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『幻奏喫茶アンシャンテ』魔王や堕天使と恋に落ちたら、どうなるの!?

『幻奏喫茶アンシャンテ』魔王や堕天使と恋に落ちたら、どうなるの!?

人間界の喫茶店に来店するのは、なんと異世界からのお客様!? これまで、たくさんの乙女心を持つプレイヤーたちを虜にしてきたオトメイトから、異色の作品がリリースされました。“異世界、人外、喫茶店。”というキャッチのとおり、異世界から来たお客様を相手に喫茶店を経営する女性が主人公となる『幻奏喫茶アンシャンテ』。筆者は決して詳しくはないものの珈琲が好きで、ほぼ毎日自分の家で挽いた豆をドリップし、芳醇な味と香りを楽しんでいます。ですから、喫茶店を舞台にした本作には発売まえから心惹かれるものがありました。実際に遊ぶ際には、淹れたて珈琲のいい香りを漂わせながら……とまったりした環境作りにも余念がありません。しかし、そんな香ばしいアロマと幻想的な世界のイメージからは想像もつかないストーリーが展開されることになろうとは、期待に胸を躍らせゲームのパッケージを開封したときの筆者には全く想像もできませんでした……。まあ、その意外過ぎる展開にびっくりしたのも最初だけで、中断するタイミングを失うほど本作に心を奪われた筆者は、一刻も早く最後まで見届けたくて寝る間も惜しんでプレイを続けました。そして全てのグッドエンドを見た筆者の心には、「早く読者にこの感動を伝えなければ!」という情熱が渦巻いています。
本稿では重大なネタバレをしないよう配慮してはいますが、このゲームの面白さを語るうえでどうしても内容に触れる場合があるので、初めにその点をお断りしておきます。さて、まずはプロモーションムービーで、本作の概要と美しいグラフィックに触れてみてください。

文 / 内藤ハサミ


新米マスターの店に通う魅力的な常連たち

死んだ祖父が営んでいた喫茶店、アンシャンテを継ぐことになった主人公(デフォルトネームは淡木琴音、名前のみ変更可能)は、喫茶店経営についてはまだまだ新米の19歳。高校を卒業したあと、かなりのブラック企業に就職して社会の闇を味わってきたという、年齢のわりに濃い経験をしてきた女性です。彼女の祖父が経営していた店は、なんと異世界から人外が憩いを求めてやってくる特殊な喫茶店だったことを、常連である人外の面々から聞かされる主人公。もちろん、初めは状況を受け入れがたい様子の主人公でしたが、祖父亡き今となっては自分ががんばらなければ店の存続は叶いません。主人公はかなり個性的な異世界からのお客様たちを相手に、アンシャンテを経営していくことになるのです。

幻奏喫茶アンシャンテ エンタメステーションゲームレビュー

▲店の中に隠されていた扉だけしかない部屋。それは、異世界からのお客様が来店する入口でした

最初に筆者が本作に対して持っていたイメージは、異世界から来た幻想的な住人と主人公がコーヒーを飲みながら語り合ううち、ふたりの間に愛が生まれ、ちょっとしたすれ違いがありつつも最後はハッピーエンドを迎えるというようなものでした。しかし、その予想は実に薄っぺらすぎたと言わざるを得ません。実際にプレイしてみると、予想したような喫茶店でのほのぼのシーンはもちろんあったものの、「突然、人外が来店する喫茶店のマスターになっちゃった!?」というコメディっぽい雰囲気からは考えもしなかった方向に展開していくストーリーに驚かされてばかりだったのです。そのストーリーについては、これから触れていきますね。

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▲主人公が継いだ店には人間も来るのですが、もれなく人外関係者です

