横川良明の演劇コラム「本日は休演日」  vol. 21

Column

梅棒がノーベル平和賞を受賞するまで、僕は梅棒を布教し続ける

梅棒がノーベル平和賞を受賞するまで、僕は梅棒を布教し続ける
今月の1本:梅棒 EXTRA シリーズ『ウチの親父が最強』

みなさんは、梅棒をご存じでしょうか?
知っているよ〜、という方。今日からみんな友達です。富士山の上でおむすびでも食べましょう。
知らない〜、という方。今からでも間に合います。10月22日(火・祝)には三重県・四日市市文化会館 第2ホールで。10月25日(金)から10月27日(日)は大阪・COOL JAPAN PARK OSAKA TTホールにて、最新公演『ウチの親父が最強』をやっているというじゃありませんか。この記事を読んだら、今すぐプレイガイドにGOしてチケットをGETです。今いちばん私たちを潤すもの。それは、無邪気な子どもたちの笑顔でもSK-Ⅱ フェイシャルトリートメント エッセンスでもなく、『ウチの親父が最強』のチケットです(断言)。
ということで、察しの良い方はお気づきかと思いますが、今回のコラムは、「梅棒を観よ」というたった5文字を伝えるために4,000字を使い尽くす壮大な布教活動です。これだけ熱心な宣教はザビエルか僕ぐらいです。よろしくお願いいたします。


今年のノーベル平和賞は、てっきり梅棒かと思っていました…

大前提のお話をしますと、梅棒とは、演劇×ダンス×J-POPがミックスした男だらけのハイブリッドエンターテインメント集団。演劇のようなストーリー性ある物語を、キャッチーなJ-POPに乗せて、ジャズダンスで表現します。

原則としてノンバーバル(台詞なし)。はい、この時点で「ダンスは詳しくないし」「台詞がないとよくわからなさそう」と“戻る”ボタンをタッチしようとしたあなた。どうか……どうか……あと3,500文字だけ私にお付き合いくださいませ。

そうなんです。普通に考えると、台詞がなくちゃお話の展開もキャラクターの感情もわかるわけない。かのバベルの塔が夢物語に終わったのは、畏れをなした神が人々の言葉を通じさせなくしたから。それぐらい言葉は大事なもの。

だけど、梅棒は違う。言葉がないのに、むしろ言葉がないからこそ伝わってくる。広がってくる。もしも僕がパリピなら隣の人と肩組んで気持ち強めに「We Are The World」を熱唱する、そういう一体感があるのです。

ポイントは、音楽にJ-POPを使用していること。誰もが知っているヒットソングをうまくシーンに当てはめることで、歌詞が台詞代わりに。たとえば野球のシーンがあれば、センチメンタル・バスの「Sunny Day Sunday」が流れたり、お医者さんから“インフルエンザ”と診断されるタイミングで乃木坂46の「インフルエンサー」が流れたり。まさに音ハメならぬ歌詞ハメ。

しかも歌詞のハメ方が遊び心に満ちているから、お話の流れにぴたっとハマったときは、劇場が笑いのアクセルターン。使われている楽曲もメジャーな人気曲が中心なので、曲によっては、自分が実際によく聴いていた頃の想い出がフラッシュバックして……あれ……なんでだろ……涙が止まらねえんだ……。

振付もユニークで、思わず吹き出すネタが満載。言ってしまえば、「くっだらね〜」のひと言だったりします。でも、そのくだらなさのために本気で汗を流している。高い技術を持ったプロたちが、お客さんに楽しんでもらうために、くだらないことに全力を尽くしている。このスキルの無駄遣い感こそが、梅棒の真骨頂。

私も随分長く劇場に通っていますが、これだけ初めて劇場に遊びにきた人たちに優しい団体は知りません。お話はわかりやすく、心は温かく。客席にいる全員を、ひとりも置き去りにすることなく楽しませようとしてくれるので、「ダンスはわからない」なんて心配は無用。ダンスを知っている人も知らない人も一緒になって楽しめる。劇場全体がエブリバディ is マイフレンド。梅棒がいるところに争いは起きないし、梅棒を見たら本気で世界平和を祈願できる。僕がノルウェー・ノーベル委員会に入ったら、今すぐノーベル平和賞は梅棒にあげます。

