Report

「カリギュラもひとりの人間」──菅田将暉が晒す、むき出しの姿。舞台『カリギュラ』初日前日のフォトコール、囲み取材レポート

「カリギュラもひとりの人間」──菅田将暉が晒す、むき出しの姿。舞台『カリギュラ』初日前日のフォトコール、囲み取材レポート

アルベール・カミュの不条理劇の傑作『カリギュラ』が、日本の演劇界を代表する演出家・栗山民也の手により、11月9日(土)から新国立劇場 中劇場にて上演中だ。主演には、数々の映画賞を受賞し、今年デビュー10周年を迎えた菅田将暉。ほかに、高杉真宙、谷田 歩、橋本 淳、秋山菜津子など卓抜した俳優陣が脇を固める。
初日前日にはフォトコールと囲み取材が行われ、菅田、高杉、秋山が登壇、本作に挑む心境について語った。

取材・文・撮影 / 竹下力


2019年を代表する傑作になる予感を抱かせてくれた

フォトコールで公開されたシーンは20分ほどだが、『カリギュラ』のすべてが濃縮されたような刺激的な演劇体験をすることができた。

舞台『カリギュラ』 エンタメステーションステージレポート

まず舞台美術の圧倒的なフォルムの静謐さと美しさが目を引く。白を基調とした床は傾斜がついた多角形をしていて、2段に少しずれて重なり、客席の正面に角が張り出している。床上の一部には鏡と思しきプラスチックの板が埋め込まれて姿見の役割を果たしており、ライトが当たると、光が反射して幻想的な空間を生み出す。また、舞台の上手と下手に鋭いかぎつめのような柱が4本ずつそそりたち、中央からわずかずれたところに台座がある。古代ローマ帝国の立派な宮殿というよりも、今まさに崩落しそうに見えて、剣呑な雰囲気が漂う。一方、中央の巨大な入り口は煌々と光り、ローマ帝国の貴族らしき人物が宮殿の中を「死人のにおいがする」と言ってしまうような、外と内の世界の対比が際立っていた。美術の二村周作と照明の勝柴次朗の手腕が光る舞台装置だ。

舞台『カリギュラ』 エンタメステーションステージレポート

シーンは、カリギュラ(菅田将暉)を献身的に支えるエリコン(谷田 歩)が、ことあるごとに彼の国王としての品位を問うケレア(橋本 淳)に突っかかっていくところから。いずれにせよ、カリギュラの常軌を逸した行動に、他の貴族たちがほとほと困っている様子が見受けられる。

舞台『カリギュラ』 エンタメステーションステージレポート

そこに荘厳な光の入り口からカリギュラを愛するセゾニア(秋山菜津子)がやってきて台座に雪崩れ込み、カリギュラの体調がひどく悪いことを伝えると、貴族たちは途端に態度を変え、我先に彼の身体を救いたいと申し出るのだが、どこか白々しい。

舞台『カリギュラ』 エンタメステーションステージレポート

鐘の音が鳴り、カリギュラがふてぶてしい表情で登場する。赤いローブのような羽織物の前ははだけ、足元がふらつき、顔色もすこぶる悪い。貴族に近づき、彼らの欺瞞に感動しているとうそぶきながら、態度を豹変し、貴族を死刑にしてしまう。しまいに、国が平和でいることを嘆く素ぶりを見せたり、心と身体のアンバランスさを滲ませる。

舞台『カリギュラ』 エンタメステーションステージレポート

カリギュラが突然提案した即興の詩の朗読会を催すために、詩人たちが宮殿に招き入れられる。しかし、詩の優劣の判断はカリギュラの気分次第で、素っ頓狂に笛を吹いては詩人たちの詩に良し悪しをつけていく。その傍若無人な姿に、ケレアはカリギュラの暗殺を決意。

舞台『カリギュラ』 エンタメステーションステージレポート 舞台『カリギュラ』 エンタメステーションステージレポート

また、カリギュラに父を殺され、彼を憎みながらも、彼が愛した妹を亡くした苦悩を理解しているシピオン(高杉真宙)もカリギュラに共感してもらえると思う詩を披露するが、彼の現状に呆れ、別れを告げて宮殿から出ていってしまう。

舞台『カリギュラ』 エンタメステーションステージレポート

そこでカリギュラは、友情のはかなさ、仲間を失い孤独になっていくことなどを独白する。そんなカリギュラのすべてを愛で慈しもうとするセゾニアは、彼の不憫さを慰めるように、膝にまねきよせ抱きしめる。
様々な思惑が交錯し始めストーリーは急転していく。

舞台『カリギュラ』 エンタメステーションステージレポート

公開されたフォトコールの限られた時間のなかで、菅田将暉の狂おしくも神々しい、迫真の演技は圧倒的だった。端正な肉体とうつろな表情、そのギャップだけでも、虚栄や虚無に取り憑かれた人物像が浮かび上がる。目まぐるしいまでに喜怒哀楽の感情を表情に出し、長台詞も淀みなくこなす。
カリギュラの憔悴しきった痛々しい様は、まるで菅田自らを痛めつけているようにさえ見え、人生という不条理に翻弄され、次第に追い詰められていく、弱々しい人間の内面、むき出しの姿、そのものだった。

舞台『カリギュラ』 エンタメステーションステージレポート

さらにカリギュラの良き理解者だったはずのシピオンの凛として冷酷なまでの別れの台詞、セゾニアの愛することの大切さを訴える言葉は生々しく、それを演じる高杉や秋山の心の機微を表す繊細な芝居にも胸を打たれた。

