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荒木健太朗、梅津瑞樹らが描く虚無と孤独と甘美な希望。本格文學朗読演劇シリーズ「極上文學」第14弾『桜の森の満開の下』〜孤独〜上演中!

荒木健太朗、梅津瑞樹らが描く虚無と孤独と甘美な希望。本格文學朗読演劇シリーズ「極上文學」第14弾『桜の森の満開の下』〜孤独〜上演中!

今年で初演から8年目を迎える、歴史ある本格文學朗読演劇シリーズ「極上文學」の第14弾『桜の森の満開の下』~孤独~が新宿FACEにて上演中だ。
“極上文學”とは朗読と芝居を織り交ぜながら、日本文学の傑作作品の世界観を表現する舞台。また、マルチキャスティング制で俳優の組合せは日替わりとなっている。第14弾となる今作は、第1弾で鈴木拡樹と唐橋 充が出演した坂口安吾の『桜の森の満開の下』をリバイバル。“極上文學”で唯一映像化されていないため、ファンから再演が期待されていた作品だ。
その初日前日に場当たり稽古(劇場で本番と同じような状況でシーンの確認をする稽古)の公開とキャストによる挨拶が行われた。

取材・文・撮影 / 竹下力


演劇というフィルターを通して自己を見つめ直すきっかけになる作品

“極上文學”は、日本で類をみない“特殊”な演劇だと思う。朗読劇という枠組みに収まらない、日本文学の古典作品を“読み師”と“語り師”と“具現師”などが、朗読と芝居やダンス、時には音楽で表現するという、あらゆる演劇的要素が渾然一体となった形式の作品。しかも、回によってキャストが変わるマルチキャスティング制を導入しているので、いく通りでも楽しめる。体感したことのない仕掛けが想像力を刺激する。そして、一度観ただけでは満足できずに何度も劇場に足を運びたくなる中毒性の高さ。それが、このシリーズが14弾まで続いた証であり、“極上文學”の特殊性であると思う。

本格文學朗読演劇シリーズ「極上文學」第14弾『桜の森の満開の下』~孤独~ エンタメステーションレポート

ほとんどの作品のストーリーラインは、ほぼ忠実に原作になぞらえられ、どの作品も“原作愛”に溢れている。今作も原作の良さを抽出しながら、なおかつ原作に通底する美意識や作者のテーマを表現しているという意味で、脚本を手がけた神楽澤小虎の“安吾愛”が溢れる“オマージュ”を捧げた作品といっていいだろう。たとえば、原作では“山賊”と“女”という具合に、登場人物には名前が与えられていなかったが、今作では山賊は鼓毒丸、女はツミ夜姫と名づけられ、オリジナルキャラクターとしてミレン/アコガレという役がつくられている。

今回は、劇場で実際に照明やセットを組み、スタッフたちが念入りに打ち合わせをしながら、納得がいくまで繰り返しシーンを稽古していく場当たりの取材。なので、ゲネプロのように全編がスムーズに観られるわけではない。とはいえ、取材で感じた興味深いポイントをいくつか挙げていくので、こちらの記事と合わせて本編を楽しんでいただけたらと思う。

本格文學朗読演劇シリーズ「極上文學」第14弾『桜の森の満開の下』~孤独~ エンタメステーションレポート

まず大まかなストーリーを知っておくと感情移入しやすいだろう。
鼓毒丸という山賊は、山道を通りがかった旅人を襲っては身ぐるみをはがし、女であればさらって女房にしていた。ただ、彼にはとあるオブセッションがあって、山道にある桜の森だけは恐ろしいと思って近づけずにいた。

ある春の日、山賊は都から下ってきた旅人を襲って殺し、連れの女を女房にした。しかし、その女は今まで見たこともないほどの美しさだった。その女はツミ夜姫といった。ただ連れて帰ったものの、彼女は鼓毒丸の7人の女房たちを目の前で殺させようとする。彼女に取り憑かれた鼓毒丸は、次々と女房を手にかけていくのだが、ツミ夜姫の命令で妻のひとりのミレンだけが生き残された……その果てに見えるものとは?

