Interview

マイナスなことを書いてもいいと思えるようになった。デビュー曲以来、「Fate」のEDテーマを飾った藍井エイルの“いま”

マイナスなことを書いてもいいと思えるようになった。デビュー曲以来、「Fate」のEDテーマを飾った藍井エイルの“いま”

8年前、アニメ『Fate/Zero』のエンディングテーマ「MEMORIA」で鮮烈なデビューを飾った藍井エイルが、「Fate」シリーズに帰ってきた! アニソン界のビッグアーティストへと成長した彼女の2019年11月27日リリースの17thシングル「星が降るユメ」は、『Fate/Grand Order –絶対魔獣戦線バビロニア-』のEDテーマ。ED映像を観た視聴者からは、「MEMORIA」を彷彿とさせながら、新しい藍井エイルを感じられるこの楽曲に、称賛の声が多く寄せられている。今回のインタビューでは、自身の「Fate」愛をたっぷり詰め込んだという「星が降るユメ」に込めた想いを、たっぷりと語ってもらった。

取材・文 / 阿部美香 撮影 / 増永彩子


テーマは“星”と“出会いと別れ”

ニューシングル「星が降るユメ」は、『Fate/Grand Order –絶対魔獣戦線バビロニア-』のEDテーマとして現在オンエア中ですが、「Fate」シリーズの主題歌を担当するのは、『Fate/Zero』のEDテーマであり、エイルさんのデビュー曲となった「MEMORIA」以来、8年振りになりますね。

藍井 はい。もう8年も前なのがウソのように感じるんですけど、藍井エイルは「Fate」から生まれることができたものなので、本当に感慨深いですね。

エイルさんご自身も「Fate」シリーズには特別な思い入れが?

藍井 あります。8年前、『Fate/Zero』で「MEMORIA」を歌うことになった時は、まだアニメ自体が今よりも皆さんに触れづらい場所にあった気がするんですね。でもすごく内容は面白いし、それまで子供向けと思われていたアニメが、『Fate/Zero』の放送が始まった頃には、大人が楽しむ面白いアニメとして広がっていった感覚があるんです。今でこそ、インターネットを通して、全国どころか世界でアニメを見られるようになっていますけど。

たしかに、当時はまだ「Fate」シリーズそのものもマニアックな存在だったように思えます。

藍井 しかもゲームから派生していった深夜アニメということもありましたし、内容もダークでしたし。それがゲームからアニメになって、シリーズそのものもどんどん大きく広がっていった感覚です。

藍井エイル エンタメステーションインタビュー

そして今回の『Fate/Grand Order –絶対魔獣戦線バビロニア-』は、世界中で大ヒットしているスマートフォンゲーム『Fate/Grand Order』が原作。先日、国内1,800万ダウンロード突破も発表されたビッグタイトルです。そのアニメ化に際して、『Fate/Zero』を原点とするエイルさんが再びEDテーマを歌うというのは、原作ファン、藍井エイルファンのどちらにも嬉しいことだったと思います。

藍井 そう言っていただけたら、本当に嬉しいですね。

実際、「星が降るユメ」が流れるEDをご覧になって、どうでしたか?

藍井 最初に登場する背景画もゲームの第1部6章までで描かれてきた6つの特異点を表すものになっているし、それぞれのサーヴァントの過去がスチルで登場しているんですよね。例えば、ギルガメッシュだったら背中が映っているとか、物語を感じさせてくれる一つ一つの画像がすごく美しくて、私も感動しました。今回、私が歌詞を書かせていただいた「星が降るユメ」は星をテーマにしたんですけど、最後にマシュ(・キリエライト)が星を見上げるというのも、そこにリンクしていて嬉しかったです。

あと、私はギルガメッシュが大好きなので(笑)、『絶対魔獣戦線バビロニア』はマシュとギルガメッシュとエルキドゥのお話に思えているんですね。なので、ギルガメシュ叙事詩にもある、ギルガメッシュが親友エルキドゥのことを星に知らされるというエピソードからも、“星”という存在と、“出会いと別れ”をこの曲の大きなテーマにしました。

