モリコメンド 一本釣り  vol. 146

Column

BBHF 尾崎雄貴を中心に、再びバンドとしてのキャリアを歩み始めた彼らのストーリー

BBHF 尾崎雄貴を中心に、再びバンドとしてのキャリアを歩み始めた彼らのストーリー

2016年10月の日本武道館公演「Galileo Galilei Last Live〜車輪の軸〜 at 日本武道館」を最後に活動を終えたGalileo Galileiは、海外のインディーロック、インディーポップの影響をリアルタイムで反映させながら、幅広い音楽リスナーにアプローチしたバンドだった。たとえば代表曲の一つである「青い栞」もそうだが、00年代の海外のポップミュージックのテイストを親しみやすいJ-POPに結びつけるセンスは、いま聴いてもまったく色褪せていない。

バンドの活動が終わった後、中心メンバーの尾崎雄貴はソロプロジェクトwarbearを立ち上げ、2017年にアルバム『warbear』を発表。シングルとしてリリースされた「Lights」はエレクトロを基調としたナンバーだったが(キック、ベースなど、ファットな低音域の響きが素晴らしい)、アルバムでは現行のグローバル・ポップを意識したサウンドを追求。海外の先鋭的なエンジニアを起用し、ワールド・スタンダードと呼ぶにふさわしいクオリティを実現していた。菅野よう子、押尾コータロー、多保孝一とのコラボレーションの実績、家入レオの「Relax」「大事なものすべて」「この世界で」、入野自由の「DARE TO DREAM」を手がけるなど作家としての活動も軌道に乗り、ソロのクリエイターとしてのキャリアを順調に進んでいた。

しかし尾崎は、再び“バンド”というフォーマットを取り戻した。

2018年1月27日、warbearの全国ツアーの東京公演で、Galileo Galileiのオリジナルメンバーとサポートメンバーで新たなバンド「Bird Bear Hare and Fish」(バンド名は、スティーヴン・キングの長編小説『ダーク・タワー』の一節より引用されたという)を始動させることを発表したのだ。メンバーはGalileo Galileiとして活動していた尾崎雄貴(Vo,Gt)、佐孝仁司(Ba)、尾崎和樹(Dr)そして、彼らのサポートギタリストを務めていたDAIKI(Gt)。その後、4人は「ページ/次の日」「ライカ」という2枚のシングルを経て、1stアルバム『Moon Boots』を発表。「ライカ」を聴けば、メンバー全員が“もう一度バンドとして活動できる!”という瑞々しい感情を抱いていることがわかるはず。ミュージシャンとしての深みと鮮烈な初期衝動が一つになったこのバンドの音楽には、Galileo Galileiともwarbearとも違う、魅力的なケミストリーがしっかりと宿っていたのだ。

2019年にはバンド名をBBHFに改名し、1st EP「Mirror Mirror」をリリース。本作のインスピレーションのもとは、尾崎雄貴が電源を切った状態のスマホの画面から、“黒い鏡” というイメージを思いついたことだったという。SNSに象徴される、この10年ほどで急速に浸透し、人々のコミュケーションの形を変えたデジタルツール。それをメタファー化して歌詞やサウンドのなかに取り込むことで、現代的なポップミュージックにつなげたのだ。

さらに11月13日には2nd EP「Family」を発表。先行配信された「なにもしらない」「涙の階段」を収めた本作は、前作「Mirror Mirror」と対を為す作品だ。「Mirror Mirror」はデジタルツールを介したコミュニケーションを描いた作品だったわけだが、「Family」は人と人が直接向き合い、実際に言葉を交わし、触れ合うことで生まれるフィジカルな交流をテーマにしているのだ。EP全体のコンセプトとリンクした、肉体性を感じさせるサウンドメイクもインパクト十分。個人的にもっとも心に残ったのは、4曲目の「シンプル」だった。煌びやかで切ないギター、シンセが鳴らされるなか、“ワン、ツー、スリー、フォー!”というカウントが聴こえ、生々しいバンドサウンドが出現。ストレートに感情を伝えるボーカルによって描かれるのは、<君が思ってるより 僕らはずっとシンプル>という(思わずハッとするような)フレーズだ。経済、政治、文化などあらゆる場面で事態は行き詰まり、SNSを遠因とする同調圧力が強まるなか、我々はどうしても物事を複雑に考えがちだ。そんな状況に捉われたリスナーをBBHFは、心地いいバンドのグルーヴと<僕らはずっとシンプル>という言葉で鼓舞し、頭と言葉をスッキリとさせてくれる。一聴しただけで新たな視点を得て、世界の見方が変わるーーそれはまさに、ポップスだけが持ち得るマジックなのだと思う。

これまでと変わらず、ワールド・スタンダードを標榜するプロダクションも健在。 The 1975、アークティック・モンキーズなどのサウンドプロデュースを手がけるマイク・ クロッシー、そして、彼らの盟友である POP ETCのクリス・チュウなどがミックスを担当。まさに世界標準と呼ぶべき音像が実現している。

現在BBHFは、全国10カ所のワンマンツアー「FAM!FAM!FAM!」の真っ最中。再びバンドとしてのキャリアを歩み始めた彼らのストーリーを、心ある音楽ファンとともに共有したいと思う。

文 / 森朋之

その他のBBHFの作品はこちらへ。

オフィシャルサイト
http://birdbearhareandfish.com

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