Interview

森口博子25年ぶりの劇場版ガンダム主題歌を歌う【インタビュー】

森口博子25年ぶりの劇場版ガンダム主題歌を歌う【インタビュー】

2015年よりスタートしたOVAシリーズの第4章『機動戦士ガンダム THE ORIGIN Ⅳ 運命の前夜』が11月19日より2週間限定で劇場公開されている。1979年放送のTVアニメ『機動戦士ガンダム』の“開戦前夜”を描いた今作で、主題歌「宇宙の彼方で」を歌うのは森口博子だ。ご存知の通り彼女は『機動戦士Zガンダム』の主題歌でデビューを果たし、『機動戦士ガンダムF91』の主題歌で「紅白歌合戦」に出演したアーティスト。長きにわたって“ガンダムファン”から愛され続けてきた彼女は、この新曲にどのような魂を込めたのだろう?

取材・文 / 西原史顕


「ガンダム」は人生を変えてくれた作品。歌手・森口博子の基盤を作ってくれた

1991年の映画『機動戦士ガンダムF91』から数えると実に25年ぶりのガンダム主題歌。厳密に言えば2007年にTVゲーム『SDガンダム GGENERATION SPIRITS』の「もうひとつの未来〜starry spirits〜」もあったわけですが、いずれにせよ久し振りのことですね。

 皆さん、「25年ぶりに劇場に帰ってきたと」おっしゃってくれますね。

オファーを受けたときの心境はいかがでしたか?

 もう嬉しくて嬉しくて、夢が叶ったと思いました。10代のときにTVアニメ『機動戦士Zガンダム』(1985年)の主題歌「水の星へ愛をこめて」でデビューさせていただいて、20代では『機動戦士ガンダムF91』の「ETERNAL WIND〜ほほえみは光る風の中〜」、そして30代でもPS2『SDガンダム GGENERATION SPIRITS』の「もうひとつの未来〜starry spirits〜」を歌わせていただきました。とにかくガンダムファンのみんなは熱い!! アニソンは世代や国境を越えてたくさんの人と繋がることができると歌うたびに実感してきました。私にとって、生涯の宝物であり、財産です。だから40代になっても歌いたいと強く願っていたので、奇跡としか言いようがないですね!そしてネットなどでファンの方たちの「もう一度森口博子に」というリクエストを見ていたので、私たちの夢が叶いました。時代に関係なく必要としてくれるファンのみんな、作品を作り続けてくださっているスタッフの方々に、感謝の気持ちでいっぱいです。

ここ数年、“Animelo Summer Live”や“KING SUPPER LIVE”などのアニソン系イベントをはじめ、テレビでも森口さんがガンダムの曲を歌う姿をよく見たような気がします。

 アニソンが世界に発信できる文化に育ちましたよね。私がデビューした当時はレコード屋さんでもほんとに扱いが小さくて、端に端に追いやられていましたけども、今では信じられないくらいたくさんの人から愛されているのを感じます。今回、OVA『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN Ⅳ 運命の前夜』の主題歌を歌うことになったのはプロデューサーの方からオファーをいただいたからなのですが、「ガンダムと言えばやっぱり森口さんですので」と言ってくださって、すごく光栄でした。

新曲「宇宙の彼方で」を受け取ったときの感想は?

 スペース・オペラをイメージした服部(隆之)先生の紡ぐメロディーがとっても壮大で美しくてカッコイイなと思いました。そして森雪之丞さんの情景描写や心情を表す言葉のセンスが素晴らしいなと。詞がとてもストレートに胸に刺さってきて、衝撃を受けました。曲と詞の持つメッセージが重厚で、どのような距離感で歌おうか悩みましたね。俯瞰で捉えすぎても届かないし、嘆いて想いを乗せすぎても重くなるし……そのあたりは私の中でも新しい挑戦でした。でも、今の年齢だからこそ歌える楽曲だと思います。プロデューサーの方からは「女神様のような立ち位置で歌ってください」とありましたし、「森口さんの透明感ある歌声で大切なテーマを届けてください」ともおっしゃってくれました。それにはボーカリストとして素直に感激しましたし、いい作品にしたいという気持ちも強まりましたね。

「宇宙の彼方で」からは、具体的にはどんなメッセージを受け取りましたか?

