モリコメンド 一本釣り  vol. 152

Column

角銅真実 言葉とメロディ、発声が織り成すアートフォーム。心地よい“時間芸術”を感じさせる音楽

角銅真実 言葉とメロディ、発声が織り成すアートフォーム。心地よい“時間芸術”を感じさせる音楽

2019年12月13日、吉祥寺のキチム(カフェメニューも美味しい、素敵なライブスペースです)で行われた角銅真実のライブは、昨年筆者が観た約120本のライブのなかでも、特に心に残るものだった。2020年1月22日にリリースされるメジャー1stアルバム『oar』の“プレ”リリースライブとして、アルバムの楽曲を曲順通りに演奏。彼女が演奏するアコースティックギターを中心に、ギター、チェロ、バイオリン、ドラム、コントラバス、アコーディオンによる有機的にアンサンブルが広がり、そのなかで豊かなリズムを内包した歌がゆったりと響くーー緻密なアレンジと自由奔放な演奏が共存した音像からは、今までに体験したことのない斬新さといつか聴いたことがあるような懐かしさが同時に伝わってきた。クラシック、ジャズ、民族音楽などが混ざり合った音楽性も驚くほど奥深い。こんなにも豊かな音楽体験は、そうそう出来るものではない。本当に。

東京藝術大学の音楽学部で打楽器を専攻した角銅真実は、卒業後、パーカショニストとしてceroのサポート、石若駿SONGBOOK PROJECTのメンバーとして活動。また、CM、映画、舞台の音楽を手がけるなど、創作の幅を確実に広げてきた。

2017年7月に初のソロアルバム『時間の上に夢が飛んでいる』を発表。イギリス・ロンドンのサーペンタイン・ギャラリーでアーティストのBahbak Hashemi-Nezhadのプロジェクト“On What Ground”の音楽を担当、2018年にはポーランド・ワルシャワのKrolikarnia美術館で展示されたインスタレーション形式の映画、Square/Karolina Breglaの音楽を担当し、その才能は海外でも注目されはじめる。

2018年8月にアルバム『Ya Chaika』を発表。2019年2月に初めて歌にフォーカスしたワンマンライブ「角銅真実SINGS」を開催し、シンガーソングライターとしてのキャリアを本格的にスタートさせた。

メジャーデビュー作『oar』は、アート、映像作品との関り、シンガーソングライターとしての活動を含め、これまでの彼女のキャリアを踏まえたうえで、“歌”——言葉とメロディ、発声が織り成すアートフォームーーとしての魅力をさらに際立たせた作品だ。2019年11月26日に行われたショーケース・ライブで彼女は、「楽器を作るのも好きなんですけど、そのうちに自分の体、声を使って演奏するようになって」「歌には受け取る自由があるところがおもしろいと思います」「音楽を作ることは時間を扱うこと」とコメントしていたが、その言葉は本作『oar』全体に反映されている。

まず印象に残るのは、体全体の響きが感じられるようなボーカル。シンガーとしての彼女の歌には静謐なイメージがあるが、いわゆるウィスパーボイスではなく、しなやかな躍動感と大らかな包容力を内包した力強さがあるのだ。先行配信された「Lullaby」もそうだが、心地よいリズムが感じられるのも彼女の歌の魅力。これは彼女が打楽器の専門家であることと無関係ではないだろう。様々な映像を喚起させるリリックも印象的。“赤いカーテン 紙コップのコーヒー / 鳩のあくび お喋りな猫”という冒頭のフレーズもそうだが、語感の良さと頭のなかで次々と“絵”が浮かんでくる言葉遣いからは、ソングライターとしての独創性が伝わってくる。自分の感情を歌うというより、目にしたもの、感じたことをスケッチするような、どこか冷徹な視点があるのも心地いい。

歌詞のことで言えば、アルバムの1曲目の「December 13」の最初のライン、“この声があなたに届く時 そこには私はいない / 時間の抜け殻があるだけ“も心に残る。自分が発した声が相手に届くまでには(ほんの僅かではあるが)時間がかかり、声が届いたとき、その声を発した瞬間の自分はこの世に存在しない。哲学的なテーマを含むこの歌詞は、“時間芸術”そして“一回性の芸術”である音楽の在り方ともつながっている。時間芸術とは、“時間の経過とともに表現される、または享受される芸術”のこと。そして、一回性とは“一回起こっただけで、再び起こることはない”という意味。アルバムには「December 13」のほかにも“日付”をタイトルにした楽曲が収められているが(「November 21」「October 25」「January 4」)、彼女にとって音楽とは、“その日だけのもの”もしくは“その瞬間に生まれ、残らないもの”という感覚があるのかもしれない。

実際、彼女のライブには、音源をそのまま再現しようとする意志はまったく感じられない。その場所、その瞬間だけで生まれる音を積み重ねながら、まさに“一回性”としか言いよう音楽世界を作り上げようとする姿勢は、角銅真実という音楽家の本質なのだと思う。

アカデミックな経歴を持つ彼女だが、その楽曲はとても親しみやすく、どこまでも自由。いわゆるJ-POPとはかなり趣が違うが、こういう音楽がポップスとして認知されるようになれば、音楽シーンは今よりももっと豊かになるはずだ。

文 / 森朋之

オフィシャルサイト
https://manamikakudo.wordpress.com

ユニバーサル ミュージック 角銅真実
https://www.universal-music.co.jp/kakudo-manami/

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