映画『アズミ・ハルコは行方不明』  vol. 2

Interview

原作者の山内マリコと松居大悟監督が語る、女性の精神的進化

原作者の山内マリコと松居大悟監督が語る、女性の精神的進化

若き俊英、松居大悟監督の最新作『アズミ・ハルコは行方不明』公開特別連載。第2回目の対談ゲストは、原作者の山内マリコ。「一緒に取材を受けるのは初めて」という2人が語る創作の裏側、男と女という性別の違い、そして、年齢によって訪れる感情について語り合う。

取材・文 / 永堀アツオ 撮影 / 関信行


ここまで若い子の気持ちが映画になることってなかなかない

最初に原作者としての映画の感想をお伺いしてもいいですか?

山内 監督は天才だなと思いました。

松居 あはは!

山内 だって、撮影の香盤表とか見せてもらってるから。ものすごくタイトなスケジュールでこれだけの映画が撮れるなんて「この人、天才だな」って普通に感心しました。編集する時間だって限られてたのに。完成した作品もとても良くて、私、大好きです。

松居 いや~、その言葉が一番嬉しいですね。ずっとドキドキしてたんですよ。準備稿の段階でプロデューサーと一緒にお会いしたときもいろいろなアイデアをいただいていて、絶対に山内さんに笑顔になってもらおうと思って作っていたので。

山内 試写が終わったあと、気まずそうな空気を発してたよね(笑)。

松居 目が見れなかったです(笑)。でも、そのときに「天才!」って言ってくれて。良かったって、胸をなでおろしました。

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そもそも映画化したいという話がきた時点で、様々な年代の女性を描いた原作を男性の監督が映画化することに対しての抵抗はありませんでした?

山内 男性だから嫌だっていうことはいっさいなかったですね。ただ、もっと年配で威圧感のある男性監督だったら、ちょっと抵抗があったかもしれない。彼は、映画監督の中でもずば抜けて若いし、こっちの話もちゃんと聞いてくれる。プロデューサーの枝見洋子さんや脚本家の瀬戸内美咲さんはじめ、みんなで集まってるときも女子会に自然に混ざってた。

松居 そうなんですよね。みんな、ガールズトークを始めるんですよね。

山内 俺の前でってこと?

松居 俺、いるけどって(苦笑)。脚本を作ってるときも、いつの間にか恋バナみたいになってて。その話には参加できないけど、面白いし、興味深いから「はぁ〜」て感心しながら聞いてるみたいな。

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(笑)女性スタッフ陣と脚本の改訂を進めていくうえで、何か気をつけていたことはありますか?

松居 安曇春子が行方不明になる話なんですけど、行方不明っていうことに明確な理由をつけたくないなってことと、“行方不明”っていう言葉が見終わったあとにちょっとニュアンスが変わったらいいなと思ってました。その言葉に振り回されないものというか、単純に原作を読んだときに感じた爽快感と同じ感覚を持っていたいと思ってましたね。あと、これはネタバレになるんですけど、最後に春子が愛菜にかける言葉があって。映画の中では「だってそうでなきゃ、割りに合わないでしょ」って言ってるんですけど、原作は「だってそうでなきゃ、悲しすぎるでしょ」って書いてあって。これは台本を固めていく段階で、山内さんからいただいたアイデアのひとつで。もともとは「割りに合わないでしょ」だったんですよね?

山内 そうなんです。私はフェミニズム的に書いてる部分もあったので、出版社の担当編集さんに「あまりそこを強調すると良くない」って忠告されて。「割りに合わないよ」は被害者っぽすぎるというか、異議申し立て感が強すぎるっていうことで、変えてたんです。私がその話をしたら、「じゃあ、俺がやるよ」って。

松居 文字にしたら強いけど、セリフにしたら伝わるかなって。

山内 そういう違いがありますよね。春子と曽我の別れのシーンも映画のオリジナルで。小説の中では書かない部分なんだけど、映画だとあのシーンがあるからこそ、春子の気持ちが伝わってくる。だから、原作と映画では、似てるようで違うんだなって。

別れの場面を付け加えたのはどうしてでした?

松居 この原作を映画化するうえで、わりと普通のプロセスとして必要だっていうことになったんですよね。意図したわけではなく、みんなで話し合うなかで自然と、春子と曽我の関係に蹴りをつけなきゃいけないなって。

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時系列もバラバラにして組み替えてますよね。原作では20歳の愛菜のパートがあり、27歳の春子のパートがあり、また20歳の愛菜のパートに戻るという構成になってました。

松居 時系列をそのままやると普通に終わっちゃうので、新しくてやばいものが出てきたって思ってもらうためにもグチャグチャにしたいなと思ってました。ただ、これはオリジナル脚本では絶対にできないことでもあって。強い原作があるから、時系列やエピソードを交錯させて、再構築するっていうやり方ができたと思うんですね。あと、この映画にとっては、時間と場所がすごく大事だなと思ったので、そこを強調するためにもこのやり方がいいなって。

山内 小説のままだと、蒼井優ちゃんが30分経っても出てこなくなっちゃうからね(笑)。それに、時間を行ったり来たりさせたりするなかで、すべてがすごく狭い世界で行われていることだっていうのが浮かび上がってくる。エリアの狭さがより効果的に見えるなって思いました。

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ちなみに山内さんが原作を書かれたのは何歳のときでした?

山内 31歳から32歳にかけて。ちょうど若さが日に日に抜け落ちていくみたいなとき(笑)。特に愛菜のパートは、なんとか自分の中の若さを絞り出して、炸裂させて書きました。春子のパートも、20代後半の感覚を思い出しながらという感じ。それを蒼井優ちゃんが30歳になる節目に撮ってくれてるから。

松居 僕がギリギリ29歳だったときに。

山内 私がちょっと無理して、頑張って書いた若さが、映画では本当にリアルに若い子たちの空気になってて。それはやっぱり、同い歳の人じゃなかったらできないことだなって思いますね。どうしても無理してる感が出ちゃうじゃないですか。ちょっと歳のいった製作陣がめっちゃ若い青春映画を作ってるときの「すごい頑張ってんな」みたいな感じが全然なくて。ここまで若い子の気持ちが映画になることってなかなかないですよね。最近、特に少なくなってる気がするし。

松居 嬉しい。映画の上の世代って大御所さんたちがたくさんいて、上が詰まっちゃってるんですよね。そういう人たちが青春ものを撮ったりもしてるけど。どうしても懐古的な感じになっちゃったりするから。今の子たちの感覚って、たぶん、かつて上の人たちが過ごしてきた青春時代とは重心が違うって思うんですよ。だから、そういうところは意識的に変えようとはしてましたね。それこそ、拡散していくことが嬉しいとか。

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