Interview

KIRINJI 堀込高樹が語る、最旬のサウンドに彩られた新作『cherish』の奥深い世界

KIRINJI 堀込高樹が語る、最旬のサウンドに彩られた新作『cherish』の奥深い世界

メジャー・デビュー20周年を経て、新たなフェーズに突入したKIRINJIが、約1年半ぶりとなる新作『cherish』をリリースした。先行シングル「killer tune kills me feat. YonYon」、先行配信曲「Almond Eyes feat. 鎮座DOPENESS」というフィーチャリング・ナンバーを含む全9曲は、前作のトライアルをさらに進化させ、最旬のKIRINJI流ポップに仕上がっている。エレクトロニクスやヒップホップを大胆に取り入れつつ、独自の言葉を操り、今日的な世界を見据えた刺激に満ちた歌はもはや独断場といっていい域に達している。サウンド/歌詞の両面で新境地を見せた堀込高樹に、アップデイトされたKIRINJIのいまを語ってもらった。

取材・文 / 佐野郷子 撮影 / 沼田 学


反響が大きかった「killer tune kills me feat. YonYon」

KIRINJIになって6年。通算14枚目のアルバムになりますが、いまの体制になってフレッシュなスタイルの音楽をどんどん更新していますね。

アルバムづくりって、「次はどんなアルバムをつくろう」と決めるまでが大変なのですが、今回は前作で試みたことをさらにブラッシュアップしたいというテーマが最初からあったので、ブレずに完成まで持って行けたかなと思います。

弓木英梨乃さんがリード・ヴォーカルを務めた先行シングル「killer tune kills me feat. YonYon」から、その予感はありましたね。

弓木さんの歌はこれまでもアルバムには収録していたし、ライブでも毎回歌ってもらっていますが、世の中的にもっと知ってもらうためにはどこかのタイミングで彼女が歌うシングルを出したいなと思っていました。それで、ちょうど良い感じの曲ができたので、「よし、いまだ!」と。

ラップ・パートのYonYonさんの起用は?

彼女の歌を初めて聴いたのはラジオでした。ハングル・ラップの曲だと思って聴いていたら、途中から日本語が出て来きた。調べてみたら、韓国のトラックメイカーと日本のシンガーをコーディネイトしたり、自分もラップしたりするDJ/シンガーだとわかって。そんな面白い人がいるんだと気がついた矢先に、たまたまインスタでフォローされて、「YonYonさんって、もしかして?」って連絡したんですよ。

インスタを通じて直接ご本人とコミュニケーションしたんですか?

そうなんです。いまどきでしょ(笑)。「何か機会があったらぜひ!」「喜んで」みたいなやりとりがあって、今回実現しました。「killer tune kills me」はけっこう反響が大きかったんですよ。韓国語のラップが入っているからなのか、動画のコメント欄に日本語、韓国語以外にも英語、スペイン語での書き込みが増えたりして、違う言語が入っているだけでこんなに反響があるんだと思いましたね。

浮遊感があるフィーチャリスティックなトラックと〈あの曲なら もう プレイリストから外した〉といういまどきの歌詞を2人の女性の声で描いたのは新鮮でしたね。

プレイリストやアカウントという言葉こそいまどきですが、付き合っていた頃によく聴いていた曲が、別れた後も心に引っかかることって、世代や時代に関係なくあるじゃないですか? 

たとえプレイリストから外したとしても、記憶からは消せない。

そうそう。アイディアは、ロバータ・フラックの「やさしく歌って(Killing Me Softly with His Song)」から引っ張ってきたのですが、意外と普遍的なテーマだと思いました。

KIRINJI 堀込高樹 エンタメステーションインタビュー

「もうエバーグリーンとは呼ばせない」最新サウンドへの接近

アルバムの1曲目「「あの娘は誰?」とか言わせたい」は、セレブのインスタに写り込んでいる謎の美女をイメージさせますね。個人的にはネット通販アパレル企業の某氏と、その恋人を思い浮かべてしまいましたが(笑)。

ああ、なるほど。あちらはナイト・フライトじゃなくて月ですけどね(笑)。この曲は夜間飛行のイメージでいこうとは思っていたのですが、そもそも自分自身が夜のドライブなんて久しくしていないし(笑)、ここはもう少し別の視点を入れて、華やかでリッチな世界を描く一方で、格差や社会の問題を忍び込ませることで、歌に奥行きを持たせることができればと思いました。

これが映画なら、「生き馬の目を抜く欲望の資本主義とその闇の深さに迫った問題作」ですね(笑)。

そこまで大袈裟じゃないですけど(笑)。でも、まあ、自分がパリピだったらナイト・フライトだけでいけたかもしれませんが、そうじゃないから、シビアな現実世界がどうしても出てきちゃいますよね。

しかも、このAOR的な雰囲気にソプラノ・サックスがいいアクセントになっていて。

そうなんですよ。この曲は、アルトでもなく、テナーでもなくソプラノのちょっとしたフュージョン感がハマるかなと思いました。少し前までは苦手だったんですけど、最近また新鮮で。