主人公の祖父がマスターを務めていた時代から“喫茶アンシャンテ”に通っているメンバーは、自称・魔王のミシェル・アレックス、首なし騎士のカヌス・エスパーダ、堕天使のイル・ファド・デ・リエ、魔獣イグニス・カリブンクルス。そして、とある人外関係組織に所属する人間の凛堂香の5人。
……と言われても、全然実感を得られないというか、あまりにも現実離れした設定を冗談みたいに感じてしまって、「この世界に入り込んで楽しめるかな……?」と一瞬不安になったのですが、それはゲーム中の主人公も同じ反応。しかし、彼女と人外たちの交流が続けられることによって、距離がどんどん縮まっていく様子を時間をかけて丁寧に描いています。気づけば個性的すぎるお客さんのいる日常に馴染み、筆者としても大事な癒しの関係となっていることを実感できるまでになるのですが、その温かい絆があるからこそ中盤以降に展開される激動のシナリオは胸に刺さりました。では、アンシャンテの常連5人を進行の醍醐味やヒントとともに紹介しましょう。

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▲ 自称・魔王、ミシェル・アレックス(CV:赤羽根健治)

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▲不安な気持ちに心揺れる主人公を不思議な力で楽しませてくれたりします

おちゃらけているけれど最高に強く、とことん主人公に優しい人……いや、魔王。ずっと以前から主人公を知っているような口ぶりですが、どこかで会ったことがあるのかも? ラフな私服で出歩く姿やイケメンすぎる彼の柔和な笑顔からは、魔界を牛耳る恐ろしい魔王の姿は想像できません。ミシェルとのルートを発生させるためには、まず他の4人のルートを全てクリアする必要があります。長い道のりになるでしょう。もう何を語ってもネタバレなので詳しくは言えませんが、損はさせません! 絶対に彼とのルートは体験してほしいです!

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▲首なし騎士(デュラハン)、カヌス・エスパーダ(CV:梅原裕一郎)

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▲実直な性格ゆえ、街の人気者になっているカヌス。カヌス関係の写真は見た目のインパクトがありますね

首のない姿がひときわ個性的なカヌスは、妖精界から来た騎士です。頭部が見えないので表情は伺えませんが、首から出ている光の色で大体の感情を知ることができます。冷静なときは青、リラックスしているときは緑、照れているときはピンクなど案外考えていることはわかりやすいかも。人間界での外出時にはこの格好に兜をかぶった姿になり、正直怪しすぎ……。ちなみに、頭以外は人間っぽいというルックスが好きな筆者、立ち絵が発表された時点で特に気になっていたのは彼でした。カヌスはその生まれゆえ、辛い宿命と対峙することになります。苦しみながらも主人公を第一に気遣い守ろうとする彼の健気さを感じるエピソードの数々に、心動かされない人はいないでしょう。彼への気持ちを真っすぐに表していれば、きっと大きな愛で応えてくれるはず。

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▲堕天使、イル・ファド・デ・リエ(CV:石川界人)

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▲無邪気に「あーん!」と乙女ゲーコラボカフェの料理を食べさせてくれるイル。この、赤ちゃんみたいな無邪気さの理由とは……

“愛”にこだわりをみせる彼は、乙女ゲームが大好き。グッズまみれの部屋で一日中乙女ゲームをプレイすることもあります。特典目当てに同じゲームを何本も買ったり、ブラインドグッズを箱買いしたりとディープな趣味のイルはPCトラブル解決もお手の物。半面、その他のことについては異常に世間知らずです。生活力は皆無、空気を全く読まない天然ボケというアンバランスな面があります。なぜ彼が乙女ゲームに傾倒するのか。なぜこんなにも世間ずれしているのか。実はギャップを狙ってとってつけた面白設定ではなく、全てに重要な意味があったのです。その理由がわかるころには、きっとイルの虜になっていることでしょう。イルの個別ルートを進めてすべてがわかったときは、あまりに意外で残酷な事実に鳥肌が止まりませんでした。

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▲魔獣、イグニス・カリブンクルス(CV:小野友樹)

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▲ちょっと手の込んだ料理に挑戦するイグニス。主人公も作中でツッコミを入れていましたが、Tシャツのかわいさとのギャップが面白いです

