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彼にしか表現し得ない芝居。椎名鯛造が“劇団鹿殺し”の3年ぶりの新作本公演に出演。『傷だらけのカバディ』好評上演中!

彼にしか表現し得ない芝居。椎名鯛造が“劇団鹿殺し”の3年ぶりの新作本公演に出演。『傷だらけのカバディ』好評上演中!

“劇団鹿殺し”が3年ぶりに新作を上演する。その本公演にあたる舞台『傷だらけのカバディ』は、11月21日(木)より、あうるすぽっとにて上演中だ。
作に丸尾丸一郎、演出に菜月チョビ、音楽にオレノグラフィティと、“劇団鹿殺し”には欠かせない名コンビが、どんな新しい“劇団鹿殺し”を見せてくれるか──。今作は客演陣も豪華で、椎名鯛造、小澤亮太、ダンスカンパニー“梅棒”主宰の伊藤今人が参加し、物語の中核を担う。
初日前に公開ゲネプロが行われたのでレポートしよう。

取材・文・撮影 / 竹下力


100万人が満足しなくても、たったひとりの笑顔のために

傷だらけのカバディ エンタメステーションステージレポート

舞台は一回だけの奇跡だ。そしてそのたった一回の奇跡は、その人の記憶にしか残らない儚いもの。けれど、生きているかぎり、心に残り続けてくれる。けれど悲しいことに、記憶が薄れてしまうことも、忘れ去られてしまうこともあるかもしれない。それでも、“劇団鹿殺し”の新作は、観た人の記憶にいつまでも残ることを約束する。それだけ衝撃的なものだった。

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“劇団鹿殺し”の気迫が漲る舞台。劇団は必ずしも永遠ではないことをわかっているから、一瞬一瞬を懸命に生きようとする執念を感じさせる。皆を楽しませようとするパワーが怒涛のように押し寄せてくる。丸尾丸一郎の描くパワフルでコミカルなキャラクターも、菜月チョビのノリのいい演出も、完成度の高いオレノグラフィティの音楽も、今作でも活き活きと輝いていた。ゼロ年代を代表する劇団のひとつが、テン年代を締め括る作品を、再演ではなく新作として上演することに、感慨深いものを覚えてしまう。

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物語は2030年、日本中部の山間にある鹿神村のアパートの部屋で引越しの作業をしている犬島紀子(菜月チョビ)と、彼女の立ち上げたNPO法人「ラストドリーム」を手伝っている白石球児(長瀬絹也)の、“田舎あるある”の会話から始まる。

彼らは作業中に新聞を発見。そこには、インド人から金品を強奪して指名手配となっている鯉田大作(椎名鯛造)の記事が載っていた。彼女は彼が幼馴染みということもあって驚愕する。
そんな矢先、彼女のスマートフォンに鯉田から「東京に来い」というメッセージが届く。鯉田たちが結成したカバディチーム「“鹿神SEVEN”のメンバーを揃えて」、と。

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時は遡り、2019年の夏。中学で野球部エースだった鯉田大作は、プロ野球チームに入団したものの、たいした働きもできずに肩を壊し、戦力外通告をされ自暴自棄になっていた。そんな彼を紀子と猿橋佐吉(橘輝)が励ます。
そこへ飛んできた新聞には、2020年のオリンピックでカバディが正式種目になったことが書かれていた。紀子は鯉田にカバディのチームをつくろうと誘い、カバディに必要な7人のメンバーを集め始める。

鹿神農業高校の新人教師だった紀子はマネージャー、鯉田は“エース”という渾名のチームリーダーになり、忍者の末裔という佐吉、野球部では5番でキャッチャー、筋骨隆々なのに心は乙女の大村 獏(伊藤今人)、東京大学理工学部で学ぶ天才にも関わらず、学業から逃避をして御朱印集めをしている獅子田明(オレノグラフィティ)、林原農園で桃を栽培している“男前すぎる農家”こと林原龍二(小澤亮太)、鹿神村の隣町のタワシ工場で働くインド人ハーフの留学生の山本カーン清(近藤 茶)、仏教の修行のためにインドに渡ったが、カバディに熱中し、プロリーグで活躍したという馬鹿寺の跡取り息子の馬鹿 悟(丸尾丸一郎)たち8人が集い、カバディのチーム“鹿神SEVEN”が結成され、オリンピックを目指すのだった──。

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カバディは日本では競技人口が少ないスポーツ。しかも、田舎で過疎化が進んで若い人間がいないという理由で集められた即席チーム。だから、“鹿神SEVEN”はみんな経験もバラバラで、考えていることも違う。チームとしての結束力のへったくれもない。だけど、立ちはだかる様々な困難を乗り越えて、誹謗も中傷にもめげず、応援してくれる人が少なくたって、カバディに打ち込み、ひとつのチームになっていく。まるで劇団みたいだ。これはカバディというスポーツの意匠を借りた、丸尾丸一郎が書いた10年の劇団史、あるいは彼の私小説ともいえる作品ではないだろうか。彼が作・演出を務めた舞台『さよなら鹿ハウス』(2018)に近いところもあるけれど、今作は寓意性と“劇団鹿殺し”のぶっ飛んだ設定が特徴だと思う。