 例えば単語のひとつひとつ、“鋼の鎧”とか“瓦礫が崩れる”とか“兵士が流した 血は乾かずに”といった表現からは、ほんとに世の中で起こってほしくないようなシーンが見えてきますよね。これが、今現在も地球上で起こっていることなんだと感じました。地球で起こっている現実が苦しくて痛くて。ですから実際、マイクに向かったときは“愛”“平和への祈り”を捧げるという強い意志を持って、歌うことができました。考えたら31年前にも「水の星へ愛をこめて」、つまり“地球に愛をこめて”というタイトルの曲をいただいていたわけですから、ガンダムのテーマは本当に普遍ですよね。人間の戦いの愚かさだったり平和への祈りとか、そういうものについては歳を重ねるにつれて感じ方も変わってくるので、この作品が37年間も様々な年代のファンの方から愛され続けているのも、すごくよくわかります。

それにしても森口さんの“ガンダム愛”も、相当深いですね。

 もちろん! 人生を変えてくれた運命の作品です。4歳から歌手になりたくてあれだけオーディションに落ちて落ちて、途方に暮れていたときに最後に手を差し伸べてくれたのが、ガンダムでした。そしてやっと歌手になれたと思ったら、今度は事務所からリストラされてしまい、そこで「なんでもやりますから!」と始めたのがバラエティの仕事だったんです。必ず歌うことに繫がると全力でやらせていただいていたときに「ETERNAL WIND〜ほほえみは光る風の中〜」に出逢うことができて、初めてベスト10入りすることができました。それが「紅白歌合戦」や全国ツアーにも繋がって、みんなに私が歌手だと認めてもらえるようになり。で、30代になるとCDが売れない時代に突入し、「自分はどうなっちゃうんだろう?」と不安を抱えながらもミュージカルなどのいろんな表現にチャレンジしていたときに、今度は「もうひとつの未来〜starry spirits〜」が再びチャートに入って、私の歌をまたみんなに聴いていただけるきっかけになりました。そしてこの度、「宇宙の彼方で」のMVがリリース前にGYAOの動画サイトでデイリーランキング1位に。更にリリース後再び、デイリー&ウィークリーランキングダブルで1位にランクインしたんです。本当に、ガンダムは歌手・森口博子の基盤、軸を作ってくれた作品なんです。

歴史ありですね。

 みんなと私の人生にガンダムが息づいています。共に歩んでこれたことが心から幸せです。37年の歴史を持つこの作品は、きっと皆さんの人生にも様々な形で刻まれているんだと思います。人格形成の頃に聴いた音楽って裏切らないじゃないですか。そういう楽曲を歌わせていただけていることはボーカリスト冥利に尽きます。イントロが鳴った瞬間にみんなにわかってもらえるような曲があることに感謝しつつ、その曲のパワーに負けないように、私もずっとボーカルを磨き続けなくてはならないという責任を感じます。

ちなみに私は80年生まれですので、『機動戦士ガンダムF91』が劇場で観た初めての作品でした。もちろん、「ETERNAL WIND〜ほほえみは光る風の中〜」はそのときからずっと大好きな一曲です。

 うれしいです(笑)。そうやって大人になった方が、いっぱいいるんですよね。今回主題歌を歌わせていただく『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN Ⅳ 運命の前夜』は、“ファーストガンダム”(『機動戦士ガンダム』1979年)”より過去の物語を描いていて、歌詞の中に出てくる“争いが始まる”の争いはその37年前の争いを指しているんです。ガンダムでデビューさせていただいた私が、ガンダムの歴史の始まりを歌わせていただくなんて、こんなに運命的なことはないですよね。この奇跡のバトンに魂が震えます。世の中にこれだけたくさんのアーティストの方がいるなかで、オファーをいただけたことが本当にうれしいです。この曲を歌えることが本当に幸せです。

悩みに悩んだレコーディングはいかがでしたか?

