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山田裕貴の演じる少年が、果てない旅で見つけた本当の自分とは? 舞台『終わりのない』絶賛上演中!

山田裕貴の演じる少年が、果てない旅で見つけた本当の自分とは? 舞台『終わりのない』絶賛上演中!

3年ぶりに舞台に戻ってきた山田裕貴が主演を務める舞台『終わりのない』が、10月29日(火)から世田谷パブリックシアターを皮切りに上演中だ。
稀代の劇作家・演出家でイキウメを主宰している前川知大と世田谷パブリックシアターのタッグによる本作は、ホメロスの「オデュッセイア」を原典に、古代と未来、日常と宇宙を繋げる果てない旅を描いたSF作品。出演者には、山田裕貴のほか、初舞台となる奈緒をはじめ、清水葉月、村岡希美、イキウメ作品には欠かせない仲村トオル、そして安井順平、浜田信也、盛 隆二、森下 創、大窪人衛らイキウメの劇団員が名を連ねる。
本作のゲネプロが初日前日に行われ、山田裕貴らの熱演を目の当たりにした。

取材・文 / 竹下力 撮影 / 岩田えり


人類が描く未来の物語に希望を見出すことが今の時代に必要

終わりのない エンタメステーションステージレポート

静まりかえった暗闇の中、人間のゆっくりした呼吸の音から舞台が始まる。舞台装置は、円形の素舞台と奥面に丸く区切られたスクリーンだけ。やがて、スポットライトが中央にあたり、18歳の川端悠理(山田裕貴)が凛と語り出すのは、彼が9歳のときにスキューバダイビングをして溺れてしまったことの回想だ。そして、悠理はゆっくりと前を見据えて、こう言い放つ。「これは、僕の物語だ」。静謐でいて、力強く、メッセージ性の溢れたオープニング。

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その後、悠理たちはある湖畔でキャンプをしている。そこには、幼馴染みの色川りさ(清水葉月)や戸田春喜(大窪人衛)、悠理の父親でプロのダイバーの山鳥士郎(仲村トオル)、悠理の母親で量子論を研究している川端 楊(村岡希美)たちが何気ない会話をしている。その脇で悠理は、18歳になって幼馴染みとキャンプに来ることや、父親と母親と会話をすることに違和感を覚え苛立っている。彼は中学生のときに知り合った友達の能海 杏(奈緒)との出会い、高校受験を失敗してしまったことを苦々しく独白する。そんな彼が現実に目を戻すと、両親が突然離婚を発表している。未来が見えなくなった彼は、自分の存在をちっぽけで惨めに感じていく。そして、半ばやけっぱちになって泳ぎにいった湖で再び溺れてしまう。彼が再び目を開けると、そこは 3185年の宇宙船の中だった……。

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山田裕貴はインタビューで「革命のようなことをお芝居で起こしたい」とまっすぐな視線で真摯に語ってくれたけれど、本当に意識に革命が起こるようなマジックに満ちていた。終演後、外に出ると街に溢れている居酒屋の看板も、地下鉄への案内掲示板も、どこか見慣れた世界の位相がズレているように感じられ、今まで見てきた風景がガラりと変わって見えたのだ。言ってしまえば、我々の価値観、そして人生そのものも、今作の観劇という体験を通して、組み替えられ、変わったということなのかもしれない。山田裕貴を筆頭に、10人の俳優たち、そしてカンパニーが見せてくれたのは、ひょっとしたら革命後の世界なのかもしれない。

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作・演出の前川知大の作劇は、どこからストーリーを区切っても、テーマになりうる要素を生み出していく。並列世界における人間の存在、地球が滅びた世界で新しい地球を探す未来人といったSFの設定を使いながら、未来と現代、日常と宇宙、意識と無意識、生と死といった二元論、さらに環境問題という現代を覆い尽くす諸問題まで、上演時間の2時間の中に見事に収めていた。古典を原典としたSF作品でありながら、現代的で、様々な問いかけをしている。その中で注目したいのは、「自分とはいったい何か? いったいどこから来ているのか? どこへ辿り着けばいいのか?」と思い悩む悠理の思春期の心情が、我々の誰にも寄り添う作品になっていることだろう。本作は、10代のアドレッセンスを描いている点も突出していると思う。原典の「オデュッセイア」は、英雄オデュッセウスが妻のもとへ帰還する旅を描くが、今作は原典にオマージュを捧げながら、10代の脆くて弱い主人公の旅と、人類の旅を重ねて描くあたり、前川の手腕の凄さを物語っていると思う。

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登場する役者は10人のみだけれど、現代と未来、パラレルワールドとそれぞれのシーンを丁寧に演じ分けていくことでスペースドラマを緻密に再現している。現代のシーンでは、清水や大窪や村岡や仲村が山田を支え、3185年の未来の世界ではアンドロイドのダン 役の浜田信也や、未来人のリヒト 役の安井順平やゼン役の盛 隆二、ある星に漂着した地球人の日暮A 役の森下 創といったイキウメの劇団員が中心となって未来のユーリを演じる山田裕貴に力添えしていく。そんなカンパニーのチームワークも見どころだろう。そしてそれを最大限に活かす前川の演出も見事だった。時間と空間、虚と実を巧みに操りながら、シームレスに21世紀と32世紀を繋げることで、悠理というひとりの人間から、人類の未来のあり方を問いかける壮大なスケールの物語を表現していた。