「「あの娘は誰?」とか言わせたい」や「killer tune kills me」は、ポップス本来の刹那な輝きやときめきがあって、それはKIRINJIが同時代的な音に舵を切って生まれてきた世界観ともリンクしますね。

そういうものですよね。エバーグリーンといわれるのは悪いことじゃないけれど、ある意味、旬じゃないとも言えるわけで、それも何かつまらないと思うんですよ。前作から「もうエバーグリーンとは呼ばせない」って言ってましたが(笑)、音楽を楽しみながらつくり続けてゆくためには、普遍的で上質なポップだけでは飽き足らなくなってくるんですよね。

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言葉の響きの面白さを大胆に導入した「雑務」のユーモア

今回のアルバムでハッとしたタイトルは「雑務」。この大胆さとユーモアは、高樹さん独特のセンスですね。

ダジャレですけどね、〈雑務 エンターテイメント〉は。〈雑務〉を連呼することで面白いサビになりました。言葉の響きの面白さは前から気にしてはいましたが、16ビートに三連譜が乗っかるのはブラジル音楽やヒップホップにはあって、平歌のところもいわゆるJ-POPではなく、歌詞に応じてメロディーがその都度変わるスタイルにしてみました。

そういう試みは近年のヒップホップからの影響もありますか?

ラッパーじゃないので直接的な影響はありませんが、譜割をいままでと違う感じにしたらさらに現代的になるんじゃないかとは考えていました。言葉のイントネーションの加減もけっこう難しくて、いい感じにするには試行錯誤はありましたが。

「雑務」の例として、OSのアップデイトをあげているのは共感を呼びそうですね。

アップデイトを「夜中にやる」って、やらないのもありがちですし(笑)、これは歌になるなと思いました。たとえば、何かすごく深刻な状況なのに、勝手にアップデイトが始まっちゃったみたいな奇妙な光景がどこかで起きているわけだから。

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鎮座DOPENESSを迎えたセクシャルな「Almond Eyes」

「Almond Eyes feat. 鎮座DOPENESS」が実現した経緯は?

鎮座くんは声がいいなぁと前から思っていました。FNCYを聴いて、ああいうポップスもありながら、KIRINJIにも興味を持ってくれるかなと思ってオファーしてみました。

2016年の「The Great Journey feat. RHYMESTER」以降、ラッパーとのコラボを重ねているのは?

「またか」という声も一部にはあるとは思いますが、それがもういまは自然な流れなんです。普段からラップをすごく熱心に聴いているわけじゃないけれど、自分の音楽の中にラップが入るとなにか特別ものになる新鮮さがあるんですよね。今回の「Almond Eyes」は、歌メロは平坦というか割と地味なのですが、これにラップが入るとがぜん面白くなる。

曲のテーマはどちらから投げたんですか?

僕からです。女性の体の一部分についてのフェティッシュな歌にしたいと思って、最初の4行を書いて彼に渡しました。そうしたら前半のラップの部分が送られてきて、その後に上がってきたメロラップもすごく良かったんです。

「Almond Eyes」のセクシャルなムードとも響き合っていますね。

それというのも、曲がマーヴィン・ゲイっぽいから、そこからもう逃れられなくなってしまいました。

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トピカルなテーマを現代版フュージョンで聴かせるワザ

「shed blood!」も衝撃的ですね。これは現行のジャズの影響うんぬんではなく、フュージョンなのかって?

そうです。開き直ったフュージョンというか(笑)。最近だと、ヴルフペックとかああいう感じのソウルというかフュージョン・サウンドです。そこにアルト・サックスを入れたら、どハマりで、自分でも笑っちゃいましたね。

しかし、サウンドに反して〈shed blood!〉(血を流せ!)という英語詞は穏やかじゃない。

このサウンドにサマー・ブリーズ的な爽やかな歌詞じゃあんまりじゃないですか?(笑)。この国も実際に集団的自衛権が可決してしまったわけで、現実的に起こりうる状況でもある。そういうトピカルな出来事と軽快なリズムが音楽的にもハモりました。もし、この曲がクラブでかかって、「ノリはいいけど、歌っていることがちょっと怖くない?」みたいな反応があったりしたら面白いだろうなと。

「善人の反省」も辛辣ですね。それをジャジィなギター弾き語りで歌う。

この歌詞をのせる前提でメロディーを書いて、それをギターで弾いたら、ヒップホップ以降のシンガーに近いニュアンスが出せるんじゃないかと思いました。

ジョージ・ベンソンさながらのタッチに、微妙な空気を反映させて、これは高樹さんにしか歌えない世界ですね。

善いヒトでありたいと思うときのいやらしさってあるじゃないですか? 何かをプレゼントして、お礼がないとか、感謝の言葉が足りないとか。そういうことにイラっとする小さい自分もどこかにいるんですよね。

そんな奥深いKIRINJIワールドを味わいながら聴いていると、「Pizza VS Hamburger」も何かの比喩なのかと?

