山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 70

Column

キースが手渡してくれた智慧 / 40 years in a Blink

キースが手渡してくれた智慧 / 40 years in a Blink

全国を廻ったソロ・ツアーを終え、11月から始まる40周年ツアーに向けてニュー・アルバムを制作中のHEATWAVE。
初期衝動を大切に、あえて技巧を凝らさず「シンプルでソリッド」な作品を創り上げる過程で聞こえ続けていたのは、R&Rの先達からのメッセージだったという。
既存のシステムが崩壊し、混沌を拡げる世界を貫く紫電一閃の音と言葉とは。


バンドを結成して40年の節目の年、僕はアルバムを製作中。

SNSからタイムリーに流れてくる言葉に励まされている。昔、あの曲がラジオから流れてきたように。キース・リチャーズの言葉、石井ゆかりさんのその日の言葉、クリシュナムルティの至言。

今回のアルバムには明確なイメージがある。シンプルな言葉、簡潔で短めの曲たち。昔でいうなら46分のカセットテープに全体が収まるような。音はソリッドで痩せている方がいい。かといって、決して攻撃的ではないこと。10の短編小説を集めたような。習熟よりひらめきをなによりもたいせつに。

ローリング・ストーンズでいうなら『Some Girls』とか『Emotional Rescue』。ルー・リードでいうなら『Legendary Hearts』。大作ではないけれど、美味しい小鉢が並んでいるイメージ。

どうして、そう思ったのかはわからない。そういう音が求められていると本能的に感じていた。痩せた音が欲しいときは、必然的にテレキャスターに手が伸びる。ほんとうにシンプルでいいギター。このギターでいい音を出せたら、どんなギターだって弾けるようになる。シンプルさゆえ、弾き手の手腕がモロに出る。

そんなときにテレキャスターの使い手、キース・リチャーズの言葉がタイムリーに流れてくる。彼の言葉に今回どれだけ励まされたことだろう。

いつだって初期衝動を忘れないようにこころがけた。動物的なひらめきを優先させた。悩むという行為を徹底的に排除した。悩むなら、なにかが間違っている。すべての判断も動物的に行った。なにかしら、血湧き肉躍るものがあれば、テイクはOKにする。そつなくこなしたものはすべてボツ。ほとんどの曲は2、3テイクしか演奏しなかった。ファースト・テイクにはなにかがある。夢も希望も冒険心も失敗も。回数を重ねるたびに失われる何かがある。何度やってもダメなものは最初からダメなのだ。

だから、豪快な間違いもそのまま残した。クリックは一切使用せず、スタジオに譜面も存在しない。パンチイン(テイクを部分的に修正すること)もほぼやっていない。スリー・リズムが録れたら、すぐに歌を歌った。今回、自分のスタジオに歌入れを持ち帰るのもやめた。鉄は熱いうちに打つに限る。使ったマイクはSM58。どこにでもあるマイク。安価で頑丈。これまで100万円のマイクだって試したけれど、僕にはSM58がいちばん合ってる。

キースの発言に話を戻す。僕をタイムリーに鼓舞してくれた言葉をいくつか紹介しよう。ロックンロールの天国と地獄をくぐりぬけてきただけあって、実に示唆に富んでいる。実社会でもサヴァイヴするのに有効だと思うから。

Photo by Mark Seliger

いわく。

完璧にしようと曲に後から手を入れれば入れるほど、ひらめき的なエレメントを消してしまうんだ。ひらめきこそ俺がほしいものだね。

今の時代、なんだって修正できる。美容整形と同じで、一旦手を入れ出すとどこまでも修正してしまい、結果としてたいせつな自分の表情を失ってしまう。

ステージでは頭は使わない。ただ感覚を使うのさ。一度ステージに上がっちまったら、もう逃げも隠れもできない。自分のすべてで取り組むだけだ。計算なんかせず、ただ感覚を使うんだ。

ステージで考えたってロクなことがない。ただ、感じるだけ。空っぽになって、プレッシャーを力に換えて、善きエネルギーの円環を目指すこと。どんなトラブルに見舞われたとしても、必ず抜け出す道はある。それを動物的に見つけること。そうすれば魔法使いになれる。