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2020年と2030年のディケイドを往来しながら、主にカバディチームの8人たちの、思いどおりにならない人生や、楽しくてワクワクするような人生を丁寧に紡いでいく。丸尾の脚本はいつ見ても、人間の造作や人生の機微の表現が達者だと感じさせてくれる。特徴的なキャラクターばかりなのに、目の前にリアルな人間として存在している造形力に感嘆させられる。しかも、丸尾は人間に内在する悲しみや喜びを巧みに表現しながら、決してセンチメンタルに溺れずに、どのキャラクターもカラッと晴れ渡らせているのが“劇団鹿殺し”が“劇団鹿殺し”たる理由になるのだと思う。

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主役の紀子を演じながら、演出も務めている菜月チョビは、縦横無尽の活躍だった。紀子のどんな困難にも負けない強い意志に溢れた芝居は、今作をカラフルに彩ってくれる。そして、どの舞台を観ても感心するけれど、世界の片隅のどこかにいる孤独な人たちを慰撫して叱咤激励するような力強い演出だった。また、歌になるとあえて役者に大きなマイクを持たせるという演出は個人的に大好きで、“劇団鹿殺し”はとにかくどでかいマイクを持って派手に歌って躍って楽しむという“ハレ”のイメージがあり、それもしっかり反映されているから、“劇団鹿殺し”ファンにもたまらない。今作は、これまでの“劇団鹿殺し”の良さを引き継ぎながら、なお未来へ行こうとする果敢な姿勢を見せてくれる。

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さらに、カバディという競技の特性を捉えた抽象的な舞台美術が美しかった。もちろん、オレノグラフィティの音楽もダンサンブルな曲やバラードがあったり、曲調豊かで飽きさせない。それを受ける丸尾の作詞も相変わらずクスッと笑える。
彼を含め、劇団員たちは様々な個性的な役をこなし、客演の小澤亮太や伊藤今人、椎名鯛造といったキャストもしっかり座組みに溶け込んでいるから、カンパニーの団結力が熱量として伝わってくる。人間同士の密な関係性が表出し、役者たちの連携も見事。これこそ、劇団が芝居をする面白さだと思う。

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そして注目したいのは、鯉田を演じた椎名鯛造だろう。動きまくるし、喋りまくり、歌いまくるという、“劇団鹿殺し”特有のはちゃめちゃぶりを踏襲しながら、椎名鯛造らしく演じきった。彼から滲み出る不器用ながらも温かい優しさは、彼にしか表現できない芝居だ。なおかつ、彼が得意なアクロバティックな動きも随所にある。なにより、劇団で演じることをエンジョイしていることがそこかしこから伝わってきた。

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2020年と2030年の鯉田もしっかり演じ分け、2030年になって挫折に挫折を繰り返し、すれっからしになってしまった鯉田を演じる際のドスの効いた枯れた声を出す芝居は板についていた。10年という歳月は人間を変えるんだなと思わせる説得力に満ちていた。

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日本でマイナーなスポーツを続けることは大変だ。なのに、現実に打ちのめされてへこたれても、傷だらけになっても、愛さずにはいられないから、熱中してしまう。そこには人と人との心の交歓が描くドラマもあるからだと思う。まさにそれこそ演劇の愉悦ではないか。100万人が満足しなくても、たったひとりの笑顔のために、芝居をつくる。そんな集団が“劇団”なのだ。つかこうへいに啓示を受けて誕生した“劇団鹿殺し”。彼らが伝えたい想いに影響された演劇人が、20年代に生まれることを確信させてくれる傑作の誕生である。

傷だらけのカバディ エンタメステーションステージレポート

東京公演は、12月1日(日)まであうるすぽっとにて上演。大阪公演は12月5日(木)から12月8日(日)までABCホールで上演される。
観逃した人も、2020年4月にはDVDが発売されるので、彼らのオフィシャルストアをチェックして欲しいが、ここはぜひとも再演を期待したいところだ。

舞台『傷だらけのカバディ』

舞台『傷だらけのカバディ』

撮影 / 江森康之

東京公演:2019年11月21日(木)~12月1日(日)あうるすぽっと
大阪公演:2019年12月5日(木)~12月8日(日)ABCホール

【STORY】
2030年、外国人が多くたむろする田舎町で再会したのは、元日本代表男子カバディチームの面々。彼らは幼馴染であり、2020年の東京オリンピックで男子カバディが正式種目になると聞き、冴えない人生を変えるために一念発起、見事に日本代表となって東京オリンピックで大活躍したのだ。しかし、一人の選手のミスによって日本国民を落胆させてしまった。再会と共に燃え始める苦い思い出と熱い心。10年前の傷を乗り越え、再び栄光を求めて立ち上がる。

作:丸尾丸一郎
演出:菜月チョビ
音楽:オレノグラフィティ

出演:
犬島紀子 役:菜月チョビ
鯉田大作 役:椎名鯛造
猿橋佐吉 役:橘輝
大村 獏 役:伊藤今人(梅棒/ゲキバカ)
林原龍二 役:小澤亮太
獅子田明 役:オレノグラフィティ
馬鹿 悟 役:丸尾丸一郎
山本カーン清 役:近藤 茶

赤城飛鳥、MC 役など:浅野康之
青木蹴人、老人 役など:峰ゆとり
白石球児、オム 役など:長瀬絹也
黄山泳吉、客 役など:前川ゆう
黒河内家光 役:金子大樹

大村大五郎、老人 役など:メガマスミ
大村愛楽、明の母 役:鷺沼恵美子
孕石 純、猿橋九十九 役など:椙山さと美
吹越響子、明の妹 役など:有田あん
相田満子、若者 役など:内藤ぶり
生徒、若い女 役など:藤 綾近

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