サザンオールスターズと昭和・平成・令和元年  vol. 13

Column

デジタル化の波を持ち前の個性で乗りこなした『綺麗』という意欲作

デジタル化の波を持ち前の個性で乗りこなした『綺麗』という意欲作

今年デビュー40周年を迎えたサザンオールスターズのバンド・ヒストリーを、彼らが生み出した数々の作品から改めて見つめていく。音楽評論家・小貫信昭が独自に紐解く、サザンオールスターズの魅力──。


『NUDE MAN』(82年7月)には勲章が与えられた。日本レコード大賞の「ベスト・アルバム賞」だ。“アルバム指向”であった彼らにとって、大きな励みになる。そして『綺麗』(83年7月)でも、同賞を2年連続で受けることとなる。ちなみにサザンオールスターズがビクターの「タイシタ・レーベル」から作品をリリースするようになったのはこの頃から。プライベートレーベルという自由を手にし、独自のレーベル・ロゴも作られることとなる。しかし同時に、責任も感じたことだろう。とはいえ守りには入らず、むしろ新たな冒険が始まったことの証拠が、『綺麗』というアルバムだった。

全体に、音の質感が変化している。それは“デジタル化の波”へ対処したがゆえの必然でもあり、サザンオールスターズに限ったことではなかった。70年代終盤〜80年代前半といえば、コンピューターがリズムを制御し、デジタル処理で響きを加工する音作りが、一般的になっていくわけである。とはいえ彼らの場合、メンバーが一丸となり生み出す生身のグルーヴが信条だったし、それを簡単に捨て去ることは考えられなかった。当然意識されたのは、生とデジタルの折衷案だ。

好奇心旺盛なメンバー揃いだったこともあり、いきなり成果を得ている。例えばそう、「マチルダBABY」や「かしの樹の下で」である。

アルバム1曲目の「マチルダBABY」は、いきなりイントロで聞こえるシンセサイザーの、不穏なようでワクワクするような独特の響きが特徴的だ。原由子が今も愛用するローランドの「JUPITER6」を演奏したものだが、まずこの音でアルバムがスタートすることは、象徴的にも思えた。さらにこの曲の歌詞はロールプレイング・ゲームのプロットのようなトキメキを取り入れたかのようでもあって、サウンドとコトバとの相乗効果も高い。このように、楽曲の中身そのものを、新しい時代に即したものとして生み出したあたりがアッパレでもあった。

「かしの樹の下で」の場合、特徴的なのは「シモンズ・ドラム」の音だろう。初期の電子ドラムとして一世を風靡した製品で、スネアやタムなどが円形ではなく六角形をしてて、音もズゥーンとかヒュウーンとか、ドラムの生音とは別物で、“私は電子ドラムでござる”と、自己主張するかのようなのだが、当時はこの音が、ロック〜ポップス界で一世風靡したのだ。

この音が、どんな効果を及ぼしたのだろう。それは大陸歌謡(戦前に日本で流行した、中国大陸を舞台にした歌詞とチャイナ風メロディの歌謡曲)を思わすこの歌の、“背景”を描いたのだ。電子ドラムだし無機的でもあるし、不向きと思える選択だったが、むしろ「シモンズ・ドラム」だからこそ、広大な大地と乾いた気候をイメージさせる、そんな仕上がりになった。そこに八木正生の編曲による胡弓の音が重なり、こちらの音は、人の温もりを表現していたといえるだろう。

さらに『綺麗』における変化は、ひとりのゲスト・プレイヤーによってももたらされた。リアル・フィッシュの矢口博康だ。彼の吹くサックスの俊敏な動きが、それまでのサザンオールスターズのアンサンブルに新鮮な風を吹き込んだ。もちろんこれまでもブラスやストリングスが加わることはあったが、例えば「マチルダBABY」や関口和之が歌う「南たいへいよ音頭」は、矢口の存在も非常に目立ち、バンドの演奏者の“頭数がひとつ増えた感じ”の印象とも言えた。

この頃、さらに次のアルバム『人気者で行こう』あたりの時期は、日本で洋楽が、今より気軽に“普段使い”で消費されていて、ヒット・チャートにおいても、洋楽とサザンオールスターズが並んでチャート・インすることも普通になっていく。となると、ルーツ・ミュージックとしての洋楽、というより、同時代の洋楽との比較もなされるようになっていく。

『綺麗』というと、たまに名前が出されるのがスクリッティ・ポリッティというイギリスのグループだ。彼らが『ソングス・トゥ・リメンバー』という最初のアルバムをリリースしたのは1982年。サザンオールスターズのメンバーも、当時、その存在は知っていただろうけど、改めて『綺麗』と『ソングス・トゥ・リメンバー』を聴き較べると、ファンキーなベースを生で演奏しつつもデジタルな音とうまく融合しているあたり、共通点を感じなくもない。だからって真似したとかってことじゃなく、これは“同じ時代の空気を吸った”結果だろう。

緩いサンバをフラメンコに接近させた「赤い炎の女」や、チャールストンのようで中近東風でもある「MICO」など、さらにカラフルに音楽地図を拡げていったのもこのアルバムで、そうかと思うと日本の60年代のGS歌謡を踏襲し、原由子が歌う「そんなヒロシに騙されて」など、まさに多種多彩だ。ツアーに明け暮れていたこの頃の日常を綴った「旅姿六人衆」は、普段、ヒネリの効いた歌詞も多い桑田にしては実にストレートであり、それゆえに一層、心に滲みる。 

文 / 小貫信昭

ALBUM『綺麗』
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