時間が意味することは年齢によって違ってくるだろうね。年をとってくると、ただ時間を無駄に過ごすのではなく、もっと有効に使おうとするようになるんだ。

つい最近亡くなった、アイルランドの父。物静かでいつも優しいまなざしを注いでくれた。the man

年齢を重ねると、有限である時間を無駄に過ごすことが耐えられなくなる。できるだけ速く、迅速にいろんなことに対処する。結果的に朝がいちばん効率がいいことに気づく。食事、睡眠、運動。そのバランスを自分で考えられるようになる。そして、すべてのことは音楽につながっている。というより、生きてきた道程が音楽そのもの。顔にはすべてが書いてある。

とってもシャイな親友のお母さん。いつも編み物をしている。その柔らかな人生が顔に刻まれている。

導師を探そうなんてことはしない方がいい。こちらが見つけるのではなく、向こうがこちらを見つけることなんだ。

僕の導師は空と海。誠実に生きていれば、彼らはすべてのことに応えてくれる。彼らは僕を見つけてくれる。ほんとだよ。ただし、テレビを見ないこと。あれは人を骨抜きにして、無能にするためのマシンだから。稀にある、いい番組を除いて。

アウトローとは正直な生き方のことなのさ。

至言!

誰も完璧に自由ではいられない。それに何から自由になるんだい?ほとんどの人間は本当に何に縛られているんだかわかっちゃいない。それは自分自身だったりするんだぜ。

失うものがある限り、誰も自由にはなれない。死して尸、拾う者なし。自由に生きるのなら、野垂れ死にする覚悟を持つこと。

浮き沈みがなければ、違いがわからない。味気なくて、ただ平坦で、心電図を見てみなよ。波形が平坦になったらおしまいさ。あんた死んでるってことだぜ。

最低の経験をしているときは、こりゃまた最高の経験をさせてくれてありがとうと思うこと。物事はどの角度から捉えるかで、結果はまるで違ってくる。

マディー・ウォーターズが俺たちにやってくれたことと同じことを、俺たちは他の人々に向けてやるべきなんだ。

キースが僕に教えてくれたことを、僕らは他の人に向けてやるべきなんだ。

感謝を込めて、今を生きる。


Keith Richards / キース・リチャーズ

1943年12月18日、ケント州ダートフォードの労働者階級の家に生まれ、13歳の時、母親からギターをプレゼントされたのをきっかけに、ギターに熱中する。1960年、幼い頃からの知り合いだったミック・ジャガーと再会、バンドを結成。1962年、ブライアン・ジョーンズと出会い、ローリング・ストーンズを始動。ベースにビル・ワイマン、ドラムにチャーリー・ワッツを加えて、1963年シングル「カム・オン」でデビュー。ミックと共にオリジナル曲の作曲を担い、多くのヒット曲を連発。1969年、ブライアン・ジョーンズの脱退、死去に伴い、ミックと並んでストーンズの顔に。
一方で、1967年に初めてドラッグの家宅捜査を受けて以来、ドラッグによるトラブルが絶えず、1977年トロントで麻薬売買の容疑で逮捕されてからは、本格的にドラッグ中毒の治療に乗り出し、ついにはクリーンアップに成功。
1978年12月にはソロ名義でシングル「ハーダー・ゼイ・カム/ラン・ルドルフ・ラン」をリリース。1988年にキース・リチャーズ&エクスペンシヴ・ワイノーズ名義でソロ・アルバム『トーク・イズ・チープ』をリリース、ツアーも行った。
1994年『ヴードゥー・ラウンジ』リリースと大規模なツアー以降はストーンズとして活動を行うためにソロ・プロジェクトは行っていなかったが、2015年9月、23年ぶりの新作ソロ・アルバム『クロスアイド・ハート』を発表し、全英アルバム・チャートではソロ・アルバムとしては自己最高の7位、アメリカのBillboard 200でも自己最高の11位を記録した。
デビュー以来、様々なギターを使用しており、60年代では主にギブソンを使用しているが、最も代表的な機種は、70年代から使用され始めたフェンダー・テレキャスター。
不良っぽいイメージとは裏腹に、人間味あふれる行動でも知られ、2011年にはイギリスワイト島にあるAngel Radioというラジオ局のトランスミッターが損傷し、直すのに資金がないということを知って、会計士を通じてその資金を提供した。2011年に東日本大震災が発生した際は日本の惨状に非常に心を痛め、すぐに自身のホームページにメッセージを掲載、数量限定でTシャツを販売し、その収益を被災者支援に充てた。
昨今の取材では「正直に言うと、こんなに長いこと生きていられるなんて、俺自身が一番驚いている。この国(アメリカ)が成長するさまをこの目で見てきたわけだ」という発言も。2018年のツアーから禁酒を始め、「シラフでプレイするって面白いぞ」という言葉も残している。