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全編ほぼ出ずっぱりの山田裕貴の演技は特に際立っていたと思う。18歳、家に引きこもりがち、シニカルで自己評価が低く、ゲームばかりしている、現代でいえばニートな少年が、自我に目覚め、世界という自己と対峙し、立ち向かう様に、いいようのないカタルシスとノスタルジーを覚えるのは、誰もが通ってきた道だからだろう。同時に同世代の観客であれば、思春期の戸惑いに思わず感情移入してしまうだろう。そして、彼の表情豊かな芝居は筆舌にしがたかった。彼が笑っていると笑ってしまうし、泣いていれば泣いてしまう。山田裕貴の才能をまざまざと見せつけるような舞台でもある。

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そんな山田の脇を支える面々も個性的で観ていて楽しい。初舞台の奈緒は堂々とした演技。清水葉月の陽気な女の子姿は初々しくて可愛らしかった。村岡希美は思慮深く溌剌としたお母さんだったし、仲村トオルは環境保護を訴えるために政治家になろうとする現代人らしいメンタリティーを持ったキャラクターを淀みのない台詞回しで演じていた。また、安井順平はコメディリリーフ的な役割で、とにかく山田裕貴とのやりとりに笑ってしまった。浜田信也演じるアンドロイドには人間の尊厳について深く考えさせられて感動した。盛 隆二が演じたユーリの仲間のゼンが「夢と現実を取り違えるな」と言う大人然とした芝居は、子供のユーリとの見事な対比になっていたと思う。森下 創はかつては地球人でありながら宇宙の果てで身をやつした日暮Aを熱演。大窪人衛もどこか間の抜けたコミカルな役をしっかり演じていた。

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この物語の最大の特徴は、ユーリ/悠理も、様々な世界を行き来しながら、少しずつ成長していくが、そこに結末がないことだ。つまり、世界が存在し続けるかぎり、人類も物語をつくりながら永遠に旅を続けていく。人間は生死という概念で割り切れるのではなくて、単純に物語を紡ごうとする意識だけで存在しているのではないか。そう、前川知大は伝えたかったような気がする。だからこそ悠理は「僕の物語」と言う必要があったのだろう。人には人の数だけ物語がある。そしてそこに終わりはない。人類が描く未来の物語に希望を見出すことが今の時代に必要だと教えてくれる。

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東京公演は11月17日(日)まで世田谷パブリックシアターにて上演。その後、兵庫、新潟を経て、12月4日(水)の宮崎公演で千秋楽を迎える。

世田谷パブリックシアター+エッチビイ『終わりのない』

世田谷パブリックシアター+エッチビイ『終わりのない』

東京公演:2019年10月29日(火)~11月17日(日)世田谷パブリックシアター
兵庫公演:2019年11月23日(土・祝)~11月24日(日)兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
新潟公演:2019年11月30日(土)りゅーとぴあ新潟市民芸術文化会館・劇場
宮崎公演:2019年12月4日(水)メディキット県民文化センター(宮崎県立芸術劇場)

INTRODUCTION
始まりもなければ、終わりもない。時間と空間。無限の世界。
命は繰り返され、つねに旅の途中にある。
歴史はいつ始まり、物語はいつ終わるのか。
旅、世界、物語。終わりのない。

神話的世界とSF的世界。
神話の時代、世界は未知で溢れていた。
自然の猛威も、人生の不条理も、神々の言葉だった。
科学の網の目からこぼれ落ちた未知の存在、神や魔物はいまも可能性として輝いている。

『終わりのない』は、古代ギリシャの叙事詩「オデュッセイア」を原典にした新作SF。
最古の文学のひとつである「オデュッセイア」は、歴史と神話が地続きに描かれ、人間と神々が同居している。
史実とされるトロイア戦争の英雄オデュッセウスは、妻の待つ故郷への長い旅路にある。神々の嫉妬や助け、魔物との戦いを乗り越え、帰還する。
英語にするとオデッセイ(ODYSSEY)、作品名でありながら「長い旅」を意味する。
本作『終わりのない』では、「わたしたちは何故ここにいるのだろう?」「いつの間にこんなところまで来てしまったのだろう?」と、個人の旅を人類の旅と重ね、望郷の念をもって描いていく。
古代と未来の往還、日常と宇宙を繋げる旅。
そこで人はなにと出会うのか。

脚本・演出:前川知大
原典:ホメロス「オデュッセイア」
監修:野村萬斎
主催:公益財団法人せたがや文化財団 エッチビイ

出演:
山田裕貴
安井順平
浜田信也
盛 隆二
森下 創
大窪人衛
奈緒
清水葉月
村岡希美
仲村トオル

オフィシャルサイト
オフィシャルTwitter(@setagayatheatre)