山口洋のSeize the Day/今を生きる  vol. 71

Column

Shelter from the Storm

Shelter from the Storm

「経験したことのない」という言葉が毎年更新されるような“災害列島”と化したこの国。
中央集権型の社会システムに無数の亀裂と分断が生じているいま、一人ひとりに「どこで、どうやって、何を大切に暮していくのか」が突きつけられている。
HEATWAVE40周年記念ツアー&アルバム・リリースを前に、いま「ここ」にある危機の中で山口洋が感じたことーー。


台風19号が東日本の広大な範囲に襲いかかった日。僕は岩手県奥州市で、今年のソロ・ツアー最終日を迎えていた。コンサートは強風の中、なんとか開催されたが、翌日自分の運転で東京に戻れるかどうか、まるでわからなかった。

そこからの帰路、14時間の道程で感じたことを記しておきたい。願わくば、未来のために。

災害が起きるたび、現場に居あわせて思うのは報道と自分の感覚とのギャップ。自分が体験し、感じたこととつりあったことは一度もない。それゆえ、メディアからの情報は鵜呑みにはせず、参考にするにとどめて、あとはすべて自己判断によって行動する。例の自己責任ってやつで。

予想通り、朝になって東北道は全線通行止め。どんなに調べても、その理由と開通の見込みのアナウンスは見つからない。ならば一般道で匍匐前進するしかない。僕にはアルバムを完成させるために、どうしても帰らなければならない理由があった。

むろん出発する前に、ホテルのテレビで情報はすべてチェックしていた。でも、僕の置かれた状況をもっとも理解し、その危険性についてアドヴァイスしてくれたのは外国在住の兄貴分だった。「移動についてはよくよく考えろ」と。彼と僕は世界中でデンジャラスな旅をしてきた仲だから、その動物的感覚を全面的に信頼している。

ほんの一部分だけ高速道路は通行可能になったが、すぐに降ろされる。その理由も不明。一般道は信じがたいほどの渋滞。連休中でもあり、まったく動かない。イライラが募って小さな事故は多発。渋滞に拍車をかける。いったいいつになったら家に帰ることができるのか……。

そのうち、台風被害がいかにひどかったか、目の当たりにするようになる。僕が帰るべき600キロ弱の道のりのうち、大きな河川はほぼすべてが決壊、氾濫していた。

飛行機からこの国を見渡してみればよくわかる。ほとんどが山地で、平野部分が少ないこと。狭い平野部分の扇状地は山からの水によって(つまり河川によって)長い時間をかけて形成されたもので、治水の方法を間違えたり、大量の雨が降った場合はいつだって氾濫する危険性があること。

渋滞にしびれをきらした僕は、ナビゲーションで迂回路を探す。行けそうな道を探しだし、迂回を試みるも、かならず河川が氾濫していて、行く手を阻まれる。VICS(道路交通情報通信システム)は機能しておらず、一般道の通行止めがナビに表示されることは一度もなかった。なんであれ、通行止めの前では引き返すしかない。

なによりも怖かったのは。

陽が暮れて、あたりが闇に包まれると、氾濫した水によってどこまでが道路かわからなくなるのだ。まるで水というブラックアイスバーン。初めての体験。僕の車が大きくて、車高が高く、四輪駆動だったから事なきを得たが、普通の車だったら浸水して通行不能になっていた可能性もある。そして、もし道路が陥没していたとしても、全く予測できない。落ちたら、それで終わり……。

同じ状況下で何台も車が流され亡くなった人がいるという事実。その運命を思うとほんとうにこころが痛む。僕に降りかからなかったのは単にラッキーだっただけだから。

総じて、インフォメーションはなかった。こころを決めた。これは政府主導で動かなければいけないような案件だろうが、おそらくファンクションしていない。誰も命を守ってはくれない。ならば、自分で生き残るしかない。

食料やガソリンも調達できなくなる可能性も考えておかねば。むろんなにも食べていないし、開いている店もない。コンビニがあっても、まともな商品もない。とりあえず、水だけは確保して前進を続ける。

東北道に戻るのは不可能だと判断した。一般道で帰ることも。ならば、残された道は常磐道のみ。その時点では福島や茨城のひどい被害状況を知る由もなかったが、僕にはその選択しか残されていなかった。

常磐道のインターチェンジまで大した距離ではなかったが、そこにたどり着くためには大きな川を越える必要があった。賭けだ。

渡れた。大きな川ゆえ、堅牢な橋が架かっていた。濁流にぞっとしながら。なんとか埼玉あたりまで戻って、ようやく食事。深夜のレトルトスパゲッティー。地面と身体が揺れている。

安堵とともに、心底、疲れた。

あれから2週間経過しても、あの14時間によってもたらされた腰痛と首痛が忘れさせてくれない。

昨今の自然災害は尋常じゃない。もはや、何があってもおかしくないと思う。覚悟しなければ。台風がこれだけ連続してやってくることがかつてあっただろうか?

