シミルボンの本棚  vol. 9

Column

結婚はぜいたく品?「タラレバ」「逃げ恥」の強烈コンボ

結婚はぜいたく品?「タラレバ」「逃げ恥」の強烈コンボ

ガッキーこと新垣結衣さんがエンディングで踊る「恋ダンス」が話題となっているドラマ「逃げるは恥だが役に立つ」。
海野つなみ先生のドラマの原作となったマンガが、講談社の少女マンガ誌「Kiss」で連載されています。


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逃げるは恥だが役に立つ 1卷

海野つなみ (著)
講談社
KC KISS



この講談社の「Kiss」という雑誌、結婚できない30代女性のリアルすぎる日常を描いて話題になった(そしてドラマ化も決定しました!)東村アキコ先生の「東京タラレバ娘」も連載されており、とても攻めている印象です。


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東京タラレバ娘 1卷

東村アキコ (著)
講談社
KISS



結婚は何のためにするものか?

自分が25歳ということもあり、周りには結婚に関して悩んでいる人が多くいます。
当然飲みの場で盛り上がるのは結婚観に関する激論!(笑)
結婚願望があまりない僕は、この手の話になると大抵レフェリー役(!?)に回ることになり、基本的に友人の結婚観を観察しているのですが、その中で結婚に求めるものには一定のパターンがあるように感じます。
大きく分けると、①理想型と②利益勘定型です。
①の典型例は「年収500万以上の大企業に勤める男性」というやつでしょう。
ここに該当する人は、結婚相手を自分独自のチェック項目を作り、品定めをしている印象です。
年収以外には、企業名や業界、長男かどうか、身長みたいなものを項目に載せている人も多いです。
こう書くと女性のことを言っているように思われるかもしれませんが、男性の場合でも理想型に該当する人は少なくありません。
男性であれば、最低限の料理ができる(大抵これをいう男性の「最低限」はハードルが高い!)や、最低限の教養がある(女性のみなさんはこの言葉を「俺の趣味に付き合ってくれる」と変換して構わないと思います!)といったところでしょうか。
チェック項目がありそこから加点方式で相手を品定めする人を僕は理想型と名付けました。

理想型と並んで多いのが②のタイプ、利益勘定型です。
結婚の話をしているときに、絶えずメリットとデメリットを天秤にかけて考えるタイプ(笑)
ここに該当する意見で多いのは、女性なら「結婚すると仕事が今まで通りにできなくなるかもしれない」、男性なら「趣味に費やす時間とお金がなくなるのはいや」というものです。
ポジティブな意見では「家賃や食費はシェアした方が安い」といったようなものがあります。
結婚を語るときに、経済合理性で話す(そして付き合っている恋人の前では絶対にそんなことを話さない!)のが、②のタイプに属する人たち。
まさにこの2つのタイプ、「タラレバ娘」と「逃げ恥」に出てくる人たちです。

必需品としての結婚、ぜいたく品としての結婚

昔、岡田斗司夫さんが自身の番組で、「昔の女性は結婚しなければ生きていく選択肢がそもそもなかった。だから結婚したのだ。」という話をしていました。
また堀江貴文さんは、「農耕の時代は人手(=子供)が絶対的に必要だった。だから結婚が不可欠だったのではないか」と語っています。
二人の意見が全てではないですが、現代を生きる僕たちと、一世代前の人たちでは、結婚に対するスタンスは違うように思います。
今のようにコンビニに家事代行サービス、(まだ不十分と言われていますが)子供を預かってもらう地盤が十分にない時代では、1人で生きるのは簡単ではありません。
こうした社会では、結婚は人生のビックイベントの一つであり、選択肢の一つではなかった。
僕は今の世代しか知らないので偉そうなことは言えませんが、おそらく僕の両親くらいの人たちにとっての結婚は「必需品」、そして僕たちには「ぜいたく品」くらいの感覚なのではないでしょうか。
洗剤やご飯の材料ならば僕たちは最低限の機能を有していれば不満なく買うように、結婚を必需品ととらえている世代に関しては、結婚相手を最低限の機能が備わっているかで品定めします。
それに対して、高級ソファーやブランド物の財布を買うときなどは、少しでもいいものを選ぼうとする。
ぜいたく品として結婚を捉えている人にとっては、結婚はそれと同じ感覚なわけです。

