映画『アズミ・ハルコは行方不明』  vol. 2

Interview

原作者の山内マリコと松居大悟監督が語る、女性の精神的進化

原作者の山内マリコと松居大悟監督が語る、女性の精神的進化

思春期ばりにアイデンティティーの根幹を揺るがされる時期が、アラサーくらい

若い男の子の心情もリアルですよね。映画にはないですが、原作には「セックスよりオナニーのほうがラクで気持ちいい」と書かれてて。

松居 あはは。それ、すごいと思った(笑)。

山内 ありがとうございます(笑)。この小説を書くとき、フェミニズム系の本をすごく読んでたんですけど、それを読むことによって逆に男性側の気持ちがわかるようになったというか、男性の思考回路に妙に詳しくなって。例えば、女子として男子を見ると「付き合い始めたら、付き合う前より連絡ないってどういうこと?」っていう疑問や不満がいっぱいだけど、「付き合って一回やっちゃったら、プライオリティーが下がるのは当たり前じゃん」っていう男側の理屈もわかってくる(笑)。そういう男性側の気持ちをいっぱい採集して書いたから、逆に男性側のリアリティーは描けているっていう自信はありました。

松居 福岡に住んでる頃に兄貴が『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』がめちゃめちゃ好きで「お前、これ、観ろよ」って言われてたんですよ。あのDVDを観て、「そうだよな。これだよな!」ってテンションが上がったり、全能感が出たりする感じもわかるなって。

山内 執筆途中にたまたま観たんですけど、「これだ!」と思って、慌てて小説に反映させました。男子の心をかなり揺さぶる作品ですよね。地元にいる若い男の子が、将来にこれといった展望もないときに『イグジット・スルー・ザ・ギフトショップ』を観たら、すごいくるだろうなと思って。

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春子の同級生には、野球選手と結婚したけど離婚して地元に帰ってきた子もいれば、年上の見た目いけてないおじさんと安定した家庭を築きつつ、同級生と浮気してる子もいて。

山内 結婚へのスタンスって本当にバラけますよね。女として賢い人って、若いうちから結婚に照準を合わせられる。クラスで一番早く結婚するのは、べつにクラスで一番かわいい子じゃない、というのが定説で。

松居 ほおほお。

山内 恋愛や結婚にあまり夢を見すぎていない人のほうが、ちゃんと計算できてるんですね。私はその点、小説家になりたいってぼんやりしたことを言う子だったので、あんまり計算もできてなくて。行き当たりばったり、それこそ、曽我のような男の子と付き合った果てに、25歳を過ぎてから、そして誰もいなくなった……みたいになって(笑)、そこからイチからやり直すみたいな感じでしたね。

春子役の蒼井優さんは女性には第二次思春期があると言ってました。

山内 うんうん、25歳くらいまでって、自分ではまったく気づいてないけれども、実はすごく優遇されてるんですよね。でも女性って25歳を過ぎた頃から、立ち位置をガラッと変えられてしまう。今まで無自覚に持ち上げられてたぶん、落とされ方がハンパじゃないんですよ。28歳くらいになった途端に、かけられる言葉がいっせいに「まだ結婚しないの?」ってなって、自分と向き合わざるをえなくなる。思春期ばりにアイデンティティーの根幹を揺るがされる時期が、アラサーくらいなんです。

松居 男子はというか、僕はまだ思春期の中にいると思います(笑)。

山内 あはは(笑)。結婚って相手ありきだから、男性を頼りにしたいんだけど、同世代の男子はまったく頼りにならなくて。今は30歳を過ぎてもすんなり大人になれてる男性は少ないのかも。そういう意味では男女どっちもつらい。

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松居さんは、石崎ひゅーいくんとのインタビューの中で「男が80歳くらいになってから気づくようなことを、女性は10代後半から30代までの15年間くらいで辿り着いてる」と話してました。

松居 男よりもスピードが速いんだなと思って。でも、この映画を撮っても、女性のことはわからなかったですけどね(笑)。

山内 男性のことをいろいろ研究した今なら、「そうだろうな、わかんないだろうな」って理解できるんですけどね(笑)。

春子が勤める会社の社長も春子の同僚のアラフォー吉澤さんの心境には至ってない?

山内 そうそう。ぶっちゃけ、田舎のああいうおっちゃんたちって……。

松居 大学生と変わんない。

山内 そうそう。家庭のいざこざをナチュラルに丸投げしてるから、ほんといいご身分で、みたいな(笑)。

松居 春子のお父さんもおばあちゃんがボケて大変なのに、気にせずにずっとご飯を食べてるし。

山内 春子がこのまま地元で結婚したら、お母さんと同じ未来が待ってる。その夢のなさというか、そこで感じているだろう閉塞感が、あの食卓のシーンひとつとっても出てました。ただ、私が思ってるよりも、若干家が荒れてたけど(笑)。

松居 あははは。荒れてました?