いやいや、これはそのままです(笑)。うちの息子がそんなロゴが入ったTシャツを着ていたのがヒントになって出来た歌で、ハンバーガーとピザならピザの方がメロディーにのせやすかった、というだけで、まったく深い意味はありません(笑)。

KIRINJI流ニューウェイヴ・ファンクは、すでに「都市鉱山」あたりから始まりましたよね。

いま思えばそうだったのかな。これはベースのリフから出来たのですが、ケミカル・ブラザーズみたいな感じもあり。

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常に新鮮な気持ちで作品に向かうことができている。

かと思えば、「休日の過ごし方」ではミドルエイジの微妙な心境を淡々と歌う。休日に行くのは〈映画と本屋とカフェ〉で、〈今夜 ディープな呑みがしたいんだ〉も、身につまされます(笑)。

ライターの方は特にこの曲に反応しますね(笑)。でも、僕の周りもそういうヒトが多くて、僕もふとした瞬間に〈何かを変えたい 何かは知らない〉と思うことはあるし。

〈馴染みの店はまだ開かない〉夕方に、こんな宙ぶらりんな気持ちになるんですよね。

飲み屋が開く前の午後4時あたり。誰かに会いたい、ちょっと呑みたい、でも、実際はディープに呑むことはしなくなりましたね、次の日に残っちゃうから(笑)。馴染みの店で早い時間に軽く呑んで帰る。特にテーマを考えないで歌詞を書き出すと、こうなっちゃうんですよね。年を重ねると、どうしてもね……

そんな心情をポップ・ミュージックで味わえるのは、KIRINJIを聴く醍醐味でもある。

どうなんでしょう。大人が歌う歌って、難しいところがあって、あまりにもヘビーで描きにくいこともあるけど、そこをどうにかポップスに落とし込んでゆくのかは、今後もテーマになっていくとは思います。

夜中のインドアな光景を描いた名曲といえば過去に「Drifter」がありましたが、「隣で寝てる人」のどこか孤独で静謐な情景は高樹さんらしい作風ですね。

〈湯豆腐作って食べよう〉とか、所帯染みているかもしれませんが、そこに現実味と人間味が出ると思うんですよね。アルバムの前半がリズムの立った曲が多いので、最後はしっとり落ち着いた感じで締めてみました。

KIRINJIになって以降、高樹さんがリード・ヴォーカルを務めるようになり、最も変化したことは?

昔は下手に聴こえないようにすることを意識していましたが、歌うことにだんだん馴れてくると、どういう風に表現しようかという歌唱プランを自分なりに考えられるようになってきました。ようやく歌い馴れてきて、ヴォーカリストとして細かい部分にも神経がいくようになったのかもしれません。

デビュー20周年を経て、KIRINJIとして進む方向がより明確になってきましたね。

そうですね。前作は手探りの部分がありましたが、今度のアルバムは、狙いを定めてその範囲に入る音楽ができたという手応えがあります。いまのKIRINJIになって、割とコンスタントにリリースしてきましたが、常に新鮮な気持ちで作品に向かうことができているのは良かったと思います。これからも手練に陥らず、過去の自分の曲と並べても違和感がなく、フレッシュに響くような音楽をつくり続けていきたいですね。


その他のKIRINJIの作品はこちらへ。

ライブ情報

KIRINJI TOUR 2020

2月28日(金)  札幌・PENNY LANE 24
3月5日(木)  広島・クラブクアトロ
3月7日(土) 福岡・イムズホール
3月13日(金) 仙台・Darwin
3月18日(水) 大阪・Zepp Namba (OSAKA)
3月20日(金・祝)  名古屋・クラブクアトロ
3月24日(火) 東京・LINE CUBE SHIBUYA (渋谷公会堂)
3月25日(水) 東京・LINE CUBE SHIBUYA (渋谷公会堂)
3月28日(土)  沖縄・桜坂セントラル

KIRINJI

堀込高樹(vocal / guitar)、田村玄一(pedal steel / steel pan / guitar / vocal)、楠 均(drums / percussion / vocal)、千ヶ崎 学(bass / synthesizer / vocal)、弓木英梨乃(guitar / violin / vocal)。
1996年、実兄弟である堀込高樹、堀込泰行の二人でキリンジを結成。97年にCDデビュー。98年にメジャー・デビュー。オリジナル・アルバム10枚を発表後、2013年に堀込泰行が脱退。以後、堀込高樹がバンド名義を継承し、同年夏、バンド編成のKIRINJIとして再始動。2014年に新体制初のアルバム『11』、2015年には『EXTRA 11』を発表。2016年には初の試みとなる外部アーティストとのコラボレーション・ナンバー「The Great Journey feat. RHYMESTER」を含む『ネオ』を発表。2017年暮れにコトリンゴ(Vo/Key)が脱退。現在の5人編成のKIRINJIとなる。昨年はメジャー・デビュー20周年のアニバーサリーイヤーとして、オリジナル アルバム『愛をあるだけ、すべて』や「KIRINJI 20th Anniv.LIVE19982018」の開催など精力的な活動を展開した。

オフィシャルサイト
https://www.kirinji-official.com/