どんなピンチも底抜けの愛と笑顔で乗り越える家族の物語

そんな梅棒の最新公演『ウチの親父が最強』は、ひと言で言うなら家族の物語。

うだつのあがらない男がある日、偶然出会った女性と恋におち、夫婦になる。夫婦のあいだにふたりの可愛い子が生まれ、家族になる。ところが、隕石がおちて家は全焼。着るものにも困る貧乏暮らしを余儀なくされ、娘はクラスメイトの男子からからかわれるように。さらに、真面目で勉強熱心な長男も運命のいたずらで受験に失敗。そのうえ、チンピラ一味に目をつけられ、一家は離散の危機に。と、この家族に降りかかった出来事をなぞっていくと不幸のるつぼ。こんな意地の悪いお話書くの、橋田壽賀子先生ぐらいだろ。

それでもこの『ウチの親父が最強』がちっとも陰惨にならないのは、どんなピンチも家族が底抜けの愛と笑顔で乗り越えていくから。中心になるのは、お母さん。スーパーのレジも平気で横入りしちゃうあつかましい、もとい、たくましいお母さんは、どんな暗雲もはねのける太陽のごとし。腕っぷしも強くて、豪快で、まさに「ウチのおかんが最強」と喝采をあげたくなる。

翻って、お父さんはといえば、頼りなくて、存在感が薄くて、全然最強なんかじゃない。いったいどこが『ウチの親父が最強』なのかと疑いたくなるんだけど、最後の最後でやっぱり「ウチの親父が最強」だと胸を張ってみんなに自慢したくなるところに、この物語の感動が詰まっている。

メッセージはきわめてシンプル。お話の展開もオーソドックス。たぶんこれを普通のストレートプレイでやったら、ベタだなと一笑に付して終わるのかもしれない。でもそれを、台詞を使わず、とびきりのJ-POPに乗せて、ダンスだけで表現するから、ガンガン突き刺さる。手垢まみれの家族のお話が、極上のエンターテインメントになる。クライマックスはもう涙でいっぱいで、客席が全員織田信成になってた。

踊る多和田任益がカッコよすぎて、目で飲むタイプのストロングゼロ

そして、ダンサーたちもみんな最強な人たちばかり。梅棒メンバーも、ゲストも、全員が良すぎて、誰かひとりの名前を挙げるのも逆に心が痛むぐらいなのですが、ここは独断と偏見で言わせてください。俳優の多和田任益がめちゃめちゃいいのです。

結局推しの話かよ。と鼻白む方がいたら申し訳ない。だがしかし。舞台俳優沼に生息する人間にとって、推しの俳優が推しの団体に出ることは、金環日食みたいなもの。これを逃したら次に観測できるのは18年後だぜっていうぐらい貴重な話なのです。そりゃあもう公演期間中は毎日が即位祝賀パレード。

多和田任益、ここからは親しみをこめて“たわちゃん”と呼ばせていただきますが、たわちゃんは『手裏剣戦隊ニンニンジャー』(キンジ・タキガワ / スターニンジャー(声)役)やミュージカル『テニスの王子様』(手塚国光 役)で知られる俳優さん。でも、踊りもキレキレのバキバキなのです。

まずとにかく、たわちゃんは脚が長い。矢沢あい先生でもこんなに長く描かねえっていうぐらい長いし細い。そんな長い脚を活かしたダンスは、カッコよすぎてトリップしそう。これはもう目で飲むタイプのストロングゼロです。

演じる役どころはちょっと不良でして、なんだかタチの悪いヤツらとつるんでいて、近寄りがたい感じ。だけど、女の子が痴漢に遭ってたら果敢に助けてくれる、根はいいヤツ。それでいて、こっちがアプローチしてもそっけない態度で、全然チャラくない。そうです。これはあれです。80年代女子がみんな大好き真壁 俊タイプ。もうそんなん好きにならないはずがない。スタイルは矢沢あいで中身は真壁 俊とか、ひとり『りぼん』黄金期かよ。

