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RPGの疑問を突きつける?『moon』知る人ぞ知る問題作が待望のリメイク

RPGの疑問を突きつける?『moon』知る人ぞ知る問題作が待望のリメイク

1997年、「もう、勇者しない。」という衝撃的なキャッチコピーを掲げてゲーム業界に殴り込んできた問題作、『moon』。特別な血筋や力を持たない少年が主人公になり、従来のRPGのみならずさまざまなものを風刺した衝撃のストーリー。クレイアニメのような丸っこいキャラクターデザインとは裏腹に、かなり尖った作品だったのです。筆者は発売当時にプレイをしておらず、「風変わりで刺激的なRPGが発売された」という噂を聞いていたのみでしたが、確実に一部ファンのハートを掴んで離さない本作の内容には、かねがね興味を持っていました。しかし、オリジナルのPlayStation®版ソフトはもうとっくに販売されていませんし、プレミア価格で流通しているような状態です。多くの名作ゲームが最新ハードでリメイクされている昨今、『moon』も……と望むファンの声はずっと以前からあちこちで聞こえていたものの、ずっと果たされずにいました。ですが、オリジナルの発売から22年後の2019年、満を持してNintendo Switch™ダウンロード専用タイトルとして蘇りました。PlayStation®で発売された当時は容量の都合でモノラル音声だったところをステレオ音声に対応させた、Nintendo Switch™対応に最適化させたという以外は、変更・追加一切なしという硬派な仕様です。当時、機会を逃した筆者は勇んでプレイし、プレイヤーの心を掴む理由を探ってみました。

文 / 内藤ハサミ


ゲームの世界で繰り広げる謎解きとラブ集め

本作はRPGではありますが戦闘はなく、ゲーム内に勇者は存在しますがプレイヤーキャラクターではありません。主人公は勇者でもなく、武力も持たないひ弱な少年なのです。少年は、“FAKE MOON”というゲームをプレイしている最中にテレビ画面へと吸い込まれ、プレイしていたゲームの世界“ラブデガルド”に入り込んでしまいます。

moon エンタメステーションレビュー

▲主人公の体と着ていたパジャマは透明になってしまい、ゲームの住人たちからはまるで見えないようです

街行く人の話に耳を傾けつつ歩き回っていましたが、誰からも見えない透明な主人公にできることは人の話を聞くことくらいしかありません。しかし、町はずれに住む目の見えないおばあちゃんだけが、透明な主人公の存在を感じてくれました。おばあちゃんは、事故で亡くした自分の孫が帰ってきたのだと思っているようで、主人公に孫が着ていた洋服を着せてくれました。体が透明なため服だけが歩いているような姿になった主人公のことを、住人たちはそれほど気にしません。もともと変わったキャラクターが多い世界だからなのでしょうか。他人から認知されることによって住人とは会話ができるようになり、アイテムを購入して使ったりできるようになります。少し気になっているのは、最初に筆者が主人公として入力した名前は“ドクマムシ”なのですが、死んだと言われている老婆の孫も筆者が入力した“ドクマムシ”という名前だったことです。

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▲写真のパン屋のベイカーさんだけでなく、多くの住人が死んだ老婆の孫と主人公を間違えます

主人公とは別に、この世界には月の光を食べてしまった竜を退治するため旅に出る勇者が出てきます。その名前もプレイヤーが入力する名前と一緒なのです。同じ名前の人物が3人いる? これはおそらく偶然ではないでしょう。この大きな謎を抱えつつマップを歩きまわり情報を集めていくと、この世界で主人公がしなければならないことがわかってきました。それは、ゲーム世界の住人との交流。そして、主人公と同じ名前の勇者によって無残にも殺されてしまったアニマルたちの死体を見つけ、その彷徨う魂をキャッチし生き返らせたりして“ラブ”を集めること。アニマルによって魂を出現させる方法は異なり、死体のそばにただ漂っている魂をキャッチすればいいという簡単なものから、条件を揃えるのに少し頭を使って動く必要があるもの、特定のアイテムを使うものなどさまざまです。実は筆者も死体は見つけたものの、魂を出現させる方法がわからずにいるアニマルが何匹かいます。1週間ほどずっと考えているのですが、未だ条件がわからないんですよね……ほぼノーヒントで考えなければいけないものもあり、登場するアニマル全ての魂を救うのは、相当難しいと感じました。

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▲勇者は正義の名のもとに、罪のないアニマルたちを次々と殺していきます

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▲殺されたアニマルの魂をキャッチすると、UFOが現れて彼らを生き返らせるのです

それにしてもこの“スライ”というアニマルは、何かに似ていると思いませんか? ゲームをプレイしている人なら、きっとどこかで見たことがありますよね。さらに、上のスクリーンショット左下に映っている真っ二つになったアニマルは“キラドー”という名前です……。「そんなにはっきり使っちゃって大丈夫!?」と思うくらい、わかりやすいモチーフですよね。そんなアニマルたちの死体を目にし、「人畜無害な生き物を殺すなんて、勇者はヒドイ奴!」と一瞬思いかけていた筆者はハッとしました。今までゲーム内でプレイヤーの自分が“勇者”として行っている戦いは、世界を救うために必要な冒険のひとつだと思っていましたが、実際にゲーム内の第三者としてその行動を見てみると、なんと理不尽な暴力を行っていることか。さらにこのラブデガルドにいる勇者は、人の家や店のバックヤードにズカズカと上がり込み、タンスを開けてめぼしいものを持っていくのです。どう考えても勇者にふさわしい行動ではないでしょう。これも以前までプレイしていたRPGでは、当たり前に自分が行ってきたことです。たしかにこれは、ただの盗人ですね……。

