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富野ガンダム未体験の人にこそ観てほしい─劇場版『Gのレコンギスタ Ⅰ』、掛け値なしに“伝わる”作品になった良リブートに触れて

富野ガンダム未体験の人にこそ観てほしい─劇場版『Gのレコンギスタ Ⅰ』、掛け値なしに“伝わる”作品になった良リブートに触れて

劇場版『Gのレコンギスタ』は、富野由悠季総監督によるテレビアニメ『Gのレコンギスタ』(2014年放送/全26話)に新規カットを加え劇場アニメとして再構成した新たな作品群だ。この1作目となる「行け!コア・ファイター」が、2019年11月29日よりいよいよ劇場上映&ネット配信される。

前代未聞の全5部構成という大ボリュームでリブートされるという本作の見どころはどこにあるのか? 古くから富野作品を観てきた40代ガンダムファンが詳しくチェックした。

取材・文 / 山下達也(ジアスワークス)


ガンダム、いやアニメ史上初となる“全5部構成”でのテレビ放送版リブート

テレビアニメの内容を再構成して劇場アニメに仕立てるという手法自体は、さほど珍しくない。富野監督作品だけでも『機動戦士ガンダム』のほか、『伝説巨神イデオン』『戦闘メカ ザブングル』『∀(ターンエー)ガンダム』そして『機動戦士Zガンダム』でこうした取り組みが行われている。

半年~1年かけて放送された物語を数本の劇場作品にまとめるとなると、どうしても語りきれないところがでてきてしまうものだが、古いアニメでは余談的エピソード(ファンの間では「捨て回」などと呼ばれる)も多かったため、むしろ話がシェイプアップされて観やすくなると言う評価も少なくない。『∀ガンダム』では全50話ものエピソードを前・後編2本の映画に圧縮するという離れ業を行っているのだが、こちらは中盤をばっさりカットし、前・後編の繋がりを視聴者に想像させるという見事な手法で、その物語を印象的なものに仕上げている。

しかし、今回の劇場版『Gのレコンギスタ』(以下『G-レコ』)では、少し前提条件が異なっている。テレビ放送版は全26話だったのだが、これを全5部構成の劇場アニメに仕立てるというのだ。映画1本の尺をざっくり90分と仮定すると合計450分、テレビアニメの本編部分(OP/EDや次回予告、冒頭のダブり部分などを除く)が1話あたり約20分だとすると、26話分で520分。つまりほとんど削ることなく作れてしまうことになる。もちろん、近年のアニメは情報量が濃密で、昭和のアニメのようにバサバサとカットできるものではないのだが、それにしてもこれは異常といえる。

富野監督は、この劇場版『G-レコ』で何をしたいのだろうか?

今年8月に福岡で行われた国内最速試写会のトークイベントにおける監督の発言によれば、「子供たちに向けて分かりやすい物語にしておきたかった」のだという。実は元々『G-レコ』は「子供向け」を掲げて作られていた作品なのだが、できあがってみるとこれが極めて難解。古参の富野ファンでも「理解できない」とギブアップする人が多かったのだ。監督自身、このことを機会があるたびに悔いていて、それを何とかしたいと思っていたらしい。

劇場版『G-レコ』は、富野監督自ら手掛ける「注解版」か!?

では、劇場版『G-レコ』第1部は、かつてのテレビシリーズと比べて“分かりやすいアニメ”になっているのだろうか? 結論を先に言ってしまうと「なっている」。驚くほど理解できる作品へと生まれ変わっていた。

そもそもなぜ『G-レコ』が分かりにくかったのかというと、物語の世界情勢が複雑な上、それがほとんど解説されない「世界観の分かりにくさ」と、登場人物の心情の動きがほとんど説明されない「キャラクターの分かりにくさ」がダブルパンチで視聴者を襲ったため。この傾向は多かれ少なかれ富野アニメに共通するものなのだが、『G-レコ』は『∀ガンダム』(1999年)以来、15年ぶりの地上波テレビアニメシリーズということで力が入りすぎたのか、いつも以上に炸裂してしまっていた。