困難な結婚

「東京タラレバ娘」に出てくる女の人たちも、「逃げるは恥だが役に立つ」に出てくる風見などの求める「結婚観」は明らかにぜいたく品としてのソレです。
そして、それこそが僕を含め今の若者たちが当たり前だと考えている結婚観だと思うのです。
内田樹さんが、新著「困難な結婚」の中で、「幸せな時も、困難な時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、死がふたりを分かつまで愛し、慈しみ、貞節を守ることをここに誓います」とあるが、まさにここに結婚の本質、つまり底辺のときも二人で乗り切る覚悟を持つことこそが結婚であるといっていますが、この結婚観は「ぜいたく品」としての結婚を求める今の(結婚できない)若い層には理解しがたいことなのかもしれません。
(逆に、若くても結婚している人たちは、この言葉に共感することが多いはず)
僕たちが普段物を消費するときに必需品とぜいたく品を使う目的がそもそも違うように、結婚を必需品と捉える人たちとぜいたく品と捉える人とでは、同じ結婚という「トピック」であっても、全く違う認識なのです。

「ぜいたく品」としての結婚を描いた2作品

さて、「タラレバ娘」にも「逃げ恥」にも登場するのが、このような「ぜいたく品」として結婚を捕らえる人たちです。
現代の若者の結婚観を上手く捉えてキャラクターに落としこんだ東村アキコ先生と海野つなみ先生はさすがだなあと思います。
しかも東村先生は理想型を描き、海野先生は損得勘定型を書いている。
何より面白いのは、この両先生がしっかりと作品の中に「観測者」としての役割を与えられたキャラクターを配置しているということ。

「タラレバ」には、「あのときこうしていたら、、」「もう少しこうであれば、、」と、「~たら」や「~れば」とグチをこぼしているアラサーOLの主人公たちの前に、イケメン美男子の若いモデルKEYが現れ、ひょんなことから関わるようになってきます。
KEYは主人公たちの言い草や振る舞いを見て、いつもキツい言葉で現実を突きつける。
「タラレバ」でKEYは、主人公たちを観察し、冷たくて、それも横柄な言い方ではあるけれど、時に主人公たちにアドバイスを受け与えるキャラクターとして登場するのです。
結婚したいけどできない女性たちを観察するのがKEYであるとしたら、結婚しようとしない男性を観察しているのが、「逃げ恥」の主人公みくりです。
みくりは就活で上手くいかず、それまで派遣で勤めていた会社にもクビになった仕事を探している女の子。
とあるきっかけから、次の仕事が見つかるまでのバイトとして家事代行業に行っていた男性と結婚することになります。
結婚といっても、みくりはお金を貰って家事などをする契約結婚。
初めはビジネスだと割り切っていたのだけれど、生活するうちに徐々に2人は惹かれあって、と同時に契約結婚であることが少しずつ周囲にばれて問題が起こりつつ…
あまりあらすじを書いたらネタバレになってしまうので、内容についてはこの辺に。
みくりの面白いところは、大学で心理学を専攻していて、しかも院を出ているため、夫の津崎を中心に、出会う男性の心情を分析しようとしてしまう性格です。
タラレバ娘のKEYとは違うタイプではありますが、みくりも人を観察するタイプのキャラクター。

「観測者」としてのKEYとみくり

KEYとみくり。
それぞれの作品に観測者と呼ぶべきキャラクターが登場するからこそ、この2作品はここまで面白いものになり得たのだと思います。
結婚を「必需品」と考える人たちはKEYとみくりの視点に立って他のキャラクターを監察し、結婚を「ぜいたく品」として捉える人たちはKEYやみくりが監察する人たちに共感する。
結婚を「ぜいたく品」と捉えている人にとっては結婚について考えるきっかけとなるかもしれませんし、結婚を「必需品」と考える人たちにはそうでない人の気持ちを理解するきっかけになるかもしれません。
この2作品は現在講談社の雑誌Kissで連載中。
間逆のアプローチであるにも関わらず、同じテーマを同じ視点で描いたこれらの作品が同じ雑誌に載っているというのは、惑星直列のようなタイミングです。
社会にくすぶる問題を正面から描こうとしたら、偶然同じ雑誌で掲載となった。
まだまだ両作品とも完結ではありませんが、それぞれの作家が僕たちの直面する「結婚」という話題に対してどんなエンディングを持ってきてくれるのか、非常に楽しみだったりします。

(仙仁 透)

 

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