山内 いい家庭描写だった。ディテールにも感心したんですよね。春子が食べてるパンが“スイートブール”とか、曽我が飲んでるのが“ピルクル”っていう。

松居 嬉しいです。山内さんの小説って具体的な名称が強いから、それって大事だなと思って。ポイントポイントのディテールには結構こだわりましたね。

山内 観てる人はちゃんと観てるから。すごい効いてるし、改めてディテールって大事なんだなって思いました。

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最後に公開が近づいてきた心境をお聞かせください。

山内 えー、なんだろう、ドキドキ、ワクワクしてますね。自分の本が出るときは、自分だけの責任みたいなところがあるから、すごくつらいんですよね。でも、この映画はスタッフもキャストもみんな仲良いから、いい評価はみんなで喜べるし、そうじゃなくても、みんなで落ち込めるから、映画っていいなって思ってます(笑)。自分ひとりに矢が飛んでこないという安心感のもと、初日を迎えられそうです。

松居 どの世代においても否定も肯定もせずに見せようと思って作った映画なので、いろんな世代の方に劇場で観てもらって、最後に背中をバンと叩けたらいいなと思いますね。

山内 ガールズムービーは最後、みんなでキャーって感じて終わるじゃないですか? 「ああいう感じで」ってお願いしたら、監督が私が思っていた以上のアゲアゲ感を出してくれたので、本当に良かったです。あの感じをぜひ映画館で観てほしい。

松居 あそこも、女子高生たちが外に出てきたら、ちょっとおばちゃんとか混じってるんですよね。

山内 それが「ハレルヤ!」っていう感じでいいんですよね(笑)。


After Talk vol.2 山内マリコ編

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Q.山内さんだけが知っている松居監督の秘密を教えてください。

山内 男性的な圧が、ほんとにまったくないです。ないから女子トークに混ざれるんじゃないかなって思います。ただ、こんなに女子にまみれてるのに、いまだに童貞キャラなのは謎ですね。

松居 そうなんですよね……なんでだろう?……そこを突き詰めると、ちょっと長くなりそうなので、飲みに行きましょう(笑)。


映画『アズミ・ハルコは行方不明』

2016年12月3日公開

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とある地方都市に住む27歳の〈安曇春子〉は独身で恋人もなく、実家で両親と祖母と暮らしている。会社では社長と専務に「女性は若いうちに結婚するべきだ」とセクハラ三昧の言葉を37歳の先輩〈吉澤ひろ子〉と共に浴びせられ続けていた。ある日の仕事帰り、春子の目の前を女子高校生たちが軽やかに走り抜けていく。それを追って公園へ向い、暴行され倒れている同級生の〈曽我雄二〉の姿を見つける。そこから春子と曽我はお互いのむなしさを埋め合うように関係を重ねていくのだが……。
とある地方都市に住む20歳の〈木南愛菜〉は成人式の会場で同級生の〈富樫ユキオ〉と再会、付き合い始める。ある日、2人はレンタルビデオ店でバイトをしていた同級生の〈三橋学〉と出会う。ユキオと学はグラフィティアーティストのドキュメンタリー映画に共感し、〈キルロイ〉と名乗り、グラフィティアートを始め、28歳で行方不明の安曇春子を探す張り紙をモチーフに街中に春子の顔とMISSINGという文字を拡散していくのだが……。
異なる時間軸が交錯。2つのストーリーの意外な結末とは?

【監督】松居大悟
【原作】山内マリコ(幻冬舎文庫刊)
【キャスト】
蒼井優 高畑充希 太賀 葉山奨之 石崎ひゅーい
菊池亜希子 山田真歩 落合モトキ 芹那 花影香音
/柳憂怜・国広富之/加瀬亮
【劇中アニメーション】ひらのりょう
【音楽】環ROY
【主題歌】「消えない星」チャットモンチー
【配給】ファントム・フィルム

オフィシャルサイトhttp://azumiharuko.com/

©2016「アズミ・ハルコは行方不明」製作委員会


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アズミ・ハルコは行方不明

山内マリコ (著)
幻冬舎

地方のキャバクラで働く愛菜は、同級生のユキオと再会。ユキオは意気投合した学と共にストリートアートに夢中だ。三人は、一ヶ月前から行方不明になっている安曇春子を、グラフィティを使って遊び半分で捜し始める。男性を襲う謎のグループ、通称“少女ギャング団”も横行する街で、彼女はどこに消えたのか? 現代女性の心を勇気づける快作。


山内マリコ

1980年生まれ、富山県出身。2008年に短編『十六歳はセックスの齢』で第7回R-18文学賞・読者賞を受賞。2012年に『ここは退屈迎えに来て』(幻冬舎文庫)で小説家デビュー。2013年に『アズミ・ハルコは行方不明』(幻冬舎文庫)、2014年に『さみしくなったら名前を呼んで』(幻冬舎)、『パリ行ったことないの』(CCCメディアハウス)、2015年に『かわいい結婚』(講談社)、『東京23話』(ポプラ社)、2016年に『週刊文春』での連載をまとめた初のエッセイ集『買い物とわたし お伊勢丹より愛をこめて』(文春文庫)を出版。11月25日に最新刊『あのこは貴族』(集英社)が発売される。

松居大悟

1985年生まれ、福岡県出身。劇団ゴジゲン主宰、全作品の作・演出・出演を担う。2009年にNHK『ふたつのスピカ』で同局最年少の脚本家デビュー。2012年に『アフロ田中』で長編映画初監督。その後、『自分の事ばかりで情けなくなるよ』『スイートプールサイド』などを発表。『ワンダフルワールドエンド』でベルリン国際映画祭出品、『私たちのハァハァ』でゆうばり国際ファンタスティック映画祭にて2冠、両作でTAMA映画賞最優秀新進監督賞受賞。MOROHA、クリープハイプなどのミュージック・ビデオ制作など活動は多岐にわたる。原作を手がけた漫画『恋と罰』が10月末より連載開始。

ウェブコミック連載『恋と罰』
オフィシャルサイトhttp://www.gorch-brothers.jp

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