モリコメンド 一本釣り  vol. 145

Column

クボタカイ 「え、この年齢でこんな音楽を?!」。20歳のラッパーが生み出す音楽世界の必然

クボタカイ 「え、この年齢でこんな音楽を?!」。20歳のラッパーが生み出す音楽世界の必然

ぼくのりりっくぼうよみが登場したときは、「え、まだ10代? 何なの、このクオリティの高さは!?」とめちゃくちゃ驚いたが(ご存知の通り、彼は現在“たなか”としていろいろと活動中。楽曲提供も増えているので、そろそろアーティスト活動を再開してほしいです)、その後、若くして頭角を現すラッパーやトラックメイカーが次々と登場し(“さなり”とか)、「こんなに若いのに、こんなにすごい音楽を作ってる!」という考えがどうやら間違いで、「これだけ若いからこそ、こういう音楽が作れるんだな」という認識にようやく至った筆者であるが、今回紹介するクボタカイ(1999年生まれ)の「Wakakusa night.」を聴いたときは、「え? この若さで…」とまたしても思ってしまった。80年代のシティポップを想起させるシックな手触りのトラック、抑制の効いたメロディライン、古き良き日本語の響きを活かしたノスタルジックなリリックを含め、その完成度の高さと音楽的な奥行きは、まさに衝撃だった。

宮崎県出身、福岡県在住、現在ハタチのラッパー/トラックメイカー、クボタカイが音楽に興味を持ったきっかけは、フリースタイルラップ。おそらくは「フリースタイルダンジョン」や「高校生RAP選手権」の影響だと思うが、自己流のフリースタイルラップを通して韻を踏むことの楽しさ、気持ち良さを知った彼は、メロディを交えたラップに移行し、それがオリジナル曲につながったという。最初に発表したのは「Nakasu night.」という失恋ソング。チルアウト的な穏やかさを感じさせるトラック、憂いと切なさを備えたメロディ、そして、失恋の経験をどこか客観的に描いた歌詞がひとつになったこの曲は、まさに彼の原点と言っていいだろう。

その後もYouTubeにいくつかの楽曲を発表し、ヒップホップ、R&B、J-POP、ロックなど幅広いテイストを吸収した音楽性、文学的な匂いと実体験を伴った生々しさが同居するリリックによって注目を集めた彼は、2019年3月に初のEP「305」を販売し、即完売(再販を望む声を受け、10月にはカセットテープ、11月3日のレコードの日にアナログ盤がリリースされました)。国内最大級のMC バトル「king of kings」西日本選抜などで好成績を残す一方、映像作家の石川陸のオファーを受け、短編映画『死んだほうマシーン』(「MOOSIC LAB 2019」短編部門・正式出品作品)の音楽を担当するなど、活動の幅も大きく広がっている。そして12月4日には1st EP「明星」をリリース。「305」にも収録された「ベッドタイムキャンディー2号」「Wakakusa night.」「せいかつ」のほか、既にライブで支持を得ている「TWICE」、この作品のために書き下ろされた「真冬のショウウィンドウ」を収めた本作は、クボタカイの音楽の多様性と奥深さが詰まった作品となっている。

詩人・中原中也の名作『汚れっちまった悲しみに』の引用から始まる「ベッドタイムキャンディー2号」は、気になっていた女の子と何かのきっかけで一晩を共にした、夜から朝までの移り変わりを描いたミディアムチューン。身体の関係を結んだことで微妙に変化していく感情と関係を綴ったリリック、そして、繊細な表現を含んだフレーズを気持ちよくグルーヴさせるフロウはまさに絶品。クボタくん、かわいい顔して、なんでこんな曲を……という思いが一瞬よぎるが、言葉とメロディが織りなす快楽にはまったく抵抗できない。ラッパーのSHUNが手がけたトラックの穏やかな雰囲気も印象的だ。

新曲の「真冬のショウウィンドウ」はタイトル通り、冬の情景を映し出す、切なくも愛らしいラブソング。思い違いやすれ違いを重ねつつも、一緒の時間を過ごし、この先の未来に少しだけ期待を寄せるーーそんなデリケートな思いを描き出すリリックがじんわりと心に残る。この曲を聴けば、彼の音楽世界はヒップホップの枠だけに収まることなく、優れたポップスとしても成立していることがわかってもらえるはずだ。

1999年生まれといえば、インターネット・ネイティブであることはもちろん、古今東西、あらゆるジャンルの音楽を(物心ついたときから)フラットに接してきた世代。幅広い音楽知識とトラックメイク、作詞、フロウの技術を併せ持ったこの世代が、(筆者のような旧世代の人間が)「え、この年齢でこんな音楽を?!」と思うような音楽を生み出すことはいわば必然だ。20代のリアルな諦念が反映されたリリックも素晴らしいが、もっとも心を惹かれるのは音楽的な質の高さと、既存のやり方に捉われることなく、純粋にクオリティを追求する姿勢。クボタカイの音楽は今後、年齢や音楽の趣味を越え、多くのリスナーを魅了することになるだろう。

文 / 森朋之

オフィシャルサイト
https://kubotakai.com

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