本格文學朗読演劇シリーズ「極上文學」第14弾『桜の森の満開の下』~孤独~ エンタメステーションレポート

見どころなのは、舞台を怪奇的な雰囲気にする登場人物たちだろう。オールメールなのが役立っていると思う。同性だけが男女を演じることで禁欲的で独特なエロティックな空気が生まれている。場当たりでは、鼓毒丸を梅津瑞樹、ツミ夜姫を田渕法明、ミレンを山本誠大、“語り師”をランズベリー・アーサー、それから“具現師”たちが作品をつくっていた。ただ、マルチキャストなので、役者の組み合わせによって世界観がガラリと変わるかもしれない。すべてのキャストの組み合わせの雰囲気は掴めなかったが、客席に座っていたほかの役者たちから、自らの演技プランを探している真剣な表情もうかがえ、本番ではキャストの組み合わせらしい、それぞれの世界が生まれるのだろう。

本格文學朗読演劇シリーズ「極上文學」第14弾『桜の森の満開の下』~孤独~ エンタメステーションレポート

場当たりで取材した主なシーンは、鼓毒丸がツミ夜姫の命令によって、娶った妻たちを殺してしまう残酷な場面。梅津瑞樹は山賊らしく豪胆でありながら残忍、それでいてなぜかツミ夜姫に振り回される世捨て人を熱演。ツミ夜姫を演じた田渕法明は妖艶のひと言。“女”は安吾にとって理解不能であり、憧れと恐怖の存在だったのは有名な話だが、それをよく表現していると唸ってしまった。脚本と演出の力が一体になったからこその芝居。

ミレン 役の山本誠大は健気な少女を演じて可憐だった。そこに“具現師”たちがダンスや雄叫びのような声で彩りを添えていく。さらに、“語り師”のランズベリー・アーサーは、よくとおる声と所作で、ストーリーを進行する語り部役を丁寧に演じた。“語り師”はまさに安吾の生き写しのように見える。この舞台は、作者の安吾が『桜の森の満開の下』を観客に語りかけながら、そこに自身も取り込まれてしまう夢魔的な劇中劇としても成立している。

本格文學朗読演劇シリーズ「極上文學」第14弾『桜の森の満開の下』~孤独~ エンタメステーションレポート

さらに、円形劇場を活かした美術もインパクトがある。中央に台座があって、幹はないが、天井には無数の桜の枝が据えられている。そこから花びらがつねに散っている。シーンによってその量が減ったり増えたりする。360度から観ると見応えがあるし、幻想的な空間をつくり出すことに成功している。観客は、桜舞い散る美しい世界を見つめながら、殺人が平気で行われる耽美で魅惑的な、エロスとタナトスが同居している空恐ろしい空間に引き寄せられることになる。

また、場当たりでかなり念入りに調整していたが、LEDライトを使った照明は原作の世界観を再現するうえで重要だったと思う。原作が生まれる背景となった戦争の絶望的な風景と、恐ろしいまでに美しい春の盛りの自然の景色の対比、まさに生と死のコントラストが光によって表現されていたと思う。

本格文學朗読演劇シリーズ「極上文學」第14弾『桜の森の満開の下』~孤独~ エンタメステーションレポート

この舞台の副題にあるように、“孤独”というのは、安吾の人生の基調をなすものだった。戦争を経験したあと、安吾の言う“一切の価値が転換”したことで生まれた戦後に対する虚無感が、彼の心に押し寄せたのかもしれない。ただ、この作品に触れてわかったのは、孤独に苛まれようが、己の存在の価値は己自身でしか見つけられないという力強くてポジティブなメッセージだった。演劇というフィルターを通して自己を見つめ直すきっかけになる作品だ。

舞台を観ていただければ思わず世界に入り込める

この場当たり取材の前に、ランズベリー・アーサー、榊原優希、笹 翼、高坂知也、山本誠大、松本祐一、田渕法明、轟 大輝、田口 涼、三上 俊、梅津瑞樹、太田将熙、宮城紘大、荒木健太朗が登壇し、舞台にかける意気込みをひと言ずつ語った。

本格文學朗読演劇シリーズ「極上文學」第14弾『桜の森の満開の下』~孤独~ エンタメステーションレポート

ランズベリー・アーサー “語り師”は本を書くように物語を紡ぎながら芝居をするので、“読み師”たちとリンクするところがあります。“語り師”の芝居に注目していただけると嬉しいです。

榊原優希 ランズベリーさんがおっしゃったように、“語り師”は、物語をつくり出す存在です。ご来場いただいたお客様に、僕らが紡ぐ物語をしっかりと届けられるように演じたいと思います。