温暖化による海水温度の上昇。これまでの治水のあり方。いろんな原因があるのだろう。でも、人間という生き物のこれまでの奢りが、災いを助長している側面はないだろうか? 今一度、ここで謙虚になって、たいせつにすべきことを学ばなければいけないのではないか、と痛切に感じた14時間。

今年亡くなった親友が、ファニーな声でこう歌っていた。

“誰のものでもない、わたしは土地を買わないだろう”

僕らの世代はいい。好き勝手に生きてきたから。でも、未来の世代に手渡すものがこれでいいのだろうか?

CHABOさんがこう歌っていた。

“何を手渡され、何を手渡すのか”と。

それは人として、とてもたいせつなことじゃないだろうか?

道中、僕を励ましたのはラグビーの試合だった。急遽ラジコ・プレミアムに入会して、スコットランドと日本の試合を聴きながら、真っ暗な道のりに車を走らせた。ラジオでラグビーってなかなかシュールだったけれど、自分を鼓舞するには十分だった。

そして頭の中で鳴っていたのはこの曲。実に示唆的だった。

Shelter from the Storm / 嵐からの隠れ家  Bob Dylan (1975)

意訳:山口洋

’Twas in another lifetime, one of toil and blood

When blackness was a virtue and the road was full of mud

I came in from the wilderness, a creature void of form

“Come in,” she said, “I’ll give you shelter from the storm”

もうひとつの人生で血反吐を吐いていたとき

陰鬱さが美徳とされ 道は泥だらけ

わたしが荒野から 形のない生き物から逃げてきたとき

「お入りなさい」と彼女は言った

「ここは嵐からの隠れ家なのよ」と

And if I pass this way again, you can rest assured

I’ll always do my best for her, on that I give my word

In a world of steel-eyed death, and men who are fighting to be warm

“Come in,” she said, “I’ll give you shelter from the storm”

この道をまた行けば ゆっくり休める

彼女のためにすべてを尽くそう そう約束すると

冷酷な目つきで 死の世界で暖かさを求めて戦う男たちに

「お入りなさい」と彼女は言った

「ここは嵐からの隠れ家なのよ」と

Not a word was spoken between us, there was little risk involved

Everything up to that point had been left unresolved

Try imagining a place where it’s always safe and warm

“Come in,” she said, “I’ll give you shelter from the storm”

わたしたちに会話はなかったけれど、問題は無かった

核心へとつながる ありとあらゆることが未解決

想像してごらん、いつでも安心できる暖かい場所

「お入りなさい」と彼女は言った

「ここは嵐からの隠れ家なのよ」と

I was burned out from exhaustion, buried in the hail

Poisoned in the bushes an’ blown out on the trail

Hunted like a crocodile, ravaged in the corn

“Come in,” she said, “I’ll give you shelter from the storm”

わたしは疲れ果て 燃え尽きていた

薮の中で毒にやられ 息も絶えそう

ワニのように狩られ 小麦畑でふみにじられ

「お入りなさい」と彼女は言った

「ここは嵐からの隠れ家なのよ」と

(中略)

In a little hilltop village, they gambled for my clothes

I bargained for salvation an’ they gave me a lethal dose

I offered up my innocence and got repaid with scorn

“Come in,” she said, “I’ll give you shelter from the storm”

丘の上の小さな村で わたしの服を手に入れるためにやつらは博打に興じる

救いを求めたのに やつらがくれたのは致死量の薬

純真さを差し出して もらったものは蔑みだった

「お入りなさい」と彼女は言った

「ここは嵐からの隠れ家なのよ」と

Well, I’m livin’ in a foreign country but I’m bound to cross the line

Beauty walks a razor’s edge, someday I’ll make it mine

If I could only turn back the clock to when God and her were born

“Come in,” she said, “I’ll give you shelter from the storm”