短気、喧嘩っ早い、ぶっきらぼう、お肉大好き大食漢。けれど、アンシャンテの常連ではだれよりも常識人で秘めた優しさを持っているイグニス。やんちゃ坊主に見えてオカンのような世話焼きというギャップは、彼のようなキャラクター性を守備範囲外に置いている筆者も心がぐらつきました。ふだん突っ張っているからこそ、彼が勇気を出して主人公に伝える正直な気持ちには重みが感じられてキュンとします……。彼のルートを進めることで、イグニスと主人公の間にある重大な問題が浮き彫りになります。この作品に貫かれた“人間とは大きく異なる種族と、愛し合うことはできるのか”というテーマを改めて深く考えさせられることになるのです。

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▲政府の超常事象対策機関(GPM)に所属する人間、凛堂香(CV:諏訪部順一)

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▲私服もイケメンです……。全く私生活の見えてこない凛堂さんなので、装いが変わるだけでもドキッとしてしまいます

最後は、攻略対象で唯一の人間として登場する凛堂香です。実は、人間界に訪れた異種族が起こす事件は今までに多々ありました。彼の所属する組織GPMとは人外関係の事件を取り扱っている、一般人からは秘匿化された機関なのです。注意深く痕跡を消されるため一般人に異種族の存在は明らかとなっていませんが、世間で起こる事件、事故、災害などに人外が関わっているというケースも多々あるようです。彼がアンシャンテに通うのは、ここに集う特に強い力を持った人外たちを監視する任務のため。アンシャンテの常連たちは、あらゆる世界に存在する種族のなかでも最強クラスの強い力を持っているのです……とは言うものの、通ううちに彼らとは監視対象という枠を超え、気の置けない友人という関係になっている模様。360度どこから見ても余裕たっぷりで大人の魅力満載の彼は、GPMとして守秘義務を忠実に守り、自分のことすら積極的に語りたがらない秘密主義でもあります。つかみどころがなく敵か味方かも断言できない人ですが、彼の人生に飛び込む勇気があればプライベートな一面……いえ、それ以上の真実も見せてくれるでしょう。

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▲彼らとの触れ合いによって主人公と異世界の距離は近くなり、なんと彼らの世界に行くことにもなります

作中では彼らのほかにも、スライム、牛頭の魔獣、天使や妖精たちなどの異種族が登場するのですが、意思疎通の可否や形状などは千差万別で、人間と近い価値観を持っているとは限りません。彼らにはごく当たり前に思えることが、人間からすると大きく倫理に反しているということもあるのです。“人間と人外は相容れぬほど大きく違うものなのか”という疑問は、登場人物のセリフを通してたびたび語られます。ときには一緒にいることをためらってしまうほど、習慣、文化、体の作りも含め多くの差異に衝撃を受けることもあります。そんな彼らを好きになってしまったら……? 人間と人外の間にある愛の障壁は高いけれど、いろいろなことがあっても結局ふたりは結ばれるでしょう……と楽天的に考えていた筆者も途中で勃発するトラブルや越えられない壁にハラハラし、「もうこれは完全に万策尽きてない? バッドエンドまっしぐらでは……」と絶望感を味わったりもしました。なかには凄惨な描写もあり、万事解決とは言えない終わりかたをするイベントもあります。

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▲空を飛べるイルと夜空をデート。ロマンチックにもほどがあるでしょ!

「異種族同士だって、話し合えばわかり合える」という甘い考えは早々に打ち砕かれるこの世界において救いを感じるのが、アンシャンテの常連たち同士や主人公との絆でした。彼らの存在が世界に変化をもたらし、いろいろな種族に対して理不尽な現状を変えるための起爆剤になる、という描写はシビアな世界での希望です。なにより彼らがそれぞれにアンシャンテを大事に想い、語り合い、はしゃぐ姿を見るのは、もう画面に向かって思わず手を合わせそうになるくらい尊い光景なのです!