そして、この『ウチの親父が最強』のたわちゃんで特筆したいのが、俳優が踊る真価を証明してみせたこと。極端な話、踊る技術だけに焦点を置けば、どんなに俳優としてうまく踊れても本職のダンサーには太刀打ちできないと思うのです。じゃあ、そんなハイレベルな集団の中で俳優が踊る意味は何なのか。その答えを、たわちゃんは舞台で示してくれた。

終盤に訪れるソロダンス。これまで重ねてきた罪の数々と、ついに見つけた大切にしたい人。そのあいだでもがき、苦しみ、自分の行くべき道を定める人生の一瞬を、たわちゃんは踊りだけで見事に演じてみせた。台詞なんてひと言もない。彼が何を考えていたかなんて誰にもわかるはずはない。でも、わかる。伝わる。いくつもの間違いを犯してきた彼のこれからをみんなが応援したくなる。そんなダンスでした。

その大きな身体のいちばん深い奥の方。感情と呼ばれるものを詰めこんだタンクに、彼の葛藤が、迷いが、自分への怒りが、そして愛しい人への想いがいっぱいになって、あふれて、はちきれて、爆発する。その瞬間を、僕ははっきり目撃したのです。たわちゃんの身体の中心から外に向かって光が伸びていくのを。まるで星が生まれる瞬間のような輝きを、たわちゃん自身が放つのを。もう眩しすぎて、僕の全瞼が焼失。

こんな大きな感情の塊は、ストレートプレイでもそう味わえるものじゃない。それを、ダンスで見せてくれた。台詞はなくとも役を生きられることを、たわちゃんは証明した。もう“たわちゃん”なんて気軽に呼べない凛々しさで。こんなふうに踊りながらドラマをつくれるのは、彼が俳優だからこそ。

もちろん、たわちゃんだけではありません。舞台に立つ全員が閃光のように輝いた105分。梅棒と一緒に過ごしていると、僕は嫌なことも全部忘れて、ただただ楽しい気持ちに浸っていられます。それはきっと梅棒が信じているから。笑顔が、幸せを生むことを。エンタメが、人を救うことを。そんな夢見事を本気で信じているヤツらでないと、こんな夢みたいなことカタチにできない。だから、僕は梅棒が好きなんです。

そうこうしているあいだに、もうすっかり4,000字になってしまいました。これだけ言葉を尽くしても、やっぱりまだ梅棒の良さを伝え切れているとは思いません。だからどうか劇場に足を運んでください。人生でこんなに楽しい気分になれることあるんだっていう興奮と恍惚の時間が、あなたを待っているはずです。

梅棒 EXTRA シリーズ『ウチの親父が最強』

東京公演:2019年9月5日(木)〜9月15日(日)銀座 博品館劇場
東京公演:2019年9月20日(金)〜9月23日(月・祝)新国立劇場 小劇場
福岡公演:2019年10月19日(土)西鉄ホール
三重公演:2019年10月22日(火・祝)四日市市文化会館 第2ホール
大阪公演:2019年10月25日(金)〜10月27日(日)COOL JAPAN PARK OSAKA TTホール

作・総合演出:伊藤今人(梅棒)
振付・監修:梅棒

出演:
伊藤今人(梅棒)
梅澤裕介(梅棒)
遠山晶司(梅棒)
遠藤 誠(梅棒)
塩野拓矢(梅棒)
櫻井竜彦(梅棒)
天野一輝(梅棒)
野田裕貴(梅棒)

多和田任益
横山結衣(AKB48 チーム8・Team K)
パイレーツオブマチョビアン
上西隆史(AIRFOOTWORKS)
永洞奏瑠美

主催・製作:梅棒EXTRAシリーズ実行委員会

オフィシャルサイト

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