誰が「敵」で、誰が「味方」か分からず、物語の「目的」もはっきりとは提示されない。キャラクターがイキイキと描かれているのは素晴らしいが、彼らが突然感情を爆発させる、その理由が分からない。何より、最後まで観ても“正解”が提示されないので、モヤモヤ感だけが募っていく……。当時、リアルタイムで見ていた(あるいは脱落した)視聴者の感想はそんなところではなかったろうか? ランバ・ラルばりに「この分かりにくさ、突き放し方こそ富野アニメよ!」みたいに強がることはできたのだが、正直、筆者としてもやっぱりこれはキツい。子供向けを謳うならなおさらだ。

野暮でもいいから、だれか“正解”を教えてくれ……そんな声に劇場版『G-レコ』は答えてくれる。これは、過去のどの富野アニメでもやっていなかった、驚くべき新機軸と言えるだろう。言うなれば劇場版『G-レコ』は、富野監督が、自ら作品に補足説明を付けていった「注解版」ということになる。ガンダムファンなら誰もが知りたいと思っている、「このキャラはなんでこんなこと言うの?」「このシーンにはどういう意図があるの?」といった、“富野監督の頭の中”を垣間見ることができる作品なのだ!

新規カット・セリフの追加で物語と世界観がグッと分かりやすく!

もう少し作品内容に沿って具体的に説明していこう。まずは、早くもテレビシリーズから大きく手を入れられている冒頭部分。物語は宇宙空間から降下してきた主人公機・G-セルフを鹵獲すべく、デレンセン大尉率いるキャピタル・アーミィと、カーヒル大尉率いるアメリア軍・海賊部隊がつばぜり合いを繰り広げるシーンから幕を開けるのだが、テレビ放送版では、そもそもこの2陣営の関係性が分からず、ここで何を争っているのかも分かりにくかった。

そこで劇場版では新規カットとセリフの追加・改変でシーンを補完。まず2陣営のモビルスーツにいきなり撃ち合いを演じさせることで敵対していることを明確にし、テレビ放送版では「坊主頭」とだけ表現されていた海賊部隊のモビルスーツ(グリモア)を「アメリア軍の坊主頭」と所属を明らかにした上で、「キャピタル・タワーの空に侵入して謎のモビルスーツを横取りしようってのか!」と状況を説明するセリフを追加。グリモアのパイロットに「即席の軍隊のくせに!」と言い返させるかたちでキャピタル・アーミィの成り立ちを伝えるという、非常に丁寧な構成に作り変えている。

以降も、G-セルフの本体を海賊部隊が、バックパックとパイロットをキャピタル・アーミィが回収したことをしっかりとセリフで視聴者に伝達。元々が断片的に情報を開示していく上手い見せ方ではあったが、分かりやすさではこちらの方がはっきりと上だ。

そして、ここに限らず劇場版『G-レコ』では全編において、分かりやすさを徹底追求。キャラクターの発言の前後に心の声をインサートすることで、どうしてその言葉を発したのかを補足しているほか、物語の根幹部分に関わる「スコード教」「トワサンガ」「水の玉」などといった重要な用語についても、都度、分かりやすい説明がなされている。これを見れば『G-レコ』脱落組の方でも「こういう話だったのか!」と膝を打つことうけあいだ。筆者のように分かっているつもりだったが自信が持てずモヤモヤしていた『G-レコ』ファンにとっても、新たな発見が多くあるだろう。

もちろん、テレビ放送当初から評価の高かった映像面の魅力は健在。特にベテランアニメーター・吉田健一(『交響詩篇エウレカセブン』作画監督など)らによる見事なビジュアルは劇場の大スクリーンにも映しても何ら遜色なし。新作カットも多く追加(本当に細かく、数多く追加されている)されているので期待してほしい。また、従来カットもモビルスーツのディテールアップなど、随所に手が入れられていることを確認できた。