 スタジオには服部先生や森雪之丞さんはもちろん、安彦(良和)監督もいらしてくださって。なので余計にプレッシャーを感じていたんですけども(笑)、レコーディングって、何かが降りてきてすべてが噛み合う瞬間があるじゃないですか。それが後半のテイクで起こったんですよ。私自身も「これだ!」という歌が歌えたんですけど、ブースから出ると服部先生と森雪之丞さんからも「今の良かったよね」「魂に届いた」「ライブだったね、あれは」と言っていただけて。安彦監督からは「アナログ時代から歌ってきた底力を感じました」とも言っていただき、すごくホッとしました。あのときの精一杯がCDになって、これからまた歌い続けることによってファンのみんなに育まれていくんだなと感じています。

カップリングの「Day by Day…きっと」ですが、これはもしかして?

 ララァ・スンのことを歌った曲ですね。『機動戦士ガンダムTHE ORIGIN Ⅳ 運命の前夜』にはララァとシャア(・アズナブル)の出会いのシーンもあるんですが、ここでのシャアは家族を失った復讐心から一匹狼になっていて、心も凍りついているんですね。そんな彼を守ってあげたいと思えるララァは素敵だなと思います。

そこは“ファーストガンダム”のときには描かれていなかった、ふたりの背景ですよね。

 私も「なるほどな」と思いました。「Day by Day…きっと」にはこの先何が起こっても自分で決めたことだから後悔しないとか、愛の尊さが描かれていて。 “時の指先が 解いてくれるでしょう”とか“月の光に 傷跡が透けて”とか、やっぱり森雪之丞さんの詞ってすごいですよね。

“ファーストガンダム”でのララァの結末を知っている身としては、そうした歌詞を明るく前向きに歌っているところが逆にグッときます。

 たしかに、この曲にワルツを選んだ服部先生の世界観も素晴らしいですね。この曲は、もっとキーを下げて落ち着いたトーンを出すべきか、ファルセットで歌って透明感を出すべきかで悩みました。プロデューサーの方に相談したところ、「ララァの恋心には高いキーのほうがイメージだ」とうかがって、今のキーになったんです。服部先生にも「少女のような気持ちで歌ってね」と言われました。

劇伴の「ジャブローのシャア」と「神秘の萌芽」も収録されて、本当に今回の一枚は、ガンダム一色になりました。

 これはちょっとしたサプライズですよね。「カップリングにはどんな曲が入っているのかな?」と思ったら、ララァの曲でしたと。ぜひこの一枚で、大きな愛に包まれていただければと思います。

12月にはライブのご予定もありますね。

夏には東京・名古屋・大阪にてフォー・リズムにホーン・セクションを加えたご機嫌なライブをお届けしましたが、冬は毎年恒例のアコースティック・ライブ“森口博子 Song for you Vol.XII”を東京・福岡で開催します。

またガンダムと関わったことで、新しいファンとの出会いもありそうですね。

 そうですね。「ガンダムをきっかけに森口博子のライブに初めて来たよ」という方々も大歓迎です。“Animelo Summer Live”や“KING SUPER LIVE”でガンダムの曲を歌ったときも、たくさんの方々から「生で聴ける日がくるなんて思ってなくて号泣しました」といったメッセージをいただきましたけども、そうやって私がいろんな場所でガンダムの曲を歌い続けるには、この自分のライブを途絶えさせてはいけないんですね。これから先も歌手・森口博子であり続けなくてはいけない。これを機に、皆さんに歌手・森口博子のライブにぜひ足を運んでいただきたいです。歌うステージがなければ、直接歌声を届けることができませんので。一緒に“エンドレスの居場所”を作っていけたら、心強いです! そして誰かの“明日の生きる力”に繫がるボーカリストとして、また50代でもガンダムに帰って来れますよう成長したいと思います!

森口博子

オフィシャルサイトhttp://www.mogeshan.net
[ライブ]
“森口博子 Song for you Vol.XII”
■2016年12月18日(日)@Mt.RAINIER HALL(東京)
■2016年12月25日(日)@イムズホール(福岡)