モリコメンド 一本釣り  vol. 143

Column

片想い バンド以外の生活がバンドの音楽に反映される豊かな循環

片想い バンド以外の生活がバンドの音楽に反映される豊かな循環

生活や人生のいろんなことを犠牲にして、音楽(もしくはスポーツとか演劇とか、夢や目標と言われること全般)にすべてを捧ぐ——という志はもちろん立派だが、そこまでストイックに活動できる人はわずかだろう。そこまで注ぎ込むことは無理だけど、そのときの状況や環境のなかで、無理のない範囲で“やりたいこと”を続けようとするほうが現実的だし、“それだったらやれるかも”という人のほうが多いだろうし、むしろそっちのほうが、じつは豊かな人生を送れることもあると思う。今回紹介する“片想い”は、まさにそういうバンド。決して片手間とかユルというわけではないし、その音楽性はめちゃくちゃ高いのだが、メンバー全員が“このバンドにすべてを賭ける!”という感じではなく、他の音楽プロジェクトを掛け持ちしていたり、まったく別の仕事を持っていたり、バンド以外の生活がちゃんと存在していて、そこで得たことがバンドの音楽に反映されるという豊かな循環が行われているのだ。ハッキリ言って、ものすごく羨ましい。

片想いが結成されたのは、10年くらい前。メンバーが出たり入ったりしながら、現在は片岡シン(vo / sanshi)、MC.sirafu(g / Key)、issy(key / cho)、あだち麗三郎(dr / cho)、伴瀬朝彦(b / cho)、遠藤里美(sax / cho)、大河原明子(horn)、オラリー(vo)の8人で活動している。R&B、ソウル、ファンクなどブラックミュージックのエッセンスを取り入れたバンドサウンド、叙情性と高揚感を併せ持った歌によってインディーシーンで強い支持を獲得。初期の名曲「踊る理由」「すべてを」をカクバリズム(YOUR SONG IS GOOD、キセル、スカート、浜野健太などが所属するインディーレーベル)からリリース、さらに1stアルバム『片想インダハウス』(2013年)を発表すると、心と身体を踊らせる豊かな音楽世界は、多くの音楽ファンによって共有された。

2016年に3年ぶりの2ndアルバム『QUIERO V.I.P.』をリリースした後も、マイペースに活動を継続していた片想い。片岡は銭湯を運営、MC.sirafuはザ・なつやすみバンド、うつくしきひかりなどのプロジェクトにも参加、その他のメンバーもソロ作品をリリースしたり、子育てをしたりと、いろいろな活動を行っている。各メンバーがそれぞれの人生、キャリアを歩みながら、そこで得たものをバンドに持ち帰ることで、片想いの音楽は深みを増していく。これ、本当に理想だと思う。

昨年、緻密なトラックメイクと大らかな歌が共存するファンク・ポップ・ナンバー「Dig Power」を発売。2019年に入ってからも、浜野謙太主演の映画『面白南極料理人』エンディングテーマに起用された「2019年のサヨナラ(リリーへ)」(ノスタルジックなホーンの響きが印象的なミディアム・チューン)を配信リリース、さらに心地よいファンクネスが心地いい7インチシングル「環境」を発表するなど、少しずつ活動のペースを上げてきた片想いは、今年9月、待望の3rdアルバム『LIV TOWER』を発表した。「Dig Power」「2019年のサヨナラ(リリーへ)」「環境」を含む本作は、このバンドの個性と豊かさがたっぷり楽しめるアルバムに仕上がっている。

変拍子を取り入れたアレンジ、洗練されたホーン・セクションがひとつになったダンスチューン「Boo!Doo!Night」、生々しいグルーヴが渦巻き、“生きる”をテーマにした軽やかな歌が広がるファンク・ナンバー「お〜い!生きてるぞ〜!」、70年代のジャズ・ファンクにサイケデリックな要素が加わった「Cryptic」。スライ&ザ・ファミリー・ストーン、70年代のマイルス・デイヴィスあたりを想起させるサウンドメイク(独創的なミクスチャー感覚とか、全員でコーラスする感じとか、変拍子やポリリズムを交えたビートの構築とか)、そして、日々の生活のなかで生まれる感情や風景を面白おかしく、ときにじんわり涙が滲むような表現で描き出す歌は、本作によってひとつの高みに達していると言っていい。誰でも楽しめるポップスでありつつ、マニアックな音楽ファンを唸らせ、飽きさせない音楽性を共存させた『LIV TOWER』は、2019年を代表する1枚である!と声を大にして言いたい。

11月から12月にかけてアルバム『LIV  TOWER』のリリースツアー〜無人島で見たものは?〜(※2020年1月11日東京キネマ倶楽部にて片想い『LIV TOWER』リリーススペシャル公演“片想インダリベンジ”<10月12日の「片想インダ公園2019」の振替公演>)を開催。音楽的な好奇心を満たし、感情と体をしっかり揺さぶってくれる片想いの音楽をぜひ、ライブの現場で味わってほしいと思う。そして今後も、ゆっくりと(アルバムは3年に1枚くらいでOKなので)素晴らしい音楽を奏でてほしいと心から願う。

文 / 森朋之

その他の片想いの作品はこちらへ。

オフィシャルサイト
https://kakubarhythm.com/artists/kataomoi

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