サザンオールスターズと昭和・平成・令和元年  vol. 10

Column

「チャコの海岸物語」から読み解く、恋物語。気になる登場人物たち

「チャコの海岸物語」から読み解く、恋物語。気になる登場人物たち

今年デビュー40周年を迎えたサザンオールスターズのバンド・ヒストリーを、彼らが生み出した数々の作品から改めて見つめていく。音楽評論家・小貫信昭が独自に紐解く、サザンオールスターズの魅力──。


今回は「チャコの海岸物語」(1982年1月)。ひとつ前のシングルが「栞(しおり)のテーマ」(1981年9月)なので、ガラリと違う作風だ。ひとつ前どころか、1980年〜1981年の彼らのシングルとも違う流れである。“FIVE ROCK SHOW(ファイブ・ロック・ショー)”の楽曲たちは、いわば桑田佳祐の“洋楽脳”が生み出した部分もあった。今回は、大きく“邦楽脳”へ舵を切ったものと言える。要するに、歌謡曲を客観的に“ジャンル”として意識し、取り入れているのだ。

結果として、換骨奪胎の精神や、カリカチュアライズへ繋がった。ここはザックリと、歌謡曲のパロディ、という言い方もアリかもしれない。でもしかし、“シャレです、パロディです”と言いつつも、むしろ本来の歌謡曲がなくしかけていた“本質的な良さ”にも届いたのが、「チャコの海岸物語」だったかもしれない。動かぬ証拠が、大ヒットという事実。私たちはこの曲を、今も変わらず、愛し続けている。

サザンオールスターズの活動のタイミングとしては、この曲で再び、テレビの歌番組とも積極的な関わりを持つ。それもあって、パフォーマンス重視の楽曲として育っていった。となると、触れないわけにはいかないのが、この年の年末の『紅白歌合戦』への出場だ。桑田が行った先輩歌手のモノマネを含むパフォーマンスが、物議を醸したのだ。ただ、そこには時代背景がある。80年代前半の「紅白」は、アーティストの意向も取り入れる現在とはまったく違っていたのだ。あくまで音楽番組の最高権威として君臨し、出演者全員が“「紅白」という絶対的な演出”に従った。でも、ロック・バンドたるサザンオールスターズは、持ち前のユーモアを武器に、時の権威に挑むようなパフォーマンスをした。その姿は、実にアッパレだったのだ。

手元にアナログのシングルがあるので、さっそく針を落とし、久しぶりに聴いてみよう。まずイントロで、海猫(?)の鳴き声と波の音のSEがあり、空に放つようなピアノからイン・テンポし、“抱きぃ~し~めたい~”のコーラスが聴こえる。これはムード歌謡風。「いなせなロコモーション」におけるドゥ・ワップを基にしたコ-ラスなどとは明らかに違う。歌詞の1行目は画期的である。それは〈海岸で若い二人が 恋をする物語〉という、いきなりの体現止めだ。まるでお芝居の口上でもあるかのような趣旨説明。やがて歌は始まっていく。

歌謡曲、歌謡曲と連呼しているが、全体の曲調としては洋楽的とも言える(筆者にはフレンチ・ポップ風に聴こえる)だろう。しかし、そこかしこに歌謡曲的なアイデアが散りばめられている。2コーラス目の最後に(歌詞カードには記載されていないが)“愛してるよ”という台詞が入るのもそうだし、エンディングの〈みつけたのさ〉の“た~の~さ~”のハモリもグループ・サウンズのブルーコメッツあたりを彷彿させるものになっている。

普段とは違うこの曲を、いつものように歌唱するには照れがあったのか、桑田のボーカルが異質だ。それまでの彼は、アウフタクト(弱起)や巧みなシンコペーション、巻き舌なども駆使し、実年齢より上の印象の歌声だったが、この曲では“年端もいかない”“たどたどしい”、そんなキャラが伝わる。故意に別の人格を装っているのだ。もちろん、桑田は桑田であり、ほかのヒトの声には聴こえないが、あきらかに違う意識だったのだろう。

もうひとつ注目すべきことがある。この歌には〈チャコ〉(飯田久彦)、〈ミーコ〉(弘田三枝子)、〈ピーナッツ〉(伊藤エミ・伊藤ユミの姉妹デュオ)という、いずれも60年代の和製ポップスのスターたちが登場する。桑田はシンパシーとリスペクトを込め、〈心から好きだよ○○○〉と歌いかけている。〈心から好きだよ〉でメロディが弾み、印象深く伝わる。

その一方で、この歌は歌詞の1行目として冒頭でも紹介したとおり、〈若い二人〉(1番)、〈恥ずかしがり屋の二人〉(2番)の物語でもある。彼らの恋は急展開し、いきなり地元の浜辺から〈南の島〉へ翔び、〈サンゴショー〉がお出迎えしたかと思うと長くは続かず、〈エボシ岩〉は涙に〈かすんでる〉こととなる。そんな〈若い二人〉と〈チャコ〉〈ミーコ〉〈ピーナッツ〉は、どのような関係性なのかというと、これがどうやら二重構造と解釈すべきものなのだ。

確実にわかっているのは、〈チャコ〉は〈つれなくて〉、〈ミーコ〉は〈甘くてすっぱい女(ひと)〉だということなのである。〈ピーナッツ〉のところで〈浜辺の天使〉を見つけたんだという表現が出てくるが、これは〈ピーナッツ〉のみを指しているのか、このあたりは不明だ。この歌を、あくまで〈若い二人〉の物語と解釈するなら、主人公が新たな恋を見つけた(つまり、〈浜辺の天使〉=新恋人)とも解釈できるが、そのあたりは皆様のご判断にお任せすることにしよう。

文 / 小貫信昭

SINGLE「チャコの海岸物語」
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