モリコメンド 一本釣り  vol. 144

Column

パソコン音楽クラブ レトロ・フューチャー的な音像、懐かしさと新しさを同時に感じさせるサウンド

パソコン音楽クラブ レトロ・フューチャー的な音像、懐かしさと新しさを同時に感じさせるサウンド

まずは、細野晴臣さんのデビュー50周年記念展「細野観光1969-2019」(2019年10月4日〜11月4日/東京・六本木ヒルズ展望台 東京シティビュー・スカイギャラリー)のことから。細野さんの音楽家としての軌跡はもちろん、映画、アート、マンガ、文芸など多岐に渡る関心事を、貴重な展示物を通して“観光”できるこの展覧会。個人的にもっとも印象的だったのは、実際に細野さんが使っていた機材だった。“ローランドJUPITER-8”(1980年に発売されたシンセサイザー。YMOのアルバム『BGM』の頃から使用)、“ローランドTR-808”(テクノミュージックの歴史とは切っても切れない伝説的ドラムマシン)などを見て「この機材を使って、あの名曲を作ったのか…」とグッと来てしまったのだ。シンセとかドラムマシンとか、見てるだけで何だか楽しい……というフェティッシュな趣味を持つファンも(特に細野マニアには)多いのではないだろうか。

関西発の“パソコン音楽クラブ”もまた、“機材”に魅せられたことをきっかけに音楽活動をスタートさせたユニットだ。ローランドSCシリーズ、ヤマハMUシリーズなど1990年代の音源モジュールやデジタルシンセサイザーを使って楽曲を制作。レトロ・フューチャー的な音像、懐かしさと新しさを同時に感じさせるサウンドによって、徐々に注目を集め始めている。

2015年に柴田、西山によって結成されたパソコン音楽クラブ。大学時代に同じバンドで活動していた二人(女の子ボーカルのポップスバンドだったそうです)はDAW(デジタル・オーディオ・ワークステーション/コンピューターで音楽を作るためのツール)に興味を持ち、1990年代の機材に関する情報交換をしているうちに、お互いに作った曲を聴かせ合い、それがパソコン音楽クラブの活動に発展したという。

現在の最新機材と比べてしまうと、90年代のシンセサイザーのスペックはかなり低い(当たり前ですね)。たとえば“ストリングス”“管楽器”“ギター”などの音色の再現精度も低いし、いかにもチープな音だったりするのだが、パソコン音楽クラブは90年代機材のスペックの低さを逆手に取り、まったく異なる使い方をすることで(たとえばギターやベースの音をリズムとして使うとか)、“懐かしくて新しい”サウンドを構築しているのだ。あえて不便な(?)機材をメインにして、“これまでとは違ったやり方がないだろうか?”と試行錯誤を繰り返すことで、既存のフォーマットと異なる、誰も聴いたことがない音楽へと結びつけるーーそのスタンスはやっぱり、細野さんのやり方とも似ているなと思う。

2017年に配信作品『PARKCITY』を発表し、一気に注目度を高めた彼ら。ユニットの活動と並行してYackle、Poor Vacationらのリミックス、ラフォーレ原宿グランバザールのTV-CMソングを手がけるなど、活動の幅を広げた。2018年にはTVアニメ『電影少女-VIDEO GIRL AI 2018-』のサントラに参加し、tofubeatsの「ふめつのこころ」のリミックスを制作。そして初のフルアルバム『DREAM WALK』を発表し、コアな音楽ファンを中心に高い評価を獲得した。

そして2019年9月には2ndアルバム『Night Flow』をリリース。ゲストボーカルにイノウエワラビ、unmo、長谷川白紙、マスタリングエンジニアにtofubeats、cero、石野卓球などの作品を手がける得能直也を迎えた本作は、全編を通し、夜から朝に向かう時間の流れと、そのなかで生じる感覚の動きを表現したという。

このアルバムに対してメンバーの2人は「僕たちは夜を歩き、その特別さへの高揚感、底知れなさへの不安感を覚えます。最後に朝になり、再びいつもの世界へと戻るとき、僕たちの感覚は新しいものへと移り変わっているように思います」「前作“DREAM WALK”では記憶やイメージに焦点を当てましたが、今作はもっと現実と地続きに感じる異質さ、日常的なものが特異になる様子に着目しました」とコメントしているが、本作で描かれている“ふだんの日常のなかにある非日常性”は、パソコン音楽クラブの本質そのものだと思う。何にも起こらないし、この先、何かが良くなる見込みもない。そうやって日々は淡々と過ぎていくけれど、少し視点を変えたり、組み合わせを工夫することで、ちょっとだけ新しい何かを手に入れることができるーー彼らが無意識のうちに生み出しているのは、そういうリアルな希望なのかもしれない。

日常を彩るポップスとしても、ちょっとキッチュなダンスミュージックとしても楽しめるパソコン音楽クラブの音楽。どうしようもない行き止まり感に満ちた現状を少しだけも楽しくするためのヒントがここにある、と少しだけ声を張って主張したいと思う。

文 / 森朋之

その他のパソコン音楽クラブの作品はこちらへ。

オフィシャルサイト
http://pasoconongaku.web.fc2.com/Index.html

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