サザンオールスターズと昭和・平成・令和元年  vol. 16

Column

傑作かつ“豊作”だった二枚組の『KAMAKURA』(後編)全曲解説付き

傑作かつ“豊作”だった二枚組の『KAMAKURA』(後編)全曲解説付き

2018年にデビュー40周年を迎えたサザンオールスターズのバンド・ヒストリーを、彼らが生み出した数々の作品から改めて見つめていく。音楽評論家・小貫信昭が独自に紐解く、サザンオールスターズの魅力──。

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傑作かつ“豊作”だった二枚組の『KAMAKURA』(前編)

傑作かつ“豊作”だった二枚組の『KAMAKURA』(前編)

2019.12.07


アルバム『KAMAKURA』から、まず届けられたのが先行シングル「メロディ(Melody)」だ(85年8月)。実は今回のレコーディングで、最初にできた曲でもあった。さらに「怪物君の空」をはじめ、新たなオリジナルが次々に生まれていった。桑田はスタジオのなかで作曲することもあった。「ほんの偶然からできた曲もあった」。ちょっとしたモチーフを、メンバー全員で完成へ導くことも多かった。みんなが「こすれあった火花みたいなものを形にしたかった」とも語っている(どちらも雑誌『FMステーション』1985年9月23日号の取材より)。

「メロディ(Melody)」はタイトルのごとく、まさにそれが、こんこんと湧きたつような作風だ。曲調は違うが、ひとつ前のシングル「Bye Bye My Love (U are the one)」(85年5月)にも共通することかもしれない。

とはいえ『KAMAKURA』は、「傾向がない」ことが特色の作品集だ。メンバー全員を遠心分離機にかけたら、そこに20種類もの要素が顕われ、それぞれが作品化された、みたいなところがあったのだ。

ミュージシャンシップを発揮し、やりたいことをやってる部分も多い。“人気者で行こう”と宣言した彼らの、“人気者だけというのもチト辛い”という、本音も垣間見られる。ではこれから、駆け足ではあるが、20曲すべてを完走してみることにしよう。

DISC 1

「Computer Children」はコンピューター・ゲームに熱中する子供達の孤独がテーマ。コンピューターを取り入れること自体は、既にこの時点で日常となっていた彼らだが、より習熟し、完成度の高いエレクトリック・ダンス・チューンに仕上がった。「真昼の情景(このせまい野原いっぱい)」は、奥行きのあるポリリズムが心地良い。歌詞の[真昼]が“マヒラ”とスワヒリ語かなにかに聞こえる。それもあって、プリミティブな風合いの作品となっている。「古戦場で濡れん坊は昭和のHero」は、ホロスコープに浮かぶ古(いにしえ)の景色が眼前に迫るかのような幻想的なミクスチャー・サウンドである。歌詞には「よどみ萎え、枯れて舞え」の流れも少しあり、言葉を大胆に“符丁”のように用いつつ、結果として適度な湿り気の情感へ辿り着いている。さらに「愛する女性とのすれ違い」は、ポップで覚えやすい曲調だが、恋愛における心の“ゆらぎ”を見事に描いている。日本語詞と英語詞の繋がりがすこぶる良い。

「死体置場でロマンスを」は、ミステリー・ノベルを読み進むかのようなサスペンス溢れる展開だ。途中、車が走る際の臨場感溢れるSEなど、レコーディング技術の進化を感じさせる。これまでの彼らの王道(または桑田節というか…)と受取る人も多いかもしれないのが「欲しくて欲しくてたまらない」。でも、ここに聴かれるアレンジの厚みは、まさに“新生サザン”と言うべき芯のあるバンド・サウンドだ。80年代らしいシンセ・ファンクが躍動するのが「Happy Birthday」。ただ聴くだけじゃなく、サビのところなどは友人のお誕生日会に活用すべきかも。『KAMAKURA』=ビートルズの『ホワイト・アルバム』説でいうと、あちらにも「バースディ」が入っている…、というのが好事家の好む話題かも。