ザ・ローリング・ストーンズ『Some Girls / 女たち』
[SHM-CD] CD:UICY-78092 / ¥1,528(税込)
ユニバーサル・ミュージックより発売中

パンク・ムーヴメントに呼応した性急なロック・ナンバーを数多く含みつつも、ディスコ・ビートを大胆に取り入れた大ヒット曲「ミス・ユー」や傑作バラード「ビースト・オブ・バーデン」も収録し、その懐の深さを見せつけた傑作アルバム(1978年発表)。全10曲。
このアルバムのレコーディング中、キースが眠らなかったのは有名で、「9日間まばたきもしていない」と自慢げに語ったという逸話も。「結局立ったまま寝落ちした。カセットを棚に戻していた時だった。最高の気分だったが、振り向きざまに眠ってしまった。スピーカーの角に倒れて、起きたら血の海だった。『赤ワインか?』って思った」。

ザ・ローリング・ストーンズ『Emotional Rescue / エモーショナル・レスキュー』
[SHM-CD] CD:UICY-78093 / ¥1,528(税込)
ユニバーサル・ミュージックより発売中

70曲以上に及ぶ候補の中から厳選されたと言われる、ストーンズ80年代の幕開けを飾る作品。ファルセットで歌われる異色のタイトル曲や、レゲエ、ダンス調のナンバーのみならず、ストーンズらしいロックンロールにも空間を感じさせるクールなサウンド・プロダクションが施されている(1980年発表)。全10曲。

ルー・リード『LEGENDARY HEARTS / レジェンダリー・ハーツ』

1982年発表の『THE BLUE MASK/ブルー・マスク』に続いて発表された、聴き込む程に味わいの増す名盤。異能派テクニシャンといわれる盟友、ロバート・クイン(g)、フェルナンド・サンダース(b)、フレッド・マー(ds)の3人を従えてのスタジオ録音。シンプルでソリッド、爽快感溢れる切れ味鋭い演奏に、クリアでヘヴィな当時最高峰の録音技術を駆使。この時期の特徴的な、生音に近いギター・カッティングが際立つ(1983年発表)。


著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。90年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』に収録された「満月の夕」は阪神・淡路大震災後に作られた楽曲で、多くのミュージシャン、幅広い世代に現在も歌い継がれている。“ミュージシャンズ・ミュージシャン”としてその名を挙げるアーティストも多岐にわたり、近年は野外フェスやR&Rイベントへの出演も多い。バンド結成40周年となる今年、これまで以上に精力的にライヴとレコーディングを行っており、9月23日開催のHEATWAVE SESSIONS 2019 “the boy 40”@東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGE会場では最新シングル「HEAVENLY」をリリースした。11月10日高松オリーブホールを皮切りにHEATWAVE結成40周年全国ツアーがスタート。全国6ヵ所を廻ってファイナルは12月22日、東京 日本橋三井ホール。会場ではニュー・アルバムの発売も期待されている。

オフィシャルサイト

ライブ情報

HEATWAVE 40th Anniversary Tour 2019
11月10日(日) 高松 オリーブホール Supported by RUFFHOUSE
11月16日(土) 長野 ネオンホール Supported by NEONHALL *SOLD OUT
11月17日(日) 仙台 CLUB JUNK BOX Supported by smoke / VORZ BAR / そば食堂やぶ信
12月6日(金) 福岡 Drum Be-1
12月13日(金) 大阪 バナナホール
12月22日(日) 東京 日本橋三井ホール
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リクオ スペシャル・ライブ「グラデーション・ワールド」*ゲスト出演
11月26日(火)下北沢GARDEN
出演:リクオ with HOBO HOUSE BAND
ゲスト:古市コータロー(ザ・コレクターズ)/山口洋(HEATWAVE) ほか
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SMILEY’S CONNECTION~ノイズホテル TOKYO~
12月8日(日)渋谷LOFT HEAVEN
出演:フルノイズ(from 福岡)、山口洋(HEATWAVE)、百々和宏 with有江嘉典
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