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▲まあ、ふつうはそう言われますよね。私が自分の店を持っていたとしてバックヤードに入られたら、同じことを言うと思います。街の住人は、傍若無人な勇者の振る舞いにウンザリしているのです

なるほど、本作が“アンチRPG”と呼ばれる理由はこういうところにあるのかもしれません。このゲームは、プレイヤーに何を訴えかけようとしているのでしょう。ゲームなどは反社会的行為を推奨するくだらないものだから、やめてしまえということでしょうか? 筆者は、それはまったく違うと考えているのですが、その理由は……もう少し内容に踏み込んだ話になるので、次回の記事で触れていきますね。

ラブを集めて世界の真実に近づいていく

前章で、ラブを集めるのがラブデガルドにおける主人公の使命だと書きました。というか、このゲームでプレイヤーがすることはほぼそれだけです。住人と交流して彼らのことを知り、勇者に殺されたアニマルを生き返らせながらシナリオを進めていくことになります。ただし、初めは限られた時間しか動き回ることができません。活動可能な時間を超えてしまうとその場で倒れ、ゲームオーバーとなってしまうのです。そうなると、以前セーブされたところからやり直しです。それを防ぐためには、活動限界が来るまえにおばあちゃんの家などにあるベッドに入って寝る必要があります。この世界は現実世界と同じように朝、昼、夜が順番に訪れ、7つの曜日も設定されています。最初は半日も動き回ることができない主人公の活動時間はラブを規定数集めることで徐々に増えていき、いずれは丸一日以上寝ずに歩き回っていられるようになります。そうすると行動範囲も広がって、新しい何かを発見できるというわけです。ラブを集める順番に関しては明確に決まっているわけではありませんから、活動時間内であれば自由に攻略を進めることができます。

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▲ラブにはレベルがあり、レベルごとに面白いキャッチコピーがつきます。ちょっと嬉しい

この世界の住人たちにも決められた活動時間が設定されていて、現実世界と同じく7つの曜日も影響することがあります。朝から夕方まで開いている店の主人が夜はバーに向かったり、特定の曜日にしか現れないオブジェクトがあったり。話しかけるタイミングによって得られる情報が違う場合もあるのです。面白いのが、住人が移動するところを尾行できるということ。彼らはちゃんとゲーム内を移動して目的地に向かうんですよね。怪しい行動をする住人を夢中になってストークしているだけで、かなりの時間を費やしたこともありました……。

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▲店を閉め、歩いてバーに向かうパン屋のベイカーさん

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▲昼は寝ていて、夜でないと話しかけることができないバーのママ

移動する住人の尾行は攻略するうえで必要なことでもありますが、どうしても待ち時間が発生し、サクサク進めるばかりではありません。物や人へのターゲットが合わせづらい、移動速度がかなり遅いなどの細かな不便もありますが、ここは当時の雰囲気そのままをじっくりと味わい、ゲーム内のゆったり流れる時間に身を任せて楽しむのもなかなかオツな体験かもしれません。

現れる敵を倒して経験を積んでレベルアップし、最終的に強大な力を持つラスボスを倒すというRPGのセオリーからは大きく外れた本作。なにせ戦闘やレベルの概念はありませんし、主人公はモンスターを殺さず、むしろ救済するわけです。そして、それによって得られるのは経験値ではなく“ラブ”です。独特の味わいがあるグラフィックも一度見たら忘れられないインパクトがあります。これだけでも十分個性的すぎる作品だと言えますが、今まで発売された代表的なRPG作品の内容を否定するように感じられる演出が一番注目すべき点でしょう。しかし、それらのRPGに親しみ熱中してきた私たちだからこそ納得出来たり、共感できたりする点があるのも事実。

現在、筆者の攻略はストーリー終盤に差し掛かったあたりです。本作は、ゲーム自体のテンポがいいとも言えず、プレイの手触りが直感的で気持ちのいい作品では決してありません。しかし、不思議と攻略の意欲は落ちず、むしろ今も高いテンションで持続しています。我ながらこれは不思議な感覚です。単純に「プレイしていて面白いゲームだ!」と実感できるシーンはないに等しいのに、この作品独特のカタルシスが存在することは確かなのです。さて、このストーリーはどこに向かい、どんな結末を迎えるのか。フィールドのあちこちでラブを得て進みながら、次回記事ではこの問題作の内部をさらに覗いてみようと思います。

フォトギャラリー
moon ロゴ

■タイトル:moon
■メーカー:Onion Games
■対応ハード:Nintendo Switch™
■ジャンル:Remix RPGアドベンチャー
■対象年齢:全年齢
■発売日:発売中(2019年10月10日)
■価格:ダウンロード版 1,980円(税込)
ダウンロードサイトはこちら


『moon』オフィシャルサイト

Published by Onion Games
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