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忌野清志郎には覆面バンド、ザ・タイマーズを結成した切実な理由があった

忌野清志郎には覆面バンド、ザ・タイマーズを結成した切実な理由があった

 ザ・タイマーズの作品が復活する。彼らのファースト・アルバム『ザ・タイマーズ』が、今回、テッド・ジェンセンによりリマスターされ、さらに初期の蔵出し音源+秘蔵映像のDVDもパックされ、スペシャル・エディションとして蘇る。

 収録作品のなかでダントツに有名なのは、いまもセブン-イレブンのCMで使われ、毎日のようにテレビから流れる「デイ・ドリーム・ビリーバー」だろう。他にも「タイマーズのテーマ」(原曲「モンキーズのテーマ」)という曲があり、これらは60年代に絶大な人気を誇ったアメリカのバンド、ザ・モンキーズのカバーだ。

 ちなみに「モンキーズのテーマ」は、かつて日本のグループ・サウンズ、ザ・タイガースもカバーしてた(曲の構成は原曲と違ったが…)。忌野清志郎がザ・タイマーズでは「ゼリー」と名乗っていたのは、沢田研二の愛称「ジュリー」をもじったものであり、他のメンバーの呼び名もそれに準じたものだったのは、そんな関連があってのことだと思われる。

 ところでカバーといえば、1988年にRCサクセションの『COVERS』が発売中止となったことが、ザ・タイマーズ誕生の引き金となっている。いったんメジャーの音楽産業に否定された忌野清志郎は、覆面バンド・神出鬼没というスタイルを選ばざるを得なかったところもあったのだろう。「ロックン仁義」という作品のなかで、“替え歌のひとつにもめくじらを立てる”と歌っているのは、もちろんあの一件を指しての皮肉である。

 歌詞において社会的なテーマ、時には歌のタブーとされるものを扱うのも、彼らの特徴だった。でも「偽善者」を聴けばわかるが、一方的に相手を糾弾したり非難したりしているわけではない。非難すれば、その言葉がそのまま自分自身に返ってくることも知ってたし、常に傍らに、ユーモアを盛り込むことを忘れてなかった。言葉遊びのセンスはバツグンで、「税」や「牛肉・オレンジ」などは、韻の踏み方の愉快さに、つい途中で吹きだしてしまうほどである。

 バンドとしてのザ・タイマーズは、楽器編成においてはウッド・ベースが加わっているのが特徴的である。この少し前、忌野清志郎が初期のエルビス・プレスリー(サン・レコード時代)にハマり、よく聴いていたことから、当時のエルビスの楽器編成に近いものを狙った、とも想像出来る。さらにブルースなど、ルーツ・ミュージックに造詣の深いメンバーがいることは、本格的なギターのボトルネット奏法が聴ける「争いの河」などで分かる。なお「彼女の笑顔」は、ブルースの古典的名曲を下敷きにしている。そして「総理大臣」は、本格的なファンクを追求した作品であり、歌詞にも注目なのだが、呪術的リフレインのなかにグルーヴを見出していく、そんなサウンドにこそ注目して欲しい意欲作だ。

 さらにこの時期といえば、忘れられない出来事があった。忌野清志郎に長男が誕生したのだ。過激で売っていたようでいて、実はすぐ隣りには、そんな感情も同居していたのがザ・タイマーズなのである。いや、彼は父になったからこそ、より一層、社会問題や世の中の欺瞞に対して、敏感になっていったのかもしれない。そしてその喜びを、普段の態度にも、作品においても、いっさい隠そうとはしなかった(まるでスライ・ストーンの『スモール・トーク』の時のように…)。今回“蔵出し”のほうに、息子の成長のことを歌った「タッペイくん」も収録されている。

 一方、忌野清志郎の歌は未来への警鐘である、とも言われ、それはザ・タイマーズの作品にもあてはまる。つくづくそう思ったのが、「LONG TIME AGO」だ。唯一の被爆国である日本は、同時に原発政策を推進し、安倍政権は海外への売り込みにも熱心である。本作は「広島平和コンサート」に参加した際のものでもあり、原爆の恐ろしさを題材にした作品だが、ここに描かれているのは“遙か昔= LONG TIME AGO”に起こったことではなく、今の自分達にこそ突きつけられている大矛盾なのである。

 最後にオマケじゃないけど、僕のザ・タイマーズのライブ体験について、鮮烈に覚えていることを書かせて頂く。ある日、ワクワクしながら彼らを観に行ったのである。しかし定刻になっても始まらない。しまいに「本日、タイマーズは来ません……」と、そんなアナウンスが……。怒った奴らは騒ぎ出し、呆れた奴らは帰り始めた。その時だ。「おまえら間違った情報に踊らされてんじゃねぇ!」だったか「プロパガンダに惑わされてんじゃねぇ!」だったか忘れたが、ゼリーこと忌野清志郎の、そんな怒鳴り声とともに突如ライブが始まったのだった。

  このあたりは徹底していた。あと、さらにオマケだけど、この頃はレコード会社の担当スタッフが、みんなザ・タイマーズのような格好をしていた。僕も立ち会ったある雑誌の取材で、ゼリーのかわりに背格好が似てるスタッフが、まんまと成りすましてカメラの前に立つと、誰も気がつかなかった、なんてこともあった。でも、こういう伝説は数々あるわけだが、ぜひこの機会に、彼らの残した作品こそを、じっくり聴いてみてください。他のバンドにはない、“独特の力感”が伝わるサウンドは、唯一無二、なので……。

文 / 小貫信昭

『THE TIMERS スペシャル・エディション』ダイジェスト映像

デイ・ドリーム・ビリーバー (Hammock Mix)

ロックン仁義

THE TIMERS / ザ・タイマーズ

忌野清志郎によく似た人物 “ZERRY”が率いる4人組覆面バンド。
その伝説は1988年から始まった。
数々のゲリラ・ライブ等、その自由奔放な活動で物議をかもしつつ、
いまだにシーンに影響を与え続けている。

オフィシャルサイトhttp://www.universal-music.co.jp/the-timers/

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