藍井エイル エンタメステーションインタビュー

出会いと別れですか。

藍井 はい。「星が降るユメ」のテーマは、出会いと別れの中で大切なもの、大切なこと、大切な人の存在に気づいていくことです。「MEMORIA」からのこの8年の間で、私にもたくさんの出会いがありましたし、そこで出会えた人たちは、自分にとって大切な人たち。もちろん応援してくれるファンの皆さんもそうです。再び「Fate」に関われることを通じて、「星が降るユメ」が、私自身の原点回帰となる作品でもあったらなと思いました。

なるほど。

藍井 私、詞を書く時のために、いつも自分でいろんなメモを取っているんですけど、そのメモに書いてある言葉と『FGO』の内容を照らし合わせてみたら、最初は大事な人との別れをテーマにしようかと思ったんですね。でも別れをメインにしてしまうと、アンハッピーになってしまう。この曲は、陰ではない世界を歌いたかったので、別れだけでなく出会いについても歌いたかったんです。

大事な人との別れというテーマが最初に出てきたのはなぜですか?

藍井 『FGO』ですごく印象的なシーンが、エルキドゥを抱えながら雨の中で俯いているギルガメッシュの絵なんですね。その親友との別れが感動的すぎたし、ギルガメッシュの人間らしさをすごく感じさせてくれた。でも、別れがあるということは、出会いもある。私もそうだし、この曲を聴いてくれる皆さんも、いろんな出会いと別れを繰り返しながら歩んでいると思いますから。

藍井エイル エンタメステーションインタビュー

マイナスがあるからこそ、プラスの部分がよりプラスに感じられる

「星が降るユメ」の歌詞を見て感じたことのひとつが、哀しく切ない別れをテーマにしていながらも、とても自然体で、そこから新しく歩みを進めようという希望も描かれていることでした。作詞はEir名義でデビュー曲の「MEMORIA」から共作、個人のどちらも続けていますが、作詞に対する考え方に、この8年間で変化があったりしました?

藍井 ありますね。以前は、上手く詞が書けないなと思ったり、決まった枠から脱出できないのがイヤでした。そこで「何がダメなんだろう?」と思ったら、無理やりハッピーにしようとしていたからだなって気づいたんです。私の好きなアーティストさんの歌詞を見ていると、負の部分があるからこそ、プラスになった時にさらにプラスに感じるんですよ。だったら「マイナスのことを書いてもいいじゃん!」って(笑)。

たしかに!

藍井 そう思えるようになったのが、1年とちょっと音楽活動をお休みさせていただいた時でした。だから、復帰シングルの「流星」でもマイナスなことが書けたんですよ。自分の気持ちを無視して、嘘をついてプラスに無理やり考えようとすると、自分のことを自分で洗脳し始める。それが良くなかったんです。前の自分は「こうじゃなければいけない」という枠の中に、自分を閉じ込めていた気がする。そこを外れてしまうのは許せないし、許されない。そういう鎖を自分で巻きつけていたんですね、きっと。

藍井エイル エンタメステーションインタビュー

自分で自分を「藍井エイルの歌はこうだ」と縛り付けていた。

藍井 そうなんです。そういうふうに生きていると、表現の一種としては面白いかもしれないけど、歌も張り詰めていくんですよね。あの時は、張り詰めた中で生きていることを勝手に自分の誇りだと思っていた……。「パーフェクトでいなきゃ!」みたいな。でもそんなことは無理だし、そこで自分を追い込むことは良いことじゃないと、今は思えます。だから、だんだん自然体な歌詞が書けるようになったのかな(笑)。

藍井エイルとしての「Fate」感を出しつつ、新たな歌い方に挑戦

そしてこの曲は、作曲はTAMATE BOXさん。エイルさんとは初タッグになりますね。

藍井 そうなんです。TAMATE BOXさんは、もともと友人だった方なんですよ。シンガーソングライターでもあり、アイドルさんとかジャニーズさんにも曲を提供していて。ただ、今回が初めてアニメのタイアップになるのかな? でも前々から私のことを知ってくれているので、藍井エイルらしさを分かってくれています。曲をいただいた時も、パンチが効いててすごく面白いなと思いました。