ファンにとって気になる、「1作目にテレビ放送版のどこまでがまとめられているのか」という点については、観てのお楽しみということにさせてほしい。が、「行け!コア・ファイター」という副題からファンなら察しがつくのではないか。再構成した劇場版にありがちな駆け足感を感じさせることなく、丁寧に主人公・ベルリとアイーダの旅立ちが描かれる。ちなみにこの、いかにも富野監督らしい言葉選びを感じさせる副題は、この後も継承される見込みだ(少なくとも第2部では!)。本編終了後に第2部予告編が流れるので、そちらも乞うご期待。

なお、本作は8月以降に日本各地で先行上映が行われているが、11月に行われた関係者向けの試写会において、富野監督から「実はこれが完成版。先行上映には間に合わなかったカットが終盤に追加されている」とのコメントがあった。すでに先行上映で観ているというコアファンも、ぜひもう一度劇場に足を運ぶべきだろう。

富野アニメ未体験の人にこそ観てほしい

本作序盤、テレビ放送版第1話に相当するパートで、アイーダがベルリとのファーストコンタクト時、唐突に「世界は四角くないんだから!」と叫ぶシーンがある。実はこのセリフについては劇場版でも細かな説明がないのだが、筆者はこれを「世界を、四角いモニタ越しに理解することはできない」あるいは「世界は、四角い形状ではなく、もっと複雑なかたちをしている(のだから、ちゃんとその目で世界を見ろ!)」という意味だと受け取った。そして、これは何より、富野監督から視聴者に向けたメッセージなのだろうと理解している。

こうした今どき珍しいメッセージ性の強さこそが富野アニメの真骨頂。それを受け取り、自ら考えていく楽しみをぜひとも味わってみてほしい。少なくとも今回の劇場版『G-レコ』は、それがしやすいように手を加えられている。手がかりなく放り出されるようなことはないはずだ。

劇場版『G-レコ』は、テレビシリーズ完結から5年を経た富野監督のリベンジだ。本当に、掛け値無しに“伝わる”作品に仕上がっているので、『G-レコ』ファンはもちろんのことだが、テレビシリーズの途中で挫折してしまった人、さらに言えば、これまで富野アニメを観たことのなかった人にこそ観てもらいたい。

劇場版『Gのレコンギスタ Ⅰ』「行け!コア・ファイター」

2019年11月29日(金)より全国24館にて2週間限定上映

【あらすじ】
地球上のエネルギー源であるフォトン・バッテリーを宇宙よりもたらすキャピタル・タワー。タワーを護るキャピタル・ガードの候補生ベルリ・ゼナムは、初めての実習で宇宙海賊の襲撃に遭遇して捕獲に協力。捕まった少女アイーダに不思議な何かを感じたベルリは、彼女が「G-セルフ」と呼ぶ高性能モビルスーツを何故か起動できてしまう。宇宙世紀終焉後の時代、リギルド・センチュリーを舞台に少年少女の冒険は世界の真相に直進する。

【メインスタッフ】
総監督・脚本:富野由悠季
原作:矢立 肇、富野由悠季
演出:吉沢俊一
キャラクターデザイン:吉田健一
メカニカルデザイン:安田 朗、形部一平、山根公利
デザインワークス:コヤマシゲト、西村キヌ、剛田チーズ、内田パブロ、沙倉拓実、倉島亜由美、桑名郁朗、中谷誠一
作画監督:吉田健一、桑名郁朗
美術監督:岡田有章、佐藤 歩
色彩設計:水田信子
ディスプレイデザイン:青木 隆
CGディレクター:藤江智洋
撮影監督:脇顯太朗
編集:今井大介
音楽:菅野祐悟
音響監督:木村絵理子
企画・製作:サンライズ
配給:バンダイナムコアーツ、サンライズ

【メインキャスト】
ベルリ・ゼナム:石井マーク
アイーダ・スルガン:嶋村 侑
ノレド・ナグ:寿美菜子
ルイン・リー:佐藤拓也
ラライヤ・マンディ:福井裕佳梨
クリム・ニック:逢坂良太
マニィ・アンバサダ:高垣彩陽

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