舞台『カリギュラ』 エンタメステーションステージレポート

たった1シーンではあるが、生と死、人間の実存、人生や愛について深く考えさせられる。2019年を代表する傑作になる予感を抱かせてくれた作品であった。

舞台『カリギュラ』 エンタメステーションステージレポート

ストーリーを追わなくても、エネルギーを感じてもらえれば

フォトコールのあとには囲み取材が行われ、菅田将暉、高杉真宙、秋山菜津子が登壇した。

舞台『カリギュラ』 エンタメステーションステージレポート

まず、鍛え上げられた肉体について問われた、カリギュラ 役の菅田将暉は「稽古をしていたらいつの間にかこうなっていました。舞台は傾斜になっているので、普通に歩いているだけで鍛えられますね」とフォトコールで見せた表情とはうって変わった笑顔で答えた。

舞台『カリギュラ』 高杉真宙 エンタメステーションステージレポート

シピオン 役の高杉真宙はこの座組みに参加したことについて、「菅田さんとは2度目の共演ですが、相変わらず迫力があります……オーラというか」と述べると、菅田から「威圧感?」とツッコまれ、「いえいえ、威圧感じゃないです!」と慌てて否定。場がなごんだところで、その他の共演者について「秋山さんはお綺麗で可愛らしいです。なにより、みなさん初共演だったので、緊張しました」と率直に答えた。

またふたりの印象を問われたセゾニア 役の秋山菜津子は「可愛いふたりからパワーをいただきました。菅田さんのお芝居は変幻自在ですね。高杉さんは芯があって素晴らしい演技です」と絶賛した。

舞台『カリギュラ』 秋山菜津子 エンタメステーションステージレポート

暴君を演じることについて問われると、菅田は「“暴君”と聞くと破天荒なイメージがありますが、演じてみると共感できることがあります。人はちょっとしたことでうまくいかなかったときに、それぞれ消化の仕方がありますが、カリギュラは非情な行動を選ぶだけなので、普通の人にも共感できると思います」と自身の役どころについて真摯に語った。

さらにこの作品のメッセージを、菅田は「あまり何も考えずに、ストーリーを追わなくても、エネルギーを感じてもらえれば嬉しいです」と語り、高杉が「純粋に劇場に来ていただいても楽しんでいただけますし、笑うことができるシーンもありますよ」とコメント。秋山は「軽くはないお話ですが、見どころがたくさんあります」と述べた。

舞台『カリギュラ』 菅田将暉 エンタメステーションステージレポート

最後に菅田が「この舞台をご覧になったみなさんそれぞれに、答えがあると思います。お客様も、突き詰めていけばカリギュラと同じ人間だと感じていただけると思います。カリギュラは狂気的なイメージがありますが、それを一回振り払って、僕たちの日々の生活の延長線上に存在しているひとりの人間として観ていただきたいです」と意気込み、囲み取材を締め括った。

東京公演は11月24日(日)まで新国立劇場 中劇場にて上演。その後、福岡、兵庫と周り、12月15日(日)の仙台銀行ホールイズミティ21 大ホールの宮城公演で千秋楽を迎える。

舞台『カリギュラ』

東京公演:2019年11月9日(土)~11月24日(日)新国立劇場 中劇場
福岡公演:2019年11月29日(金)~12月1日(日)久留米シティプラザ ザ・グランドホール
兵庫公演:2019年12月5日(木)~12月8日(日)神戸国際会館こくさいホール
宮城公演:2019年12月13日(金)~12月15日(日)仙台銀行ホールイズミティ21 大ホール

STORY
ローマ帝国の若き皇帝カリギュラ(菅田将暉)は、愛し合った妹が急死した日に宮殿から姿を消し、その3日後に戻ってきた。その日を境にそれまで非の打ち所のなかった皇帝は豹変し、貴族平民問わず、何らかの財産を持つものを区別なく殺しその財産を没収する、という驚くべき宣言を出す。
しかし、それはほんの序章でしかなかった。
それから3年後、カリギュラは、彼を深く愛している年上の女性セゾニア(秋山菜津子)、忠臣のエリコン(谷田 歩)を従い、残虐非道な行為の数々を繰り広げていた。やがて貴族たちの怒りと怖れはカリギュラを殺害することへと向かっていき、カリギュラに父を殺された若き詩人シピオン(高杉真宙)も、彼を殺したいほど憎んでいる。だが、カリギュラの思想の危険さをいち早く感じていたケレア(橋本 淳)だけは、今は時期尚早だと“その時”が来るのを待つように貴族たちを諌めるのだった。
カリギュラは自らの命の危険を知ってもなお、止まることなく、さらに暴走を続ける。
彼は革命をもたらす王か、それともただの殺人者か。カリギュラが探し求めた「不可能なもの」とは……?

作:アルベール・カミュ
翻訳:岩切正一郎
演出:栗山民也

出演:
菅田将暉 高杉真宙 谷田 歩 橋本 淳 秋山菜津子

原 康義 石田圭祐 世古陽丸 櫻井章喜 俵 和也 野坂 弘 坂川慶成
石井 淳 石井英明 稲葉俊一 川澄透子 小谷真一 小比類巻諒介 西原やすあき 髙草量平 原 一登 平野 亙 峰﨑亮介 吉澤恒多

主催・企画制作:ホリプロ

オフィシャルサイト
オフィシャルTwitter(@horipro_stage)