ラテンやフォークロア的な曲調もあって、すごく日本人好みですよね。

藍井 リズムにラテン感があるので、そこはかなり特徴的な楽曲ですね。その中で、メロディーラインが妖しい(笑)。TAMATE BOXさん自身がテンションコードとかがすごく好きなので、椎名林檎さんやaikoさんに通じるトリッキーで複雑な節回しもたくさんあって、耳に残りますよね。

そうなんですよ。中毒性があるなぁと。

藍井 そのぶん、レコーディングは難しかったです。今回はディレクションもTAMATE BOXさんにやっていただいたんですけど、ご本人も歌がものすごく上手なので……。

歌に対する要求が高かった?

藍井 そうですね(笑)。サビの「そうして ぼくは今日もまた生きていくよ」のところも、今までならチェストボイスで歌ってきたキーなんです。私も慣れているからそっちの方が歌いやすいんですけど、そこをあえて「ファルセットで抜いて歌って欲しい」と言われました。「分かりました、やってみます!と言って歌い始めたら、チェストボイスのままで歌っちゃって「間違えた!」って(笑)。すごく新しい挑戦でしたね。でもそこより高い、曲のトップキーのパートは、今まで通りチェストボイスで歌ってるんですよ。

藍井エイル エンタメステーションインタビュー

逆にテクニカルですね。

藍井 そうなんです、すごく難しかった。そのぶん、藍井エイルの歌い方の決まりきった世界を壊してもらえて、すごく新鮮でしたし、ありがたかったです。

復帰後の楽曲にも感じたことですが、とくに「星が降るユメ」のボーカルは今まで以上に柔らかく、懐の深い歌声に聴こえたのは、そういうテクニカルな挑戦もあったからですかね。

藍井 Aメロのメロディー運びなども、すごく難しいんですよ。ぜひ皆さんにもカラオケで歌って、確かめてほしいです!(笑)

すごい挑戦状が来ました(笑)。

藍井 あははっ! アレンジも、最初はもっとリズムがメインだったんですけど、制作途中でストリングスを入れてもらいました。そこから、藍井エイルとしての「Fate」感が蘇ってきた感じがありましたね。「MEMORIA」の弦の感じを思い出していただけるかもしれないです。

藍井エイル エンタメステーションインタビュー

とくにお気に入りのフレーズはどこですか?

藍井 曲の一番最後です。「星が降る夜のストーリー」という歌詞は、エルキドゥとギルガメッシュの出会いの前兆なので(笑)。

ギルガメッシュ、好きすぎですね(笑)。

藍井 ちょっと寄り過ぎちゃったかも(笑)。あと、2番のBメロの「泥だらけのあの儚い君が 不器用にも生きていく」というのは、エルキドゥを思い浮かべました。泥人形なので。だけど、自分の子供の頃を思い出すと、泥だらけで遊ぶじゃないですか。「星が降るユメ」の歌詞は、現実のイメージも持ちつつ、アニメとの整合性をものすごく考えて作りましたね。

私、歌詞を書くときは、1日で一気に書き上げて、翌日から少しずつ見直していくんですよ。だから今回は、途中で脳が悲鳴をあげているのか、眠くなってきたり、血糖値が下がってチョコレートとか食べながらで。出来上がった時は、ものすごく達成感があって「よっしゃーっ!」ってなりました(笑)。

藍井エイル エンタメステーションインタビュー

ちなみにTAMATE BOXさんは、歌詞についてどう仰ってました?

藍井 「躓き転ぶことが怖くて 歩けなくなった時は 君のこと 思い出して 勇気に変えたい」というフレーズを、「素晴らしいよ」って言ってくれましたね。でも、私は「隙間ひとつ みつからないくらい 想い出 重ねてきた」がいいと思うんだ、なんて言ったら、「いや、そこはありきたりじゃない?」とか言われて。人によって思うところが違うんだなって(笑)。皆さんにも共感できる部分を、ぜひ探していただければって思います。

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