたものを脱ぎ捨てた渋谷。どこに行けばいいかもわからず、迷いながらも、自分の心に正直に生きたい。そんな思いがそのまま伝わってくる「ライオン」には、まるでドキュメンタリーのような生々しさがある。自身の体験、そのなかで生まれた感情をリアルに綴るソングライティングもまた、渋谷音楽の大きな特徴であり、魅力なのだ。

もう1曲、「生きる」と題された楽曲も紹介しておきたい。悩み、怒り、苛立ち、不安といった負の感情に苛まれながらも、それさえも“これも自分だ”と肯定しながら、とにかく生きることを選ぶ。あまりにも率直な歌だが、だからこそこの曲は、様々な思いを抱えながら日々を送っているすべての人の心を強く揺さぶるはず。“生”そのものと向き合うことで生まれた、普遍的なメッセージを含んだ名曲だと思う。

来年には『渋谷すばる LIVE TOUR 2020』を開催するなど、この先は、オーディエンスと直接触れ合う機会も増えていくはず。渋谷すばるという38歳の男がミュージシャンとして歩き始めたことを、まずは心から祝福したい。

文 / 森朋之

その他の渋谷すばるの作品はこちらへ。

オフィシャルサイト
https://shibutanisubaru.com

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