「メロディ(Melody)」はさきほど触れたので「吉田拓郎の唄」へ。この作品には背景がある。この年の7月に開催された『吉田拓郎 ONE LAST NIGHT IN つま恋』は、吉田が引退するのでは、という噂を生んだ。そのことに反応したのがこの曲だ。このアルバムの中でもとても有名な「鎌倉物語」は、産休中の原由子が自宅にマイクを立てて録音したエピソードが有名だが、真に語るべきは、その結果として生まれたのが名唱だったということ。彼女の柔らかな声が、鎌倉という街を、偏ることなく隅々まで照らしている。

DISC 2

「顔」には哲学的な趣がある。そもそも哲学とは生きることを考えること。そんなテーマにバンドが呼応。彼らが得意とするレゲエの原型も含まれるものの、よりハイパーでアッパーな、この時点の彼らにしかないサウンド。桑田のいう“こすれあった火花みたいなもの”が、ここに記録されたといえる。シングル・ヒットした「Bye Bye My Love(U are the one)」の場合、醸し出される軽(かろ)みこそが愛しく響く。サックスのフレーズは、アルメニアあたりの音楽にも通じるのかも。

「Brown Cherry」という曲名は、「Brown Sugar」というストーンズの名曲があることを敢えて聴き手に想起させつつ王道ロックをやろうという趣向だったかもしれない。実に大胆なドラムの音質が耳に残る。さらに「Please」は、ロックに留まらず、より間口を広げ、ジャズ・フュージョン的なセッションといえるだろう。こちらも明らかに“こすれあった火花”である。ギターのカッティング、バイオリンのソロも新鮮。なお、ラストはあのクリームの名曲を大胆に引用し、音楽ファンをニヤリとさせる趣向。

「星空のビリー・ホリデイ」は、不世出の女性ジャズ歌手へ捧げた曲であり、こういう作風で桑田の歌に接すると、ただひたすら「このヒトは歌が上手だな」と思う。木管の音色を活かした柔らかなアンサンブルもステキ。なおこの曲は、桑田と八木正生の共作だ。一転して、「最後の日射病」は関口和之のソロ曲である。歌詞に[Hi! life]とあるが、これは西アフリカの音楽が西洋文明と融合して生まれた新たな音楽ジャンル“Highlife”を意識したものだろう。深みのあるポリリズムがクセになる。「夕陽に別れを告げて〜メリーゴーランド」を聴いて、感情がぴくりともしない日本人は居ないだろう。ブラジル人における“サウダージ”みたいなものが、この曲には鳴っている。素直な作風。聴くヒトそれぞれに、それぞれの校舎とそれぞれの夕陽が浮かぶ。曲のエンディングに、いっけん脈絡のないインスト部分が足されているが、これがなんとも効いている。

SFファンタジーなロールプレイング的世界観を、推進力あるリフのロック・サウンドと、強靭な桑田のシャウトでもって鳴り響かすのが「怪物君の空」である。最初に聴いた時、ライブでぜひ聴きたいと思った作品のひとつだったのだが、やがてそれは果たされた。パーカッションの乾いた響きが心地良い「Long-haired Lady」は、余分なものを取り払った先にある音楽の喜びを求めるようで、やがて視野がどんどん広がっていく。桑田のルーツであるザ・ピーナッツ的哀愁もある。

そしてラストの20曲目は「悲しみはメリーゴーランド」。様々に変化してきた我々の心拍数を、落ち着かせる効能がある曲だ。ここで結論を出すわけではない。しかし、敢えてそれを探すなら、この世は“うたかた”、ということか…。[帰る祖国(ばしょ)は ここに決めた]という歌詞も味わい深い。なぜこのアルバムは『KAMAKURA』というタイトルなのかに関して、当時、桑田から聞いた話を先週紹介したが、そこにも通じる部分を、この歌詞から感じる次第である。

文 / 小貫信昭

ALBUM『KAMAKURA』
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