モリコメンド 一本釣り  vol. 148

Column

加納エミリ “NEO・エレポップ・ガール”。2020年代のトレンドを早くも掴むセルフ・プロデュース力とは?

加納エミリ “NEO・エレポップ・ガール”。2020年代のトレンドを早くも掴むセルフ・プロデュース力とは?

バンドもアイドルもシンガーソングライターもそうだが、音楽に関連する活動をしている人(または目指している人)が必要としているのは、自己発信の技術とセンスだ。20年くらい前までは、オーディションを受けたり、自分で作った楽曲をレコード会社や音楽プロダクションに送るなどしてチャンスをつかみ、どこか(事務所やレコード会社)に所属するのが一般的だった。しかし現在は、活動のすべてを自分(たち)で行い、基盤を作ったうえで、大手のレーベルや事務所とタッグを組むという流れを目指すアーティストが増えているのだ。そのスタイルでもっとも成功しているのが、まふまふ、そらるをはじめとする歌い手出身のアーティストだろう。

言うまでもなく、“自己発信”で活動するためには、セルフプロデュース能力とメディア戦略が不可欠。楽曲制作はもちろん、MVなどの映像、SNSを介してのプロモーションなどを総合的にコントロールできる知識や技術がアーティスト自身に求められるのだ。(先日、とある大物ミュージシャンに取材する機会があったのだが、その方も「いまはYouTuberが最先端。いい曲を作るだけではどうにもならない」と仰ってました)

前置きが長くなってしまったが、今回紹介する加納エミリも、“完全セルフプロデュース”を志向するアーティスト。“NEO・エレポップ・ガール”を掲げてアーティストとアイドルを自由に行き来する、北海道出身の24才だ。
2018年5月に音楽活動をスタートさせ、10月に初音源「EP.1」をリリース。2019年3月にシングル「フライデーナイト」、6月に「1988 / Because Of You」を発表し、80’sテイストを押し出した音楽性で注目を集めた彼女。音楽専門誌にロングインタビューが掲載されるなどメディアの露出も増えているが、そのキャリアは決して順風満帆ではなかった。音楽学校を卒業した後、某レコード会社に所属し、女性ふたり組みユニットを結成したものの、結局デビューできず。それでも音楽を諦めきれなかった彼女は、DTMの技術を独学で習得し、オリジナル曲を作りためてライブ活動に打って出た。まさにDIY精神。この“自分でやる!”というスタイルは、本当に現代的だ。

加納エミリの音楽性の軸にあるのは、80’sテイストのエレポップ。ダフト・パンクに衝撃を受けたのをきっかけに、ザ・ストロークスに代表されるインディーロック、さらに80年代のニューウェイブに興味を持ち……という流れだったそうだが、アナログシンセの音色、チープ・シックな打ち込みのビート、抑制の効いたクールなメロディといった80’sニューウェイブ、エレポップの特徴は、そのまま彼女の音楽性に色濃く反映されている。ポップかつキッチュなスタイルは、相変わらずEDMが主流となっている現在の音楽シーンのなかで、完全に際立っていると思う。

また、個性溢れるパフォーマンスも注目の的。小出祐介氏(Base Ball Bear)と南波一海氏が「Pop‘n’Roll」で連載していた「小出は明日、昨日の南波と連載する」のなかで、「ドラクエのどろにんぎょうみたいに見える(笑)」(小出氏)「曲とダンスとルックスの組み合わせがぶっ飛んでいて、本当にすごい才能だと思います」(南波氏)(https://popnroll.tv/articles/1501?page=3)と評した“ダサかっこいい”ダンスは、「ごめんね」のMVでも発揮されている。

そして2019年11月20日には、待望の1stフルアルバム『GREENPOP』をリリース。これまでリリースしてきたシングルの表題曲をすべて収めた本作は、現時点における集大成。世界的な知名度を持つテクノDJのChester Beatty氏がミックス・マスタリングに参加するなど、サウンドメイクの面でもさらなる進化を果たしている。軽快なギターカッティング、しなやかなシンセベースを中心としたトラック、“命短し恋せよ乙女”というフレーズがひとつになったポップチューン「恋せよ乙女」から始まる本作。80年代のニューオーダーを想起させるサウンドと煌びやかなシンセが共存する「Next Town」、初期のハウスミュージックを経由したビート、歌謡曲的なメロディが結びついたダンスチューン「Just a feeling」など、まさに”NEO・エレポップ”に相応しい楽曲が並ぶ。

アナログ機材をふんだんに取り入れた音作りは、80年代が青春だった大人が聴けば「懐かしい!」と思うだろうし、10代〜20代のリスナーには新鮮に映るはず。つまり彼女の音楽は、コアな趣味に偏ったものではなく、幅広い層のオーディエンスに開かれているのだ。

懐かしくて新しいエレポップ、ユニークなステージング、端正なルックスを併せ持った加納エミリ。完全セルフプロデュースによる彼女の自由な表現は、2020年代のトレンドを完全に掴んでいると思う。

文 / 森朋之

オフィシャルサイト
https://emirikanou.themedia.jp

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