モリコメンド 一本釣り  vol. 141

Column

Sano ibuki 紡ぎ出した物語に主題歌をつけるように作られた曲たち。その独創的な音楽世界とは?

Sano ibuki 紡ぎ出した物語に主題歌をつけるように作られた曲たち。その独創的な音楽世界とは?

“すべての芸術の”と言えば大袈裟かもしれないが、大部分の芸術の根底にあるのは、おそらく“物語”だ。小説、マンガ、映画などはもちろん、詩、短歌、俳句などの言葉を使った芸術、さらに絵画やグラフィック、インスタレーションやパフォーミングアートに関しても、それを観る人に(作品の背景にある)“物語”を感じさせることはきわめて重要な要素であり、そこの物語があるからこそ、観客は(ときに自分自身の境遇や人生と重ねながら)共感や反発を覚えるのだと思う。世の中には物語を無視する、ストーリー性を取り入れないことを軸に置いた作品も存在するが、それもまた、物語という枠の別形態、オルタナティブな表出であることは言うまでもないだろう。

音楽ももちろん、例外ではない。歌モノ、インストに限らず、すべての音楽にはストーリーがあり、背景がある。それは“歌詞を通して物語を伝える”という単純なことだけではなく、作曲者及び演奏者の意図、楽曲に込めたメッセージ性や人生観を同時に受け取るからこそ、我々の感動はさらに増幅されるのだ。(余談になってしまうが、筆者のような“音楽ライター”という仕事がかろうじて成り立っているのも、楽曲やミュージシャンを通し、そこのある物語を伝えているからなのだろう)

シンガーソングライターのSano ibukiもまた、物語に重きを置いた音楽の作り手だ。

1996年7月生まれの彼は、2015年に上京したことを機に、弾き語りでのライブ活動をスタート。自主制作音源として発表した「魔法」がTOWER RECORDS新宿店バイヤーの耳に留まり、2017年末に同店限定シングルとしてCD化、期間限定で販売された。

「魔法」はアコースティックギターと歌を軸にした、オーガニックな雰囲気の楽曲。出会いと別れを繰り返しながら、過去に思いを馳せ、後悔や慈しみ、愛しさを感じながら生きていく人間の存在を詞的に描きた歌詞、そして、独特のブルーズ感覚、ギラっと光るポップネスを併せ持ったボーカルがひとつになったこの曲は、J-WAVE『SONAR MUSIC』2018年1月度SONAR TRAXに選出され、3月10日には両国国技館で行われた「J-WAVE TOKYO GUITAR JAMBOREE 〜YOUNGBLOOD〜 supported by azabu tailor」にゲストアクトとして出演。さらに初の全国流通盤となる1stミニアルバム『EMBLEM』をリリースし、 “Sano ibuki”の存在は大きな注目を集めた。

そして2019年11月6日、Sano ibukiは最初のフルアルバムをリリースする。タイトルは『STORY TELLER』。資料には『「原稿用紙に物語を書いてから、そのお話の主題歌を描くように曲を作ってるんです」出逢って間もない頃、楽曲制作の手法を尋ねると、Sanoはこう答えた』と記してあるが、このエピソードが示す通り、本作には彼自身が紡ぎ出した物語をもとにした、豊かで奥深い音楽世界が広がっている。

既にMVが公開されている「滅亡と砂時計」「革命的閃光弾」を含む『STORY TELLER』、アルバムの始まりを告げるのは、エキゾチックな雰囲気の「WORLD PARADE」。心地よく飛び跳ねるリズム、民族音楽のエッセンスを感じさせるアレンジ、そして、サビに入った瞬間にーーまるで新しい世界への扉が開いたほうにーー大らかな解放感が広がるメロディ。『STORY TELLER』という名の物語のオープニングにふさわしい、前向きな意志と光を感じさせる楽曲だ。

2曲目の「決戦前夜」は、北村匠海、芳根京子、宮沢りえなどが出演するアニメーション映画『ぼくらの7日間戦争』の主題歌。疾走感に溢れたサウンド、ドラマティックなメロディ、理想の場所に進もうとする勇気をテーマにした歌詞がひとつになったこの曲は、『ぼくらの7日間戦争』の世界観と強く重なりながら、彼自身の独創的にしてポップなSano ibukiの音楽観をしっかりと訴求している。映像作品との相性の良さも、彼の特徴。Sano ibukiはこの先、アニメ、映画、ドラマなどとコラボレーションしながら、自らの表現の幅を広げていくことになるだろう。

緻密に構築されたリズムアレンジと、大空に向かって飛び立つような大らかな旋律が溶け合う「Kompas」、アコースティックギター、弦楽器を中心にした音像がフォークロア的なイメージを描き出す「いとし仔のワルツ」、荘厳なコーラスから始まり、叙情的な美しさを備えたボーカルが響く「マリアロード」など、音楽的な意匠も豊富。そして、すべての真ん中にあるのは、Sano ibuki自身の歌だ。時代、国境の壁を越えた架空の街を舞台に、人々の出会いや別れ、人生の素晴らしさ、切なさ、悲しさを描いた楽曲を彼は、豊かな表現力と凛とした佇まいの声によって、見事に歌い上げているのだ。極論すれば、声の力だけで物語を紡ぎ出せるセンスと技術こそが、Sano ibukiの核なのだと思う。

アルバムのリリース後の11月8日には、渋谷WWWでデビュー記念フリーライブを開催。今後Sano ibukiは、『STORY TELLER』のストーリーをライブという場所で表現することになるはず。そこで我々は、音楽と物語が一体となった、新しいエンタテインメントを体感することになるだろう。

文 / 森朋之

Sano ibukiの作品はこちらへ。

オフィシャルサイト
https://www.sanoibuki.com

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