物語の面白さに集中できるシステム

ゲームシステムはテキストを読み進めていき、要所に現れる選択肢を選ぶアドベンチャーです。乙女ゲームとしてはオーソドックスなシステムでしょう。選択肢によって物語が大きく変わることはありません。選択した内容は、具体的なパラメータを確認できないものの特定のキャラクターの好感度に影響します。どの選択でどのキャラクターの好感度が上がるのかはわかりやすいので、攻略面で迷うことはあまりないはずです。保険としてセーブをいくつか取っておくに越したことはありませんけどね。

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▲クイックセーブ&ロード、テキストのスキップモード、履歴表示、テキストを自動再生するオートモードなど基本機能はもちろん備えています。ちなみに主人公の“淡木まむし”は、筆者が入力した主人公の名前です……

攻略に迷いこそしませんでしたが、筆者が5キャラクターぶんのハッピーエンドを見終わったのは、1日5時間前後プレイしていたにもかかわらずほぼ4日かかりました。しかも最終日は徹夜して、夜通しでプレイしています。本当は1週間くらいかけてちょこちょことプレイするつもりだったのですが、惹きつける物語に中断するタイミングを失ってしまったのです。シナリオはボリューム満点で、共通ルート8章、そこから各攻略対象へのルートに分岐してからは攻略対象にもよりますが2~5時間くらいかかるでしょうか。後半に進むほど、彼らとアンシャンテで触れ合っていた前半のほのぼの日常パートからは想像もできないハードなストーリーが、各キャラクターのシナリオごとに展開されていきます。各キャラクターを大事にし、彼らの背景まで丁寧に描こうという開発陣の気合いが伝わりますね。

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▲戦闘シーンの描写は、生ぬるさなしです

各キャラクターを攻略するとき、共通ルートシナリオで前回とは別の選択肢を選ばなくてはならない場合があるので、既読部分であれば選択肢までワープできるシステムがあればよかったですね。高速でシナリオを表示させるスキップ機能はもちろんありますが、ストーリー自体が長いので目当ての選択肢にたどり着くまで時間がかかります。ただ、各キャラクターのルートを攻略していくと、共通ルートの何気ないテキストに込められた真の意味がわかる楽しさもあるので、筆者はミシェルルートまで4人ぶんのシナリオをすべてクリアしたあと、共通ルートを読み返してみました。「ああ、これはこういう意味だったのか!」とわかると同時に、何気ない会話シーンに込められたキャラクターの想いが伝わってきて、涙が出てしまいました……。

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▲おちゃらけキャラのミシェルが発するセリフも、クリア後は全然違う感じかたに……うっうっ

異世界があまりにとってつけたような都合のいい世界だとしらけてしまいますが、異世界で起こる現象の面白さを表現しながらも、人間界との違い、人間として受け入れ難い習性や風習などを丁寧に描き込んでいます。しらけるどころか世界にグイグイ惹かれていくエッセンスになっているという加減がほどよく、ファンタジーなビジュアルに抵抗のあるプレイヤーであっても世界に引き込むことができると感じました。また、ほぼすべての操作をNintendo Switch本体のタッチパネルで行えるという手軽さも良かったです。操作性の良さで他機種の携帯機が乙女ゲームのメインマシンのようになっていましたが、Nintendo Switchと乙女ゲームの親和性も高いと実感しました。
現実として種族間の隔たりは大きく、理解できないことも多い。そして、つき合いかたには正解すらも存在しない。しかし、異種族とわかり合い慈しみあうことを目指し、登場人物たちがときに傷つきながらも前に進んでいくというシナリオのパワーは大きく、感銘を受けるものでした。人間と人外の仲間たちが集う喫茶店で始まった、酸味と苦みもあるからこそ美味しい珈琲の香りが漂う愛のお話。王道甘々も素敵ですが、ときにはこんな変わったラブストーリーも体験してみてはいかがでしょうか?

フォトギャラリー
幻奏喫茶アンシャンテ ロゴ

■タイトル:幻奏喫茶アンシャンテ
■メーカー:アイディアファクトリー
■対応ハード:Nintendo Switch™、 Nintendo Switch Lite™
■ジャンル:女性向け恋愛アドベンチャー
■対象年齢:15歳以上
■発売日:発売中(2019年10月10日)
■価格:通常パッケージ版・ダウンロード版 各6,300円+税


『幻奏喫茶アンシャンテ』オフィシャルサイト

 

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