笹 翼 坂口安吾が『桜の森の満開の下』で描いた壮大な世界観をみんなでつくりたいと思います。

高坂知也 僕の演じる“語り師”は、頭が良い役で、そんな人ならではの苦悩や苦しみや独特の世界観を届けたいと思います。

山本誠大 マルチキャスティングで、役者によってアプローチの仕方が違うので、その場の役者同士のコミュニケーションで刺激的な化学反応が毎公演生まれると思います。

本格文學朗読演劇シリーズ「極上文學」第14弾『桜の森の満開の下』~孤独~ エンタメステーションレポート

松本祐一 “極上文學”では初めての女性役で、いろいろ研究して舞台に挑もうと思っていました。キャストが変われば同じ役でも違った見どころがあると思うので楽しみにしてください。

田渕法明 キャストの組み合わせが違うことで、劇場でセッションをするような雰囲気になっていて、劇場がキュッと締まったり、和やかになったり、その場の空気をお客様と一緒に感じ取りながら作り上げていく作品だと思います。

轟 大輝 座組み最年少ですので、先輩たちの胸を借りる想いで頑張ります。

田口 涼 女性役を演じるうえで、参考にさせていただいたのが、三上 俊さんでした。今回は三上さんと同じ役を演じるので、三上さんより“できていない”と言われないようにしたいと思います。

三上 俊 文学作品が原作で、難しいイメージがあると思いますが、今回は“伝える”ことをテーマにみんなでつくり上げましたので、わかりやすい内容で楽しんでいただけると思います。マルチキャスティングで、所属していた劇団スタジオライフの同期の荒木健太朗と初めての共演になるので、僕と荒木の回を観に来てください(笑)。

梅津瑞樹 “本格文學朗読演劇シリーズ”と銘打たれているので、難しく感じる方もいらっしゃると思いますが、舞台を観ていただければ、思わず世界に入り込めるのが今作の魅力だと思います。

太田将熙 “極上文學”では、役者は本を持っているのですが、決して朗読劇ではないし、円形劇場で360度から観られてしまうので、一瞬の隙もない緊張感のある作品になっています。キムラ真さんの演出と神楽澤小虎さんの脚本で素敵な作品に仕上がっているので、ぜひ観に来てください。

宮城紘大 “極上文學”シリーズは、いつかプレイヤーとして関わってみたいと思っていました。今回その願いが届いて幸せです。僕が演じる鼓毒丸は僕にしかできない役になるし、ほかのキャストもそれぞれにしかできない、鼓毒丸、ツミ夜姫、ミレン/アコガレといった役になると思いながら稽古をしてきました。三上さんと荒木さんの回だけでなく宮城紘大の回も観に来てください(笑)。

荒木健太朗 まずは荒木の回に来てください(笑)。僕はたとえシリーズものでも、最新作が絶対にベストだと心に置いて演じています。僕の鼓毒丸が一番面白いと思っていますが(笑)、みんなそう思って演じているので、皆がぶつかり合いながら素晴らしい作品にしようと稽古をしてきました。病気と怪我がないように、全員で千秋楽を迎えられたら嬉しいです。

本格文學朗読演劇シリーズ「極上文學」第14弾『桜の森の満開の下』~孤独~ エンタメステーションレポート

公演は12月15日(日)まで新宿FACEにて。また、公演DVDが2020年6月24日(水)に発売される。発売日までに劇場およびCLIE TOWNで予約すると、「メイキングDVD(非売品)」が付いてくる。劇場で予約した場合は、「クリアファイル(非売品)」もプレゼントされる。詳細はオフィシャルサイトをチェックしよう。

本格文學朗読演劇シリーズ「極上文學」第14弾『桜の森の満開の下』〜孤独〜

2019年12月7日(土)〜12月15日(日)新宿FACE

演出:キムラ真(ナイスコンプレックス)
脚本:神楽澤小虎(MAG.net)
音楽・演奏:橋本啓一

出演:
【読み師】
荒木健太朗、梅津瑞樹、太田将熙、田口 涼、田渕法明、轟 大輝、松本祐一、三上 俊、宮城紘大、山本誠大

【語り師】
榊原優希、笹 翼、高坂知也、ランズベリー・アーサー

【具現師】
市川真也、今井 稜、萩原 悠、古見亮大

オフィシャルサイト
オフィシャルTwitter(@MAG_play)

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