わたしは外国に暮らし いま国境を越えようとしている

美しさはカミソリの刃の上を歩く だからいつかそれをものにしてみせる

時を戻せるのなら 神と彼女が生まれた時まで

「お入りなさい」と彼女は言った

「ここは嵐からの隠れ家なのよ」と

感謝をこめて、今を生きる。


『Blood on the Tracks / 血の轍』Bob Dylan / ボブ・ディラン 

「Shelter from the Storm」「Tangled up in Blue」「Simple Twist of Fate」等全10曲が収録されたボブ・ディランの最高傑作の一つ。1974年にNYとミネアポリスでレコーディングされ、1975年1月20日にリリースされた(15枚目のスタジオ・アルバム)。画家ノーマン・リーベンから「時間」についての認識方法、無意識に感じていることを意識的に行うものの見方を教わったディランは、このアルバムについて「今までの私の作品と異なることは、みんなが同意してくれるだろう。歌詞の中に暗号があり、また時間の感覚というものがない」と語っている。
リリース当初から最高傑作の呼び声が高かったこのアルバムについて、多くの批評家たちはディランの当時のプライベートな事情が題材になっていると見ていたが、ディラン自身はこれを否定した(一方で、息子でミュージシャンのジェイコブ・ディランは「両親が話をしているようなアルバムだ」と語っている)。
全米チャート1位、全英チャート4位を記録。2012年に発表された「ローリング・ストーン」誌による「The 500 Greatest Albums of All Time」で16位。
なお、「Shelter from the Storm」は1976年9月発売のライヴ・アルバム『Hard Rain/激しい雨』にライヴ・ヴァージョンが収録されている(録音は同年5月16日、5月23日)。


著者プロフィール:山口洋(HEATWAVE)

1963年福岡県生まれ。1979年にHEATWAVEを結成。90年、アルバム『柱』でメジャー・デビュー。1995年発表のアルバム『1995』に収録された「満月の夕」は阪神・淡路大震災後に作られた楽曲で、多くのミュージシャン、幅広い世代に現在も歌い継がれている。“ミュージシャンズ・ミュージシャン”としてその名を挙げるアーティストも多岐にわたり、近年は野外フェスやR&Rイベントへの出演も多い。バンド結成40周年となる今年、これまで以上に精力的にライヴとレコーディングを行っており、9月23日開催のHEATWAVE SESSIONS 2019 “the boy 40”@東京・渋谷duo MUSIC EXCHANGE会場では最新シングル「HEAVENLY」をリリースした。11月10日(日)高松オリーブホールを皮切りにHEATWAVE結成40周年全国ツアーがスタート。全国6ヵ所を廻ってファイナルは12月22日(日)、東京 日本橋三井ホール。12月6日(金)福岡Drum Be-1よりニュー・アルバム『Blink』が発売される。複数会場を廻ったリスナーに抽選で最新アルバム全曲のオリジナルカラオケが当たる40周年企画「ツアー開催地ラリー」が12月21日(土)まで開催中(詳しくはhttp://no-regrets.jp/news/2019/1027_rally/)。Twitter、Facebookでも情報発信中。

オフィシャルサイト

ライブ情報

HEATWAVE 40th Anniversary Tour 2019
11月10日(日)高松 オリーブホール Supported by RUFFHOUSE
11月16日(土)長野 ネオンホール Supported by NEONHALL *SOLD OUT
11月17日(日)仙台 CLUB JUNK BOX Supported by smoke / VORZ BAR / そば食堂やぶ信
12月6日(金)福岡 Drum Be-1
12月13日(金)大阪 バナナホール
12月22日(日)東京 日本橋三井ホール
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リクオ スペシャル・ライブ「グラデーション・ワールド」*ゲスト出演
出演:リクオ with HOBO HOUSE BAND
ゲスト:古市コータロー(ザ・コレクターズ) / 山口洋(HEATWAVE)ほか
11月26日(火)下北沢 GARDEN
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SMILEY’S CONNECTION~ノイズホテル TOKYO~
出演:フルノイズ(from 福岡)、山口洋(HEATWAVE)、百々和宏 with有江嘉典
12月8日(日)渋谷 LOFT HEAVEN
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HEATWAVE OFFICIAL SHOP

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